いのち   作:くにむらせいじ

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 ☆ まえがき △

 くにむらせいじ(別名 SEY_Y 又は SAY_Y)です。

 例によって、短編集「ジャパリ・フラグメンツ」に投稿予定だったものが、書いてみたら長くなったため、単品で投稿することにしました。

 アニメ2期のあと、この6人がいっしょにいるのはおかしい気がしますが、“3人が旅から帰ってきて、かばんの研究所でお勉強している”、という設定です。原作の設定を無視した、メタフィクション的なもの(作品世界の外のおはなし)、と捉えることもできます。

 ほとんど会話(セリフ)だけなのに、異常に長いです。
◎ 前編 ・ 中編 ・ 後編 の3話に分割しました。 ◎
 加えて、『おまけ』があります。

 セリフの改行位置を調整しています。1行全角44文字(ハーメルン様のデフォルト)とします。携帯版などでは表示が変になるかもしれません。

 残酷・グロテスク(猟奇的)な表現があります。
 


いのち 前編

 

 かばんの研究所。ガレージの研究室。

 

かばん(大人)「……何度実験しても、無機物から生命を作り出すことは……」

 

 サーバル・カラカル・キュルルが、テーブルのそばの椅子に座っていて、はかせ・助手が立っていた。かばんが、ホワイトボードに図を描いて説明をしていた。授業のようだった。

 

かばん  「……この有機化合物は、元々は地球に存在しなかった……」

 

カラカル 「寝ちゃらめよサーバルぅ……」

 カラカルは半分寝ていた。その声は、ちょっと色っぽかった。

 

かばん  「……古い説では、地球誕生の直後に……」

 

サーバル 「みぃ……」

 サーバルは半分以上寝ていた。

 

かばん  「……7億年とも、もっと早いとも言われ……」

 

助 手  「にゃんこ達の頭には重すぎるのです……はかせ?」

はかせ  「くー……」

 はかせは立ったまま、首だけうなだれて寝ていた。

キュルル 「すごい、立ったまま寝てる……」

 

かばん  「……このように、生命の起源というのはいまだに謎なんだ」

 

はかせ  「なぞっ!」

 はかせが、パチッと目を開けて、顔を上げた。

はかせ  「ねてない、寝てないのれすぅ!」

 はかせの声は寝ていた。

 

かばん  「ごめんごめん。退屈だったね。遺伝子や進化の話をしようと思ったんだけど、

      別の話にしよう」

 

 かばんは、皆を見て言った。

 

かばん  「いのちって、なんだろう?」

 

キュルル 「ぅえ?」

サーバル 「いのち?」

はかせ  「いきなり壮大なテーマなのです」

助 手  「答えのない問いなのです」

カラカル 「そうかしら? かんたんじゃない?」

サーバル 「いのちはいのちだよ」

 サーバルは明るく言った。

かばん  「キュルルちゃんはどう思う?」

キュルル 「えっと、……生きるのに必要で……受けつがれていって……」

はかせ  「必要、というより、生き物そのものなのです」

かばん  「いのちって、どんなイメージかな?」

キュルル 「きれいなもの……きらきらしてる感じ……サンドスターみたいな」

助 手  「それは違うのです」

 助手は、きっぱりと言った。

はかせ  「ある意味合っていますが、違うのです」

カラカル 「そうね……きれいじゃないわ」

サーバル 「わたしは、サンドスターよりきれいだと思うけどな……いのちって」

かばん  「さすがだねサーバル」

 かばんが、サーバルを見て微笑んだ。

サーバル 「ほめられたー!」

 サーバルは嬉しそうだった。

カラカル 「あんたねぇ……いのちがどういうものか、嫌っていうほど知ってるでしょ?」

サーバル 「そうだけど、でも……」

キュルル 「いのちって、きれいじゃないの?」

 

助 手  「教えてあげましょう。はかせ」

はかせ  「キュルル、ちょっとお勉強なのです」

サーバル 「おべんきょー!」

 サーバルは楽しそうだった。

カラカル 「教えるって、なにする気よ?」

 

助 手  「想像するのです。もしも、キュルルが……相手は誰にしましょう? はかせ」

はかせ  「カラカルがいいのです。仲良さげなので」

 

カラカル 「あたしぃ?!」

かばん  「まさかそれって……」

キュルル 「ぼくとカラカルが?」

 キュルルは、何も分かっていない様子だった。

 

 

助 手  「もしも……キュルルが……カラカルを……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沈黙があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はかせ  「……食べるとしたら」

 

 

キュルル 「ぅええ!!」

 

助 手  「と、仮定して、想像してみるのです」

 

カラカル 「あー……そうきたかぁ……」

 カラカルは苦笑いした。

かばん  「ちょっとそれは……やめようね……」

 かばんは引いていた。

サーバル 「カラカルおいしいよー!」

 サーバルは無邪気で楽しそうだった。

カラカル 「なんでそんなにうれしそうなのよ!」

キュルル 「それで、いのちがわかるの?」

はかせ  「わかるかはキュルル次第なのです」

カラカル 「いいわ。キュルルのためなら」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

カラカル 「寝る必要なんてあるの?」

 カラカルが、テーブルにあおむけに横になった。それを5人が囲んだ。

助 手  「想像しやすくするのです」

かばん  「キュルルちゃん、嫌だったら嫌って言ってね? とめるから。

      気分が悪くなったら、お部屋から出ていってもいいよ」

キュルル 「想像するだけだから、だいじょうぶだと思う」

カラカル 「あんまりキュルルを甘やかさないほうがいいわ」

 カラカルは、厳しい目をしていた。

キュルル 「カラカルこそだいじょうぶなの?」

カラカル 「バカにしないで! あたしはいいの……なれてるから……」

 カラカルは、少し暗い声になり、キュルルから目をそらした。

キュルル 「?」

 キュルルは不思議そうな顔をした。

 

はかせ  「では、始めるのです」

助 手  「キュルル、想像するのです。見えるもの、音、さわり心地、におい……そして味を」

 助手は、まるで催眠術をかけるかのように言った。

キュルル 「あじ……カラカルの……」

はかせ  「ここはサバンナ。足をけがして弱ったカラカルを、おなかをすかせたキュルルが

      つかまえたのです」

カラカル 「いやな設定ね」

はかせ  「サーバル、最初はどうするのです?」

サーバル 「獲物をおさえこんだら、まずは、のどにかみついて、息の根をとめるんだ。

      ……キュルルちゃんじゃできないかな? 手でしめるといいかもね」

カラカル 「あたしは簡単には死なないわよ。それに暴れるわ。逆にキュルルが死ぬわよ」

 カラカルは少し不機嫌そうだった。

助 手  「あくまでも仮定なのです」

はかせ  「気絶したことにするです」

カラカル 「あたしを生きたまま食べるつもり!?」

 カラカルが怒りを見せた。

かばん  「痛みで目をさましちゃうね……」

 かばんは引いていた。

サーバル 「それはかわいそうだよ! 食べられてる途中で目がさめたら、すっごーく痛いよ?」

 サーバルも抗議した。

助 手  「活け造り、というものもありますが……」

サーバル 「いけづくり?」

はかせ  「生きているおさかなの頭と、食べやすく切った体を、お皿にならべる料理なのです」

助 手  「最低限生きていられる部分だけ残して、あとは切り刻んで食べるのです」

 カラカルの脳内に、自分がそうなっている映像がよぎった。

カラカル 「想像でもそれはいやよぅ!」

 カラカルは戦慄しておびえた。

かばん  「ヒトって残酷だよね……」

キュルル 「なんて話をしてるの……」

 キュルルもおびえていた。

サーバル 「あの絵を切るやつ、あれでのどを切れないかな?」

 サーバルの声が明るくなった。

かばん  「はさみじゃ無理だね。……超絶切れ味のいいはさみ、ってことにしよう」

はかせ  「かばんが乗ってきたです」

キュルル 「凶器にされちゃった……ぼくのはさみ……」

カラカル 「苦しいのよねぇ……のど切られたら。すぐには死ねないわ……」

 カラカルが遠い目をした。

はかせ  「頸動脈を切って……」

助 手  「熱い血がどくどくと……」

サーバル 「手が血まみれだね!」

 サーバルは楽しそうだった。

キュルル 「カラカル……やっちゃったぁ……」

 キュルルがうなだれた。いつの間にかはさみを持たされていた。

かばん  「キュルルちゃん、これは想像だからね」

カラカル 「あたしは……もう動かないわ。目を見開いてたら、閉じてほしい」

 

サーバル 「つぎは、毛皮を切って、むいちゃうよ!」

 サーバルは明るく言った。

キュルル 「えええ!!」

かばん  「ふつうに脱がせばいいじゃない」

カラカル 「ほんとにやらないでよ!」

 カラカルは強く言った。

はかせ  「キュルル、想像するのです。あなたは、カラカルの服をはさみで切って、乱暴に

      脱がせていく……」

 はかせは、催眠術をかけるかのように言った。

助 手  「そして、カラカルは肌色になるのです」

サーバル 「絵を描くのがかんたんになるね!」

はかせ  「一部肌色ではないところもあるですが……」

キュルル 「……あうぅ……」

 キュルルがうつむいて、顔を赤くした。

カラカル 「想像しないで!」 *1

 

はかせ  「どこから食べるですか?」

 

カラカル 「待って!!」

 全員が動きを止めた。

 

カラカル 「キュルル、あたしのむね、このあたり、耳をあてて」

 カラカルが、自分の胸の谷間を指差した。

キュルル 「え、えと……」

 キュルルは躊躇した。

カラカル 「いいからあてなさい!」

キュルル 「うん……」

 キュルルは、カラカルの胸に耳をあてた。

 とく、とく、とく、とく……と、ちょっと速い鼓動が聞こえた。

 

 カラカルが、真剣な顔でキュルルを見た。

カラカル 「キュルル、感じてほしいの。あたしの心臓が止まるところ」

 

キュルル 「え……」

 

カラカル 「まだ動いてるかもしれないわ。*2 直接さわって」

サーバル 「急がなきゃ! 止まっちゃうよ!」

 

はかせ  「肋骨を切って、むねをひらくです」

助 手  「超絶切れ味のいいはさみで」

かばん  「解剖になっちゃう……けど、いのちの勉強だもんね」

 

カラカル 「手を突っ込んで! にぎってもいい!」

サーバル 「まんなかに、くだがつながってる、ぐーくらい大きさのものがあるよ。それが心臓」

 

 キュルルは、カラカルの胸の谷間に手をあてた。その先にあるものを想像するように。

 

カラカル 「キュルルは、血まみれの手で、あたしの心臓をにぎってる。あったかいでしょ?

      弱々しけど、それはまだ動いてるわ。どくん、どくん、どくん……ほら、感じて。

      どくん、どくん……とくん………ぴくぴくっ………………あれ? 動かない……」

 

キュルル 「……あ……カラカ……」

 キュルルは、一瞬放心した。

 

カラカル 「あーあ……もう二度と動かないわ。……キュルルが止めたのよ? あたしの心臓」

 

キュルル 「………う……うう……」

 キュルルは今にも泣き出しそうだった。

かばん  「ちょっと、いじめすぎじゃない?」

 かばんは心配そうだった。

 

助 手  「心臓も肺も止まって、血が回らなくなる。そして、酸素や栄養が行きわたらなく

      なって、体中の組織が死んでいくのです。……つめたくなっていくのです」

はかせ  「あたまも死んでしまうのです。カラカルはもう、考えることも、夢を見ることも

      できないのです。記憶も……おそらく、こわれていくのです *3 」

カラカル 「あたしは天国行きってわけね……さようなら、キュルル」

 カラカルは、やさしい表情で、キュルルの顔を見て言った。

キュルル 「……う……カラカル、カラカルぅ……ぐす……」

 キュルルが、カラカルの顔を見つめながら泣きだした。

かばん  「感情移入しすぎだよキュルルちゃん。これは想像。仮定の話だから」

サーバル 「キュルルちゃんは、カラカルがだいすきなんだね!」

カラカル 「……おおげさねぇ……」

 カラカルは、キュルルから顔をそらした。

 

かばん  「ここで、カラカルのフレンズ化が解けるんじゃないかな?」

助 手  「解けないのです」

はかせ  「ヒトの姿のほうが、キュルルの勉強になるのです」

カラカル 「悪趣味だわ……」

 

サーバル 「カラカルが死んじゃっても、いのちはあるんだよ、キュルルちゃん」

 サーバルが、明るく声をかけた。

キュルル 「え?」

かばん  「カラカルの体には、たくさんのエネルギー、栄養がつまってる。

      これも、ある意味では、いのちと言えるね」*4

 

はかせ  「さあ、キュルル、いのちを食べるのです」

助 手  「新鮮なうちに」

 

 

 

 中編へ続く

 

 

 

 

 

 

*1:
 このセリフは逆効果です。何かを想像しないように努力すると、それを強く意識してしまうため、逆に想像してしまいます。

*2:
 この段階でまだ心臓が動いているのは、不自然な気もします。

*3:
 『おそらく』と言ったのは、脳が死んでも、脳内……あるいは別のどこかに、記憶が残っている可能性があるからです。

*4:
 「死体はただの物であって、命はない」というのは正しいです。ですが「他者を生かすもとになるなら、死体そのものが命だ」とも言えます。




 ↑☆↓ あとがき ↓△↑

 読んでいただきありがとうございます。

 続きます。中編では、カラカルが爆弾発言をします。

 
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