♡ まえがき ◎
おまけ(第4話)です。〈 はずかしさ 〉はサブタイトルです。
『ジャパリ・フラグメンツ』(別作品)内にある短編〈 ひっつもどるき 〉につながっているような、いないような……。
“はずかしさ”がテーマのおはなしです。
心理学などは無視して、私の考えで書きました。間違いだらけだと思います。
1行全角44文字として、改行位置を調整しています。
“カラカルを食べる想像”の翌日。*1 かばんの研究所。ガレージの研究室。
カラカルとキュルルがテーブルのそばの椅子に座っていて、かばんがホワイトボードに図を描きながら、講義をしていた。性教育的なものだった。
かばん 「……これが、“新しい いのちをつくる”ってこと。どう? わかったかな?」
かばんは明るく言った。“先生”というより“お姉さん”という感じだった。
カラカル 「ヒトって、ちょっとややこしいのね……」
カラカルは、前を見たまま言った。
キュルル 「それは、やっぱり野生動物とは違うから……」
カラカルとキュルルは平静をよそおっていたが、少し頬が赤かった。
かばん 「ふたりとも、今の気持ち、どうかな?」
カラカル 「べつに、なにも……」
カラカルが、かばんから顔をそらした。
キュルル 「えっと……ちょっと、はずかしい、かな」
キュルルは、困ったような笑顔をした。
カラカル 「あたし、その“はずかしい”っていう気持ち、いまだによくわからないわ」
かばん 「カラカル、キュルルちゃんを見て」
カラカル 「ん?」
カラカルとキュルルが、顔を見合わせて、ビクッと驚いて、すぐに顔をそらした。そしてふたりとも頬を赤くした。
かばん 「見ないようにしてた? キュルルちゃんのこと」
カラカル 「そんなこと……ないわよぅ……」
カラカルは、頬を赤くしてうつむいた。
かばん 「今、カラカルの体はどうなってる? 体の感覚は?」
カラカル 「どきどきする……ほっぺたが熱いわ……ちょっと体も熱い。なんかぼーっとする」
かばん 「それが、はずかしい気持ち……といっしょになってる体の感覚だよ」
カラカル 「これがそうなのね……ん……なんか強くなってきたわ。どきどきが……」
カラカルが胸にてをあてた。
かばん 「抑えようとしてる?」
キュルル 「おさえようとすると、もっとはずかしくなるよ……う……ぼくまで……」
キュルルは、さらに頬を赤くして、少しうつむいた。
かばん 「伝染してるね……さすが、つがいになったふたりだね」
かばんが、ふたりに笑顔を向けた。
キュルル 「言わないで……」
カラカル 「やめてはずかし……むねがきゅうきゅうして痛い……」
かばん 「その感覚、ほんとうに痛い? いやな感じがする?」
カラカル 「えと、きもちいい、かも……」
カラカルは、はずかしそうに、小声で言った。
キュルル 「ええ!」
キュルルが驚いて顔を上げた。
カラカル 「ふしぎね……こんな感覚、もとの姿のときはなかったわ」
かばん 「でもカラカル、きのうすっごいはずかしがってたよね」
カラカル 「え?」
かばん 「ざらざらがどうとかって」
カラカル&キュルル 「そのはなしはやめて!(よ!)」
かばん 「カラカルは結構はずかしがっているんだよ」
キュルル 「服を脱がされるところ、『想像しないで!』って言ってたね」
カラカル 「あーあれね……」
カラカル 「ん? ……へんだわ。そんなの、はずかしくないはずなのに……。
だって、もとの姿では、ずっと“はだか”だったのよ?」*2
キュルル 「ヒトの姿になったから?」
かばん 「そう。ヒトの姿になったから、はずかしくなったんだよ」
カラカル 「はずかしさなんていらないわぁ……。なんの役にも立たないし……」
カラカルは、ため息をつくように言った。
かばん 「はずかしさがなくなっちゃうと、すっごくさびしいと思うよ?」
カラカル 「……たしかにそうね……」
カラカルが、ふっと暗い顔になった。
キュルル 「気持ちいいからね」
カラカル 「ちがうわよ!」
かばん 「もとの姿では、“見られちゃいけないところ”まで見えていたよね」
カラカル 「ぴ!」
カラカルが、ぴくっとかわいく反応した。
かばん 「カラカルは、いけないところを見られるのが好きなのかな?」
カラカル 「ちがうってば! そんなへんたいじゃないわよ!」
かばん 「キュルルちゃん、想像しちゃだめだよ」*3
キュルルの脳内で、昨日のカラカルのセリフが再生された。
カラカル 『……ほらキュルル、ちゃんと見なさい』
キュルル 「あうぅ……」
キュルルが、再び顔を赤くしてうつむいた。*4
カラカル 「かばんさん! さっきからはずかしがらせようとしてるでしょ!」
カラカルは、ちょっと怒って抗議した。
かばん 「ごめんごめん。ふたりがかわいかったから、つい」
かばんが、いたずらっぽく笑った。
キュルル 「かわいいとかやめてよ……」
カラカル 「おいうちをかけないで……」
かばん 「“見られちゃいけないところ”、っていうのは結構大事なんだ。キュルルちゃん、
自分の体の、どこがいちばん見られたくない?」
キュルル 「もうやめてよ……」
カラカル 「キュルル、ちゃんと答えなさい」
かばん 「じゃあ、カラカルに聞こうか」
カラカル 「ええ!」
かばん 「あえて聞かなかったんだけど」
カラカル 「ん……えっと、ここと、ここ……」
カラカルが、はずかしそうに自分の胸とスカートを指差した。
かばん 「ここで、さっきの話を思いだしてほしい。
ふたりのいちばん見られたくないところは、同じだよね」
キュルル 「いのちをつくるところ、だね」
キュルルは、下を見たまま言った。
カラカル 「いのちをつくるところが……いちばん見られたくない?」
かばん 「ふしぎじゃない?他人とつながらなきゃいけないところが、見られたくないなんて」
キュルル 「たしかに変だね」
キュルルが顔を上げた。
かばん 「ヒトは、性的なもの、男女の関係とか、いのちをつくることに、強いはずかしさを
感じるんだ」
カラカル 「いのちをつくるって、生き物として、とってもだいじなことよ。
はずかしさで、それをやりにくくしてるの?」
かばん 「ちょっと難しい話になるけど、はずかしいっていう気持ちには、先天的なものと、
後天的なものがあるんだ。
先天的なものは、産まれた時から持っているもの……
これは、成長していく中で目覚めるはずかしさだね。
それとは別で、後天的なもの……あとから見たり聞いたりしたことで刷り込まれた
はずかしさがあるんだ。はっきりと切り分けるのは難しいけどね」
かばん 「前者は置いておいて、後者は、ヒトの社会性……ルール、マナー、モラル、タブー
……などの理由から、ヒトは性的なものを避けるんだ」
カラカル 「だいじなのに、なんで避けるのよ?」
かばん 「どうしてそうなったのか、というと、もともと“先天的なはずかしさ”があったこと
に加えて、性的なものを見て、いやな気持ちになるヒトもいるからなんだ。
性欲は動物の本能で、理性や知性とは反対のものだから、いやしいもの、汚いもの、
悪いもの、って考えるヒトも多いんだよ。
さらに、ヒトの歴史や、過去の苦い経験などから、“性的なものは避けるべき”
となったんだ」
キュルル 「過去のにがい経験?」
かばん 「それは……ちょっと残酷な話もあるし、長くなるから、また今度ね」
キュルル 「人前で はだかになっちゃいけない、はずかしいところは見せちゃいけないって、
あたりまえのことだけど、理由があるんだね」
カラカル 「でも、“見られたい”、とも思うわ。すっごくいやなはずなのに、
だれかに はだかを見られたらうれしい、気持ちいいかも、って」
キュルル 「やっぱり、カラカルって へんたいなんじゃ……」
キュルルはちょっと引いていた。
カラカル 「だからちがうわよ! なんか矛盾してるって話!」
かばん 「“裸でいてもかまわない”っていうヒトたちもいるよ。少数派だけどね。
文化や風習によっては、後天的なはずかしさが、弱くなることもあるみたい」*5
カラカル 「じゃあ、せんてんてきなものは、なんのためにあるの?」
かばん 「気に入らない相手を避けるため……あるいは……ブレーキ、かな」*6
カラカル 「ぶれーきって、なあに?」
かばん 「バスが止まる時、キーって音がするでしょう? あれがブレーキの音。
バスを止めるためのものが、ブレーキ。行きすぎないようにするものだよ」
キュルル 「行きすぎないように……」
カラカル 「やっぱり矛盾してない? 避けるため、止めるためなら、すっごくいやな気持ちに
なるんじゃないの? はずかしいのが気持ちいい、なんて思わないわ」
キュルル 「たしかに、はずかしい、って、いやだけど、そんなにいやじゃないんだよね」
かばん 「はずかしさとは別に、“嫌い”という気持ちや、“理性”という強いブレーキも
あるから、止まれるんじゃないかな」
キュルル 「そんなのがあるなら、“はずかしさ”なんていらないんじゃない?」
カラカル 「はなしが戻っちゃったわ。結局、はずかしさってなんのためにあるのよ?」
かばん 「失敗を繰り返さないためにあるのかもしれない。
“はずかしい思いをしたから、もうやらないようにしよう”みたいに」
カラカル 「でも、べつに失敗してなくても、はだかは見られたくないわよ?」
キュルル 「しかも逆の、“はだかを見られたい”っていう気持ちまであるよね……」
かばん 「ふしぎだよね……。はずかしいっていう感情が、いろんな感情、たのしい、
とか、うれしい、くやしい、悲しいとか……あるいは、性欲、快感なんかと
つながっていて、ヒトの行動をコントロールしている……のかな?」
キュルル 「かばんさんでもわからないの?」
かばん 「わからない。難しいね」
カラカル 「はずかしいって、いやだけど、いやじゃない。むしろ気持ちよくてたのしいのよ。
なのに、止まっちゃうの。はだかは見られたくない、って
……とくに、好きなひとには」
再び、カラカルとキュルルが、顔を見合わせて、驚いて、すぐに顔をそらした。
かばん 「もっと味わいたい、って思う? はずかしい気持ち」
カラカル 「……言うこと自体はずかしいけど……もっと味わいたいわ……キュルルと」
キュルル 「カラカル……言わなきゃだめ?」
カラカル 「ちゃんと言いなさい、キュルル」
キュルル 「……カラカルといっしょなら、はずかしいの、好きになれるかも……」
カラカル 「もうすでに好きじゃないの?」
キュルル 「そんなことないよ!」
カラカル 「ん?」
カラカルが、キュルルの目を見つめた。ふたりとも頬が赤かった。
キュルル 「……そうかも……」
キュルルが、カラカルから顔をそらして、うつむいた。
カラカル 「味わうねぇ……今でも十分すぎるくらいはずかしいけど、もっと上があるなら……」
キュルル 「……心臓がこわれちゃうね……たのしくて、気持ちいいかもだけど………」
キュルルは苦笑いした。
かばん 「超えちゃえばいいじゃない」
キュルル 「え?」
カラカル 「超えちゃうって?」
かばん 「勇気を出して、ブレーキを振り切って、はずかしさを思いっ切り楽しむんだよ」
カラカル 「そんなことしたら、止まらなくなっちゃうわ!」
キュルル 「いけないことしちゃうよ!」
かばん 「ふたりならだいじょうぶだよ。ただし、“最後の一線”だけは守ってね」
カラカル 「さいごの一線、ってなあに?」
かばん 「“新しい いのちは作っちゃだめ”ってこと。これは、わたしとふたりの約束だよ。
ふたりは、まだ体や心の準備ができていないから。
あとは、最低限のルールやマナーも守ってね。ふたりなら、理性で止められるはず」
キュルル 「だいじょうぶかなぁ……」
カラカル 「あたしが止めるわ。キュルルは子供だもの」
キュルル 「カラカルのほうが暴走しそうなんだけど!」
カラカル 「なーんですって!」
かばん 「がまんするとつらいかな……んー……抑えたものを放散しよう」
キュルル 「はっさん?」
かばん 「やり方を教えるよ。……“最後の一線ぎりぎり”まで行くやり方を……」*7
かばんが邪悪な笑みを浮かべた。
カラカル 「なんかかばんさんが怖い……」
キュルル 「なに? なにをするの?」
かばん 「ふたりでできる、“はずかしいこと”は、たくさんあるんだ」
かばんは、明るい声で説明を始めた。
そして、ホワイトボードマーカーを握った。
かばん 「まずは軽いものから。好きな人と抱き合うとうれしいよね。はだかになって……
かばん ……あとは、ふたりで考えて工夫してみてね。それもはずかしくて、たのしいから」
かばんが、ふたりに笑顔を向けた。
そしてすぐにマーカーを置き、ホワイトボードに描いたものを消し始めた。*9
カラカル 「……はぁ……」
カラカルは、顔を真っ赤にして、色っぽいため息をもらした。消されていくホワイトボードを見つめたまま。
キュルル 「……ほぁー……」
キュルルも顔を真っ赤にして、放心していた。
かばんが、ホワイトボードに描いたものを消し終えて、ふたりの顔を見た。
かばん 「恋人なんかいらない、とか、性欲は繁殖のためのもの、って割り切ってしまうのは、
わたしは、悪いことではないと思う。でも、楽しまないともったいないよね。
せっかく、ヒトに生まれて、はずかしさを感じるんだから」
カラカル 「……せっかく、ヒトの姿になったんだから……」
キュルル 「……せっかく……すきになったんだから……」
かばん 「いっぱい楽しむといいよ。はずかしい気持ち。ただ、行きすぎないようにね」
カラカルとキュルルが、顔を見合わせて、驚いて、すぐに顔をそらした。
かばん 「言わなくても、もう楽しんでるか……」
かばんがふたりを見て、やさしい目をした。
おわり
♡ あとがき ☆
読んでいただきありがとうございます。
フレンズにとって、「(性的に)はずかしい」ってどんな感じなんでしょうね。
以前どこかで書きましたが、「元の姿の時と同じで、はずかしくない」か「ヒトと同じで、はずかしい」のどっちなのか……。
公式でも非公式でも、作品によって描かれ方が違うんです。「フレンズによって違う」のかもしれません。
もしかしたら、ヒト以外の動物にも「はずかしい」という感情があるのでは? とも思います。
筆者自身がはずかしかったため、書くのをためらってしまったのですが、このおはなしの「はずかしい」は、“性的なもの”限定です。
「性的なはずかしさ」と、「何かを失敗した時のはずかしさ」は違うと思うんです。
私は、「性的なはずかしさ」は、性欲や性的快感とつながっていて、ヒトは強いはずかしさを感じたときに、気持ちよくなるのではないか、と思っています。いや、変態の話じゃないですよ。
ここには、別の感情(喜び、楽しさ、あせり、怒り、悔しさ、好き、など)が絡んでいると思うので、「はずかしさ」だけ取り出して考えるのは難しいかもしれません。特に恋愛がらみは。
脳科学的には、神経伝達物質の量が増えたりすると思うのですが、私は知識不足なので分かりません。
でも、はずかしい時の、ドキドキして熱くてくらくらする感覚は、たしかに気持ちいいです。いや変態じゃないですよ。
以下は、私自身が混乱していたため、整理したものです。
私が書いた、“カラカルとキュルルがなかよしの作品”を、時系列にならべると……
〈 危険極まり 〉(別作品『ジャパリ・フラグメンツ』内の短編)
2期 第1話のIFのおはなし。
↓
〈 よだれ 〉(ジャパリ・フラグメンツ内の短編)
2期 第6話の隙間のおはなし。サーバル&かばんがメインです。
↓
〈 こくはく 〉(ジャパリ・フラグメンツ内の短編)
2期 最終回直後のおはなし。
↓
〈 敵 〉〈 れいだい 〉(ジャパリ・フラグメンツ内の短編)
この二つは、いつの出来事かはっきりしない。大体このあたりに収まる。
↓
『いのち』(単品で投稿した短編)
〈 こくはく 〉と〈 ひっつもどるき 〉の間の出来事。
↓
〈 はずかしさ 〉本作。『いのち』のおまけ。『いのち』の直後の出来事。
↓
〈 ひっつもどるき 〉(ジャパリ・フラグメンツ内の短編)
これはサーバル&かばんがメインなんですが、カラカル&キュルルが目立っています。
……となります。
途中に、イエイヌとの交流もあるんですが、話が複雑になるうえに、イエイヌ関係は扱いが難しいので書いていません。
これらは、直結しているわけではありません。つながっているような、いないような……
という、あいまいな感じです。思いつくままに書いているので、矛盾も生じています。
他には……
〈 ぽけっと 〉1期と2期のクロスオーバー。(ジャパリ・フラグメンツ内の短編)
〈 こわれたふたりと。 〉(ジャパリ・フラグメンツ内の短編)
これは独立した短編です。他のおはなしとはつながっていません。
あまりにも異質なおはなしですが、一応2期アフターです。
こんなに書いてたのか……と、自分でもびっくりです。