封印されたダーマの神殿を英雄が救う話   作:よつん

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西の洞窟

 

 

 五人は洞窟を進んでいた。ミュラは怪我のためかそれほど積極的に戦闘に参加はしなかったが、アルスやガボの戦いの癖を指摘したり、マリベルに戦闘でのポジショニングや身のこなしを教えながら歩いた。ちなみに、フーラルには野次混じりに動きの無駄を伝えている。

 

 奇跡の石で少しずつ回復をしてもらいながら、洞窟の奥にいる魔物たちと対峙するまでミュラは体力を温存しおくことにした。それまで、魔物たちに負けはしているけれど全て命からがら逃げのびることはできている。

 

 人間から奪った特技や魔法から集めた「力」を与えてもらい、通常の魔物の何倍も強く忌々しいそいつらを叩きのめすことは、フォズ大神官の救出の次に、ミュラの悲願でもあった。ちなみにダーマの神殿奪還はその次である。というのも、神殿を軽んじているわけではなく、フォズ大神官がいれば建物の奪還なんて簡単にできると彼女は踏んでいたためだ。

 

「ねえ、ミュラさん」

 

 五人での行動や洞窟内の魔物にも慣れてきたころ、周囲を警戒しながら隣を歩いているミュラへ、マリベルが話し掛けた。

 

「どうかしたのか?」

 

 それに対し、ミュラは警戒を緩めないまま、マリベルに問う。その硬さの滲む口調は「自分の見落とした危険でもあったのか」という彼女の内情を表しているようだった。

 

「ただの雑談なんだけど……ミュラさんの大好きな大神官って、どんな人なの?」

 

 マリベルの素朴な疑問は、アルスも気になっていたところではあった。ガボはあんまり気にしていないようだが、三人とフーラルとでは、明らかにミュラがしてくる対応は違う。

 

 マリベルは「フーラルは過去、ミュラさんに対して何かやらかしちゃったのかしら」と邪推していたが、本人がいる前でそれを聞いて面倒なことになっても困るので、聞けないでいた。「それならば、フーラルと違って敬愛されている大神官の人となりを聞けば、彼女の対応の基準が分かるかもしれないな」と思い至ったのである。

 

「どんな人……言葉で表すのも難しいくらい素晴らしいお方だよ。優しく、聡明で、誰よりも強いお心をお持ちで――」

 

 向かってくる魔物の攻撃を、怪我をしているとは微塵も思えない動きで華麗にかわしながら、ミュラは思い出に浸るように目を閉じた。見ていなくても、そこら辺の魔物くらい倒せるということなのだろう。

 

「やっぱり、会ってみた方が早いかな」

 

 そう言って微笑んだ彼女は、母親を自慢する子どものような、初恋にはにかむ乙女のような、そんな印象を持たせた。

 

 

 毒沼を歩き、奥に進んでいくにつれて嫌な感じが肌を刺す。ちらりと遠目に見えた大きな魔物が二体、その嫌な感じを発しているのだと三人は直感した。顔を青くして固唾を呑むフーラルとは対照的に、ミュラはその口端をあげて、憤怒と闘争を表情に出していた。爛々と輝く目は、狂気すら感じさせる。

 

「マリベルが奇跡の石で絶えず回復してくれたおかげで、足手まといにならずに済みそうだ。今まで戦ってもらっていた分、ここは私から行く。サポートをお願いするよ」

 

 スラリと剣を抜いたミュラは、まるで友人に会いに行くような軽い足取りで魔物に歩み寄った。

 

「ご機嫌いかがかな、ブタ野郎ども。てめぇらを駆逐しに来てやったぞ。さっさとくたばりやがれ」

 

 美しい外見には似合わない清々しい言い切りと共に、にやつく魔物に斬り掛かる。言葉通りブタのような外見をした魔物は、そのあまりに早い斬撃を、しかし試すように受け止めた。

 

「なんだァ? 駆逐しに来たのではないのか?」

 

 ミュラの攻撃は、誰の目から見ても致命傷の一撃であったはずだった。腕で受け止めたなら、骨ごと断ち斬る、そんな一撃だ。しかし、魔物の皮膚がよほど硬いのか、ほんの少し傷をつけた程度だった。

 

「ッチ。まずは挨拶からってな」

 

 ――強くなっていやがる。

 

 ミュラは確信と共に、胸を焦がす黒い感情を押さえつけた。やつらが強くなったということは、それだけ犠牲者が増えたということ。そして、きっとそれだけフォズ大神官の憂いの種が増えたということでもある。

 

 「大神官はまだ生きている」という確信がミュラにはあるが、彼女の主はきっと、力を奪われたひとりひとりを想って、魔物に奪われたダーマの神殿を想って、胸を痛めていることだろう。それはなんとも、許しがたいことだった。

 

 ミュラは決して非力ではない。非力ではない彼女の剣がほとんど相手にダメージを与えないというのは、控えめに言わなくても都合が悪かったが、愚痴っている暇もない。ぐぉん、と凶悪な音をさせながら拳を振るう魔物たちの攻撃もなんとかかわし続けながら、ミュラはどうやってこの魔物たちを倒すべきか思考する。

 

 

 敵わないとわかっているのに、恐ろしいだろうに、ミュラがブタに攻撃しているところを狙うトラもどきを牽制するアルスであるとか、素早い動きで敵をかく乱するガボとか、的確に奇跡の石で負傷者を回復していくマリベルであるとか、そんな様子を見て、フーラルは舌打ちをしたい気分だった。

 

 もともとフーラルが三人を誘ったのは、彼らを囮にして、自分だけ洞窟を抜けるという目論みがあったためである。ミュラを呼んだのも、本音を言えば彼女を連れていけば魔物が必ずそちらに集中して、自分のことは気にも留めないだろう、と確信めいた考えもあった。まあ、誘わないと後からミュラが怖いというのももちろん間違いではないが。つまり、最初からみんなで力を合わせて洞窟を抜けようだなんて思っていなかったのである。

 

 ――今さら俺が立ち向かったところで。

 

 フーラルは、当初の予定通り、激戦の横を抜けて、洞窟を抜けた。

 

「ちょっと、フーラル!」

 

 マリベルの怒号が聞こえたが、それさえ無視して、走る。フーラルは盗賊だ。彼の足は速い。魔物との戦闘から一瞬の隙さえも命取りになるこの状況では、追いつくどころか、そもそも追い掛けることすらできやしなかった。

 

「ほっとけ、マリベル」

 

 息を切らしながら、ミュラが言う。アルスたちが致命傷を負わないように配慮しながら戦う彼女は、ブタのような――イノップ、と片割れが呼んでいた魔物を集中的に狙っていた。

 

 魔物たちに大した怪我はない。対して、四人は魔物の攻撃がかすった程度で、その部位がもっていかれるような感覚に陥りながら戦っている。そんな、明らかな劣勢に、誰もが確かな危機感を覚えていた。

 

「アルス……私の合図で、逃げろ」

 

 囁くように、ミュラが背中を合わせていたアルスに告げた。

 

「それじゃあ、ミュラさんは」

 

「折を見て逃げる。だが、全員一度には危険だ。フーラルを見て分かっただろう? あいつらは私が残っていれば、恐らく見逃す。なに、私は何度もこいつらからは逃げている。逃げ足には自信があるんだ」

 

 アルスは納得がいかないながらも、顎を引いた。ここで全員が命を落としては意味がないからだ。地を蹴ったミュラの剣がイノップの鼻面を狙う。鬼気迫る、それまでより一層早く鋭い一撃に、攻撃をされたイノップばかりか、もう片方のゴンズまでもが気を取られた。

 

「今だっ! 行け!!」

 

 アルスはマリベルの手を取り、ガボの名を叫んだ。混乱している様子の二人はしかし、アルスの背を追って走っていく。

 

「ミュラの姉ちゃんはどうすんだよ、アルス!」

 

「信じよう。ミュラさんは強い!」

 

「アルス、あんた……ふざけないでよ! ミュラさん、あのままだと死んじゃうわよ!?」

 

 魔物の脅威から逃れた安全圏で、アルスの手を振り払ったマリベルがそのまま彼の頬を平手で打った。

 

「あたしたち、逃げたフーラルとおんなじ、卑怯者な裏切り者になっちゃうわ!」

 

「オイラも、どうにかした方が良いと思う! オイラ、あんな強い魔物はじめてだ。このままじゃミュラの姉ちゃんが……」

 

 アルスは拳を握りしめた。ここに、自分の生き方を選んだ親友がいたら、どうしただろうか。そんなことが脳裏に浮かぶ。太陽のような眩しい笑顔。自分の道をゆくと言ったキーファなら、こんなときどうするだろうか。アルスは、息を整えるために一度大きく吐いて、それから自然と肺に入ってきた空気を使って、言葉を吐き出した。

 

「僕が行ってくる。二人は他の魔物に気を付けながら――待ってて。必ず、戻ってくるから」

 

 ミュラの瞳は、死にゆく者の目ではなかった。絶望に抗い、道を切り拓く者の目だ。何度か絶望の世界を旅してきたアルスの目には、はっきりと彼女の強さが映った。己を曲げない、心の強さが。

 

「あたしたちが足手まといだって言うわけ? そりゃ、魔法も特技も使えないけどさ」

 

「そうじゃないよ。必ず戻ってはくるけど、怪我はしちゃうと思う。だから、二人には帰りの道を任せたいんだ。だめかな?」

 

 悔しそうな顔をするマリベルへ、アルスはゆるゆると頭を横に振った。少年は知っていた。ああいう目をした人は、そう簡単に死なない。そして自分だって、死んでやるつもりはない。だけど、上手く逃げ延びたとして、洞窟には他の魔物だっている。だったら、役割分担をすればいい。そう考えただけだ。

 

「……オイラ、分かったよ」

 

 ガボが頷くと、不満顔のマリベルは「なら、さっさと行きなさいよね!」とそっぽを向いた。腕組みをした手を強く握りすぎて、服に皺が寄っている。

 

「うん――行ってきます」

 

 アルスは走った。そして渾身の力を込めて飛び上がる。逃げ出して、ここへ戻ってくるのにそれほど時間は経っていないはずだが、既にミュラの体には見過ごせないいくつもの傷があった。

 

「やぁあっ!!」

 

 会心の一撃。油断していた魔物を襲ったアルスの一撃は、ミュラに狙われて意識をそちら以外に向けていなかったイノップの横腹に突き刺さった。

 

「ぐぉおおっ……貴様ッ! 小僧、殺してやる……殺してやるぞぉ!!」

 

 憤怒で顔を赤黒く染めた魔物に「てめぇが死ね」と静かに言ったミュラは、道具袋から<まだら蜘蛛糸>をいくつも取り出し、素早く二体に投擲した。ねばねばとまとわりつく蜘蛛の糸。取り払えず動きの鈍る魔物たちをよそに、ミュラは体勢を整えて、イノップの心臓を一突きした。魔物の咆哮が耳をつんざく。

 

 ――もしかしたら。

 

 アルスの胸に希望の灯がともり、怒りで暴れながらも、からみつく大量の蜘蛛の糸のせいで満足に動けないゴンズに目を向けた。暴れていたゴンズは、ミュラやアルスに背を向けている状態だ。まともな攻撃は繰り出せないだろう。イノップの体から剣を抜き、とどめにその首を跳ね飛ばそうとしていたミュラが、何かに気が付いてアルスを突き飛ばした。

 

「やってくれたな、人間共ォ!」

 

 ゴンズの尻尾が鞭のようにしなり、ミュラの胴体を薙ぎ払った。咄嗟に剣で庇いはしたけれど、衝撃で刀身が砕け散り、床に背を思い切り打つ。それでもミュラは顔を歪め、すぐに立ち上がった。

 

「ミュラさん!」

 

 アルスには叫ぶことしかできない。希望の光は、すぐに消えてしまった。幸いなことに、心臓を貫かれたイノップは動けず、ミュラへと尾を使った一撃をたたき込んだゴンズも、<まだら蜘蛛糸>から逃れられたわけではない。つまり、残っている選択肢は「にげる」、それだけだった。

 

「ッチ……アルス、行く、ぞ」

 

 剣の柄をゴンズに投げつけたミュラは、逃走のために駆け寄ってきたアルスへ声を掛け、自らもふらつく足取りで走り始める。

 

「僕につかまってください!」

 

「ああ、ありがとう」

 

 アルスも過酷な旅を重ねた男だ。まだまだあどけない面差しや、年頃の男にしては低い身長が理由で「少年」というイメージを拭いきれないが、力は人一倍あった。悔しそうに吠える魔物の怒号を背に、必死で足を動かす。

 

「アルス! ミュラさん!」

 

「悪いね、君たちに、気を遣わせてしまった」

 

「なに言ってるんだよ! さっさと町へ戻ろう! ミュラの姉ちゃん死にそうだぞ!」

 

 

 なんとか襲い掛かる魔物を撃退して洞窟の入り口まで戻る。それからはガボが周囲を警戒しながら、マリベルとアルスの二人でミュラを支えてふきだまりの町へ運んだ。

 

「まーた、愛しの大神官様のために負けたのか?」

 

「懲りねえなあ!」

 

「本当は魔物にやられることが目的になってんじゃねぇのか? この被虐趣味め!」

 

 ふきだまりの町へ戻ると、四人――というよりは、ミュラ一人に対して、様々な者が野次を飛ばしてきた。ミュラが逃げ帰ってくるのは、この町では恒例の出来事となっていた。少し良くなったらすぐ戦闘に繰り出す彼女には彼らに構う暇もない。そのため、毎度毎度、野次はどんどんエスカレートしていった。大概は満身創痍のミュラに、射殺さんばかりの視線を向けられると黙るのだが、此度は睨みつける元気もないらしいと判断した誰かが、面白半分に石を投げようとしたのである。

 

「ちょっと、何してんのよ!」

 

 それを止めたのはガボ、反論したのはマリベルである。アルスは、耳元でミュラにぼそりと「すまない」と呟かれ、何事かと首を傾げていた。その意味はすぐに分かることとなる。ミュラは弱々しい力で、支えていたアルスの体を押しのけた。そして、全く力の入っていないように見える動作で、腰に携えていたナイフを投擲したのである。

 

「ひぃっ……! い、痛ぇ! ちょっとからかっただけじゃねぇか!」

 

 寸分の狂いなく、男がミュラへと石を投げた右手首に、ナイフが突き刺さっていた。その正確さに、野次を飛ばしていた者たちは急に口を閉ざす。当たりはしなかったものの、男は振り上げた右手を下ろすところだった。距離があり、隙だらけとはいえ動きがあり、そして小さな的に当ててみせたのである。それはつまり、ミュラはこの場にいた誰に対しても、致命傷に見える有様でありながら「絶対的強者」であることに他ならない。

 

「つまらねぇ『からかい』をしてぇなら、相手を選ぶこった」

 

 本来は喋るどころか、声を出すことすら苦痛を伴う怪我だろう。それなのに、痛みに泣き叫ぶ男へと侮蔑の視線を向けながら、ミュラははっきりとそう言ったのである。「化け物」と誰かが呟いたような気がしたが、ミュラには上手く聞き取れていないし、そんな個人の感想はどうでもよかった。

 

 いよいよ野次を飛ばしていた者たちは蜘蛛の子を散らすようにいなくなり、三人はミュラを家へと運ぼうと再び歩き出す。

 

 

「皆さん! ああ、酷い怪我……ザジ、ミュラさんを運ぶのを手伝ってさしあげて」

 

 悲痛な声をあげたのは、アルスたちがスイフーにやられたとき世話になった姉弟の姉であるネリスだった。どうやら、ミュラをからかう野次が聞こえてきて彼女の帰宅を知り、出迎えに来たようだった。病弱な彼女は走ることを弟に止められ、騒動が収束してから、怪我人たちを発見したというわけである。

 

 姉の言葉に、嫌そうに顔を歪めた弟のザジは、「姉さんは人がよすぎるんだよ……」とぶつぶつ言いながらも、中々の怪我人であるアルスと交代して、ミュラをどうd支えた。

 

「ミュラさんは私たちの命の恩人じゃないの。家を確保してくれたのも、カシムとミュラさんだわ。ここからだとミュラさんの家より私たちの家の方が近いし、そっちに運びましょう」

 

 薬草も尽きていた彼らはありがたくその言葉を受け入れた。ミュラの腹にはへその上に真一文字の痣が赤黒く走っており、その他にも左肩が陥没していたりあばらが折れていたりと悲惨な状況だった。涼しい顔で闘ってはいたが、並みの痛みではないだろう。

 

「ミュラさん、これを」

 

「! 姉さん、それはもしものための上薬草じゃないか!」

 

「目の前で苦しんでいる人がいるのよ、ザジ」

 

 ネリスは困ったように首を横に振る。その動きに合わせて、豊かな金髪をさらさらと音を立てるように揺れた。薄幸の美女というのが相応しいネリスに困った顔で見つめられて、姉の美貌とは似ずに、平凡顔の弟は唇を噛んだ。ザジの茶色い髪は特別長くはないが、俯けば顔に陰を作る。

 

「それに、ミュラさんには何度も助けていただいているじゃない。その私たちが、ミュラさんを見捨てることがどうしてできるというの?」

 

 水をもらって、各々傷の手当てをしていたアルスたちは、姉弟の会話に耳を傾けた。ミュラは悪人ではないし、どちらかと言えば善い人に思えたが、率先して人助けをするようにも見えない。それは道中の淡泊な会話からも、この町の人間を汚物を見るような目で見ているときがあることからも、間違ってはいないように思われる。だから、この姉弟とミュラの出会いが気になりはしたが、口をはさむ空気ではなく、黙っていた。

 

「それは……そう、だけど。いいよ、姉さんの好きなようにしたら」

 

 落ち込んだような顔のザジは、背を向けて出ていってしまう。普段は「不審者がいるのに姉さんから離れるわけにはいかない」と言ってネリスの傍を離れたがらない彼だが、激情が渦巻いているのか、それとも怪我人ばかりでは姉をどうにかできないだろうという思いがあってか、一人で町を歩いていた。

 

「姉さんは、優しすぎるよ……」

 

 ザジはいつも悔しい。優しすぎる姉を守ってやるのが自分でないことに。優しすぎる姉が気に掛けるのはいつも自分ではないことに。

 

 互いが唯一の肉親である彼らは、幼い頃からずっと一緒だった。病弱なネリスは働きに出ることはできなかったけれど、その美貌から可愛がられることが多く、その優しさで多くの人に愛されてきた。

 

 今回ダーマの神殿に来ようと言ったのは、ザジだった。ザジはネリスを守ってやりたかった。病弱な姉には高額な薬が必要となる。危険だが実入りの良い仕事をして姉を支えていくのが自分の使命だと、その頼りない細い腕で自分を引っ張ってくれていた姉のためになると信じて、ダーマに来た。転職して、もっと強くなれば。弟だからと自分を心配しすぎて信用してくれない姉も、きっと自分を頼りにしてくれるだろうと思って。

 

 けれど、ネリスの為に薬を買ってくるのは彼女に気があるカシムで。家を提供してくれたり、ネリスとザジに危害が加わらないように最初に睨みを利かせてくれたのはミュラで。ネリスが気に掛けるのは自分の為に危険を冒してくれるカシムや、いつもボロボロの新入り三人、女ながらに果敢に魔物に立ち向かうミュラ。

 

「どうしてボクじゃないんだ」

 

 ザジは決して弱くはない。特技や魔法が使えなくなってしまった今、純粋な戦士職についている人間や、親衛隊のくせになぜか殺されずにこんな町にいる二人よりは、確かに戦闘力は劣るだろう。けれど、姉が心配するほど頼りなくて、弱い男ではないはずだと、鬱屈とした感情を抱えていた。

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