ミュラが目を覚ますと、周囲がざわついていた。慌てた表情で家に駆けこんできた三人と、今にも死にそうな顔をしているネリス、それを支えるカシム。しばらく休んだからか、それとも上薬草やちょっと値の張る回復道具でも使ってもらえたのか、完治はしていないものの先ほどよりは大分楽になった体を起こす。
「ミュラさん! ザジが魂砕きに遭って……!」
アルスの声に、ミュラは眉を上げた。
魂砕きとは、性悪な魔物の考えた悪趣味な催しである。「魂砕きの剣を手にして、五人の魂を砕けば特技や魔法を戻してやる」という甘言を使い、人間同士で争わせるのだ。スイフーがそれをきつく取り締まっているので滅多に起こらず、起こったとしてもすぐに取り押さえられることの方が多いのだが。
「魂砕きをしたやつはどうした?」
治安が最底辺のふきだまりの町で、スイフーが唯一「鉄の掟」として定めていることは、この町に来たばかりの新入りでもなければ誰でも知っている。あのスイフーが、掟を破った者を放っておくとも思えない。
「魔物に連れていかれました! ザジは『半分しか砕けなかった』と言われて、一緒に連れて行かれてしまったんです」
アルスの言葉を聞いて、ミュラは「魔物の方が一枚上手だったか」と苦い顔をした。人の努力をあざ笑いながら掠め取り、心の弱さに付け込んで弄ぶ。ミュラの瞳には憎悪の炎が灯った。
「ミュラさん……どうか、どうか弟を救ってください… …!」
しかし、それも涙を流しながら助けを乞うネリスを見て、なりを潜める。冷静にならなければ勝てない相手だ。「死ななきゃ安い」と魔物への特攻を繰り返していたミュラにはそれがよく分かっていた。そのため、ミュラは顎に手を当てて考える。
「まあ、フォズ様がここにいれば間違いなく手を貸すだろう。フォズ様を救う手掛かりになるかもしれないし、それは別にかまわない。だが、結局救うには西の洞窟を抜けて、ダーマの神官たちが捕えられているという山肌の集落に行かなければならないんじゃあないのか? 言っておくが、魔物たちはさらに強くなっていたぞ」
「私と君、それに彼らが一緒でも太刀打ちできないほどにか」
カシムの頬には汗が伝っていた。精悍な顔つきの青年はミュラより年若いが、若さゆえの頼りなさは見受けられない。そのことが一層、彼が放った一言に重みを持たせている。
それまで何度もあの魔物たちに負けを喫しているミュラが、純粋に「強い」と評したのはそれが初めてだった。今までは「あのブタ野郎、殺す」、「トラは放っておいても良い。あのブタだ問題は」と悪態を吐きながらも負けた原因を分析していたのだ。上司であるミュラは真剣な表情を崩さず、小さく顎を引いた。
「恐らくな。賢く道具を使えば隙は見つけられるかもしれんが、道具を使う隙がそもそもない。……あー、でも、一匹負傷させたから、もしかするとってこともないかもしれないが、期待はしない方がいいだろう」
上半身は下着も身に着けずにに包帯を巻いただけの恰好をしていた彼女は、さっと服を着て、立ち上がった。
「用心は必要だ。私は必要な物を揃えてくる。大所帯だと魔物の目に付きやすいから、戦えないネリスがいることも考慮して二手に別れよう。カシム、お前はネリスと先に行け。あの魔物どもが常駐しているところで落ち合うぞ。まさかネリス一人も守れない腕はしていないだろう?」
試すような視線を受けたカシムは、握った拳を己の胸に当てて、気障な男の性格を表すように自信満々に微笑んでみせる。
「当然だ」
ミュラはにやりと笑い、カシムへと手を差し出す。意図を汲んだカシムは、その手に己の手をパチンと打ち合わせた。
「良い返事だ。準備にどれくらい掛かる? 私はお前たちの後に出発する」
「すぐにでも行けるさ。ネリスさえよければ」
ちなみに、上司と部下でありながら気安い関係の二人だが、以前からこうだったわけではない。親衛隊は少数精鋭であるがゆえに、二人とも顔見知りではあるが、これまでは上司と部下、それだけの関係だった。カシムはどちらかというと親衛隊長を慕い、ミュラは大神官しか見ていない一匹狼だったため、職務上のやり取りをしたことしかない。
ただし、ミュラも女性ということで、初日だけはカシムも彼女に対して気障な言動をしたが、冷えた目で「不愉快だ。失せろ」と言われて以来話し掛けることはなくなった。付け加えると、カシムは親衛隊に入って日が浅いこともあり、ミュラと一度も任務や訓練をしたことがなく、彼女が戦っている姿を目にしたことがなかったため、「強いらしいが人格に難のある上司」という印象を抱いていた。
ともかく、なんの因果か、親衛隊の二人はこの町に落ち延びた。となれば、フォズ大神官を、ダーマの神殿を奪還するために当然結託する。その過程で、元々フォズ大神官を別格として、それ以外の上下関係を全く気にしないミュラが「お前の敬語は気持ち悪い」とカシムを一刀両断して敬語をやめさせた。カシムには上司といえども女で年若く、実力も良く分からず、親衛隊であるのによく分からない素行が悪いミュラを敬う気はなかったから、「敬っていない」ということを感じ取っていたのだろう。
「私、すぐにでも行けます!」
ぎゅっと胸元で祈るように手を組んだネリスの肩をカシムが抱く。その様子を、今や親衛隊の誰よりもカシムを知る身となったミュラは、白けた目をして見ていた。
「興奮しては体に毒だ。ネリス、行こうか」
出て行った二人を見届けたミュラは、小さくため息を吐いた。あの男の女性に対する立ち振る舞い――特にネリスに対してのそれは、胸焼けを起こしそうになる。「気障り」とはよく言ったものだ、と思いながら、ミュラは思考を切り替えてアルスたち三人の方を見た。
「私はすぐに準備をする。アルスたちも、薬草の補充くらいはしておきなよ」
やはり怪我を感じさせない動作できびきび歩き出したミュラは、彼らを置いてまず武器屋に向かった。<鋼の剣>と、ついでに目についた<眠りの杖>を購入し、道具屋で薬草を持てるだけ買い、すぐに三人と合流する。
「待たせたね」
「そんなに待ってないわ。多分、三十分も経っていないんじゃないかしら」
マリベルの言葉を受けて、ミュラは少女の頭へと、オレンジ色の頭巾の上からポンと手を置いた。マリベルは十代後半、ミュラは二十代後半という年齢差もあり、ミュラのその行動は妹を可愛がる姉か兄のようにも見える。
「二人を待たせるのも悪いし、さっさと行こう」
ミュラが言うと、アルスもマリベルもガボも、町にいるだけのときとは顔つきが変わった。見た目に反して、彼らは恐らく何度も修羅場を潜っているのだろうと分かる。
「そうだ、マリベル。その毒蛾のナイフ、けっこう使ってるみたいだけど、何か理由はあるのか?」
「え? ああ。あたしって非力だから、下手に強い武器を持つよりも、コレみたいに相手を麻痺させられるような付加のあるものの方が役に立つと思って。それまではずっと魔法で闘ってきたし。前衛よりも後衛でサポートする方が合ってるもの」
「そうか。よかった、じゃあこれ」
ぽん、と先ほど購入したばかりの<眠りの杖>を手渡す。渡されたマリベルは目を白黒させていた。
「私の意見だが、奇跡の石は素早いガボに持っていてもらった方が良いと思う。必要な時に戦いで傷ついた人を真っ先に回復できるというのは、かなりありがたいし戦略も立てやすい。マリベルも遅くはないけれど、ガボには負けるだろう。それなら、戦況を見極めながら、今自分で言っていたようにサポートしてほしい。君は賢いようだから、きっとそれを上手く使える」
「そう、かしら」
「うん、皆がよければだけど」
ミュラの言葉に、「良いと思う!」と快諾したのはこのパーティのリーダーらしいアルスである。「いいなあ、オイラもなんかほしい」と指をくわえているのはガボ。異論はなさそうだった。それに、とミュラはマリベルの耳元に口を近づける。
「ガボにはいつどの道具を使って誰を優先して回復すべきか、というのはまだ難しそうに見えるからな。一番傷の深い人だけに限定して回復してもらったほうが、彼も分かりやすいだろう」
こそりと告げられた言葉に、マリベルが吹き出す。
「そうね! このマリベル様が、ちゃーんと皆のサポートをするから、ミュラもアルスもガボも、あたしを守りながら戦うのよ!」
ささやかな胸を張るマリベルは、得意顔で眠りの杖を掲げた。
さて、洞窟は思いの外簡単に進むことが出来た。魔物は出るものの、雰囲気が以前と違う。案の定、合流したカシムの言葉によると、イノップとゴンズはいないようだった。
「怪我を回復しに行ったのか、別の事なのかは気になるけれど……ありがたく洞窟は抜けさせてもらうとしようか」
山肌の集落へ行くと、マリベルが突然大きな声をあげた。ネリスとカシムは二人でザジを探しに行ってしまったためすでにいないが、残りの三人は驚いてマリベルの方を見る。
「フーラルだわ! アルス、逃げられないうちにとっちめるわよ!」
「マリベル、その必要はない」
「へ? なんでよ、ミュラさん! あいつが逃げて大変な思いをしたのはミュラさんでしょ」
怒髪天を突く勢いのマリベルに、ミュラはさして興味もないように答えた。
「いてもいなくても変わらないさ。被害者がひとり減ったと思えば良いだけだし、せっかく一足先に辿り着いたやつがいるんだから、せいぜいここの状況を聞くとしよう」
と、言った割に、ミュラはフーラルに声を掛けるなり胸倉を掴みあげた。慌てて逃げようとしたフーラルは、目にも止まらぬ速さで捕獲されてしまう。女性としては長身かつ力のあるミュラからすれば、大の男ひとり持ち上げるのは造作もないことだった。
「おいフーラル」
「は、はい……あの、苦し」
「お前には三つ、選択肢がある。好きな物を選べ」
無表情で、有無を言わせない口調である。アルスとマリベルは目を見合わせ、ガボは「おっかねぇ」と呟いていた。
「一、誠心誠意私たちに謝罪をした上で今後協力関係に戻る。二、別に謝罪をしなくてもかまわないので私たちの手足として馬馬車のように働く。三、私たちに協力もせず命令をきくこともこともないが盗賊としても親衛隊としても道を閉ざされる」
「い、いちで! 一でお願いしますっ! 申し訳ございませんでしたミュラ閣下!」
「うるせぇ、唾が飛ぶから叫ぶんじゃあねぇよ。それと、謝るのは私だけじゃない。てめぇは元々この子たちを犠牲にしようとしていたんだろうが」
「す、すみませんでした。アルスさん、マリベルさん、ガボさん、この通りです……」
ミュラは唐突にフーラルの胸倉を掴んでいた手を離し、彼を落とした。それから三人を見て「って言ってるけど、どうする?」と首を傾げる。
「えーと。選択肢的には一だし、僕は気にしてないから、協力してもらえるならありがたいです」
「あ……あたしも、ちゃーんと反省してるなら別に良いわ」
「オイラ、なんだかフーラルが可哀想になってきたぞ」
三者の答えを聞いて頷いたミュラはしゃがみ込み、尻餅をついているフーラルと目線を合わせた。
「さて、お前はこの町でどんな情報を手に入れたんだ? あ、そうだ。ここにザジが来ているかいないかだけ先に教えろ」
「ザジは見てねぇ。ここには魂砕きに遭ったやつが魔物に操られたり神官に看病されたりしているけど、その中にはいなかったはずだぜ。カシムたちにもそう言ったら、さっさと神官長のいる家に行っちまったよ」
「フォズ大神官のことは」
短く、しかしそれまでよりも確実に力の籠った言葉に、フーラルは目を見張った。フーラルはフォズ大神官を見たことがない。けれどこの女があまりにも「大神官」と煩いので、「大神官馬鹿」っぷりは把握していたし、ミュラ自身もそれを否定しないので茶化したことも何度もある。だが、この重さを宿す迫力は、何だ。
「……生きてるって話だ。集落の北に、洞窟がある。いつも魔物に操られたやつらが見張っているから、傷つけることもできねぇしある意味厄介なんだ。大神官は、そこの奥底に囚われてるんだと」
ミュラの視線が外れて集落の北側に向くと、ようやくフーラルは一息つけた。心臓に悪いなんてものではない。分かってはいたが、この女の大神官好きは病気だ。
「話は簡単だ。私は洞窟に向かう。カシムたちはザジを探したいだろうし、早いに越したことはない。アルス、マリベル、ガボ、ダーマ神殿のことで巻き込んで本当に申し訳ないが、力を貸してくれないだろうか。西の洞窟にいなかったということは、あのブタ野郎とトラ野郎は、フォズ様の見張りをしていることも考えられる。フーラルがひとりこちらに来たことで、警戒を強めたのかもしれない」
ぎっと見張りを睨みつけているミュラの声は、初めて会った時のくぐもった声より尚低い。それほど強く大神官の身を案じ、捕えた者たちを憎悪しているのだろう。
「ミュラさん、気持ちは分かります。でも、やっぱりカシムさんには一緒に来てもらった方が良いんじゃないでしょうか。これまでミュラさんが何度も足を踏み入れていた西の洞窟とはわけが違いますし、何があるか分からないなら、大人数で警戒しながらの方が……」
そんなミュラの様子を見かねてアルスが声を掛けると、ミュラはしばし逡巡し、それから頷いた。
「君の声は不思議だ。波立つ心を鎮めるような穏やかさがある」
微笑む。彼らは信用のおける人物だと、短い付き合いで彼女は既に知っていた。最初に気に入ったのは、目。そして、決定打となったのはあの洞窟で戻ってきてくれたこと。たったのそれだけが、どれほど難しいことなのかを、彼らは自覚していないだろう。
「確かに、フォズ様を取り戻す大一番でしくじる事だけは避けたい。ここは慎重に行くべきかもしれないな」
少年たちの言葉を、彼女をよく知る人物が見ていたら驚くほど、ミュラは素直に受け入れた。そうと決まれば、というようにミュラはノックもせず、神官長のいる家へとずかずか立ち入った。イライラしている様子の神官長はミュラの姿を見るなり、怒鳴りつけた。
「貴様ッ! 今まで何をしていたのかと思えば、魔物に手をこまねいていたそうじゃないか! 『大神官の最強の盾』をは笑わせる! いっそ死んだと聞いた方がまだマシな気分だったわい!」
顔を赤くし、唾を飛ばしている神官長に、ミュラは礼もしないまま「お言葉、御もっともにございます」と簡素かつ無表情に返す。それから「もう上下関係の義理は果たしたんで」と言わんばかりに、カシムの方を向き直った。神殿という組織がどういったものであるかあまり理解はしていないアルスたちだったが、ミュラの行動が目上の者に対するそれではないことくらいははっきりと分かる。案の定、無礼な態度を取られた神官長は、ぶるぶると震えながら怒号を飛ばしている。
「カシム、フォズ大神官を取り戻す。力を貸してくれ」
「俺は親衛隊だ。当然だろう」
言葉に呆れたのか、行動に呆れたのかは分からないが、カシムは短くため息を吐いた。とはいえ、二人とも神官長の怒号を無視しているので同罪だろう。すると、「親衛隊」という単語に反応した神官長が、さらに怒号を飛ばす。
「ええいっ、他の親衛隊は大神官やダーマの神官たちを守ろうとして死んでいったというのに! なんと情けない! 役立たずの分際で私のことを無視するとは! フォズ大神官は逃がす者を間違えたのだ!」
「ちょっと、アンタ……」
「フォズ大神官に間違いはない」
聞くに堪えない罵倒にマリベルが口を挟もうとしたところ、しっかりとした口調で、何の曇りもない目で、神官長を見据えた。ミュラは抜刀などしていないが、神官長にはまるで、彼女の視線が突き付けられた刃のごとく、己が生死を握っているように思え、「ひぅ」と小さく声を漏らして震え始める。
ミュラはそれを一瞥し、神官長などはじめからいないものであるかのように家から出ていってしまった。唖然とした周りを見て、カシムは片目を瞑る。それからネリスに「すぐに戻る。君はここで待っていてくれ」と声を掛け、洞窟を出る前に彼女に送った髪飾りを撫でてからミュラの後に続いて出ていった。その様子を見ていたマリベルは「気障ねー」といつもの調子を取り戻し、アルスとガボの手を引いて外へ出る。
「さて、私の意見を言わせてもらうと、今回は二手には別れずに、皆でフォズ様をお迎えにあがりたい。というのも、万が一フォズ様の力まで奪われていた場合に護衛がしやすいからだ。私たちは互いに戦い方の特徴を理解しているし、戦闘で足を引っ張り合うような結果にはならないと思う。あとは……あのブタ野郎どもがいたときに、体力を温存して戦いたい、というのも大きい」
そこで言葉を切ったミュラはひとりひとりの顔を見た。居辛そうにしているフーラルと視線をしっかり合わせてから、「とはいえ」と続けた。
「大所帯では、ある程度役割分担を決めておいた方が行動がスムーズだ。フーラル」
声を掛けられたフーラルは肩をびくりと震わせた。先ほどのことだけでなく、いつもの口は悪いが雰囲気は気安いミュラとは違って、今の彼女は真剣そのもので、「邪魔する者は全て排除する」という肌を突き刺すような雰囲気を纏っていたからだ。
「お前は偵察だ。パーティの先頭で罠や仕掛けがある場合に伝えろ。戦闘には積極的に参加しなくて良いが、もしも強い魔物が現れたらかく乱しろ」
「分かった」
ごくりと固唾を呑む。盗賊としてのフーラルの技能を考慮した采配だろうが、「本当にそれだけなのか?」という疑念が胸にしこりのように残った。しかし、当のミュラはすでにカシムの方を見ている。
「カシムは主に戦闘員と、フォズ様が見つかった場合の盾役だ。フォズ様が見つかるまでは体力を温存し、帰路は全身全霊をかけてフォズ様のための道を拓け」
「承知したよ」
いつもの気障ったらしい様子のカシムも、しかし口元は引きつっている。「大神官の最強の盾」と呼ばれていた親衛隊副隊長殿の「らしい」姿を見たのは、彼もこれが初めてだった。
「アルスたちは戦闘員だ。今までと同じように魔物を倒しつつ、洞窟を進んで行こう。フォズ様の安全は基本的に私とカシムで確保するから、君たちは気楽にしていてほしい。ああ、あと先に言っておくが、牢獄へ続く道で手に入れたものは、基本的に君たちが持っていってくれ」
「あら、気前が良いのね」
「当然の権利さ。なにせ、君たちはあのクソ忌々しい魔物どもの被害者なんだ。我々はフォズ様と大神官を取り戻すのが目的だし、フーラルはそれをダシに親衛隊に入りたいと思っている。それに比べて、君たちはただ私たちの手伝いをしてくれているだけだ。私はそれがとてもうれしいし、感謝もしている」
ミュラは目を閉じてゆっくりと息を吸った。
「行こう。勝手に決めさせてもらって悪いが、私はしんがりだ。カシムは私の前。アルスたちはフーラルの後ろについててくれ。ああ、洞窟の前の見張りは……マリベル」
意味ありげに微笑まれたマリベルは、負けじと笑みをつくってみせる。
「そうね、あたしの出番ってわけね」
眠りの杖はその効力を大いに発揮した。魔物に操られている人々がそのことを魔物に報告しに行ったが、大した害にはならないと踏んだのか、ミュラは先に進もうと軽く言っただけだった。