咲夜さんが33歳くらいになったときの話   作:諸星おじさん

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第一話

「咲夜、この手紙はあなた宛だったわ」

紅魔館の主、レミリア・スカーレットはそう言って便せんをメイドに渡した。受け取った十六夜咲夜は、自分でも文章を読んでみる。

「咲夜宛なら最初から本人に送ればいいのに、まずは主に確認をとろうなんて、霊夢も随分と礼儀がわかってきたと思わない?」

「良い心がけだと思います」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前略 レミリア・スカーレット様

 

 

紅魔館付近で異様な霊力の流れが検知されました。

幻想郷全体から見れば小さなゆらぎですが、僅か

ながら博麗大結界への干渉が認められます。

本来ならば人間代表である博麗の巫女が調査する

のが筋ですが、現在博麗大結界において過去稀に

見るエラーが発生しており、博麗の巫女も、妖怪

の賢者も神社から動けません。

つきましては、地理的に近い貴女様のお屋敷にお

勤めしている、巫女の古い友人に協力を仰ぎたく

お手紙を差し上げました。

さしでがましいことですが、どうかご助力のほど

よろしくお願いいたします。

 

         博麗の巫女 博麗 霊夢

            賢者 八雲 紫

            代筆 八雲 藍

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「まあいいわ。咲夜を貸すなんてウチには損にしかならないけど」

「恩を売るチャンス、ですわ」

「まあこの貸しはいずれ美味しく返してもらおう。いつか退屈したときに、遊び相手になってくれれば」

咲夜はにこりと笑うと、レミリアの前から姿を消した。レミリアが窓から外を眺めると、月明りに浮かぶ咲夜の後ろ姿が見えた。その姿がだんだん小さくなっていくのが、どこか寂しいとレミリアは思ってしまう。咲夜や霊夢は人間だから、自分よりもずっと早く変化していく。それが成長であれ老化であれ、決して避けられない。

咲夜は買い物をするときに便利だからという理由で、見た目の時間を二十歳そこそこで止めていた。自分と同じように、見た目は変わらない咲夜。けれど、人間である以上必ず変化はあるはずだ。目で見えない分、余計に細かいことが気になってしまう。

咲夜の背中はもはや米粒のようでほとんど見えない。いずれは私を置いて、遠くに行ってしまうのだろうか。柄にもないことを考えるようになってしまった今日この頃。

 

 

 

 

便せんには地図が入っていた。咲夜はそれを頼りに空を飛ぶ。

「あれかしら?」

地図には小さくバツ印がついていて、その中心には何かがある、と。そしてその何かとは、咲夜の目が正しければ廃墟と化した洋館。

「ありきたりだわ」

咲夜は地面に下りて、洋館の正面へ向かう。元々紅魔館だって、騒霊がアジトにしている館だって西洋造りだ。聞けば旧地獄の地霊殿も洋館らしいじゃないか。今更もう一軒新築されたからといって、別段驚くことでもない。

 

玄関の扉は装飾が施され手間がかかってそうだが、手入れが一切されておらずサビだらけのドアノブがお出迎えだ。重い扉を開けて、咲夜はエントランスへと侵入する。

「どこか似ている」

入った瞬間に、ふと紅魔館を思い出した。間取りが紅魔館のそれと酷似している。と言っても、あちこち埃だらけで天井、床、壁、いたるところに大小さまざまな穴。カーペットなんだかカーテンが破れ落ちたのかわからない布。とにかく『キレイ』なものは何一つない。

 

「おっと」

咲夜の頭上から小さなガレキが一つ落ちてきたので避けた。おおかた床だか壁だかのしっくいが剥がれたのだろう。廃墟の中、仮に妖怪の類が潜んでなかったとしても、建物自体が凶器のようなものだ。気を引き締めていこう。ガレキが落ちてきたときに感じた僅かな気配、その気配が勘違いかどうか確かめなくてはいけない。

 

咲夜は地下へ続く階段を見つけた。基本的に妖怪は暗闇を好む。暗いほうから探すのが効率的だろう。咲夜は持っていたろうそくに火をつけて明かりを灯した。

小さな明かりを頼りに階段を下っていく。石造りで頑丈な造りだ。足音が空虚にこだまする。不意に後ろから物音がした。何か物が転がり落ちてくるような、ドサッドサッっという音。階段に沿って落ちてきたのはバレーボールよりも少し大きな丸いもの、渦上の模様が目を引いた。しまった、これはスズメバチの巣だ! 咲夜がそう思った瞬間、巣からけたたましい羽根音と共に、大量のハチが湧き出してきた。

「時よ止まれ」

咲夜はナイフを構えて時を止める。空中で静止したハチをナイフで裂き、巣には明かりにしていたろうそくの火を移してその場を去った。ただただ広がる静寂、ハチの羽根音一つない。ここは咲夜だけの世界だ。

「そして時は動き出す」

階段の下で能力を解除すると、世界に音が戻った。風のうねり、ネズミの足音、ふくろうの鳴き声、小さな音でこの世界は満ちている。

飛んでいたハチは全てナイフで切ったし、巣にいたハチも燃やせば大したことはないだろう。石造りの階段だから他に燃え移ることは無いと思うが、念のためこの洋館の探索は手早く行うことにした。

「誰かいる」

咲夜は確信した。スズメバチの襲来はどう考えても偶然ではない。誰かが咲夜に対して巣ごと投げつけたようだ。

けれど、同時に違和感も覚える。やや回りくどいというか、咲夜を試しているような、そんな手の出し方だ。

階段の下には両開きの扉があり、立派だがやはりガタついている。建付けの悪い扉をどうにか開けてくぐると、そこには巨大な書庫が広がっていた。

「まるっきり一緒じゃない」

書庫には本棚が所狭しと並べられている。本棚は天井まで伸びて、本棚と本棚の間には、人ひとりがやっと通れるくらいの隙間しかない。咲夜にとって懐かしい光景に見えた。咲夜が紅魔館で働き始めた頃、紅魔館の地下もこんな感じだった。

咲夜の初仕事は、自身の能力で図書館を快適な広さに拡張することだった。そのおかげで、現在の図書館は天井を飛んで超えていけるくらいのゆとりがあり、本棚と本棚の間でティータイムをたしなめる程度のスペースがある。

それに比べ今はどうだ。咲夜を押しつぶさんばかりにプレッシャーをかけてくる本棚の数々。とても長く居座る気にはなれない。さっさと調べたら他の部屋を見よう。咲夜がそう思ったとき、不意に強い殺気が飛んできた。

咲夜はとっさに本棚の陰に隠れると、本棚にはナイフが一本刺さっていた。銀のナイフ、咲夜が使うものと同じだ。

咲夜は走って、本棚の中ほどまで逃げる。咲夜はこれまでの戦闘経験上、時を止めるのをためらった。時間静止は強力無比な技だが、すべての動きが止まる中では、敵も全く動かないため気配が読めない。危険ではあるが、まずは敵がどこにいるかを探る必要がある。

この部屋は四方八方を本棚で埋められている。本棚を壁にすれば、自ずと攻撃できるルートは限られ、次は敵の居場所を割り出せる。その時こそ、時間を止める絶好の機会だ。さあ、どこからくる?

咲夜が本棚の真ん中でナイフを構えると、間髪入れずに大きな物音がした。何かとても巨大なものがのしかかってくるような音。

「しまった」

目の前の本棚が咲夜に迫ってくる。どうやら敵は本棚でドミノ倒しをしたらしい。敵をあぶりだす作戦は失敗、早急に逃げる必要があるが、咲夜はその場に留まっていた。

 

傷魂『ソウルスカルプチュア』

咲夜がナイフを両手に持ち空を切ると、本棚が次々と切り刻まれていく。咲夜得意の空間魔術、ナイフの刃渡りよりもずっと遠くのものを切ることができる。咲夜に覆いかぶさってきた本棚を全て切り飛ばし、咲夜は無事脱出した。

さて、ほこりが舞い上がる書庫だった場所。本棚は全てなぎ倒され、咲夜は幾重もの本が積み重なった贅沢な床の上に立っていた。時を止めて逃げることもできただろうが、明確な攻撃の意思を見せた相手を野放しにするわけにもいかない。咲夜は灰色の埃の中、全神経を集中させて、敵の攻撃に備えていた。

「来るなら来なさい」

咲夜は心の中でつぶやいた。

埃の霧が少しずつ薄くなっていく。完全に晴れたとき、それは咲夜が時を止める時。その瞬間を刻一刻と待つ。しかしふと思うことがある。あのナイフはなんだったのだろう。自分の使っているナイフと同じ、銀のナイフを投げてくる敵。銀は妖怪・化け物相手には非常に強力な武器となる。逆に言えば、妖怪が銀を武器として使うのは非常に難しいのである。自分自身を浄化させる可能性があるものを身に着けるなんて、危険すぎるだろう。

しかし、疑問の答え合わせに時間はかからなかった。咲夜が時間を止めるのを忘れるほど衝撃的なものが、埃の向こう側で待っていた。

 

「わたし……」

 

埃が落ち着いてくると、咲夜の前にはメイドのような格好の少女が徐々に見えてきた。そこで時間を止めればいいものを、どこかで見覚えがあったそれを、ついまじまじと見つめてしまう。

青いメイド服、銀色の髪、青い瞳、右手には銀のナイフ。

間違いない。咲夜の目の前にいる少女は、自分と同じ、十六夜咲夜だ。




Pixivにも同内容の文章を投稿しています。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12089084

東方以外の元ネタがありますが、それは最後の話で書きます。
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