※きりきりの攻撃が半減技だったので変更しました。
「ふぅ……お疲れ様モルペコ。ズルズキン。そろそろ休憩にしよっか」
「うらら!」
「ギュウア!」
ワイルドエリア。
それは野生ポケモン達がのびのびと暮らす原生環境。
小さいながらも平原から砂漠まで様々な環境がそこには繰り広げられており、天候も激しく移ろい行く、ポケモンにとっても人間にとっても厳しい場所である。
私達ジムチャレンジャーはトレーナー達と
何せここに出てくる野生ポケモン達はどれもが厳しい環境で生き抜いてきた一品揃い。歴戦のトレーナーでさえ気を抜けば手塩にかけて育てたポケモン達でも負けることがあるし、また絶対に太刀打ちできないポケモンでさえ気軽に現れる。ここはトレーナーのセンスを磨くには抜群に適した場所なのだ。
時刻は既に夕方になりつつあった。
あたしはジムリーダーであるアニキとの戦いに備えて朝からワイルドエリアに来ていたけれども……気がついたらもうこんな時間だ。ちょっと頑張りすぎちゃったかも。
太陽が完全に降りきる前に何とか野営の準備を済ませないと……特訓で疲れ果てているポケモン達をボールにしまいこみ(モルペコは別。いつも外に出して同行させてる)、キャンプに適した場所を探していったのだが、
「……うわぁっ、と!?」
「うらっ!?」
「ぼふ?」
不運にも唐突に草むらから現れたキテルグマに自転車ごと衝突してしまい、あたしはモルペコごと地面に投げ出されてしまう。キテルグマのぬいぐるみみたいにもふもふな体のお陰で怪我自体はないけれども……完全に目をつけられてしまった。これは、まずい。
このキテルグマ。見た目の愛嬌とは打って代わってかなり凶暴なのだ。
キテルグマは仲間や相手と抱き合う癖があるのだが、その力は余りにも強く。キテルグマに抱きしめられて背骨を折られて命を落とすトレーナーも少なくない。
しかも今相対している相手はかなり強い個体のようだ……あたしを庇うように間に立ったモルペコが『はらぺこモヨウ』の顔を見せて警戒している。そこにいつもの余裕は見受けられない。
ピッピ人形は既に使い切った後。
手持ちのポケモン達は疲弊しきっている。
何とかして、何とかして逃げないと……!
「モルペコ……全力のオーラぐるまを顔に叩き込んだらすぐに離脱するよ。出来る?」
「うらっ!」
モルペコの頬袋の周りに紫電が飛び散り始める。
そんなモルペコの威嚇もなんのその、のそり、のそりと近付いてくるキテルグマ。
全長2mを超えるその体長から感じられる威圧感は余りにも強く。あたしは震えそうになる膝を何とか留めながらも命令を出そうとした――その時だった。
「――
「グマッ!?」
横合いから唐突に現れた一つの影がすれ違ったかと思えばキテルグマに大きな傷を与えたのだ。
横槍を入れられたキテルグマは不意を突かれて苦しそうに顔を歪める。すぐに新たな敵を迎え撃とうとするが今の一撃は軽いものではなく、ついたたらを踏んでしまう――つまり、はっきりとした隙が出来てしまう!
「今だよモルペコっ、オーラぐるま!」
「うらぁっ!」
「ぐままっ」
横を向いた瞬間にモルペコのオーラぐるまがほとばしり、キテルグマが紫電に包まれる。
大ダメージとまでは言わないが少しのダメージにはなったようで、キテルグマは怒りに我武者羅に両腕を振り回し始める。
「これで最後! 『かわらわり』!」
「ザキッ!」
「ぐまぁぁ……っ!」
しかし乱入したキリキザンはその鋭利な両腕を掲げて飛び上がると、隙だらけのキテルグマに上から強襲。背中を大きく切り裂かれたキテルグマは耐えきれず、その巨体を地面に沈めるのだった。
「はぁぁ~……あ、危ない所だったね、マリィちゃん」
そして唐突な乱入者は案の定……あたしのライバルであるユウリであった。
「ユウリ、あんたどうして……ううん。ここはまずはありがとうだね」
「どういたしまして。と言っても本当偶然なんだけどね。ほら私のキャンプは実はあそこで」
「……ほんとやね」
この子が指差した目と鼻の先、丁度大樹の根元にユウリはキャンプを立てていたようだ。
不幸中の幸いというか、丁度そこにいたのがユウリのような実力者である事に、あたしは胸を撫で下ろすのだった。
「この子は当然あんたのだよね。ありがとうキリキザン、助かったよ」
「キザッ」
ユウリの隣に、まるで騎士のように佇むキリキザンは恭しく頭を下げて返礼を返すが、直後ユウリに頭をぺしり、と叩かれていた。
「
「キザっ、キザキザ」
「騎士ならば魅せなければ……? 魅せるよりも倒す方が先だよ。あれでもしも助け切れなくてマリィやモルペコが傷つく事になったらどうするつもり?」
「キザ……」
「反省してる? ……なら許してあげる。次からは気をつけようねきりきり。よく頑張ったねっ」
「キザ!」
しゅんとしたキリキザンに対して、ユウリはその硬い頭をよしよしと撫でて褒め。キリキザンは心なし嬉しそうに目を閉じて撫でられ続けていた。
……あたしがこの一幕を見て思ったことは2つ。
この子が厳しい一面を見せるのが意外だったという事と。
あたしとユウリの実力に、大きな開きが出来ているのではないか、という事だ。
あたしは自らの実力にそこそこの自信を持っていたが、あのかなり強い筈のキテルグマを冷静に、そしてほぼ1匹のポケモンだけで制する事が出来るトレーナーがどれだけいるというのだろうか。それこそジムリーダークラスの実力がなければ余裕を持って撃退することも難しい筈だ。
出会ってまだ数ヶ月しか経ってないというのに――この子は、この子はどこまで強くなって、
「それで、マリィちゃんもここで特訓してたの?」
「――え……? あっ、う、うん。そうだよ。アニキと戦う前の最終調整」
「アニキ……そうか、ネズさんの妹さんだもんね」
「うん。本当ならもうさっさと挑戦しようかなって思っとーけど……まだアニキを倒せるほど強くなってるかはちょっと自信なくてね。そういうあんたはもうアニキには挑戦した?」
「本当は行くつもりだったけど……何でか知らないけどスパイクタウンに入れないから、ちょっと待ち状態」
「スパイクタウンに?」
なんでんか知らないけど、あたしのホームのシャッターが閉まっていてジム戦に挑戦が出来ないらしい。何でそげん事になったんやろう……。
「まあでも丁度いいかなって思って、今は休憩中」
「休憩……ワイルドエリアで?」
「えへへ、私ワイルドエリアが好きでねー、落ち着く場所だからいつも休憩がてらここに来てるんだ」
多種多様なポケモン達と出会えるとは言え、危険と隣り合わせのこの場所でリラックスはなかなか出来ないように思えるけど彼女は違うらしい。
ユウリは気付けば構って欲しそうに足元に忍び寄った6匹のタイレーツ(多分ユウリのポケモン)に気付き、そのうちの一匹を抱えあげる。残りの5匹は羨ましそうに下で飛び跳ね、腕の中の一匹は嬉しそうにその丸い体をユウリに擦り付けとった。
「色んなポケモンがのびのびと生きていて、身近に感じられて、しかも触れ合える。彼らが周りのポケモン達と楽しそうに、時に喧嘩したりと自然に生きてる様子を見れるのが私、何よりも好きなんだ」
「懐いてないポケモンがいるけん、もしかしたら怪我をするかもしれないよ」
「そうだね、でもそれは触れ合い方を間違えていたらの場合。接し方さえ間違えなければそうそう怪我なんてしないし……逆に、どんな子とも仲良くなれると私は思っているよ」
それにもしもの事があっても
ユウリの語る事は正しいかもしれんけど……その接し方を知ってる人がどれだけ居る事やろう。極論言えばポケモン一匹一匹で接し方は違う筈なのに。
でもそんな荒唐無稽な事でさえ、目の前にいるユウリならば何となしにできそうだ、と思ってしまう。
「それに……ここに居ると余計な事を考えなくて済むしね」
「?」
「あ、ううん。何でもない……あ、そうだ! マリィちゃん折角だし良かったら私のキャンプにこない?」
「え? ……うーん、でも」
「今からキャンプ設営するのも大変でしょ? それにモルペコも疲れてそうだし。ねっ、ねっ?」
「……うーん」
……それであれば、ちょっとくらいお邪魔させて貰おうかな。
あたしがためらいがちに頷けば、ユウリはにっこり笑顔で迎え入れてくれた。
なんなん。こっ恥ずかしか。
「紹介するよ! うちの子達だよ~!
えっと。左からエースバーン、キリキザン、タイレーツ、イエッサン、パルスワンに、ロズレイド……やね。みんな個性的な名前しとる。
樹上で遊んどったエースバーンは枝上から快活そうにこっちに笑いかけ、キリキザンが騎士らしくユウリん後ろでキリっと佇まい、同じくイエッサン♂が執事らしく後ろで
「ありがと。ほらみんな、こっちも挨拶だよ」
同じくあたしが連れていたレパルダス、ドグロッグ、ズルズキン、モルペコを開放し、キャンプ場でお披露目。改めてお互いのポケモン達と顔を合わせる事になった。
最初こそお互いギスギスしていたけど、エースバーン……ひばひばとうちのモルペコがどうにかみんなを取りなし、すぐに皆で遊べるような仲になっとった。うん。よかったよかった。
「みんな仲良く遊べてるようだね。ほら取っておいで」
「そうだね。エースバ……ひばひばが取りなしてくれたお陰」
「そっちのモルペコこそだよ~、しっかりみんなに仲良くなってって言ってくれたみたい」
「あの子は外行きの顔が良いの。多分これからのご褒美目当てだと思うよ」
「あははは、うちのひばひばは単純にかけっこ勝負で一番になりたいっていう動機があるみたいだけどね~」
あたし達は思い思いに遊ぶポケモン達を眺めたりじゃらしたりしながら何でもない会話をしていく。
お互いの出身地の事。ファッションの事。食事の事。好きなポケモンの事。
あたしが知ってる事、ユウリが知ってる事。二人が知らない事を話し合った。
同年代の友達なんていなかったし、あたし口下手だから会話なんて盛り上がらないだろうな、って思ったのに……予想を越えて私達は話に花を咲かせ続ける事が出来ていた。
話に夢中になって、気付けば太陽は西の空へと消えかけ。辺りは美しい茜色から薄暗い黄昏の色へと代わりつつあった。
「……あれっ、もうこんな時間!? ちょっと話したつもりだったのに」
「本当や……それじゃ長居しちゃったね、あたしはこれくらいでお暇を」
「えっ、あ……ま、待って、待ってマリィちゃん。折角だからもうちょっとだけ、ね? ポケモン達もみんな仲良くなった事だし、遊び足りなさそうだし」
「もうちょっとだけって……もう夜になっちゃうし」
「そ、そう夜だよ。夕飯の時間だよ! 折角だからカレーはどう? みんなもお腹空いたでしょ?」
「うーん。あたしはちょっと具材切らしてたからなぁ……」
「具材出すよ! 全然出す! なんなら木の実だって全部出すよー!」
いや、まあこっちは大して用事もないしいいけど……何でそんなに呼び止めるん。
流石にこれ以上お邪魔するのもあれだし……なんて思っていたけれども、ユウリの目を見たらすぐに分かった。
キラキラと輝いとる。
まるで構って欲しい子犬の目そのものやった。
恐らく、と言うより間違いなくもっとあたしに居て欲しいのだと言うのがありありと分かってしまうと、どうにも断り辛くなってしまい……結局その提案に乗る事になった。
「ありがとうマリィちゃん! よーしみんなカレーだよ、カレーの時間だよー! 今日は二人で作るからね!」
「はぁ……仕方なか。まあ作るって決めた以上美味しいもん作る他なかね」
テンションの高いユウリに釣られるように、あたしも調理器具を用意しだすのだけれども……何かおかしかね。あたしのポケモン達はみんな大喜びなのに、ユウリのポケモン達は逆に引きつった顔しとる。
違和感を覚えながらも焚き火の用意をポケモンにお願いし、あたし達は具材を切り分けたりして行く。
今日のカレーはオーソドックなヴルストカレー。パックのソーセージを茹でて入れるだけで簡単な筈、なん、だ、け、ど。
「ユウリ!? なしてカゴの実をそんなに入れとーと!?」
「え、だって余ってるし……形が可愛いよね」
「可愛さで選ぶんじゃなか!」
あろうことか隠し味目的の木の実に、しぶーいカゴの実をどっさり入れようとしたり。
「ふんぬぬぬぬぬ……!!」
「うちわで扇ぎすぎ! あぁもう焦げとる焦げとる!?」
焼ければいいと思っているのかキャンプファイヤーと見紛う程火力を出そうとして、カレーの色を茶色から黒へと変えようとしたり。
「混ぜすぎ、混ぜすぎだって! カレーは洗濯機じゃなか!?」
「ま、混ぜれば混ぜるほど美味しいってママが……! ぬぁあぁぁあぁっ……!」
「限度があると!」
それこそ中身を溢れさせんばかりにカレーを混ぜ合わせて周りに全ての中身を撒き散らさんとする……などなど。ユウリは枚挙に暇のない致命的な料理スキルをあたし達に披露し続けた。
それはユウリ達のポケモンがあんな顔をするんもよく分かるったい。
ユウリの料理があんまりにも酷いんで最終的にあたしは「隣で見てるだけでいいから」とアイツに最後通牒を手渡し、一人で料理をすることにしたのだった。
「……うん、いい感じだね。ユウリ、ほら最後の仕上げだよ。いつまでもしょげとらんで、まごころばこめんしゃい」
「うぅ、まごころぉ……」
「ほら! そこもちゃんと心ばこめんと、折角作ったのに美味しくなる事なか!」
「は、はいぃ……っ!」
うちが煮立てたカレーを混ぜてる間、ユウリはまごころば込めようとしとったけど、なってなか。あまりにも
「よし。それじゃあ盛り付けやね、みんなお皿持って用意しな」
「は、はい先生!」
「うらら!」「ぎゅるるい!」「みゃーう♪」「ぎゃーう!」「キザ!」
うん、良い返事なんは良いことだけど。なして先生なん?
そうこうして出来上がったカレーは若干苦味の効いたヴルストカレー。そのお味は……うーん、マホミル級。まあまあやね。
うちの子達は朝昼頑張って特訓してたけん、いつものように美味しそうに食べよったけど。。
ユウリの子達は……うわっ!? なんでみんな泣いてるん!?
「ぎゃぅぅ……」
「ぬわん……っ」「キザッ、キザ……!」
その子らは幸せそうにカレーを頬張り、仲間たちと涙を流し、笑い合っていた。
それはようやく、ようやくまっとうな食べ物にありつけたと言わんばかりの表情で、あたしのポケモン達はその子らを見て困惑の表情を見せていたのが印象的だった。
そして、件のユウリといえば……。
「お、おいひい……おいひいよマリィちゃん……っ! う、うめ……うめっ」
「あ……う、うん。それはよかったね」
何か人に見せられない酷い顔をしていた。
う、うん。とりあえずハンカチ貸してあげよっか?
「カレーって、カレーってこんなにまろやかだったんだ……! カレーってこんなに奥深い味するんだ……! 一口食べるだけで次が食べたくなって、う、うぅぅっ……お、お代わりいい!?」
「あんたの食材なんだから好きにすればよか……」
「ありがとう! ありがとうマリィちゃん~~~っ、あ~~~っ、幸せ~~~っ♪♪」
……きっと、この子はドガース級の出来前のカレーしか作れんかったんやろうね。
あたしと、あたし達のユウリ達へ向ける視線は自然と生暖かいものに変わっていったのだった。
§ § §
その後。先程までの天候は皆でカレーをたいらげた直後にカラリ、と代わり。
分厚い雲が月を覆い隠して、ぱらぱらと雨を降らせ初めてきた。
あたしはまたもユウリの強い勧めでキャンプで寝泊まりばさせてもらう事になり、
あまり広くないテントの中で生地に当たる雨粒の音を聞きながら、ランタンの灯りを頼りに二人で話しあいの続きをしていた。
「それにしてもスパイクタウンに入れんのは変な話しやね」
「うん……何か
「少なくともジムチャレンジ期間の間は工事なんて入ってる訳はないと思ってる。だってそうじゃないとジムチャレンジ出来ないじゃん」
「……だよねぇ」
あたし達は隣り合って座り、その手に温かなココアを持ちながら、お互いに顔を合わす事なくテントの入口を眺めている。
危惧していた以上に会話は途切れることはなく、あたしでもこんなに長話が出来るんだ。なんて少し感動するくらいだった……多分、それはユウリが話し上手であるのが大いにあるのだろうけれども。
「でも、なんとなくだけど理由に思い当たる所はあるなぁ……」
「え? 教えて教えて」
「駄目。これが本当やとしたら自分が情けのうて仕方なかけん」
「えー」
よもや
「……そう言えば、さ」
「うん?」
「ユウリ、あんた何か悩んでるんだっけ」
「……」
ランタンのともし火が、大きく揺らめいた。
「……まあ、話したくないって言うんならアレだけど。助けてくれたお礼だよ、もしよかったら話してみる?」
「あ、いや……ベ、別に悩みとかは~……」
「大方ホップっていう幼馴染ん事やろ」
途端にユウリは飛び跳ね、ココアを少し零した。分かりやすか。
「な、なな、なんで……なんでなんで……!」
「前会った時にその子の話ししたら、何か辛そうな顔してたもん。確証は持ってなかったけど、当たりって感じかな?」
「うっ、は、謀ったなー!」
引っかかりよる方が悪か。
しかして、恋話とかそういう話だとしたらあたしには太刀打ち出来なさそうかも。経験とかないし……なんて更に探りを入れてみたら、「え? あ、恋とかそういうのじゃない、ないない!」なんてカラッとした笑みを見せられた。あーうん、これは確かになさそうやね。
「でも、ホップん事で悩みがあるんだ」
「う、うん……というより、それは私自身の悩みでもあるんだけどね……」
雨は止む気配が見当たらず。
あたしの相棒は既に膝の上で眠たげにしていた。
「ホップってさ、ダンデさんの弟さんなのは知ってる?」
「あぁ、チャンピオンのね。この前ニュースでやってるの知っとったい」
あの子も順調に勝ち進んでいるのは知っている。
今も尚あたし達と同じくらいにジムバッジも集めてるんは分かるけど。
「うん……それで、その子。つい最近ポケモンバトルで別の子にボロ負けして。それで言われたんだってさ『あなたが弟だなんて、ダンデさんの顔に泥を塗っているようなものだ』って」
「……」
「それでホップは思い悩んじゃって、すっごく思い悩んじゃってさ」
「ジムチャレンジも辞めそうだって?」
「あ、ううん! そんな事はないんだよ! ホップは強い子だし、自分なりに答えを導き出せる子だもん。今も試行錯誤してるけどホップなら、多分もうすぐ良い答えだって手に入れる筈!」
「ふぅん……」
思うに、ユウリのホップに対する信頼はかなり高い。
恋にはなってないけど、親友として大切に思っているのが分かる。
でもそれなら何も問題なさそうだけど……?
「ただ、ただね。あたしはそんなホップに何も良いことをしてあげられてないんだ……」
「……」
「慰めの言葉はそりゃ簡単に言えるよ。でも、辛かったねとか、そんな事ないよ、とか気軽に言う事はできても……そんな慰め、心からホップのためにはならないし、多分ホップはそんな言葉望んですらいない」
「……」
「だからね、私はどうすればいいんだろう……って思って。思って思って……それで、何もしてあげられてない、それがどうにも……嫌、なんだよね」
「……ポケモンの実力が問題なら、一緒に特訓をするとか、対戦をしてみるってのは?」
「対戦……勿論したよ、ホップが望んだから」
「じゃあ」
「でも、あれじゃ駄目だと思った……だって、だって――」
「だって――私は、ホップより
――雨は更に強くなっているように思えた。
「ホップが望む度に、私は全力でぶつかったよ」
「初めてポケモンを手に入れた時」
「ねがいぼしを手に入れた直後」
「ジムバッジを初めて手に入れた時」
「3番道路で、バウタウンで、ラテラルタウンで、キルクスタウンで――どこでも全力でぶつかった」
「ホップとのバトルはね、どの人とやるよりも楽しかった。あの子は目標にいつでも真っ直ぐで、ポケモンたちとも同じくらい分かり合ってるから、生き生きしていて」
「だからそんな真っ直ぐなバトルに手加減なんて出来ないと思って全力で戦った結果――そのどの戦いにも全勝してしまった。
「最初はホップが手加減してくれてるかなって思ってたの。私はポケモンを何も知らない女の子だし、向こうはチャンピオンの弟さん……ポケモンに勝つ喜びを教えるためにわざと力を抜いて、とか何とか思ってた」
「でもね……違った。ホップはそもそも手加減なんて出来ない。ホップはいつでも全力を出してたけど敵わなかっただけ――ただ私が、強くなりすぎちゃっただけ」
「最初のうちは純粋に喜べていた勝利も、回数を重ねる度に沈みこみ、悩み、本気で悔しそうに唇を歪めるホップを見るたびにこれでいいのかって思えた」
「実力が拮抗してた頃は良かったよ。でも今では……きっと挑まれたら圧勝してしまう」
「なんの気なしに誘われて、さしたる動機のない私が、チャンピオンを心から目指すホップより強いだなんて……皮肉すぎるよね」
――気付けばテントの中はざあざあと降り続ける雨音で満たされていた。
「ねえ……ねえ、私はどうしたらいいと思う……?」
「負けた事のない私の言葉はホップのためになると思うかな……?」
「それとも嘘でもいいから、手加減してホップに勝ち星を与えるべきなのかな……?」
雨を見ていたユウリは、気付けば力なく首を傾げあたしを見つめており……あたしは、あたしは口をつぐむ事しか出来なかった。
この子はあまりにも……あまりにもポケモンの才能に恵まれすぎてしまった。
確たる目標を持ったチャンピオンの弟よりも、そしてきっとどのトレーナーよりも。
誰よりも負けを知る相手に、勝ち続けた人の言葉が響くとは到底思えず。
そして気遣った上で手に入れる勝ち星など、きっとあたしであったら耐えられないだろう。
「……」
「……っ、じゃ、じゃぁ……」
吸い込まれそうな程美しい、トルマリン色の瞳で覗き込まれ続けたあたしが出した答えは……あまりにも陳腐で、その場凌ぎな内容であった。
「ゆ、ユウリはさ……ホップのための壁になってあげなよ」
「壁……」
「うん。超えるべき一つの壁。ホップって子は相当強い子だ、きっとあんたに負け続けたとしても、それはそれって感じで立ち直れる子だとあたしは思ったよ」
「でも……」
「いいの、ホップのためを思うならユウリは気にせずにどっしりと構えていなさい。下手な慰めは確かに意味がないし、そっちからすり寄る必要はない。男の子だもん。頼られる時に頼られてあげな」
「……」
「やっぱり幼馴染なら信じてあげないとね。それに……それに――」
「……それに?」
"もしも負けたいなら、あたしがいくらでも負けさせてあげる"
脳内に浮かんだ言葉は、喉元から出ることはなかった。
あたしは……あたしは、この子のポケモン達に勝つことが出来るのか。
あの危険なキテルグマを相手に、冷静に対処して倒したユウリに、勝つことが出来るのか。
そんな事を思ってしまえばいつもの自信はなりを潜め、どうしても二の句を継ぐことは――出来なかった。
「……ううん、なんでもない。ごめんね、ロクに役にも立てず」
「あっ、ううん……こっちこそ変な話しちゃってごめんね、アドバイスありがとう。でも、うん、ちょっと抱え込んでたから他の人に話すことが出来て、すっとしたかも」
気付けばあの子はいつものような明るい声色で大げさに振る舞うと、眠くなっちゃった、だなんて言って寝袋にくるまり始めた。
「長話させちゃったね、そろそろ寝ちゃおう? 起きてると体冷やしちゃうよ」
「それもそうだ。……ねぇ、明日は一緒にスパイクタウンに行く?」
「いいの?」
「うん。地元だしね、折角だから街の事色々教えてあげるよ」
「ありがとう! なら余計に早く寝ないとね!」
「あんま楽しみにしても寂れた街やけん、すぐに紹介も終わってしまうけどなぁ」
わくわく、って擬音を口にするユウリの隣に、あたしも完全に寝てしまったモルペコと共に寝転び、ライトの灯りを消した。
テントは完全に暗がりに包まれ、あたしは相棒をかき抱いてまどろみの中に身を委ねていくのだった。
(……あたしは、あたしはユウリを倒すことが出来るんだろうか)
雨は朝まで
ユウリのパーティは自分の旅パです。
エースバーン、キリキザンにロズレイドは特に頼りになりました……。