『』の白百合、『』の金盞花   作:月兎耳のべる

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ハッピークリスマス!
エール団は悪い奴らだなぁ!

※たいたいの技が一部のポケモンに半減だったため
 技を変えてあります。


『窮地』の白百合、『失意』の金盞花

『よーし、だったらユウリも今から俺のライバルだ! 絶対に負けないぞ!』

 

『ポケモンを連れていればだれもがポケモントレーナー!』

 

『いいか、ポケモントレーナーはポケモンを戦わせ育てるんだ!』

 

 私ことユウリのポケモントレーナーとしての第一歩は、そんな幼馴染(ホップ)の一言から始まった。

 

 それまでは如何にポケモン達が身近に居るとは言え、ポケモンに自ら近づこうとはしなかった。

 憧れはあった。でも何故か分からないけど自分がポケモンを持つというイメージが沸かなくて、TVで見るジムトレーナーさんの戦いは格好いいとは思うけど、ポケモン達を戦わせる文化そのものには若干抵抗を持っていた。

 

 しかしあの日、幼馴染のホップに誘われ、ダンデさんから貰った始めての自分の相棒、ひばひば(エースバーン)と出会った時から私の世界は大きく変わった。

 

『やったぁ! ひばひば勝ったよっ!』

『ふぁいにーっ♪』

 

『すごいなオマエ! アニキがポケモンをゆずったのも分かるぞ!』

 

 ――初めての対戦。ホップと戦って何とか勝ちを収め、相棒と分かちあった喜び。

 

『わ、わ、この子すっごい人懐っこい……一緒に行きたい?』

 

『イヌヌワン!』

 

『ふふ。そうなんだ……じゃあこのボールにおいで!』

 

 ――野生のポケモンと出会い、自分の手で捕まえる嬉しさ。

 

『わわわぁー!? キテルグマだぁ! ぱちぱち、ひばひば逃げるよー!』

 

『ふぁにぃっ!?』『ワンパっ、ワンパパっ!』

 

『ぐももももぉぉーっ』

 

 ――ワイルドエリアでポケモンの生活を間近で見て、触れて感じる新鮮さ。

 

『今日のカレーはちょっと自信あるかも……よーしそれじゃ頂きまー……う゛っ』

 

『……ふぁに』『……ぬわ』

『ぎゅもぉ……』『……』

 

『あ、あはは……今日はでも昨日よりは苦くないね……その代わり滅茶苦茶酸っぱいけど……』

 

 ――相棒達と旅をし、心を交しあい、切磋琢磨して共に強くなっていく楽しみ。

 

『ロゼロゼ! じんつうりき!』

『シェミっ』

 

『ガグロロロ…っ!?』

『うわっ!? セキタンザン、かえんほうしゃ……くっ、ひるんで』

 

『続けてギガドレイン!』

 

『せ、セキタンザン……く、ボクの負けです……』

 

『ふぅ……ありがとうございましたっ、楽しかったですっ!』

 

 ――そして、強くなったポケモン達と他のトレーナーと戦う(ほま)れ。

 

 それは、今までの人生を全て塗り潰してしまう程の衝撃。

 私は瞬く間にポケモンという世界にのめり込んでいった。

 ホップにせがまれて、流れで承諾したジムチャレンジの事なんてほとんど忘れて、ただポケモンと触れ合い、旅をしていく事に夢中になった。

 

 自分だけの相棒と苦楽を共にし、時に共に喜びあい、悲しみ、苦しみ、そしてそれらを分かち合うのは大変ではあったけれどもちっとも嫌ではなく。注いだ愛情の数だけポケモン達もまた愛情を返してくれるのがとにかく楽しくて、私は嬉々として旅を続けていった。

 有頂天にあった私は、こんな楽しいポケモン達との生活絶対にやめたくない。ポケモン達との旅をこれから一生楽しんで続けていくんだ、なんて気楽な考えを持っていた。

 

 だけど。そんな楽しい日々が延々と続く訳がなかった

 

『オレが弱いとアニキまで弱いと思われる……そんなのイヤだぞ! アニキは無敵のチャンピオンなんだ!』

 

『ホップ……』

 

 他ならぬポケモンの世界へ導いてくれた親友、ホップが吠えた。

 いつでも底抜けに明るく振る舞っていたのに、急に弱音を吐き始めたのだ。

 その変わり様に私は少なくない動揺してしまう。本気でホップに同情したし、そのけなした人に強い怒りを抱いた。

 ホップの悲しむ姿が見たくなくて、何か励ましになるような事をしたいと思ったけれども、私の行動よりも先にホップは私とのポケモンバトルを望んできた。

 

『ライバルのオマエと戦えばなにか分かる筈……よーし勝負なんだ! 気合チャージするぞ!』

 

『――うん、その意気だよホップ! ホップなら絶対に乗り越えられるよっ!』

 

『応っ!』

 

 だから、ホップのためにも私は全力をもってホップと対峙した。

 下手な手加減はきっとホップは望んでいない。だからこそ。今の全力で。

 

『チームのメンバーも入れ替えてオレの可能性を探ったけど、なんだかしっくりこないぞ……だからオレは弱いのか……』

 

『そんな事ないよっ、少し驚いたよ。見たことないポケモンばかりで……』

 

『それでも。負けは負けだ……』

 

『……』

 

 当然と言うのは失礼かもしれないが、捕まえたばかりのポケモン達と絆を深めあったポケモン達とでは地力の差は歴然。その勝負には難なく勝ててしまった。

 ホップは更に落ち込む様子を見せて焦ったが、すぐに立ち直ったかのように元気に走り去っていたので、最初は問題ないと思っていた。

 

 ――この頃から、私はポケモンバトルに対して小さな違和感を覚えだしていた。

 

『トレーナーのオレが迷っていたら、ポケモン達も力を出せないな……だけど、オレも強くなっているぞ! オマエよりもスピードは遅いけどな!』 

 

『……うんっ、ホップも強くなっているよ。早く追いついてきてね?』

 

『っ、あぁ!』

 

 再度私はホップに挑まれ、それを快諾し――そして、またホップを倒した。

 今回も何一つ苦戦することはなく、自慢のポケモン達の強さを見せつけた。

 ホップは晴れ晴れした笑顔をみせていたが、その拳が強く握りしめられていた事を、私は見逃さなかった。

 

『……ライバルのオマエに勝てない、か……だけど光は見えてきた』

 

『それなら良かった……かな』

 

 挑まれた。挑まれ続けた。そしてそのたびに全力で迎え撃った。

 ホップの為になるならと全力を尽くし……そして、その全てで打ち負かした。

 

 具体的な目標を持って、苦悩し、毎日駆けずり回って特訓しているホップ。

 明確な目標もなく、ただポケモンと触れ合いたいが為に旅をする私。

 なのに、なのに不思議な事にホップと私の差は出会った頃から広がる一方だった。

 

 彼を打ちのめすたびに、彼の悔しそうな表情を見るたびに違和感は強くなり、その違和感はやがてホップだけではなく、他のトレーナーを打ち負かしても感じるようになった。

 

『負けてもぜったいに、ぜーったいに悔しくなんかありませんから……っ!』

 

『……』

 

 考えれば当然の事だ。勝者がいるなら、敗者もいる。

 勝って喜ぶ人がいれば、負けて悔しがる人が出てくる。

 

 私は幸いにも勝負でほとんど全て勝利を収めてきたから気付き難かっただけで、私の勝利で悔しがる人が出てくる、()()()()()()()()()()()。そんな考えに思い至ってしまった瞬間――私の中でポケモンバトルは楽しいものではなくなっていた。

 

『こ、こんなの嘘だぁっ、やり直しを要求します!』

 

『なんで勝てないのよ! こんなに実力の差があるっていうの!?』

 

『そ、そんな……そんなぁ……』

 

 積み重なる白星の数々。

 そしてその数だけ私の心はささくれだった。

 みんなの悔しさが、そして勝利に比例して載せられる期待が、私の全身を重くした。

 

 一時期は手加減したり、力を抜いたりして負けを譲るべきかなんて考えもしたけど――そんな事出来る訳がないのだと気付いた。

 だって私はホップにライバルであってほしいと望まれたんだ。手を抜いて負けるなど、彼の名誉を汚す。ひいては推薦してくれたダンデさんや、期待してくれたソニアさんにも、そして応援してくれているみんなにも申し訳がつかない。

 だから私に出来るのは『全力を尽くす事』。ただそれだけなのだ。そう考えて私は手を抜かずに挑んだ。

 

 そんな私の心を汲み取ってかポケモン達は私の指示に期待以上に応えてくれて。お陰で道中のジムトレーナーとのバトルも、そしてジムリーダーとの相手でも苦戦することなんて無かった。

 

『今ジムトレーナーの中で全戦全勝中の子がいるんだって?』

『ニュースでやってた子だ! あの子が全勝の……!』

『ユウリ選手、流石ですね』『ユウリ、やるじゃん』

『ユウリ選手がんばれー!』『負けるな!』『凄いぞ、ユウリ!』

『その調子で頑張ってね』『頑張れ!』『勝ち続けろ』

『応援していますからね!』『絶対に負けるな』『ユウリ』『ユウリ!』

 

 常に勝ち続けた私はもはや負ける事は出来ず。

 ただ敗者の姿を見て心を傷ます日々を過ごすばかり。

 願わくば、誰か私をこてんぱんに叩きのめして欲しい。負けた時の気持ちを、心から味あわせて欲しい。そう願って、願って、願い続けているけれども――バッジが6つ揃った今でも、まだその時を迎えていない。

 

 ――そして今。

 

 私は先程までマリィちゃんと勝負し……またも勝ち星を得てしまった。

 

「はぁ……」

 

 マリィちゃん。

 初めてのジムチャレンジにのぼせ上がる私に声をかけてくれた、優しくて可愛い子。

 パンクな格好で、かつ目つきが鋭いから怖そうに見えるけど、性格は至って真面目で面倒見がよく。そして、ホップと同じく私をライバルと認めてくれた頑張り屋さんだ。

 彼女はホップと同じくらいポケモン達に真摯(しんし)に向き合っており、私にとっての数少ない大切なお友達でもある。(向こうはそう思ってるかは分からないけど……)

 

 私の心は当然ながら曇天(どんてん)模様だ。

 

 あの子との実力の差はワイルドエリアの時から分かっていた。

 だから申し込まれた対戦もきっとよくない結果になるのだと思い、やりたくはなかった。

 ……それでも他ならぬマリィちゃんが願ったからこそ、私は全力で迎え撃った。

 

たいたい(タイレーツ)、インファイト』

 

『レパルダス……っ! くっ、ドクロッグ。お願い!』

 

『インファイト』

 

『ズルズキン!』

 

『かわらわり』

 

 私のたいたいは指示に全力を持って応え。

 マリィちゃんのポケモン達はたいたいの一撃で次々倒れ伏していく。

 それはもはや駆け引きなんてどこにも見当たらない、ただの一方的な蹂躙(じゅうりん)劇。

 

 マリィちゃんの雰囲気が手持ちが失われる度に変わっていくのが分かる。

 当たり前だ、手塩にかけたポケモン達が抵抗もままならずにやられるなんて……そんなの見ていて面白くないし、やり切れなさを感じない訳がないんだ。

 

 そして。そしてとうとう――、

 

『モルペコ……――お疲れ様。よく頑張ったね』

 

 なすすべもなく倒れたモルペコを抱えたマリィちゃんの一言で勝負が終わった。

 寂しそうで、それでいて耐え難い何かを(こら)える様は、今まで何度となく見てきたホップの姿が重なっているように見えた。

 

 私の心は縄で締め付けられたかのように痛みを発し続けていた。

 勝負の後も気丈にもなんでもないと振舞うマリィちゃんだったけど、街の道を教えてもらっている途中も動揺しているのがありありと分かっていた。だけど何も、何も声をかける事は出来なかった。勝者が敗者にかける言葉なんて、あるのだろうか。そもそも私なんかがかける言葉なんて、逆効果にしかならないのだから。

 

「……」

 

 マリィちゃんと別れ、取り残された私は改めて街を見渡す。

 薄暗く、綺麗とは言いがたいけれども、ぎらぎらとした活気が感じられる街。

 いたるところに特徴的な格好をしたエール団の人がいて、よそ者である私にじろじろと視線を寄越しているのが分かる。うぅん、なんだか不穏(ふおん)な雰囲気だ。

 

「マリィちゃんは変な所に行くなって行ってたけど……」

 

「ぎゅるぅ?」

 

 不安なので出てきてもらったひばひば(エースバーン)は、暇つぶしがてら炎に包まれた小石でリフティングをしていたけど、危ないのですぐに止めて貰う。(ひばひばは暇があるとすぐにコレをしだす)

 唯一怪しくない場所であろうポケモンセンターの前で、何をするでもなくボーっとスマホロトムを眺め続けていると――不意に、私の前に誰かの気配を感じた。

 

「……! マリィちゃ――」

 

「……」「……」「……」

「……」「……」「……」

 

「――ん……?」

 

 そこにマリィちゃんの姿はなく、その代わりに私を取り囲むようにして何人ものエール団の人達が待ち受けていた。

 その人達は男の人、女の人が入り混じってみんながみんな私に視線をくれている。

 そして彼らの視線にははっきりとした敵意、怒りが込められており、ひばひばは敵意を敏感に感じ取って、私の前に立って威嚇をしていた。

 

 どうしてそんな目で私を見てくるんだろう。

 私は覚えのない敵意に困惑し、そして恐れてしまう。

 

「……あんた、ジムチャレンジャーですか?」

 

「あ、はい……」

 

「ならあたし達について来てください。ジムチャレンジがありますので」

 

 やがてエール団のうちの1人、おじさんが私へとそう告げると、途端にみんな背を向けて街の奥へと進んで行く。

 私はどうしたものか少し悩んだけれども、そもそも当初の目的はジムバッジの獲得だ。意を決するとひばひばと共にその後を追う。

 明らかに歓迎されていない張り詰めた空気の中、足音だけが響き渡る。

 

「……あのっ。あのマリィちゃんはどこに……?」

 

「おじょうも奥にいます。いいからついて来てください」

 

 沈黙に耐えきれず声をかけても帰ってくるのは有無を言わせぬ強い口調。

 私は口を塞ぐしかなく、彼らの背中をただただ追うばかり。

 ガラクタが転がる道を歩き、バリケードされた道に入り、がらんとした廃墟のようなお店を通り過ぎてゆき――そして、

 

「!? ふぁにっ!」

 

「えっ!?」

 

「……ちっ! 勘がいい、流石ってことですか」

 

 急にひばひばがその場から跳躍(ちょうやく)して何かを避けた。

 同時に背後から聞こえる声……振り向くとそこにいたのは、別のエール団の人に、口から舌をでろんと垂れ下げ唸り声をあげる臨戦態勢のマッスグマ。

 

 そしてそれを切欠に狭い通路から更に数人のエール団の人が現れ、私は前後を彼らに囲まれてしまう。

 

「こ、これって……一体、どういう事ですか……!」

 

「どういう事も何も、ジムチャレンジですよ」

「そうです、ここスパイクタウンのね、他のジムではステージギミックなんて物があるようですけど、あいにくあたしらの街は貧乏。なのでこんなやり口で我慢していただきたーい」

 

 エール団の人たち全員がその手にボールを構えだす。

 まさか、この数全員で同時に相手しろって言うこと……!? そんな無茶な!

 

「おっと安心してください、最大でも二匹までしか出しませんよ」

 

「ルールは守りますよ。()()()()()ね」

 

 (にら)み付けてくるマッスグマとは別に、私の後ろでズルッグが飛び出してきたのが分かった。

 私は逃げ出すことも出来ない状況で覚悟を決めて、たいたいのボールに手をかける。

 ダブルバトル、それも囲まれる形でなんて聞いた事ないし、経験もないって言うのに……!

 

「とは言え……まあ少し、ルールから外れちゃうこともあるかもしれません」

 

「あたしらのポケモン全部血気盛ん。ひょっとしたらラフプレーしちゃうかも」

 

「あくタイプの使い手ですからね、ふいうち上等、かげうち常套(じょうとう)、わるだくみなんて日常茶飯事」

 

「大丈夫です、ひどいようにはしません。ただチャンピオンは諦めて貰うかもしれませんが」

 

 エール団の人はみんながみんな笑っている。

 だけど笑っているのは顔だけで、その目は全く笑っていないのが分かる。

 

 

「あなたお強いんでしょう? なら()()()()あたしらの精一杯の挑戦、余裕で飲み込んでくださいな」

 

 

 スパイクタウンで、前代未聞のジムチャレンジが始まろうとしていた。




マリィ「あたしの出番がなかと!」

ネズ「次の話で出番があるそうですよ」
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