注釈地獄になったのはポケモンに説明することがいっぱいあるせいです。(震え)
前にマッスグマ。後ろにズルッグ。
場に居る味方は
私は急遽始まったジムチャレンジに動揺を隠せずにいられない中、ダブルバトルに備えてもう一匹、自分のポケモンを出そうとする。
出すのは先程マリィちゃんを打ち破った
エール団の人達も基本はあくタイプが中心。問題なく相手を打ち破れる筈。
たいたいの入った腰のボールを握りしめ、それを投げこもうとし、
「お願い、たいた――?!」
「マッスグマ、『つじぎり』!」
『ぎゃうっ!?』
まだボールを投げてもいないのに、攻撃……!?
幸い、ひばひばにはあまり効いてないようだけど動揺してまともに食らってしまったようで、思わず後ずさっている。そこに、
「後ろを忘れちゃぁいけないよ、『かわらわり』!」
「ひばひばっ?!」
ちょうど背後に回っていたズルッグが、右腕を勢いよく振り下ろしている!
右肩にあたった一撃の痛みにひばひばは顔をしかめ、すぐに前転して距離を取って怒りを
「まだ出揃ってないのに!」
「戦いのゴングはもう鳴らしてた筈ですけどね」
「それに、お強い貴方がてっきり一匹で挑んでくると私らは思ってましたかーら」
周りから聞こえるへらへらとした軽い笑み。
私にはそれが明らかな
これが普通のダブルバトルという認識を忘れておかないと、痛い目を見る事になる。
私はこのやり取りからそう予感していた。
ただ今ので分かったけど、この人達のポケモンは1対1ならば特に問題にはならない。
問題なのは多勢に無勢のこの状況だ。
ダブルバトルと言えど前後を挟まれているこの状況は、戦況の判断が遅れ、的確な指示を出すことが出来ない――そう判断した私はポケモン達に目配せをし、大声で命令を出していた。
「そっちがその気なら……っ、たいたい、『であいがしら』*1!」
ひばひば、かえんボール!*2 出力強めで!」
『グガァっ!?』
「ズルッグ!?」
私の命令を発し終えた瞬間に列をなして飛びかかるたいたい。
先頭の隊長格の丸いボディがズルッグのお腹に突き刺さったと同時に、その隊長格の背中に1コンマのずれもなく他のタイレーツが殺到。ロケットのようにその威力を押し上げる。
ズルッグは威力に耐えきれずに一撃で失神した上、トレーナーの元まで吹っ飛び、トレーナーもまた抑えきれずに倒れ込む。
そして格の違いを見せつけたたいたいの後ろでは、足元の小石を蹴り上げたひばひばが、その石に熱を注ぎ終えていた。
赤熱化し大きな炎をまとったその石がひばひばの膝上で跳ねて一際高めに舞ったと思えば、次の瞬間。そのつま先から離れ、火の粉を撒き散らしながらマッスグマへと向かっていた。
「ひぃっ!?」
「うわぁっ!?」
それはまるで小さな隕石だ。赤い軌跡を残し、マッスグマが反応しきれない速度で直進していく!
当然避けることも出来なかった哀れなマッスグマの横っぱらに着弾。それと同時に周りに小さくない炎が撒き散らされ、トレーナー達の円も思わず崩れてしまう。
私は出来た隙を逃さず、崩れた穴めがけて走り出す。
ひばひばやたいたいも私の考えを読んで、後に次いで追いかけてきてくれた。
炎舞うその先、包囲網さえ抜け出せてしまえば――!
背中のバッグが激しく揺れるのを感じながら、全力で包囲を突き抜けようとした私。しかして私はすぐにその足を止めざるを得なかった。
進行方向に投げ込まれたダークボール*3から、一匹のポケモンが飛び出してきたのだ。
それは通せんぼするように両腕を広げた厳しい顔を持つ凶悪なポケモン。タチフサグマだった。
「
「ひばひば、『にどげり』*4! たいたい、『インファイト』*5!」
「無駄ですよ! タチフサグマ、『ブロッキング』*6!」
進行方向を塞ぐタチフサグマに飛びかかった二匹の私のポケモン達の攻撃。特に格闘に弱いタチフサグマには一撃でのしてしまうそれを、ことも無げに躱し、受け止める光景に思わず歯噛みしてしまう。
「トレーナーにも攻撃するなんて卑怯だと思わないんですかね?」
「それともこれがお強いトレーナー様の正体って訳ですか」
そして足を止めてしまえば、追いついてきたエール団の人達にまた囲まれてしまう。
音もなく飛び出して来たフォクスライが、後ろから私達を睨みつけ、前ではタチフサグマが仁王立ちをしている。これでは最初の構図と全く変わらない!
「っ、あなた達がそういう事をするから、仕方なく……っ!」
「
「ポケモンバトルには事故は付き物です。意図せぬ結果を招くこともあるでしょう」
『っ!?』
「たいたい!? このっ、たいたい『かわらわり』!」
私の背中側で音もなく忍び寄っていたフォクスライの『ふいうち』*7が、たいたいに当たってしまう。その威力こそ大したことないが、こんな状況では私の動揺に拍車をかけるのにこれ以上なく効果的だった。
返す刀で倒そうとしたたいたいの攻撃は、当然そのフォクスライを一撃の元に沈める。しかし、背後で行われる悪事に私は見事引っかかってしまう。
「おっと、こっちも忘れちゃダメですよお嬢ちゃん! タチフサグマ、『じわれ』*8」
「えっ!? ひ、ひばひば『まもる』*9!」
『!? ふぁ、ふぁにっ!』
『じわれ』!? 成功確率の低い技とは言え、当たればどんな相手でさえ一撃で倒してしまう危険な技! 一か八かとは言えこんな狭い路地でそんな危ない技を使ったら、この場に居る人みんなが危ないっていうのに!
混乱の極みにある私が命令を先出しして急いで振り返ってみれば、そこには怯えるひばひばの姿と、殺気溢れる顔で睨みつけるタチフサグマと悪どい顔で笑うエール団の人がいた。
「おっと、すみません。『こわいかお』*10の間違いでした」
「な、なんでっ! 今じわれって!」
「ですからただ言い間違えただけです、タチフサグマはそもそも『じわれ』は覚えませんしね」
「くっ、う! うぅ……っ!」
けらけらと笑う女性の人の発言で、私はようやく悟る。
私が見えて無いことをいい事に言葉だけで私を騙し、間違った命令を出させようとしたのだ! そんな稚拙な技に面白いように引っかかってしまったという事実に、かぁっと頭に血が上る。
「レパルダス、『あくび』*11です」
「させないっ、たいたい、もう一回『かわら……きゃっ!?」
「っとぉ! 悪いですね、景気づけのブブゼラ*12は煩かったですか!?」
命令しようとした直後、すぐ近くで大音量で響き渡る不協和音に思わず体が
エール団の一人がブブゼラを思い切り吹いてきたのだ!
その妨害のせいでたいたいに命令は届かず、結局レパルダスのあくびを許してしまう。
「っぅ、ひばひば! 『にどげり』! もう一度!」
『ふぁうっ!』
『グガアァァッ!?』
「タチフサグマ! よくやった!」
「なら次は私のでばーん。ドラピオン! 景気よくやってきなさーい!」
これまでの相手の手持ちは全て一撃。
私の自慢のポケモン達なら容易く倒す事はできる。
だけど、だけどこれじゃキリがない。
一匹倒したと思ったらタイミングを置かずに他の人がすぐにポケモンを繰り出してくるのだ。
数十人以上居るトレーナーがどれだけ手持ちがいるのかもわからず、
「っ、たいたい……! お願い起きて! 『インファイト』!」
「おっと、ならレパルダス『ふいうち』!」
『あくび』の効果で強制的に眠りについた、たいたい。その懐に飛び込んだレパルダスの攻撃は激しい音を立てて突き刺さり、その小さな体が吹き飛ばされる。
相性の悪い技のため、これまた大きなダメージにこそなってはいないのが幸いだ。
そして強い願いが叶ったのか、今の一撃でたいたいの眠りが覚め。瞬時に体勢を取り戻したたいたいは、ボールが跳ね回るかのようにレパルダスに一気に群がり、6体同時に襲いかかってレパルダスを倒す。
しかし、そんな勝利をあざ笑うかのように新たに飛び出してくる別のポケモン――私は苦々しく口を歪めてしまう。相手をするにしてもこのままじゃ……やっぱりこの場からまず逃げないと。
「逃げようたってもうさせませんよ。ドラピオン『どくびし』*13!」
「そのタイレーツも大分疲れているようですねっ! 大丈夫ですかぁ!? マニューラ、『ねこだまし』*14!」
しかし思考を呼んだかのような矢継早の攻撃に防戦一方。
まだ手持ちは一匹足りとも落ちてはいないが、このままではジリ貧だ……!
「ひばひば、かえんボール! たいたいは頑張ってくれてありがとう……行って、
っ、ひばひばの一撃はドラピオンにかなりの痛手を与えたが……倒せていない!
たいたいと交換したぱちぱちは辺りに散らされたどくびしを踏んで毒状態になってしまう。ごめん、ぱちぱち!
「ドラピオン、エースバーンに『どくどくのキバ』*15!」
「マニューラ、パルスワンに『きりさく』!」
「遅い! この二人は私のポケモン達の中で一、ニを争う足の早さなんだから! ひばひば、今度は『ねっぷう』*16! ぱちぱちはマニューラに『ワイルドボルト』*17!」
『ふぁにににっ!!』
『ヌワワワォォンッ!!』
「く!」
「うぁ、あっつい!」
ひばひばを中心に広がっていく灼熱が路地の景色を
灼熱の風がドラピオンとマニューラに撒き散らされ、そして破裂する音を伴った電気を纏ったぱちぱちがマニューラに突進。強烈すぎる一撃がマニューラを吹き飛ばす!
これで少なくとも二匹のポケモンを同時に倒すことができた筈!
周りの人も熱さに怯んでいる、逃げ出すなら今しか……!?
『ふぁぅぅっ!?』
『グギュオロロ!』
――ドラピオンがまだ倒れてない!?
どくどくのキバがひばひばの腕に突き立てられているのが目に入り、私の思考が止まってしまう瀕死直前のポケモンがひばひばの攻撃を耐えることが出来る筈なんてないのに……!
常識を疑う光景に
「持ち主じゃない人が『かいふくのくすり』*18を使ったんですか……!? ダブルバトルなのに第三者が回復するなんて、ルール違反じゃないですか!」
「はぁ? 何言ってるんですか、そんな事するわけないじゃないですか」
「だって、だってそうじゃないですか! さっきのひばひばの攻撃でドラピオンは倒れかけだったのに、耐えられる訳がないんです! そこに空の薬も転がってます! そんなの……っ!」
「あぁ、偶然ゴミが転がってただけですよ」
「路地は掃除が行き届いてないので、そういうのも落ちてるでしょうよ」
「倒せなかったのは自分のポケモンの実力不足です、喚かないでください」
私の、私のポケモンの実力不足……?
決して非を認めないばかりか、飛び出した言葉に、私はとうとう明確に怒りを覚えてしまう。
旅をはじめてまだ1年も経っていない。だけど、この子達の事はその旅の間でどれだけ苦楽を共にし、どれだけ心を交わし合ったか計り知れない。
この子たちの強さは私が一番知っている。
あんなに私と共に頑張ってきたこの子達が実力不足なんて事は、ありえない!
「……訂正して、ください」
「うん?」
「訂正してくださいっ! 私のポケモンは、私が一番知っています! 決してこの子達が実力不足なんて言わせません! 大体寄ってたかって卑怯な手を使って……そんなにまでして私に勝ちたいんですか? みっともないと思わないんですか!?」
「何を言い出すかと思えば……」
「これはジムチャレンジで、ただのダブルバトルですよ」
「勝つ勝たないじゃなくて、審査です。貴方がネズさんに挑戦するに値するかを認めるものでーす」
やれやれと言わんばかりに口々に飛び出す、エール団の言い訳。
バトル中、初めて覚えた耐えきれぬ怒りに、ボールを握る手に力が入ってしまう。
「ありえない数で連戦したり、音で妨害したり! あまつさえこんな囲んで戦うなんて、おかしくないんですか!?」
「だからそれがジムチャレンジですよ」
「中には偶然もありますけどね」
「特にあなたは自分が強いと思ってるんでしょう? この程度ハンデだと思ってほしいですね」
変わらないエール団の態度に、業を煮やすしかない私。
当然ながらその間も彼らは待ってくれず、バトルは続いていく。
ひばひばはドラピオンを振り払って『にどげり』でようやく倒すが、先程の攻撃で毒状態に陥ってしまい明らかに辛そうだ。ぱちぱちも相手を倒すことは出来たが同じく毒状態で顔色が悪く。新たに現れたポケモン達を前にしていつもの明るい様子は見られない。二人共苦しそうだ。
「はん、自業自得ですよ」
「何なら降参でもしまーすか? それなら受付てあげますよ」
「ただし、チャレンジは当然失敗扱い、チャンピオンの道も諦めて貰いますが」
「なんですか……本当、なんなんですか! なんでそんなに私を……っ、私が何をしたっていうんですか!」
震える体、鼻頭がツンとする感触。歪む視界。
抑えきれない感情にしゃくりあげそうになりながらも、私はこらえて出し慣れていない怒りを相手にぶつける。
「何をした、だと――?」
しかして、そんな私の怒りに帰ってきたのはそれ以上の怒りだった。
「そんなの、アンタがお嬢を泣かせたからに決まってるだろうが!」
「――……え?」
「お嬢があんな姿を見せるまで叩きのめすなんて事ないだろうが!」
「お前がどれだけ強いかなんて知らないし興味もないが、反則をやったんだろう!」
「何が期待のチャレンジャーだ! お嬢相手に反則まがいの行為で勝利を収めて、泣かせるなんて最低だ!」
「だからやり返してやってんだ! お前が何をしでかしたかは知らねえが、スパイクタウン流になぁ!」
怒声が、罵声が明確なナイフとなって私の心に突き刺さる。
私が、マリィちゃんを泣かせた?
私が反則をした? どうして? そんな事一度もしてないよ。
なんで、マリィちゃんが、私のせいで?
「だって、なんで……さっきまで」
「この街でネズさんに次いで才能あって頑張り屋のお嬢が取り乱す程追い詰めるなんて、反則以外ありえない!」
「インチキ野郎が! 本音を言えば、今すぐ追い出してやりたいが、チャレンジャーだから受けてたってやったんだ! ありがたく思え!」
「ダンデさんに推薦されて強いと思い込んで、威張り散らしやがったんだろう! だからお嬢の代わりに俺らがとっちめてやるんだ!」
「そのポケモン達も自信ごとぽきっと折ってやるよ! インチキトレーナーめ、二度とお嬢に近づくな!」
「そんなの、なんで、私が、私のせいで? 私が悪いの?」
熱風のせいで揺らめく世界の中、エール団の人の口々の口撃が、私の世界を歪ませる。
陽炎のように周りが揺らぐ。重力が私にだけ何倍にもなってのしかかる。足元に満たされた沢山の影が私から力を吸い取っていく。
やっぱり……やっぱり、私が強いからダメだったの?
やっぱり私は手加減をしなくちゃダメだったの?
でも、でもマリィちゃんは全力を望んでいたよ?
みんなだって私の全力を望んでいたよ?
勝ち続けないとダメなんだよね?
ライバルでいないとダメなんだよね?
お母さん。ホップ。ダンデさん、ソニアさん。マリィちゃん。
みんなが望んでいるから頑張ってるんだよ?
でも勝ったら傷つけちゃうんだよ?
誰かを負かしてしまったら、傷がついちゃつんだよ?
私が負けないと駄目なんだってこの人達は言ってる。
私は色んな人を傷つけてきたって怒ってる。だから傷つけてくる。
私はマリィちゃんを傷つけた。
泣かせてしまった。
友達になってくれた人を。大事な人を私が。私が泣かせた。
全部全部。私のせいだ。
「あ。あ。」
金切り音が突如私の脳に響き渡り。世界がその音一色に染まる。
その音と共に抑えてないと壊れそうなくらいの頭痛が起こり、私はへたり込んで両手で頭を抱えてしまう。
音がうるさい。やまない。心臓が壊れそう。苦しい。体がバラバラになってしまう。私の体だけ意識の外に追いやられてしまいそうな異次元の感覚。聞こえない。聞きたくない。終わらせたい。体が震える。
「あ。ああぁ。ああ。あ。ああ。」
勝たないとダメ。負けないとダメ。
それならどうすればいいの?
どうしたらみんな傷つかないの?
どうしたらみんな喜んでくれるの?
「あ。あ。ああぅ。あ。ああ。あ、あぁ――――!」
悲しませたくないの。
喜んでもらいたいの。
一緒に楽しみたいの。
怒られたくないの。
苦しみたくないの。
傷つけたくないの。
こんなに辛い思いをするのは、もう嫌なの。
『大丈夫』
頭の中に、声が聞こえる。
『
あまりにも馴染みのある声が私に優しく囁き。
私はその声にどうしようもなく安心して……ようやく力を抜いて、目を閉じたのだった。
深い深い闇の底に沈む直前――誰かの悲鳴が聞こえた気がした。
実際悪いトレーナーはこういう事ぐらいしてきそう。
なんて勝手に考えたあくどいエール団像です。お納めください。
マリィ「……アニキ、あたしの出番がないんはどげんしたとね?」
ネズ「……」
エール団「ま、マリィのために前座してまっす!」
エール団「え、エールをたかめーる!」