ボーダー日記.序
母からボーダー入隊記念に日記帳を渡された。
抜けてるところがあるんだから日々教えられたことをしっかり書いて覚えておきなさい、とのこと。
ボーダーは規則を重んじる組織と名高く、学ぶこともたくさんあるので日々の復習を日記としてつけていくのはいいかもしれない。
種類豊富なトリガーの詳細、そして近界民との戦い方や緊急時の対処の仕方、訓練生と正隊員の違いなど……、自分はまだ正式入隊日を迎えたばかりの雛鳥なので覚えることは山ほどある。
それらを忘れて先輩方や職員の人たちにもう一度説明させるという手間をかけさせないために、そしていつか立派なボーダー隊員になるためにも、自力で出来ることはしっかり果たせるようにしよう。
ボーダー日記.01
今日は待ちに待った正式入隊日だった。
迎えてくれたのはボーダー本部長の忍田さんという男性で、正隊員になって一緒に戦える日を楽しみにしてる、と激励の言葉を貰った。
その後はよくテレビで見る嵐山隊の皆さんにどうすれば正隊員になれるのかという説明と、実際の訓練の体験をさせて貰った。
訓練の内容は三門市の住人なら誰もが一度は眼にしたことがあるであろう大型近界民との仮想戦闘で、嵐山さん曰く訓練用に小型化していてトリオン切れもないから思い切り戦ってみてほしい、とのことだった。
制限時間は五分で早く倒せればそれだけ貰えるポイントは高くなる、そんな指摘を嵐山さんから貰って臨んだ戦闘訓練の結果は──…3分34秒。
まぁ制限時間内に仮想敵を倒せたのだから、初めてにしては上出来じゃないかと思ったが……その後一分を切る訓練生たちが続出し、中には9秒とかで仮想敵を倒す凄い子とかもいた。
これは小耳に挟んだ話なのだが……、どうやら一分を切ってまぁまぁレベルらしい。
もしこの話が本当なのだとしたら、一分を切るどころか制限時間の半分以上を使って仮想敵を倒した自分は、もしかしたらボーダー隊員としての素質があまりないのかもしれない。
…………、一先ず仮想敵をしっかり倒せただけ良しとする。
ボーダー日記.02
レイガストは玄人向けのトリガーらしい。
刃モードと盾モードの使い分けを筆頭に、訓練生が使用するには扱いが難しいトリガーだという話を聞いて衝撃を受けた。
訓練生はトリガーを一つしかセット出来ないので、だったら攻守が両立できるレイガストがいいかなという浅い考えで希望を出したのだが……まさか玄人向けだったとは思いもしなかった。
確かに考えてみれば、レイガストは盾モードという堅牢な護りは強みの一つではあるが、他のトリガーと比べればかなり重いし、瞬時の状況判断が求められるランク戦では初心者が刃モードと盾モードの切り替えを状況に応じて使いこなすのは酷と言わざるを得ない。
同じ攻撃手用のトリガーで比べるなら、刃モードの攻撃力・耐久力は弧月より低いし、スコーピオンのような変形機能こそあれど突出した攻撃性能があるわけでもない。
しかも刃モードと盾モードどちらもその重さは一律で変化なし。
今日のランク戦でも射手や銃手相手に盾モードで咄嗟に身を護れるのは長所だと思ったが、結局近づけないから盾を壊されて負ける試合が何度かあった。
弧月やスコーピオンならその軽快さで壁や民家に隠れながら戦うことが可能だと思うが、レイガストにはそんな派手な立ち回りは不可能だとランク戦を通して痛感した。
しかし、逆に堅実に立ち回れると考えればなるほど確かに様々な戦い方が思い浮かぶが、如何せん自分はトリガーの扱いが未熟も未熟の訓練生。
攻撃手と銃手・射手それぞれの立ち回りの基本が分からなければ、そもそもレイガストをメイントリガーに据えた立ち回り自体分かっていないのだ。
それを加味すれば本能や直感的に立ち回れる他のトリガーと比べて、レイガストが訓練生にオススメ出来ない玄人向けのトリガーだと言われても仕方ないことだろう。
要約すると、訓練生がレイガストを扱うには『経験』と『学習』が他の訓練用トリガーと比べて格段に必要になるということだと思う。
──…面白い、やってやろう。
ボーダー日記.03
11勝9敗。
放課後の少し空いた時間で20戦やった結果、少しコツを掴めて来たような気がする。
攻撃手を相手にする時は必然的に接近戦になるので盾モードではなく刃モードで対応、隙を見つけて、もしくは隙を作って反撃という流れが今のところ一番良い。
銃手や射手は初弾は盾モードで弾丸をやり過ごして、如何に盾の消耗を抑えつつ相手に早く近づくことが出来るかがポイントになってくる。
盾が割れそうな時は壁裏や民家に避難出来るようにある程度地形を把握して動く必要もあるし、この9敗も銃手や射手相手に上手く立ち回れないで落ちた試合が多かったので、今後は相手との距離を詰めつつ地形の把握も出来るような動きに切りえていくことにしようと思う。
と言っても、明日から学校行事とその他諸々が重なってボーダーに顔を出すことは出来ないのだが……、まぁ是非もない。
ボーダー日記.04
正式入隊からそれほど経ってないのにもうB級に上がった同期がいるらしい。
木虎さん、というようで実際に会ったことはないのでイマイチ分からないが……、正式入隊日の時に大型近界民を9秒で倒したあの凄い子のことだとか。
9秒……、正直トリガーの扱いに慣れてきた今の自分でも絶対に無理だと断言せざるを得ない。
自分などまだまだ未熟もいいとことだが、仮にレイガストを使って9秒以内にあの近界民を倒すとしたらどうすればいいのだろうか。
レイガストは重いし、弱点のモノアイを斬るのにどうしたって10秒以上は使ってしまうことを考えれば………、投擲でもすればいいのだろうか。
確かに距離を詰めるのに時間がかかるなら、武器を手放すことにはなるがそれでもトリオンを使って再構成できるわけだからその手段も悪くないのかもしれない。
まぁ、失敗したらその隙を突かれて終わりだが……槍投げの要領で投げれば案外成功したりする……のか……?
やってみたいという思いはあるが、一先ず基礎が出来なければ元も子もないと思うので、取り合えずそんなことも出来るかもしれない程度に考えておこう。
今日のランク戦は12勝8敗とまぁ悪くはなかったし、所々思った通りの動きも出来たので収穫はあった。
あとは銃手や射手相手に詰め方を間違わなければ勝率も上がってくると思う。
攻撃手相手はポイントが同じくらい(1500)の相手と戦ってるからか動きが分かりやすいし、伯父の道場の手伝いをしてるのも相俟って接近戦は結構自信がある。
偶に弧月を刃モードで受け太刀し過ぎて突破されたり、スコーピオンの奇襲を防げなくて負けたりもするので、絶対に勝てるというわけではないが攻撃手相手はもう少しポイントが上の相手と戦ってもいいかもしれない。
ボーダー日記.05
ボーダーで初めて友だちが出来た。
同期ではあるが年齢的には先輩なので友だち──…、と呼んでいいのかは分からないが、連絡先を交換したということはそれはもう友だちで間違いないと自分は考えてる。
名前は村上 鋼。
自分は村上先輩と呼んでいて、飲み物を買いに行く場所が分からなくてウロウロしてた所を助けてもらったのが出会い。
その後、色々話すことになってお互い同期だと分かり、ならランク戦しませんかと自分から声をかけたのが仲を深める切っ掛けだったと思う。
村上先輩の使うトリガーは弧月で、村上先輩は自分がボーダーではあまり使っている人がいないレイガストを使ってると聞くと驚いていたが、自分でもレイガストを使ってる訓練生とは未だに一度も戦ったことがないので、やっぱり訓練生がレイガストを使うのは珍しいんだなと改めて再認識した瞬間だった。
ランク戦の結果は村上先輩が3勝2敗で勝ち越し───…、正直、負けるとは思わなかった。
2勝目までは今まで通りの対弧月用の動きで勝てていたのだが、村上先輩が15分の休憩をくれと言ったのでそれに従って3本目を始めてみれば……、結果は惨敗。
先の2戦が嘘だったかのように、自分は村上先輩に完敗した。
本気を出していなかった、という訳ではないことは分かっていたので、ランク戦が終わってから村上先輩に聞いてみると、どうやら村上先輩にはサイドエフェクトという特殊な力があり、強化睡眠記憶という端的に言うなら寝ている間の学習効率が非常に高いというものらしく、村上先輩が提案した15分の休憩でそのサイドエフェクトを使った村上先輩は、自分の動きを学習し弱点を理解しどのように立ち回れば勝てるのかを学習したから勝つことが出来たのだと言った。
ズルをしてすまない、そう皮肉気に村上先輩は言ったが、その時の村上先輩にも言ったように自分はそれをズルとは思わない。
何故なら自分もサイドエフェクトを持っていて、村上先輩とのランク戦でずっと使っていたのだから。
だから条件は同じですよ、そう言ったときの村上先輩の表情はとても印象的だった。
薄い目が限界まで見開かれて呆然と自分を見つめる姿は、失礼だが少し笑ってしまった。
その後、サイドエフェクトを持つ共通点が判明して意気投合し、村上先輩とランク戦のロビーで今後の話をしながら連絡先を交換し、またランク戦をやろうと約束をしてから分かれた。
ランク戦終わりに村上先輩から奢ってもらったジュースは運動した後だからか、普段の何倍も美味しかった。