ボーダー日記.36
予定より少し遅れてしまったがようやく夏休みの課題が片付いた。
遅れた原因は間違いなく先輩たちと部隊ランク戦の考察に熱中したことだと思うが……あれはあれで楽しかったので良しとしよう。
影浦先輩のチームがA級に上がれなかったことは残念だが、影浦先輩自身はそんな気にした様子ではなかったので少し安心した。
北添先輩の話ではチーム間の連携が上手く取れなかったのが敗因とのことで、部隊規模のランク戦ともなるとやっぱり個人の実力よりもチームでの連携が重要になってくるんだなと学ばせて貰った。
自分は既に正隊員なので部隊を作ったり入ったりすることは一応可能だが、来年から受験が控えてるのでそれが終わるまでは正直厳しいと思う。
村上先輩たちのいるボーダー提携校に通えるなら受験は特に気にしなくても問題ないのだが、母と約束した手前それは出来ない。
荒船先輩の通ってる高校ならボーダー提携校だが大学の推薦を無理なく貰えるので通ってもいいと母に言われてるが、普通の高校と同じように入試はあるのでどちらにせよ受験勉強は免れない。
個人的にはボーダー提携校で学力も申し分なく、加えて荒船先輩という知り合いのいる六頴館を第一志望にしているが……当然落ちる可能性もあるので第二、第三の志望校を考えたら勉強の手を抜くことも出来ないのが現状。
一応荒船先輩に勉強を教えてもらうことになったし、今の自分の学力なら問題はないとのお墨付きも貰ったので大丈夫だとは思うが……、それはあくまで今の状態を維持できていればという話だ。
明日からは存分にボーダーでの時間を楽しむ気持ちでいるが、羽目を外しすぎて学業を疎かにすることだけはしないようにしよう。
ボーダー日記.37
自分がボーダーを休んでいる間に、村上先輩が弧月とレイガストの二刀流を編み出していた。
最初はどちらも重さのあるトリガーだから動きが鈍って村上先輩の長所がなくならないかと心配だったが、実際に模擬戦で戦ってみてその考えは杞憂に終わった。
むしろ村上先輩に足りてなかった要素がレイガストを使うことで完全に補われたと言うべきか……、戦ってみた印象としては、とにかく堅い、この一言に尽きる。
弧月だけでもかなり安定して戦えていた村上先輩だが、そこにレイガストを取り入れたことで近接戦闘に於いては無類の強さを発揮していて、レイガストで相手の攻撃をいなしその隙をついて弧月の一閃で斬り払う、という戦法は分かっていても対処の仕様がなかった。
機動力こそ以前の戦い方と比べたら劣っているが、村上先輩は地形を上手く使って戦うことでその欠点を補ってるので誤差レベルと言っていいだろう。
あれでまだ二刀流に慣れていないというのだから、今後の成長を考えるとどれだけ強くなるのか期待半分不安半分と言うのが正直なところだ。
今のところは射手の適正距離でレイガストとシールドをある程度削り、その上からスラスターで決めることでどうにか戦えているが……果たして学習能力の高い村上先輩相手にどれだけその戦い方が通用するか。
少なくとも今のままでは、そう遠くない内に対策されて終わりだろう。
それは村上先輩に限った話ではなく、荒船先輩や影浦先輩など上の人たち全員に当て嵌まることだ。
……少し早いと思うが、トリガーを増やしてみてもいいかもしれない。
明日か明後日辺り、予定があえば寺島さんのところにいって相談してみよう。
ボーダー日記.38
寺島さんはしばらく手が離せないということで、相談はまたの機会に持ち越しということになった。
出来れば時間の取れる夏休み中に相談したいものだと思ったが、あまりに親身になってくれるからつい忘れがちになってしまうが、寺島さんはエンジニアの中でも5人しかいないチーフエンジニアの1人だ。
今更ながらそんな人と接点を持ててなおかつトリガーの構成や戦い方の相談が出来る自分はそれだけで他の隊員より恵まれているのだから、自分の都合を寺島さんに押し付けて寺島さんの貴重な時間を奪うのは止めようと反省した。
別に寺島さんに頼まなくてもトリガーの付け替えは出来るのだから、自分で考えたトリガー構成を訓練場か模擬戦かで試せばいいじゃないか、そう結論を出していざ再び開発室へ……、と言うところで、荒船先輩とバッタリ遭遇した。
荒船先輩は自分を見つけると、ちょうどいいと言わんばかりに悪い笑顔を見せ自分を訓練室まで連行し、自分の言い分も聞かないまま模擬戦を始めてしまった。
そして──…10本やった模擬戦の結果は6-4で荒船先輩の勝ち。
前回の結果を踏まえればかなり善戦した方だと思うが、それは荒船先輩のトリガー構成が普段使いのものではなかったからだ。
いつもなら弧月とシールドをメインで使う荒船先輩が、その時は何故か銃手と射手のトリガーを入れていて、しかも扱いがすごいたどたどしく正直自分がランク戦で戦う銃手や射手以下の錬度だったと言わざるを得ない。
どうしていきなり中距離用のトリガーを使うのか疑問に思って聞いてみたが、今度時間のある時に教えてやる、と返答され、付き合ってくれたお礼にと缶ジュースを手渡して荒船先輩はどこかへ行ってしまったから詳細は分からないままだ。
……とりあえず荒船先輩がいつか話してくれるのを楽しみに待っていようと思った。
ボーダー日記.39
折角の夏休みということで、先輩たちに誘われプールに行ってきた。
プールは伯父と体作りもかねて頻繁に行っていたので、泳ぎにはそれなりに自信がありますよ、と言ったら影浦先輩から勝負を挑まれた。
ボーダー隊員としてはまだまだ影浦先輩には敵わない自分だが、泳ぎに関しては絶対負けないという自負があり──…、結果かなりの大差をつけて影浦先輩に圧勝した。
だがそこは負けず嫌いの影浦先輩、その後何度ももう一回をしてくるので影浦先輩が望むならと勝負を受け続けてたらいつの間にか昼を過ぎていた。
一緒にいた村上先輩は自分たちが熱中している間に荒船先輩が泳げないという話を聞き、どうにか荒船先輩が泳げるようにと屋内プールで練習に励んでいた様子だったが……残念ながらその成果は出なかったらしい。
荒船先輩が泳げないことは素直に驚いたが、プールに行こうという話になった時に頑なに嫌だと言っていた荒船先輩の様子は、泳げないということを考えれば確かに納得だった。
その後は軽く昼食を取って、夕方まで荒船先輩でも楽しめるアトラクションなどでプールを満喫した。
ただ昼食の席で村上先輩から、自分が泳ぎが得意なのはもしかしたら自分のサイドエフェクトが関係してるんじゃないかという話を聞いて、改めて自分のサイドエフェクトのことを考えたら確かに関係してるかもしれないと思った。
伯父から泳ぎを教えてもらったときもすんなり覚えられたし、長年泳いでいたがフォームで苦労することもなかった。
学校のプールの時間などで皆が速い速い言ってくれてたのは知っていたが、普通にお世辞だと思って聞き流していたし……というか、自分のために気を使って言ってくれてるんだなと場違いなことを考えてたくらいだ。
話を聞いた影浦先輩は、プロ目指せんじゃねぇか? と言ってくれたが、泳ぐことは好きだが別段プロを目指すほどの熱意はないし、加えて今はボーダーでの生活が楽しいから泳ぎでどうこうっていうのは特に考えていない。
荒船先輩は終始泳げる自分が羨ましいと言っていたが、どうにかしてあげようにもまず顔を水につけることを躊躇ってしまう時点で教えるどうこうの問題じゃないのが悩ましい。
それさえ改善できれば色々教えられると思うのだが……村上先輩の話を聞く限り改善できない可能性の方が高いので、そこばっかりは荒船先輩自身に克服してもらう他ないだろう。
頑張れ、荒船先輩。
ボーダー日記.40
最近ボーダー内で仮入隊の隊員をよく目にするようになって、自分がボーダーに入隊してもう四ヶ月が経とうとしてる事実に、時間が経つのは速いなとしみじみとした気持ちになった。
何かに夢中になってる間は時間の流れが速く感じる、という話は聞いたことがあるし今まで何度も体験して来ているが……、正式入隊日で訓練用の近界民と戦ったことが昨日のように思えるくらい、時間の流れが速く感じてしまう。
今までは自分も先輩たちに教えられる側だったが、次の正式入隊日からは自分が教える側に回ることになるかもしれないと思うと……正直、少し不安だったりする。
まぁ自分みたいな人間にそうそう声をかけてくる物好きがいるとは思えないし、よっぽど困ってなければ自分から声をかけようとも思わないので大丈夫だろう。
個人的に次の正式入隊日でレイガストを使う人がどれだけいるのか少し気になってたりはするが……、寺島さんたちの話を聞くにいない可能性の方が高いと思うのであんまり期待はしてない。
もしいたなら仲良くなれたらいいなとは思うが……それは追々ということで、楽しみにしていよう。
もう数日もしない内に夏休みが明けるが、学校から出された課題は全部終わらせてあるし、先輩たちとプールに行った思い出も作れたので大満足だ。