女の子になったけど、俺達は元気です。 作:リュア
「うわ、眩しっ」
「いや~今日はいい天気だね! お兄ちゃん」
確かに今日は随分と天気が良い。雲ひとつなくて、太陽光が容赦なく襲ってくる。いやそんなのはどうでもいい。まず、我が妹に言っておかなくてはならないことがあるのだよ。
「椿……外ではお姉ちゃんと呼んでくれ……。この見た目でお兄ちゃんはキツイ」
「あっ、ごめんね。お姉ちゃん!」
そう、外でお兄ちゃん呼びは流石に見た目的にも周りの視線的にもあまりよろしくはないのだ。どっからどう見たって美少女だからな……自分でいうとちょっとあれだが。
というか、椿にお姉ちゃんと呼ばれる日が来るとは。人生何が起こるか分からないものだ。いや、本当に。
「あれ、お姉ちゃん。いつもの先輩達は?」
今椿が聞いてきている先輩達とは、さっきスマホで連絡をしてきた三人の事だ。
「ああ、あいつらか。なんか知らねえけど、三人とも仲良く今日は遅れるとよ」
「へーそんな珍しいことあるんだね~」
そんなこと言いながら、いつもの通学路を歩く。あ、いつもの歩き方で。つまり、端から見れば女の子らしさゼロである。
「ねーねー、お姉ちゃ~ん?」
「な、なんだよ椿。急にくっついてきて」
「ちょっとさ~。嫌な予感がするんだよね~」
「……マジで?」
「マジでマジで~」
なんということだ。俺が女になってから早速椿の嫌な予感と来やがった。一応説明すると、椿の嫌な予感っていうのはだいたい八十パーセントぐらいの確率であたる。まあ外れる時もあるが、そんなのごく稀だ。
「なあ、その嫌な予感って……どういう?」
「いや~もしかしたらその先輩達も女の子に……なんて」
「………………What?」
椿が言った可能性があまりに信じられず、つい英語で返してしまった。
「だってあの先輩達全員が来ないってことは、かなりの事態だと思うんだよ。ほら、先輩達って足の骨が折れても倒立してまで来るヤベーヤツらでしょ?」
うん、まあ……妹が言っていることは分かるし、倒立してまで来たのは事実だからなんも言えないんだよなぁ……。いや、いやでもだ。
「だからといって、女になっているとは限らないだろ?」
「もう、これはただの私の勘だよ? 今日お兄ちゃんがお姉ちゃんになっちゃったんだし、先輩達がなっていてもおかしくはないかなって~」
「……まあ、可能性はなくはないのかもな」
そんな会話を続けていると、椿と別れなくてはならない場所に来てしまった。
「あ、ここでお別れだね。お姉ちゃん、頑張ってね!」
「ああ、とりあえずやれるだけやってみるよ」
そう言って、抱きついてきた椿の頭を撫でる。
数十秒経って、満足したのか体から離れた。そして俺へ手を何回か振ると、中学校に向かっていった。
「……よし、俺も行くか」
もう味方はいない。つまり今、己を守ることができるのは、己のみなり! 意を決して、俺は俺の高校へ向かうのみだ。てかなんか俺、今日だけでもめっちゃ覚悟決めてるな。ま、どうでもいいか。
「あ、そういえば」
もし、本当にあいつらも女の子になっていたらどうなるんだろ。もし本当になってたら、出会った瞬間にアホみたいに誉めまくって恥ずかしさで沈めてやる……!
「覚悟しているがよいぞ……!」
クックックッと不気味な笑いともに、俺の女の子になってからの最初の目標が決まった瞬間だった。
「うわ、っべぇー。べぇわマジべぇわ」
やっほー皆なぎなぎ~♪ 皆のお姉ちゃんの椎野なぎs……申し訳ない。調子に乗ってしまった、許してほしい。緊張しすぎて内心でこんなくだらんことを言ってしまった。
その緊張の原因というのも、ついに俺の通っている高校である【
てか今になって考えると、なんだよ如大海って……これ完全に狙ってね? 今の俺の事でも言ってるのかくそったれ!
「落ち着け……落ち着け俺……」
まずはこの緊張をどうにかして鎮めなくては……。俺は女の子、女の子……なんか余計に緊張してきた。
とりあえず軽く深呼吸をして、これから俺が行う行動を考えてみた。
作戦として、まず今から教室に向かって、弱々しく挨拶をする。そこからクラスメイトがどう出てくるかで、俺の対応が変わる。まあ多分驚くだろうから、俺は迫り来る質問に光を越える速さで答えれば良いだけだろう。
え、そんなの作戦じゃない? 今は緊張して頭が回っていないから勘弁してやってくれ。
「ふ~……よしっ!」
色々考えているうちに、なんとか落ち着いてきた。冷静にいけば良いんだ。冷静にいけば恐れるものなど何一つない。
てか冷静になって思ったんだが、俺はなんで同級生なんぞに緊張せねばならぬのじゃ。そう考えてみると、余裕まで生まれてきそうだった。
ここにずっと佇んでいてはいけない。今のこの勢いでいかなくては。上履きに履き替え、俺は階段を上り、自分の教室へ向かった。
「うわ、めっちゃ靴のサイズが大きすぎてくっそ歩きにく……!」
動きはとてもぎこちなかったが。
「……おかしい、絶対おかしい」
なんとか二年A組に到着することに成功したが、先程の余裕はどこへやら。俺の脳内を疑問のみが支配していた。
時間はついさっきの俺と後輩が会話をした時まで戻る。
「あ、渚先輩! おはようございます」
「お、おお……春宮か。おはよう」
俺に挨拶をしてきたのは後輩の春宮。男なのだが、随分と可愛らしい顔をしているために、モテない男達に崇められている……俗にいう男の娘というヤツだ。
「いや~今日“も”可愛いですね~渚先輩。ボク、憧れちゃいます!」
「あはは、ありが……えっ、春宮、今なんていった!?」
今一瞬、俺を褒めているなかでたった一文字、たった一文字だったが聞き逃すわけにはいかない文字があった。
「え!? 渚先輩今日“も”可愛いですねって」
……どういう事だ? 今日もって事は、まるで春宮が女の子になった俺に何回か会っているような言い方だが……?
「なあ……変な質問だと思うが、お前は俺のこの姿を何回か見たことはあるのか?」
「ホントに変な質問ですね。何回っていうか、毎日登校するとき絶対見ますよ」
春宮の言葉で、更に俺の頭の中で疑問が増え、渦巻く。何が一体どうなってる? 俺と春宮の間で明らかになにかが違っている。そのなにかがわからない。
「どういう事だ……」
「先輩、大丈夫ですか? 顔色が悪く見えますけど……」
「いや、大丈夫だ。変なこといってごめんな。俺教室に行くわ!」
「あっ、先輩!」
そう言ってほぼ強引に話を中断させ、俺は早歩きで教室に向かった。
そして、さっきの教室に到着したところへ戻る。
春宮のおかげで、作戦の後半部分が予測不可能になってしまった。
「さっきのは春宮だけなのかもしれない。クラスメイトは違うかも」
そんな淡く簡単に崩れてしまいそうな期待を抱きながら、教室の引き戸をスライドさせる。落ち着け、作戦通りに行動だ。
「お……おはよぉ……」
よし、挨拶は成功だ。戸を開けた事で、クラスメイトの視線が俺に突き刺さるが、そんなのは想定内だ。さあ、どうくる。
「よお渚~!どうした、なんか元気ねえな~?」
「い、いや~……ちょっとあってな」
「なんか悩んでたら、俺達に言えよ?俺達は渚の味方だからな!」
あ、あれ?
「ちょっと! 渚ちゃんは私達に任せておきなさいよ。男子に女子の気持ちなんて分かんないでしょうし?」
「なんだと~!?」
皆、俺に違和感を持つことなく会話してる? 今繰り広げられているのは、よく見る光景だ。ちょっと待て、俺に何か思わんのかお前ら!?
「な、なあ瑠美?」
「ん~? どうかしたの渚」
とりあえず俺は確認として、明らかにギャル感満載の瑠美に恐る恐る聞いてみることにした。瑠美は嘘つかず、思ったことをどストレートに言ってくれる。
つまり、俺の聞きたい疑問に対してどちらにしても嘘偽りない答えが来る筈だ。
「瑠美は俺が……もともとは男って分かってるよな?」
瑠美……分かってるって言ってくれ!
「は? 渚何言ってんの? 渚は“もともと”女じゃん。変なの~」
「………………そ、そうか。ごめんな、変なこと聞いちゃって」
瑠美の答えにそう返して、俺は自分の席に座る。そして、机に突っ伏す。
「ヴぇぇ…………」
力の抜ける声を出しながら、脳内の情報を整理する。
未だに脳内に宇宙が見えるが、今声に出したいことが一つだけある。机とにらめっこしながら、静かに言った。
「全員、俺がもともと女だって認識してるのは予想できるわけねえじゃん……!」
俺の嘆きは予鈴の音によってかき消され、誰にも聞こえることはなかった。
あまり確認してないので、間違っている部分があると思います。そのときは遠慮なくご指摘ください。