女の子になったけど、俺達は元気です。 作:リュア
「よ〜し、後は……俺とお前だけか」
「俺たち……なんで戦わなくちゃいけないんだろうな……」
「……なんとも残酷な運命だ」
「ならば、この運命と共にお前も倒すとしよう……行くぞッ!」
「来いッ! 勝幸ッ! お前の全力を見せてみろ!」
あっ、今やっているのはババ抜きだ。
しかし、これはただのババ抜きではない。負ければ最後、最高級の屈辱を受ける羽目になる程の地獄の罰ゲームが用意されている。まさに、生か死を賭けたギャンブルそのもの。
罰ゲームを決めるうえで必要なことは、全員がこの場でできる絶対にやられたくない事を正直に紙に書いておく事だ。そしてそのやられたくない事が究極の罰ゲームとなる。そうすることによって各々が手を抜いたりは一切せず、頭を酷使し相手の作戦を読み、自分を勝利に導いていこうとするのだ。
「どっちだ……どっちが正解なんだ。勝利か敗北か、天使か悪魔か、皇帝か奴隷か……! 俺は勝たなきゃならないんだ、こんな所で負ける訳には……クッソッ……どっちなんだ!」
「いや、早く選べよ」
まるでカイジのような心理戦のような状況を展開して、勝幸が一人勝手に悩んでいる。それっぽい台詞を喋っていたが、普通にツッコミをしてしまった。因みに達也と晴斗は既にあがっており、残り俺と勝幸だけの戦いとなっている。
「いや〜そこはノッてあげないと〜なぎちゃん〜」
「ざわ……ざわざわ…………ざわっ」
外野の二人が楽しそうに観戦をしている。一人に関してはもはや効果音までやっている。なんともまあ、自分達が罰ゲームを受ける事はないからと言って調子に乗って……!
「こっちだ! ……どうしてだよぉ〜!?」
よかった。勝幸はジョーカーを引いてくれたようだ。一瞬冷や汗を掻いたが、これでひとまず安心だ。
「…………ッ!」
「当ててみろよ渚……」
お互い見つめ合う。見ろ、見つめろ……。
相手の瞳、頬、口、呼吸、ありとあらゆる所を凝視し分析するんだ。そして、この永遠かと思われるであろう戦いに終止符を打つ。
……分かった。
「こっちだ……!」
勝幸の手にある2枚のカードのうち、右のカードを取る。カードを取ってから悪い考えが頭を過ぎる……もしジョーカーだったらどうしよう、負けたらどうしよう。
心臓がバクバクを音を鳴らし、カードを持つ手が震えている。だが、自分で選んだカードを見ないわけにはいかない。
自分の取ったカードを、ゆっくりと自分の方へ見せる。
「来い……来てくれ……!」
そのカードに描いてあったのは……
勝負に勝った事を知らせる……ハートの6だった。
喜びや安堵をなるべく抑え、声高らかに宣言した。
「ッ…………勝った……勝ったぞォ! 今回の罰ゲームを執行するのは、三嶋勝幸だぁ!」
「うあーマジかぁ!? 負けたぁ〜!」
今ここに、負けた者が勝幸に決まった事でババ抜きが終了した。実に厳しい戦いだった。この戦いで特に強さを発揮したMVPは、断然晴斗だろう。普段の怠さを表現した顔が、どちらが正解なのかを分からなくさせていた。それとは逆に、相手を顔色を見抜く力があるのは反則的だとついつい思ってしまった。
達也も、敵の作戦に惑う事なく自分のできる全てを出し切っていた。2位で抜けれたのは、そこが大きいからだろう。
俺と勝幸は……まあ、まだまだ修行不足だなと改めて実感させられた。
それよりも……やらなくてはならない事がある。そう、罰ゲームだ。
「そういえば勝幸の罰ゲームってーなんだっけー分かんないなー」
「俺も分かんないー」
「晴斗くんも〜分からないや〜」
「おい! そんなこと言って、結局全員分かってんだろ!?」
『うん』
俺達がこう言っているのも理由がある。ごっこ部には幾つかのルールが決められている。その中の一つに、【罰ゲームの内容は、罰ゲームを行う本人が宣言する】と言うものがある。そう、罰ゲームの開始は、本人の自己申告から始まるのだ。
「で? 勝幸ちゃんの罰ゲームはなんですか?」
「うぅ……お、可愛い女の子になりきること……です」
「一応念の為聞きますけどお名前は〜?」
「ゆ……雪乃……ですぅ……!」
「期限はいつまでなんだ?」
「ひ、日が変わるまでですよーっ!」
どうやら勝幸にとって、女の子扱いされるのが一番恥ずかしい事らしい。確かにな、と普段の勝幸を思い出して思った。普段は俺達と同じように、男の頃の喋り方のまんまだ。
しかし、周りからの反応としては【男のように振る舞っているだけの可愛い女の子】である為、女先輩にかなり可愛がられている。その時の勝幸の慌てようと言ったら……思い出すだけでも笑ってしまいそうだ。
「それじゃあ早速なりきってもらいましょうか……雪乃ちゃん?」
「おいそれやめ……や、やめてよ〜渚くん! その呼ばれ方まだ慣れてないんだから〜!」
「……ぶふっ、あっはっはっは!! 無理だ、耐えられん……っ!」
「もう〜達也くんってば、笑わないで!」
「すご〜い、雪乃ちゃんなりきってる〜可愛い〜」
「そんなこと言われても嬉しくないよ〜!」
必死に女の子のふりをしている勝幸を見て、達也が笑い出してから今もまだ笑っている。正直俺も今、かなり笑いを堪えるのに必死だ……っ。
「でも〜ただ女の子になりきるってさ〜……足りなくない〜?」
「え、ちょ、なっ何考えてるの? 晴斗くん?」
「いやさ〜俺たちが考えた台詞でも言ってもらおうかな〜……なんて考えててさー」
「ひっ……!」
おっと、どうやら晴斗のドSスイッチが入ってしまったようだ。こうなった晴斗はなかなか止められない。それより、考えた台詞を言わせる……アリかもしれない。
「……ナイスアイディア、ノッた。そんじゃ早速考えるわ」
「ちょ、渚!?」
「イイね〜ナイスノリだよなぎっち〜。それじゃあ考えたらこの紙に書いてね〜」
「りょ〜か〜い」
それでは考えていこう。どんな事を言わせてやろうか……う〜む、悩みどころだ。
「たっちゃんはどうする〜?」
「俺は審査員でもすることにする。すまんが渚、晴斗、俺の分も考えてくれ」
「おk」
「わかった〜……雪乃ちゃん? 覚悟してよね〜?」
「うぅ……も、もういやぁ〜……っ」
雪乃ちゃんのその小さな声は、考えている俺たちには届くことなく、ただ一人隅で怯えることしかできなかった。
「よし、じゃあこれでいいか?」
「おっけ〜い。晴くんもそれに賛成〜!」
「ほう……これは中々……」
数分後、二人での会議の結果、台詞どころか一つのシチュエーションに決定した。他にもいい案があったが、この案が強すぎた。決定後に審査員である達也にも見せてもこの反応……。これはどうなるのか、見物だ。
「ほら、雪乃ちゃん。この紙に色々書いてるから、読みな」
「……ぅん」
部室の隅で一人小動物のように縮こまっている雪乃ちゃんに紙を渡す。この弱々しい反応を見るからに、この罰ゲームはかなり効いているようだ。不覚にも可愛いと思ってしまった自分がいる。
紙を受け取り、書かれているシチュエーションに目を通していって、どんどん顔を真っ赤にさせていく。いや、可愛いかよ。
「こ、これを本当にするの……?」
「ああ、そうだ。それをやるのに必要なものがあったら言ってくれ。ここで準備できるものなら準備するぞ」
「じゃ……じゃあ。な、渚くんが、相手役をやってくれないかな……?」
「ん? それだけでいいのか?」
雪乃ちゃんの要望にそう聞くと、小さく顔をコクンと動かした。なんだろう……思った以上に女の子しすぎていて驚いている。
「それじゃあ〜始めてもいい〜?」
「ちょ、ちょっと待って! こ……心の準備が!」
「うんうん、準備万端なんだね。いくよー、よーいスタート〜」
今回の晴斗のドS成分は普段より強めのようだ。ほらみろ、晴斗が容赦なく始めるから雪乃ちゃんがいつにもなく慌てているじゃないか。
「え、あ……えっとぉ〜……」
仕方ない、最初ぐらいは俺から言っておこう。流石にかわいそうに見えてきた。
「……雪乃ちゃん、急に屋上に呼び出してどうしたんだ?」
「あっ……ご、ごめんね。実は、言いたい事があって」
「ん? 言いたい事?」
「じ、実は……私、昔から……な、渚くんの事が……ーーっ!」
そこまで言って雪乃ちゃんはこの先言う言葉が恥ずかしいのか、合わせていた視線を逸らす。
そう、今回俺と晴斗が雪乃ちゃんに与えたシチュエーション……それは
【屋上で昔からずっと好きだった人に告白する】
というものだ。他にこれよりもエゲツないシチュがあったが、R指定が付きそうだったので流石に自重した。
彼女いない歴=年齢の俺たちが告白、しかも女の子サイドでだ。感情を乗せて告白をするなんて、とてもとは言い切れないくらい恥ずかしい。さっきの会議中に俺も想像の中でしてみたが、普通に恥ずかしいし中身が男って時点で素直にキツかった。
さて、頑張るんだ雪乃ちゃん。ここが正念場だ!
「おい、どうしたんだよ。なんか言いたいんじゃなかったのかよ」
「いや、は、恥ずかしくて」
「なぁ……言わないんなら、俺戻ってもいいか?」
そう言って、
「ま、待って! 言う、言うからっ!」
「……本当か? もう一回さっきみたいなことしたら戻るからな」
「だ、大丈夫。しっかり言うよ」
一、二回深呼吸をすると、覚悟を決めたのか俺の目を再び見つめた。
「私、渚くんの事が好き、好きだったんです! 私と……付き合ってくれませんか!!」
雪乃ちゃんは最後までしっかりと言い切った。でも、その顔は今にも泣き出しそうで。とても愛らしく思えた。
「よく言えたな」
「……え?」
俺の言葉にきょとんとしている雪乃ちゃんの頭に手を置く。今の言葉は役として、そして俺自身としての素直な台詞だ。
「……偉いぞ、雪乃ちゃん」
「う、ううぅ……っ。渚、くん……!」
頭を撫で、褒めると雪乃ちゃん泣きながらも俺の体に抱きついてきた。やばい、中身男なのに本当に可愛いって思ってしまう。
ヤバイ理性がッ! ヤバイヤバイヤバイヤバイッ!!ーー
「はーい、カット〜」
晴斗の言葉で朦朧としていた意識が覚醒する。いけない、あともう少しで変な扉を開けてしまうところだった。
「な、なあ達也。今のどうだった」
「ああ、実に良かったと思うぞ。特に最後なんか最高だったってレベルじゃないくらい凄かった」
「晴くんも合格だと思うよ〜。雪乃ちゃんが予想以上に女の子していてびっくり仰天だよ〜」
『わかる』
偶然達也とハモってハイタッチをする。どうやら達也も感じていたらしい。雪乃ちゃんの可愛さを。
「なあ、雪乃ちゃん自身はどうだっ……た……?」
「どうした? なんかあったか?」
「どうやらお疲れのようだ」
今回のメインでもあった雪乃ちゃん本人にも感想を聞こうかと思ったが、女の子を演じるの大変だったようだ。すやすやと俺の胸の中で静かに眠っている。
「それじゃ〜今日の部活はこれで終了かな〜?」
「……そうだな」
時計を見ると、もう少しで下校時間になりそうだった。そろそろ終わりの挨拶でもしておこう。
「そんじゃ、お疲れ様でした〜」
『お疲れ様でした〜』
「それで、雪乃ちゃんはどうするの〜?」
「なら俺が家まで送っていこう。比較的家は近いからな」
「おっけーよろしく頼む」
「あ、その前に〜雪乃ちゃんの寝顔撮っとこ〜」
「ついでに俺も撮っとこ」
「後で怒られても知らんぞ……?」
苦笑いをしながら、パシャパシャと寝顔を撮っている俺たちへ達也が言う。寝ちゃうのがいけないからね、仕方ないね。
その後は、各々家に帰った。晴斗が撮った寝顔写真も提供してもらった。この事はバレないようにしよう。
後日、案の定雪乃ちゃん……いや、勝幸に寝顔を撮った事がバレて、晴斗と一緒に仲良く怒られちまったとさ。
一応最後に女の子になりきった感想を聞いてみたら、
「ま、まあ……悪くはなかったよ。またやってもいいかも……なんて」
どうやらハマってしまったようだ。オーマイガー。
かなり期間が空いてしまいすいません。つい、想像ばかりしていてしまいました。反省反省。