それぞれの事情   作:神谷涼

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 ふと思いついて……というか昨夜夢で見て。
 そのまま勢いで書き始めたら一気にここまで書いてしまったので……。
 今書いてる連載が終わってませんが、書いた内に投稿しときます。



1:ヘロヘロよお前もか!

 

「いやー、まさかモモンガさんが女の子だったなんて知らなかったよー」

 

 サマードレスの黒髪少女――幼女が、儚げに笑う。

 ボイスフィルターを外した声は、ぶくぶく茶釜にも劣らぬロリ声だ。

 ただしこちらはガチな天然モノである。

 

「ヘロヘロさんこそ、まさかですよ!」

 

 ピンク髪の少女が疲れた目で、それでもにこやかに笑って答えた。

 ふわりとしたロリータファッションのドレスは、育ちのよさを思わせる。

 声もまた幼げな中に、凛とした貴族的なものを感じさせた。

 

「もう素顔見せちゃったし、モモンガさんも普通にしゃべってくれていいのに」

「私は基本でもこの口調ですので……」

 

 幼女と少女の語らいは、いつもより円卓の間を華やかに見せていた。

 異形種ギルド、アインズ・ウール・ゴウン。

 思えば外見からして、人外オブ人外といった容姿のメンバーばかりだったこのギルドで……この円卓の間にメイド以外の幼女や少女がいたことなどないのだ。

 

 

 

 

 久しぶりの『ユグドラシル』。

 サービス最終日、ギルドマスターたるモモンガからの「大事な話がある」というメールに。

 大きな隠し事をしていたヘロヘロは、敢えていつもと違うアバターでログインした。

 

 『ユグドラシル』に限らず、DMMO系コンテンツには、リアルの己に近い姿が基本設定となっている。

 いくらかの美化は可能だが、体型や色彩やパーツはリアルの姿から大きく変えはできない。

 一度ログインした後で乗り換えたりはできないが、最初からログインは可能だ。

 キャラクターデータも変わらない。

 もっとも、『ユグドラシル』のようなファンタジーRPGで、リアルの容姿をわざわざ好む者などいない。

 よほどリアルの己に自信があるナルシストでなければ、苦しいリアルから離れたゲームの中に、そんな姿は持ち込むまい。そして、そんなナルシストはそもそも、こんなゲームをしない。

 リアル基準の姿は外見が人間種に見えるため、異形種PCが時折、擬態の裏技に使う程度である。

 それでも戦闘中に変われはせず、町にも入れないため、およそ意味はなかった。

 

 ヘロヘロは、長らく性別や生活を偽ってきた。

 モモンガのメールを見て、最後の最後くらい、本当の己で向き合おうと考えたのだ。

 それが、ヘロヘロ自身の“大事な話”である。

 こうして、最終日――ヘロヘロは、敢えてリアルの己をベースとしたアバターでログインした。

 そして、円卓の間で、見知らぬピンク髪の少女に出会いNPCと勘違いしたのが、数分前である。

 少女の正体は己と変わらぬ事情を持った、ギルドマスターだった。

 彼女――モモンガの名を冠した世界級(ワールド)アイテムは、奇妙な触手ともコードともつかぬもので、ちょうど胸のあたりにつながっている。

 

 幸か不幸か、他のギルドメンバーは誰も……来なかった。

 

 

 

 

「それにしても、同じような二人だけ来るなんて運命を感じますね」

「えー、モモンガさんひょっとして口説いてる?」

 

 くすくすと笑うヘロヘロ。

 

「違いますよ! 第一ぺロロンチーノさんとかいたら、騒いで落ち着いて話せなかったじゃないですか」

「あー、言えてる。わたしもだけど、モモンガさんも変な目で見られちゃったかな?」

「私は――あー、でもそうですね、外見はそうですし」

 

 二人とも十分にロリに分類できる姿である。

 ターゲッティングされること間違いない。

 そして、たっち・みー、やまいこのようなメンバーなら……もっと面倒な話になっただろう。

 

「それにしても、この姿であっちのスライムの名前はちょっと変だね。フルネームはさすがにダメでも……んー。名前ならいいよね? わたしは沙耶。あとちょっとの時間だけど、素の友達ってことでさ」

「あ――あ、はい。私は、さとりと呼んでください」

 

 ここではお互い、スライムと骸骨で思い出を築いてきた。

 今はオフ会気分だ。

 本名を……一部名乗るくらいいいだろう。

 

「それにしても、沙耶さん……私より幼い姿ってことは……体、相当まずいんですか?」

 

 モモンガ――さとりが、心配そうに言う。

 会った時から思っていたが、敢えて避けた話題だ。

 

「うん……お互い様だけどね。さとりさんも、かなり弄られてる?」

「これは……母と離婚した父の趣味で……」

「あー、そっち」

 

 二人とも、俯いてしまう。

 リアルはつらく、厳しい。

 二人の女性を、どこまでも貪り尽くしてくる。

 だから、どちらも男性と詐称してここに来ていたのだ。

 同じ女性のメンバーにも打ち明けられず。

 モモンガは、ギルドマスターにまでなってしまった。

 

「……もう、時間が近づいてきましたね」

「眠いし、本当はすぐログアウトするつもりだっんだけどね。モモンガさんの正体知ったら、目が覚めちゃったよ」

 

 嘘だ。

 沙耶の肉体はもうずっと眠っていて――夢を見ているだけ。

 それでも労働をさせられる現代社会だが……。

 限界も近づきつつあるのだろう。昏睡時間は増えつつある。

 

「はは、最後は玉座の間にでもいきましょうか。この姿で、スクリーンショットを撮るのはナシですけどね」

「……そうだね」

 

 リアルについて考えると、二人とも重い空気になってしまう。

 どちらも少なからず……ろくでもない現実を抱えている。

 だから、女性メンバーにも己の正体を明かさずいたのだ。

 同情されても、空気が重くなるだけだったから……。

 それでも、長年の思い出を共にした相手が、己とわかりあえると知ったのだ。

 少しでも時間を共有したい。

 肉体や神経の休息よりも……精神の休息を優先したい。

 互いにそう思い、傷をなめ合うように席を立った。

 

「ギルド武器――スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンも持って行こうよ」

「そうですね。これもみんなで、がんばって作った……え?」

 

 玉座の間に行く前に……と、さとりは己の背後に安置されていた杖に手を伸ばす、が。

 止まる。

 

「ええええええ!?」

「ど、どうしたんです、さとりさん! リアルで何かあったんですか!」

 

 すわ外部干渉かと、今までの空気から連想するヘロヘロだが。

 

「これ、レプリカーーー!!」

「はぁ? さとりさん、今日はずっとここにいたんでしょ?」

 

 目をしばたたかせ、勘違いじゃないかなと首をかしげるが。

 

「見てください、彫刻はそっくりですが宝石が明らかにニセモノですよ!」

「いや、わたし鑑定系スキル持ってないよ」

「こんなことするのは――」

 

 というか、レプリカを持っているのはギルドマスターと……造形を担当した……。

 さとりが杖を掴み取る。

 と。

 

『フフフ、ようやく気づいたかギルドマスター! スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンと、玉座はいただいた! サービス終了まで、アインズ・ウール・ゴウンはオレのものだ!』

 

 懐かしくも、聞きたくない声だった。

 

「るし★ふぁー、あのやぁろぉう!」

「ちょ、さとりさん、女の子がしちゃダメな顔になってる!」

「玉座の間です! 行きますよ!」

「えっ、ちょ! ちょっと待ってー!」

 

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使い、二人は急ぎ転移する。

 もっとも、玉座の間の手前までしか転移では行けない。

 

「あっ、レメゲトン全部そろってる」

「最終日を会いにも来ず、こんなことしてたんですか!」

 

 玉座の間の手前、この張本人が途中で飽きて67体だったレメゲトンの悪魔像が72体そろっている。

 5つ、目立つ場所にあった空白が埋まっていた。

 72体そろったらできる戦闘ギミックとかあるんだろな……とうんざりする二人。

 

『さっさと来なかったから、そいつらを動かすのは勘弁してやろう! さあ来い、元ギルドマスターよ! 真ギルドマスターるし★ふぁー様の前にな!』

 

 サービス終了まで、残り時間は5分程度。

 さすがに二人でゴーレム72体を殲滅するにはギリギリだ。

 追加ギミックまであればなおさらに。

 さすがの問題児も、顔も合わせず終わらせたくはないのだろう。

 玉座の間へと続く、重厚な扉が開かれる。

 

 その奥には世界級(ワールド)アイテムでもある諸王の玉座。

 左右には守護者統括アルベド、第一第二第三階層守護者シャルティア。

 手前には他の各階層守護者、執事セバス、戦闘メイドプレアデス。

 玉座の背後にはモモンガ――さとりの黒歴史たるパンドラズ・アクター。

 そして玉座に座らず、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを掲げて凶悪な笑みで立つのは……。

 軍服のような衣装、剣士じみた眼帯、そして豊かに育った肉体を持つ――初対面の女性だった。 

 

「誰だよお前ら」

「「そっちこそ誰!?」」

 

 

 

 

「はー……このギルド、思ってたより女性人口多かったんだな」

「本当ですよ! 私なんか今日はすごく悩んで来たのに!」

「いや、わたしも本当に悩んだんだよ」

「沙耶さんに言ってるわけじゃありません!」

 

 るし★ふぁーも女性だった。

 本当はこのまま、正体に驚くメンバー相手にPVPを始める予定だったらしい。

 守護者を集めているのも、ギルドメンバーの人数に合わせて参戦させるつもりだったようだが。

 互いの姿への衝撃で吹き飛んでしまう。

 

「お、なんだお前ら名前で呼びあってるのかよ。オレも混ぜろよー」

「名乗ってから言ってくださいよ、って、あんまりくっついたら女同士でもR18で垢BANされちゃいますよ!」

「どうせ、最後の最後で、そこまで弾いてらんないんじゃない? 残り2分きっちゃったよ」

 

 さっきまでの重苦しい空気もどこかに行ってしまった。

 三人で玉座の前に集まり、

 

「モモンガがさとり、ヘロヘロが沙耶か。女の子らしー名前じゃん。オレの名は天龍。フフフ、かっこいいだろう」 

「はいはい、偽名乙」

「偽名じゃねーよ!」

「だいたいその恰好なんですか。わざわざコスプレして初期登録したんです?」

「あー、これな、時間なくて制服のままだったからよ」

「えっ、あの言動で警察官?」

「あー……いや、その……企業軍の方な」

 

 最後の1分も切った中、空気が重くなってしまった。

 

「悪い、言わなきゃよかったな」

「るし――天龍さん、素だとマトモな人なんですね」

「うん、ちゃんと大人じゃない」

「うるせー、ゲームくらいはっちゃけたいんだよ! お前らこそ、最後は暴れて終わるつもりだったのに、痛ましいもん見せやがって!」

「……ごめんなさい」

「……ごめん」

「謝るなバカ、ほんとリアルは、ままならねーよな」

 

 あと15秒。

 

「――これが、たっち・みーのヤツなら、お前らの居場所聞いていろいろ動くんだろけどよ。オレには……教えない方がいいぜ」

「いいですよ。最後で二人も来てくれて、満足です。別のゲームででも会いたいですね」

「次のゲームに……わたしはちょっと無理みたい」

「……」

「そっか……ここの戦友とも、ここまでか」

「沙耶さん、天龍さん、さようなら」

「……さよなら」

 

 あと0秒。

 

「……ん? オレの時計ズレてんのか?」

「いえ、私の時計でももう過ぎてます」

「運営、最後までしまらないねー」

 

 5秒経過。

 

「GMコール……つながりません」

「〈伝言(メッセージ)〉――知り合いのプレイヤーに投げたけど全滅したぜ」

「戦闘職はやることないなー。GMコールはこっちもダメ」

 

 3分経過。

 あれこれとしてみるが、どうにもならない。

 

「あの――」

 

 四人目の声がする。

 

「あれ? 他にも誰か……ってアルベドですか。ちょっと待ってくださいね」

「はい」

 

 しばし間が空く。

 答えたさとりが硬直する。

 天龍がぎょっとした顔で、彼女の名を呼んだ。

 

「アルベド?」

「なんでしょう、るし★ふぁー様。いえ、先ほどの会話からすると天龍様とお呼びするべきでしょうか」

「え、なんで……?」 

 

 アルベドが、心配そうに三人を見ている。

 さとりは硬直したままだ。

 沙耶はおろおろと困惑するばかり。

 

「御三方が女性だったとはびっくりでありんすが、このシャルティア・ブラッドフォールン。つい先ほどるし★ふぁー様に――」

「あんたは黙ってなさい!」

「どうやら至高の御方は、不測の事態に巻き込まれている様子。今は指示を待つべきですよ」

「前衛ノ身デハ役立テヌ様子。我ガ剣ヲ必要トナサレレバドウカ、ゴ用命ヲ」

「ヘロヘロ様……」

 

 階層守護者らが、ヘロヘロに造られたソリュシャンが。

 それぞれに言葉を紡ぐ。

 三人は呆然とした顔で彼らを見て。

 そして互いの顔を見た。

 

「NPCだよな」

「NPCですよ」

「うん、NPCが……」

「「NPCがしゃべってるううううう!!!!」」

 





 つづくか不明。

 鈴木悟=古明地さとり(ぼっち系)、ありじゃない?と思った流れです。
 各原作の設定や能力は、さほど関係ないです。
 あくまで外見を示すまあAAみたいなものと思ってください。
 原作設定を大きく乖離してますが、こういうものと思って許容いただけると幸い。

 どうして10年前後、ゲームしてた彼女らがこの外見年齢なのかは……天龍以外、胸糞な理由なので細かく言及はしません。
 断片的に出て来るかな程度。
 三人だけですがおさらい。
 それぞれ、リアルにおける姿を美化してログインしてます。
 外見が人間種なだけで、データ上はそれぞれの能力スキル呪文を持ってます。
 あと、装備は初期アバターに合わせて三人とも大半を外してます。モモンガ玉のみです。

・モモンガ:古明地さとり(東方地霊殿)
   「私~です」
   リアル事情アリ、読心能力なし、ぼっち
   サードアイはモモンガ玉

・ヘロヘロ:沙耶(沙耶の唄)
   「わたし~だよ」
   リアルではいろいろ事情アリ、外見は幼女
   能力はゲーム内と同じなのである意味で原作通り

・るし★ふぁー:天龍(艦隊これくしょん)
   「オレ~だ」
   企業私設軍兵、かなり汚い仕事もしている、艤装はない
   戦闘センス高いがゲーム内は生産メイン

 るし★ふぁー役は最初は、束(IS)とかダヴィンチ(FGO)とかマユリ(BLEACH)も候補でしたが、転移後に無双どころじゃないので止めました……技術職はチートすぎる。作者の知識も追いつかないし。一方で、行いから正邪(東方)も候補でしたが、原作の違う沙耶が浮くかなと、それぞれ別作品にしました。
 天龍を選んだのは、素で男性的な話し方ができ、子供っぽい悪戯をしそうなキャラというセレクトです。あと、他二人の正体知ったら、普通に親身で守ってくれそう。
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