風鳴訃堂が“美少女”になって護国のために頑張るお話   作:焼きめし

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何となく思いついて書いてみた。


プロローグ

「俄に信じられん。まさか、あの人が危篤状態に陥るとは」

 

 特異災害対策機動部二課の司令官、風鳴弦十郎は緊急の呼び出しに困惑していた。

 彼は幾度となく修羅場を体験している屈強な肉体と精神を持つ強者である。

 彼ほどの男が動揺する事態がこの深夜の病院で起こっているのである。

 

「私とて信じられんよ。しかし、鬼だと思っていた我々の父もまた人の子だったというわけだ……」

 

 弦十郎の言葉に返事をするのは風鳴八紘――内閣情報官として、日本の安全保障を影から支える政府の要人である。

 そう、緊急事態とは彼らの父親である風鳴訃堂が危篤状態にあるという状況である。

 

 風鳴一族の長である彼は御年100歳を超えており、表舞台から姿を消してはいるものの、国防に関する大きな影響力は未だに残しており、ある種の化物として畏怖される存在であった。

 

「それで病室は――? いや、聞く必要などないな。明らかに警備体制が違う……」

 

 弦十郎は厳戒な警備が敷かれている要人専用のVIPルームと呼ばれる病室を見て、自分の父親はそこに居るに違いないと悟った。

 

「私だ……。話は聞いている。で、現在の容態は?」

 

 八紘は風鳴訃堂の側近を見つけて、彼に声をかけた。

 彼は訃堂の身の回りの世話を主に任されていた。

 

「――い、命には別状はありません。危険な状態は抜けました……。し、しかし……、無事とは言えないかもしれません」

 

 側近の男は困ったような表情を見せながら訃堂の容態について話をする。

 このような言い回しに、八紘と弦十郎は眉をひそめる。

 

「妙なことを言う。まさか、どこかに麻痺が残ったとか……」

 

「いえ、五体満足で先ほど食事を終えております」

 

 八紘は訃堂のどこかに後遺症が残ったのかと質問したが、どうやらそうではないらしい。

 それどころか、食事まで済ませたというではないか。

 

「食事をしただとっ……! 俺は危篤だと連絡を受けたのだぞ!」

 

「危ない状態だったのは事実です。しかし、容態が安定して直ぐに旺盛な食欲を見せてまして」

 

 食事という言葉に反応した弦十郎だったが、側近の男は危篤状態は本当だったと言い張ったので、この矛盾に二人は首をひねる。

 

「オムライス、お待たせしました!」

 

「「お、オムライス?」」

 

 さらに別の側近の者がオムライスの乗った皿を持ってきたので、訃堂の息子である二人は口を揃えて料理名を復唱してしまった。

 

「御所望でしたので……」

 

「わからん……。何がなんだかさっぱりだ。中に入っても問題ないのだな?」

 

 とにかく、状況を知るためには訃堂の様子を見る他はない。八紘は中に入っても大丈夫なのかどうか確認をした。

 

「問題はありません。しかし、覚悟をしてください……。まず、見た目がかなり変わっております。そして……、どうやら記憶を失っており、さらに人格が別人のように変化しています」

 

「記憶喪失だとっ……!? それは厄介だな……」

 

「確かに深刻な状態には違いないようだ。しかし、なぜ見た目まで……」

 

 側近の男の言葉に弦十郎と八紘は戦慄して、新たな疑問が沸々と湧いた。

 記憶喪失に人格の変容さらには見た目の変化……。これはどういうことなのか……。

 

「とにかく入るぞ」

 

 二人は覚悟を決めて、側近の男と共に病室へと入る。

 するとどうだろう? 中には自分の父親と思しき老人の姿はない。

 

 その代わりにベッドに横たわっていたのは、空色の髪をした美少女だった。

 容姿は八紘の娘である翼によく似ているが、彼女よりも少しだけあどけなさが残る。

 しかし、その幼い顔に不似合いなほど発育した体は男たちを魅了するには十分だろう。

 

 

「あー! 八紘に弦十郎だー。来てくれたんだね」

 

 少女は八紘と弦十郎の名前を呼んで、笑顔で手招きをする。

 そのはち切れんばかりの屈託のない笑顔は何一つ邪気のない純粋そのものの表情であった。

 

「「――っ!?」」

 

 八紘と弦十郎は不可思議で理解不能な光景に絶句する。

 自分たちは病室を間違えたのか、それとも……。

 彼らは揃って側近の男の“見た目がかなり変わった”という言葉を思い出していた。

 そして、変わりすぎるにも程があると心の中で同時にツッコミを入れていたのだ。

 

「どしたの? 二人とも……。鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してるじゃん」

 

 そんな大の男二人を可愛らしく首を傾げて、覗き込む少女。

 彼女はポカンと口をあけている二人を不思議そうな顔をして眺めていた。

 

「や、八紘兄貴……、俺は夢でも見てるのか?」

 

「見た目が変わっているという次元ではないな……。これは……」

 

 弦十郎と八紘はどうにか現実を受け入れようとするが、常識が邪魔をして未だにそれが出来ずにいる。

 

「失礼を承知で質問させて頂きたい。記憶喪失だと伺いましたが、ご自身の名前は記憶にありますか……?」

 

 先に少女と会話をする決心をしたのは八紘である。彼はまさかと思いつつも彼女に名前を尋ねた。

 

「えっ? あたしの名前? ええーっと、多分なんだけど、風鳴訃堂よ。なんか男みたいだし、古臭い名前で変でしょ? 覚えてたのは、あたしの名前とあなた達二人の顔と名前だけなんだよね〜。あっ! あと、それと訳が分からないことが何個か頭の中に残ってるわ」

 

 少女は平然とした顔をして自らを風鳴訃堂だと称する。

 風鳴訃堂は100歳を超える老人で、性別はもちろん男である。何故にこのような状況が起こったのか?

 

「やはり、この少女が風鳴訃堂なのか……!? 何があった!? 説明してもらうぞ!」

 

 八紘は側近の男に詰め寄り説明を求めた。当たり前だ。自分の父親が変わり果てた姿になったのだから。

 

「そ、それが訃堂様はここ数年……、錬金術師と懇意にされておりまして……。完全な肉体とやらに興味を持たれたのです」

 

 側近の男は話した。訃堂はとある錬金術師と名乗る者と親しくしており、その錬金術師が話していた“完全な肉体”というものに興味を持ったと……。

 

「錬金術師? そして、完全な肉体……?」

 

 弦十郎は不可解な言葉を聞き、その言葉を復唱する。

 

「完全な肉体とは、錬金術の奥義で形成される悠久の生をもつ身体ということです……」

 

「では、お、親父は自らの体をその完全な肉体というものに変化させようとしたのか……」

 

「左様でございます」

 

 側近の男によれば訃堂は自らの肉体を完全な物に変化させる錬金術の奥義によって体を変質させたのだそうだ。

 

「しかし、どう見ても女性に見えるが……」

 

「生物学的により完全な身体構造なのが女性の身体なのだとか……。そして精神がより新しい身体に馴染むように擬似的な人格を脳に植え付け、自らの記憶を消去されました」

 

「ぎ、擬似的な人格……? なるほど、それで人が変わったように……」

 

 さらに訃堂はより完全になるために女性の体に性転換して、その体に馴染むような擬似的な人格を脳に植え付けて別人に生まれ変わったと側近の男は説明する。

 その説明を聞いて八紘と弦十郎は一応は現在の状況を理解した。

 

「訃堂様はお二人に遺言を残しております。護国の為に翼様に家督を継がせようと考えていたが、彼女が鬼になるまでには時間がかかりすぎる。それ故、自分が完全な生命体となり再び護国の為の鬼として戦うと……。その準備は既に終えているので、お二人は訃堂様の意志を尊重して迅速に行動をするように、と……。例えば、特異災害である“ノイズ”……、それに対抗する手段も自ら手に入れたと仰っておりました」

 

 訃堂は護国の鬼と形容される国粋主義者である。

 国家基盤が守ることが出来れば、多少の犠牲は厭わないという苛烈な思想を持ち、それを実践してきた。

 

 その彼が自らの後継者として八紘の娘である風鳴翼を指名していたが、彼女が一人前になるまで待つことが我慢出来なくなり、自分自身を改造することを選んだとのことだ。

 

 そして、新たな護国の鬼となった自分自身を国防の為に使うように、と遺言を残して自らを息子である二人に託したという話らしい。

 

「護国の鬼……、か。しかし……、そう表現するには余りにも……」

 

「そうだな。何かの計算外が起こったとしか思えん。少なくとも風鳴訃堂の意志とは別の方向に進んだとしか……」

 

 だが、息子である二人は目の前にいる少女を見て確信したことがある。

 この娘は訃堂の望んだ護国の鬼ではない。

 その証拠に彼女には自分たちの知る、ある種の物の怪のようなおどろおどろしい父親の影は微塵も残っていなかった。

 

 恐らく、変化する過程で何か想定外の事態が起こり、それが人格などに影響したのだろう。

 

「ねぇ、二人とも。難しい話をしてるとこ悪いんだけどさ。どっちがあたしのパパなの? だってそうでしょう? 同じ姓であたしが名前を覚えてて、年齢的に考えてもそうとしか考えられないもの」

 

「「…………」」

 

 自分の父親だった少女からの思わぬ質問に、二人の男は再び絶句した。

 

「八紘兄貴……、俺は現場の人間だ。こういう事はやはり、兄貴が……」

 

「弦、私はお前と違って普通の人間だ。自分の父親が少女になった時、どのような対応をすれば良いのかなど分かるか……」

 

 そして、二人はこの厄介極まりない状況をどうにか互いに押し付け合えないものかと思案した。

 風鳴訃堂に対する畏怖が彼らから正常な判断力を奪っていたのだ。

 

「あたしは八紘の方だと睨んでるんだよね〜。だってさ、弦十郎は何だか独身臭いし」

 

 訃堂だった少女は悪戯っぽい笑みを浮かべて、上目遣いで八紘と弦十郎を見つめる。

 彼女のことを全く知らない男がこのような仕草を目の当たりにすると、たちまちの内に彼女の虜になるだろう。

 

「――ぐっ……、一から説明するしか無さそうだな……。単刀直入に言いますと、俺たちは二人ともあなたの息子です」

 

 そんな彼女に対して、意を決して自分たちと彼女の関係を告げる。

 

「はぁ? あ、あたしがあなたのママってこと!? (うっそ)だぁ〜。まさか、弦十郎ってそういう趣味を持ってんの? バブみに飢えてるっていうか〜」

 

 しかし、少女は弦十郎の言うことを微塵も信じない。

 それも無理はない。彼女の見た目の年齢はどう考えても彼らよりも二回りは下である。彼女には記憶がないのだから、彼らの親であるような荒唐無稽など信じられるはずがないのだ。

 

「ば、バブ……? ――い、いや、あなたは母親ではない。俺たちの父親だ……」

 

「父親……? いやいや、あり得ないっしょ! えっ? あたしって2児の父親のニューハーフなの!? というか、あたしって年齢幾つ?」

 

 さらに追い打ちをかけるように事実が少女に告げられる。

 彼女は言われたことが分からなくなって混乱していた。

 

「落ち着いてください。最初から私が説明します。まず、あなたはこの国の――」

 

 これでは埒があかないと、八紘は順を追って説明を開始した。

 風鳴訃堂という人物がどのような人物なのかということから始まって、現在に至る過程まで……。

 

「――というわけです。つまり、あなたは国防の為に自らの身体を変化させて記憶を失い、新しい人格を植え付けられた……。ご理解出来ましたでしょうか?」

 

「全っ然わかんない。あたしがこのお爺さんだったなんて、悪い夢だと思いたいわ……」

 

 八紘の説明を聞き、風鳴訃堂の写真を見た少女は首を横に振って泣きそうな顔をする。

 どうやら現実が受け入れられないみたいである。

 

「どうする? 八紘兄貴、鎌倉に戻したところでどうなるか分かったものじゃないぞ」

 

「うーむ。とりあえず、お前のところで預かるか?」

 

 そんな少女を見つめながら弦十郎と八紘は話し合いを開始して、八紘は弦十郎が司令官を務める特異災害対策機動部二課に身を置かせることを提案した。

 

「お、俺の!? しかし……、親父はイチイバルの一件で……」

 

 風鳴訃堂は特異災害対策機動部二課の初代の司令官だったが、聖遺物であるイチイバルの紛失の責任を取らされて引退に追い込まれた過去がある。

 弦十郎はその一件を気にしていた。

 

「関係あるまい。誰もあの姿から風鳴訃堂を連想することはないだろう。それに――今は戦力が少しでも欲しいのではないか? その消えた錬金術師とやらによれば、特異災害“ノイズ”に対抗出来る手段があるみたいではないか……。弦……」

 

 八紘は誰も彼女を訃堂だと連想しないと口にして、“ノイズ”に対抗する戦力の必要性を彼に説く。

 

「ぜ、前線で戦わせるのか? そもそも、シンフォギア以外で“ノイズ”と戦うなど本当に出来るかどうか分からんのだぞ。もしものことがあれば……」

 

 弦十郎は訃堂だった少女を前線に立たせることに難色を示し、“ノイズ”に対抗する手段があることに対しても懐疑的であった。

 

「風鳴訃堂という男が何の確信も無しにこのような事をして、遺言など残すはずが無かろう。特異災害“ノイズ”には十中八九対抗出来るはずだ」

 

 しかし八紘は力説する。訃堂は何の確証もなく自らを改造したりしないと。

 必ず“ノイズ”に対抗出来る手段を手に入れているはずだと……。

 

「“ノイズ”ってアレのこと? 人を炭素に変えちゃう、化物みたいなやつだっけ?」

 

 そんな二人の会話を聞いていた少女は“ノイズ”について言及をしてきた。

 どうやら“ノイズ”については記憶にあるらしい。

 

「“ノイズ”のことは覚えておられるのですね?」

 

「弦十郎も八紘も、タメ口でいいよ。堅苦しいのは苦手でさー。ええーっと、“ノイズ”だっけ? 何か頭の中に残ってた。コレを使って護国の鬼となり敵を打ち消せってね」

 

 少女は胸の谷間からネックレスのような物を取り出して“ノイズ”への対抗手段だと話した。

 

「これは“ギアペンダント”……? いや少し違うか……」

 

 彼女の持っているネックレスはシンフォギアを纏う為に必要なアクセサリーと形状は似ているが、若干異なっていた。

 

「“ファウストローブ”って言うらしいよ。未完成品だから、身体能力は上がらないけど、炭素分解を防御して、“ノイズ”の実体を捉えることが出来るんだって。()()()天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)の欠片の力を使ってるとか何とか……」

 

 少女は持っているネックレスを“ファウストローブ”だと説明した。

 どうやら、聖遺物の力を纏うという点では同じタイプのアイテムらしい。

 

天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)……、草薙の剣か……。風鳴の家宝である群蜘蛛(ムラクモ)とは違うのか? いや、そんなことはどうでもいい。この“ファウストローブ”とやらが“ノイズ”を倒す力を……」

 

 弦十郎は少女の説明を聞いて、興味深そうに“ファウストローブ”を見つめる。

 

「決まりだな。弦……。お前が面倒を見ろ。その子はもはや我々の父親とも言えぬ存在だ。だからこそ、親父は遺言を残した。ならば、我々はそれに従う他にあるまい」

 

 八紘は少女は訃堂ではあるが、別人として扱った方が良いと話した。

 そして、訃堂が国防の為に彼女を使って欲しいと望んでいるのなら、それに従うべきとも……。

 

「――ふぅ……。それ以外に方法はないか……。それで翼の負担が減らせるのなら……、と割り切って考えよう」

 

 弦十郎も諦めたような顔をして、彼女を新たな戦力として割り切る方向にすることにした。

 

「ふーん、あたしは弦十郎に付いて行けばいいのね。――そうだ、一つだけお願いがあるんだけど……、いいかしら?」

 

 その会話を聞いていた少女は弦十郎に付いていくことを理解して、その上で願い事があると口にする。

 

「ん? なんだ? 言ってみてくれ」

 

「いや、訃堂って名前って、全然可愛くないからさ。あたしらしい、可愛い名前を欲しいなぁって、思っちゃったりして。えへへ」

 

 彼女の言葉に弦十郎が返事をすると、少女は新しい名前が欲しいと望んだ。

 照れくさそうにハニカミながら……。

 

「可愛い名前……、だとっ!? 八紘兄貴、バトンタッチだ。俺が厄介事を預かるのだから、それくらいは頼む」

 

 思わぬ無茶振りをされた弦十郎は困り果てた表情をして、八紘に助けを求める。

 

「わ、私が親父の新しい名前を……? くっ……、そうだな……。――風鳴美羽(みう)というのはどうだ?」

 

 八紘も言葉を詰まらせたが、少しだけ沈黙した後に、彼女に美羽(みう)という名前を提案した。

 

美羽(みう)かぁ……。まぁ訃堂よか、マシね。いいわよ。それで……。じゃあ、あたしは今日から風鳴美羽ってことで! よろしく! 弦十郎! あっ、オムライス包んどいて!」

 

 風鳴美羽という名前を貰った風鳴訃堂だった少女はニコリと微笑んで、弦十郎の腕に抱きつく。

 その天真爛漫な少女の姿からはあの護国の鬼として恐れられていた父親の面影は全く残っていなかった。

 

「うおっ! ううむ……、もう親父だと考えないようにしよう……。そうしないと、精神が保たん……」

 

 そんな美羽の様子を見て弦十郎はたじろぎながらも彼女を自分の父親だと思うことを止めようと決意する。

 この日から風鳴美羽の波乱の物語がスタートした――。

 

 




次回からは訃堂改め美羽視点でスタート。
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