風鳴訃堂が“美少女”になって護国のために頑張るお話 作:焼きめし
「ねぇねぇ、翼ちゃん。こんな所に呼び出してどうしたの? まさか、愛の告白とか?」
“ノイズ”と戦ったあと、メディカルチェックを受けて、あたしは翼に訓練室って場所に連れてこられた。
ちょっとは歩み寄ってくれるのかしら?
「武人として、一戦手合わせ願いたい」
あたしは翼から訓練用の模造刀を渡されて、戦いたいと言われた。
いやいや、なんで決闘の申し込みをしてんのよ。そういうのが最近の若い子の流行りなの?
「えーっ、やだー」
「子供みたいな言い方をしないでくれる?」
あたしが拒否すると翼は眉をひそめて不機嫌そうな声を出す。
普通に拒否するところだと思うけどなぁ。タイマン張るってうら若き女子高生のすることじゃない。あたしは爺さんらしいけど、嫌なもんは嫌だ。
「そもそも、なんで、あたしが翼ちゃんと戦わなきゃいけないの?」
あたしは本当に理屈がわからなかったので、翼が戦いを挑む理由を尋ねた。
気に食わない奴は締めるみたいな、そんな感じ?
「その軽い性格はともかく、お前の剣技は私が追い求めていたものに近い。鋭く研ぎ澄まされた無駄のない動きから成る必殺の一撃……。お前と戦えば、何か掴めそうなんだ」
翼は生真面目に自分が強くなるためにあたしと戦いたいと言ってきた。
確かに訃堂って奴は剣術の達人だったみたいで、刀を手にした瞬間に体の中に残っていた剣術や体捌きの記憶が蘇り、理屈から戦闘の勘みたいなものまで全て体に刻まれた。
だから、あたしはさっきの戦いでまったく覚えのなかった剣技みたいなものが使えたのだ……。
翼はそんなあたしの剣術を体感してみたいのか。これは使えるかもしれないわね。
「そっかぁ。そういうことね。うーん……。じゃあさ、手合わせしてみてあたしが勝ったら、1日遊びに付き合ってよ」
「――遊びに? なんで、私がそんなこと!?」
あたしは自分と戦う代わりに遊びに付き合えという条件を聞くと、露骨に嫌な顔をした。
そんなに嫌がられるとショックなんだけど……。
「だってさ。あたしに時間を割いて翼ちゃんのやりたい事に付き合えっていうんでしょ? イーブンだと思うけどなぁ」
「そ、それはそうだが……。わかった。私が勝てば付き合わなくて良いのだな?」
しかし、あたしが自分の理屈を述べると思ったより素直な翼はあっさりとそれを飲み込んだ。
彼女は勝つ気みたいだけど、そうはいかないぞ。
「それでいいわよ。早く始めましょう」
あたしは模造刀を下段に構えながら、翼と戦うことを了承する。
やっぱり、臨戦態勢になると血液が熱くなるような感覚になるなぁ……。
「――空気が変わった? やはり、剣豪の気配が……。私よりも年下なのに……。くっ、恐れてどうする! いざ、推して参る!!」
翼は少しだけたじろいだが、首を横に振って突き技を放ってきた。
えっ? 完璧に殺る気満々じゃん。
「わおっ、いきなり喉元から来るなんて。模造刀とはいえ、危ないじゃん。あたしが死んじゃったらどうすんのさ」
あたしは翼の刀の軌道を観察しながら、彼女の鋭い突きを躱す。
全部、急所を狙ってる……。これ、避けなきゃヤバイやつじゃない。
「あ、当たらない! これだけ、打っても一度も……! まるで風と戦っているみたいだ……!」
バカ! 避けなきゃ痛いじゃ済まないでしょう。寸止めすることも忘れてるし……。
もしかして、この子は天然なの? 仕方ない……。早めに終わらせましょう。
「
あたしは翼の突きを掻い潜り――刀の切っ先を翼の眉間に突きつける。
「――っ!? あっ……!?」
彼女はまったく反応出来なかったみたいで、目の前に刀の切っ先がいきなり出てきた事に驚いて尻もちを付いてしまった。
やばっ……、ちょっと刺激が強かったか……。
「はい。あたしの勝ち」
あたしは刀を鞘にしまって、翼に手を貸そうとする。
まぁ、シカトされるんだけど……。
「はぁ……、はぁ……。――今の気迫は……、弦十郎叔父様にも勝るにも劣らない……。あ、あなたは一体……、何者なの!?」
翼は弦十郎と同じくらいの気迫を感じたと言った。弦十郎って強いのかな?
そして、あたしが何者なのか問いかける。それは言っちゃダメなんだよね……。
「さっきも言ったけど、あなたのパートナーよ」
「そんなことは聞いてない! どうやって訓練すればそこまで強くなれるのかと聞いている!」
あたしが彼女のパートナーだと告げると、彼女はどうやって強くなったのか質問する。
彼女は力に飢えているのね……。
「――分からないわ」
「ふざけているのか?」
「あたし、記憶が無いのよ。昨日までの……。気が付いた時は病院でさ。だから、どうしてこんな力を持っているのか分かんないの」
あたしは翼に自分の記憶が無いことを説明した。
これくらいは隠し通せることじゃないし、言ってしまってもいいだろう。要するに爺さんってことを黙ってればいいんでしょ?
「き、記憶がない? 記憶喪失ってこと?」
「そうみたい。だから、あたしには翼ちゃん以外にお友達が居ないのよ」
記憶喪失という言葉を聞いて、翼はちょっとだけ気の毒そうな顔する。
やっぱり、根は優しい子なのね。情が深いから親友が亡くなって深く悲しんでいるんだわ……。
「そうか……。――って、私はあなたの友達になった覚えはない!」
しかし、意外と冷静に人の言葉を聞いているみたいで、ドサクサ紛れに友達と言ったら、そこはキッチリと否定してきた。
「ちっ……。でも、少しだけ距離が近付いたきがするなぁ。だってさ、翼ちゃんはあたしのこと
「うっ……、それは……。悔しいが、あなたの剣の腕の方が上だから……、敬意を持って……。別にあなたと馴れ合おうとは、思ってないわ」
翼があたしの呼び方を変えたことを指摘すると、彼女は剣の実力だけは認めると言ってくれた。
とりあえず、剣術が上手くて良かった。
「なーんだ。残念。じゃあさ、教えてあげようか? 剣術……。強くなりたいんでしょう?」
「あ、あなたに剣術を? 良いのか?」
あたしが彼女に剣術を教えると言うと、彼女は満更でも無さそうな表情を見せる。その辺はプライドとかはないのだろうなー。やっぱり素直な子ね……。
「もちろんよ。あたしは翼ちゃんのパートナーなんだから。ずっと一緒に居るつもり」
「それじゃあ、今から……」
あたしが剣術の指南をすることを了承すると
翼は少しだけ嬉しそうな顔をする。思ったより表情は豊かみたいね……。
「あっ、でもぉ……。あたしが勝ったら遊びに付き合ってくれるんだっけ?」
「うっ……、そうだったな」
あたしは約束の遊びに付き合うという話を持ち出すと、彼女はバツの悪い顔をして、がっかりしていた。
「冗談よ。翼のやりたい事をやりましょう。遊びは、あなたが気が向いたときに付き合ってくれれば良いわ。あたしはあなたの側に居られればそれでいい」
「美羽……」
まぁ、それは冗談なんだけど……。別に彼女の側に居ることが目的で条件を出したのだから、それが剣術の稽古でも問題ない。
それにしても、翼があたしを――。
「あはっ……、初めて名前で呼んでくれたわね。ありがとう」
「そ、そんなに嬉しいものなのか?」
あたしが彼女に名前を呼ばれて喜んでいると、彼女はそれを不思議そうな顔をして、驚く。
「そりゃあ嬉しいわよ。また一歩、翼のお友達に近付いた。あたしは友達が居なくて孤独だけど、あなたも孤独の中にいるから、いつか一緒に飛び上がりたいなぁ」
「――っ!? 奏の事を……、聞いたのか……」
あたしが孤独という言葉を口にすると彼女はあたしが天羽奏の話を聞いたことを察した。
そういうのは鋭いのね……。
「まあね。あたしには大切な人が居ないから、あなたの気持ちは分かんない。でも、あなたの寂しかったり、悲しかったり、辛かったり……、そんな感情を少しだけでも楽にしてあげたい。あたしじゃ、あなたの失った人の代わりになれない事はわかっているけど」
「そうだ。誰も奏の代わりになどなれない」
死者の代わりなど誰も出来ない。だから命というのは尊いのだ。
翼はそれが分かっているからこそ、かけがえのない人を失った悲しみに打ちひしがれている。
彼女の顔はどんなときも悲しみに満ちていた。
「ええ……、そうね。でも、あなたは前に進まなきゃいけない。ほら、稽古つけてあげる。思う存分、打ってきなさい」
あたしは湿っぽい話にしてしまったことを悔みながら、翼にかかってくるように促した。
ならば、彼女が抱えている闇を少しでも忘れられるように何かに没頭させるしかない。
「――嗚呼! もちろんだ! いくぞ!」
翼は刀を掴んで突進してきた。朗らかな顔付きになって……。
「脇閉めて、腰引いて、ほら、足元が隙だらけだから……」
あたしは鞘で翼の体を突きながら、ダメ出しをする。
そして、足下の守りが疎かだったので、脚払いをかけて転ばせた。
「うっ……、まだまだ!」
しかし、翼はその程度ではまったくめげないで、すぐに立ち上がり再びあたしに向かってきた。
そして、しばらくの間――向かってきては倒すを延々と繰り返した――。
「はぁ……、はぁ……、割と容赦がないな……」
「あら、手心を加えて欲しかったの?」
翼は息を切らせながら稽古がキツかったと溢したので、あたしは手加減した方が良かったかどうか尋ねる。
「ふっ……、いや、これでいい。礼を言う」
翼は厳しい方が良いと言って、僅かに口角を上げてお礼を言ってきた。
良かった。結構、コテンパンにしちゃったから怒られると思っていたわ。
それにしても――。
「あっ! 翼ちゃんが笑った。やっぱり可愛い〜。あたしに似て!」
「笑ってなどいない! き、気のせいだ……!」
あたしが翼が笑ったことを指摘すると彼女は顔を真っ赤にして気のせいとか言ってくる。
いやいや、そんなはずないから……。
「わかった、わかった。じゃあご飯食べ行こっか? それくらいは付き合ってくれるでしょ?」
「むぅ、それくらいなら……」
翼は笑顔は否定してきたけど、ご飯をあたしと一緒に食べようという提案は受け入れてくれた。
「やった。じゃあ行こうっ! あたし、オムライス食べたいな」
「――っと、ふぅ……、美羽は強引だな……」
あたしが彼女の手を無理やり掴んで走り出すと、彼女は溜息をついたが振り払うことはしなかった――。
これって一歩前進かな? このまま翼と友達になれればいいけど――。
それからもあたしは割と強引に翼と一緒に居ようとした。
稽古をつけて、ご飯を一緒に食べて、歌のイベントみたいなのに付いていったりした。
緒川って翼のマネージャーやっていたんだ……。
ちなみにあたしは弦十郎と一緒に住んでいる。彼の家は割と大きめの和風の家でびっくりした。
もう少ししたらリディアン音楽院とかいう学校に転入生として入れさせてくれるんだそうだ。
これは、16歳の少女が真っ昼間に司令室に居ると世間体が悪いかららしい。世間体とか考えるのね……。まぁ、学校とか面白そうだし、楽しみにしてよっと。
それから、日にちが経って転入が間近に迫ったとき……。あたしは弦十郎と緒川にブリーフィングルームとやらに呼び出された……。そして、そこには翼も居た……。
「実は美羽さんにお願いがあるんです。それは――」
緒川から話を聞いたあたしは目を輝かせてしまう。
「えっ? あたしがアイドル? 翼と組んで? うわぁ〜、楽しそう!」
緒川の話とはあたしを翼と組ませてツインボーカルユニットとしてデビューさせるという話であった。
「はい! 以前、美羽さんが翼さんのレコーディングの現場にいらっしゃった時に、もの凄い反響でして。翼さんのルックスに似た謎の美少女ということで……。僕としても美羽さんって、アイドル向きの性格をされていると思うんですよ。歌もこの前、聴かせて貰いましたがお上手でしたし」
緒川はいつもの3倍くらい楽しそうな顔をしながら、あたしのデビューについて力説する。
ええーっと、彼って本職がエージェントの方なのよね?
「ちょっと! 緒川さん!」
「緒川、美羽をアイドルっていうのは……!」
しかし、弦十郎も翼もあたしがデビューすることを嫌がった。
弦十郎は多分、自分の父親がアイドルになるなんて耐えられないみたいな理由なんだろうなー。
「まぁまぁ、聞いてください。この時代、やはりソロ活動よりもユニットとしての活動の方がプロモーションの影響力が段違いなんです。美羽さんは見栄えも良いですし、きっと翼さんの夢の手助けにもなるはずです!」
しかし、緒川は折れない。これは翼の為になると確信していると言って譲らない。
こりゃ、絶対にマネージャーを本職だと考えているわ……。
「しかし、ツインボーカルユニットを組むということは……。その、ツヴァイウィングを……」
「それはダメよ。あたしは別の名前でやりたいわ。翼とやるんだったら……」
あたしは翼がツヴァイウィングの名前を出したので、その名前で活動することを嫌がった。
だってそれは翼の――。
「えっ?」
「あたしは翼の心の中の奏さんを大事にしたい。だから、彼女の代わりみたいになるのは嫌だな」
翼が意外そうな顔をしていたので、あたしは自分の思っていることを話す。
あたしはあたしとして、彼女を支えられるような人間になりたい。
「美羽……、あなた……。いいえ、やっぱり私はツヴァイウィングの名前を使いたい。今度はあなたと一緒に……。きっと奏もその方が喜ぶはず……」
翼は奏の想いも共に受け継いで、あたしと一緒に新しいツヴァイウィングとして活動したいと口にした。
「そうですか。ははっ……、やっぱり美羽さんは翼さんのパートナーにピッタリかもしれません。それでは、新生ツヴァイウィングのデビューの準備はお任せください」
それを聞いた緒川はあたしのデビューの準備を進めると張り切る。それはもう、ウキウキしながら……。
あたしは翼がツヴァイウィングの名前を一緒に使いたいと言ってくれて、ちょっと嬉しかった。
弦十郎は最後まで渋い顔をしたが、本当のことを言うわけにもいかずに最終的には止めることを諦めた。
その後、あたしは翼の妹という設定でデビューが決まる。新生ツヴァイウィングの一員として――。
おそらくはこの世界で最高齢のアイドルが登場。
風鳴訃堂、メジャーデビュー決定。
弦十郎は緒川にくらいは話しておくべきでした。
感想とか貰えると嬉しいっす。