風鳴訃堂が“美少女”になって護国のために頑張るお話 作:焼きめし
脳内でジジイを思い浮かべるのは自由です。
《私、風鳴美羽――16歳。アイドルやってま〜す。
趣味は読書と料理で、好きな食べ物はふわふわのオムライス。
お姉ちゃんの翼ちゃんが大好きでーす。歌はもちろんですけど、これから色々な事にお姉ちゃんと一緒に挑戦しようと思ってまーす。
よろしくお願いします(さり気なく胸を強調しながら)》
あたしのデビューの準備は凄まじい勢いで進んでいる。今、あたしは可愛い衣装を身に着けて行ったプロモーションムービーの撮影を終えたところだ。
「いやぁ、美羽さん。素晴らしいです! この調子でいきましょう!」
緒川は満面の笑みで拍手してくれて、映像の確認作業を開始する。
やっぱり、本職はマネージャーなんじゃないだろうか? この人は――。
「あ、あのう。緒川さん……? 気のせいかもしれませんが、以前のツヴァイウィングと少し毛色が違うような……。この衣装も前とかなり違いますし……」
翼は新しく生まれ変わったツヴァイウィングの雰囲気が前と違うことに戸惑っているみたいだ。
確かにあたしが見せてもらった映像のツヴァイウィングは妖精みたいなファンタスティックなドレスみたいな衣装だったけど、今回の衣装は何か制服っぽい感じ。
まぁ制服にしては露出度が高いんだけど、おヘソ丸見えだし……。
「はい! 日々、アーティストの業界は流行りが変化していってますから、その時代に合わせるのは当然です。それに、今度のツヴァイウィングは奏さんの代わりではなく、新しく美羽さんが加入といった形にしたいので、これまでの雰囲気を一新しようと思いまして……。心配されなくても大丈夫です。曲のイメージなどは、初代からの雰囲気をそのまま残しますから!」
しかし、緒川は翼の声に対して熱のこもった言葉で返事をする。
その迫力は有無を言わせない感じで、反論など出来るはずがない。
「は、はぁ……。わかりました……。あの冷静沈着な緒川さんがこんなにイキイキするなんて……」
さすがの翼もこれ以上何かを言うことを諦める。
ポカンとした表情を彼女が見せるのも珍しい。
「慎ちゃーん。どーだった? あたしのプロモーションの映像」
「ええ! 今確認しましたが、映像の方もバッチリでした! それでは次はジャケットの写真撮影に行きましょう!」
緒川は上機嫌そうに笑いながら、次の現場にあたしたちを案内した。
こうして、あたしと翼の新生ツヴァイウィングの1作目のシングルはトントン拍子に作成されて、レコーディングを終えてすぐに発売される。
発売と同時に話題となったこのシングルは記録的なヒットとなり、あたしはたちまちの内に有名人になってしまった。
そして、CDが売れれば売れるほど、弦十郎の表情は複雑になっていったのだった――。
◇ ◆ ◇ ◆
「ねぇ、弦ちゃん」
「…………」
あたしは弦十郎に話しかけるが、彼は難しい顔をしてパソコンと向かい合っているので、あたしの声にまったく気付かない。
「ねぇ、弦ちゃんってばぁ!」
「うぉっ! なんだ、一体!? 大声を出して……」
あたしが彼の耳元で大声を出すと彼は少しだけ飛び跳ねて、あたしの顔を見る。
やっと、気が付いた……。もう、エッチなサイトでも見ていたのかしら?
「どお? あたしの制服姿、可愛い?」
リディアン音楽院の制服を着て、クルリと一回転して見せて、弦十郎にあたしの制服姿の感想を聞く。
「どうしても、感想を言わなきゃダメか?」
弦十郎は色んな感情を圧し殺したような表情であたしの制服姿を見て、そんなことを言う。
「そうね。慎ちゃんが用意してくれた衣装を見たときと同じ顔してるし、あんま気に入ってないのかなーってのは何となく伝わってる」
弦十郎は緒川が発注したあたしと翼の衣装を見たときも同じ
多分、あまりいい気持ちではないのだろう。あたしが弦十郎の父親の爺さんだから……。
「なら、勘弁してくれ。美羽と翼がユニットを組んでCDを出したことがバレて、俺が兄貴にどれだけ説教されたか……。あの滅多に感情を表に出さない兄貴があれだけ――。はぁ……」
弦十郎はあたしがアイドルデビューすることについて、なぜ止めさせなかったのかとかなり責められたらしい。
そっか、八紘もそんなに嫌だったんだ。翼が寂しくないようにしようと思ったんだけど……。
あっ! それじゃあ、あれも――。
「えっ? 八っくんの携帯にあたしの制服姿の写メ送ったのもまずかった?」
あたしは制服姿を自撮りした写メを八紘の携帯に送ったことを思い出した。
「だはぁっ!? ――ぐっ、兄貴からの着信が20件だとぉっ!?」
弦十郎は慌てて自分の携帯を確認すると、八紘からの着信が相当数入っていたらしい。
もしかして八紘にかなりストレスを与えちゃってる?
「ていうか、これくらいでそんな反応してたら、将来結婚とかしたらどうなるの?」
あたしは自分が結婚とか言ったら彼らはどんな反応をするのか気になって、それを弦十郎に質問する。
「――結婚? き、君は結婚がしたいのか?」
「うん。結婚もしたいし、子供も産みたい」
弦十郎が驚いた顔をしていたので、あたしは自分の願望を正直に伝えた。
やっぱり、ダメかな……?
「こ、子供まで……、ふぅ……。――この子は親父じゃない、この子は親父じゃない……。そ、そうだな。良い人が現れるといいな……」
弦十郎は何か念仏のようなことを唱えて、あたしの願いを尊重してくれた。
彼はいい人だと思う。心が広くて優しい……。
「むぅ、顔引きつってる。無理しなくてもいいわよ」
「すまん。どうしても俺の親父、風鳴訃堂の影がチラついてな」
多分だけど、弦十郎や八紘にとって訃堂はただの父親じゃないんだろう。
それは何となく分かる。だって、この力はちょっと普通じゃないし。お爺さんがこんな姿になるって発想を持つ自体どうかしてるし……。
「そっか。ごめんね、はしゃいじゃって。転入初日から遅刻するわけにはいかないから、もう寝るね。おやすみなさい」
「あ、ああ。おやすみ」
あたしは弦十郎に先に寝ると伝えて、自分の部屋に行って眠った。明日は学校か……。楽しみだなぁ。
そして、翌日――。
「風鳴美羽です。変な時期に転入しましたが、仲良くしてあげてください! よろしくお願いしまーす!」
あたしはリディアン音楽院の高等部の1年生に転入した。翼は同じ学校の2年生だ。
少しだけ緊張したけれど、友達もいっぱい作りたいから愛想良く挨拶をする。
「すごーい。風鳴美羽が転入してくるなんて」
「やっぱり、お姉さんと同じ学校にしたかったから?」
「CD買ったよー。サインしてー」
おおーっ! アイドルデビューしたことがこんなにも役に立つなんて。あたしって、結構注目されてるじゃん。
わー、CD買ってくれてありがとう!
あたしは、さっそくクラスメイトと仲良くなれた。
特に綾野小路、五代由貴、鏑木乙女の仲良し3人組とは直ぐに打ち解けて、学年が上がる頃にはかなり親しくなっていた――。
「これが学生生活なのね……! 楽しいじゃない!」
記憶喪失になって学校とかそういうのは概念でしか知らなかったけど、体験するとめちゃめちゃ楽しくて、あたしは幸せだった。
ずっとこんな生活なら良いんだけど……。
「翼ちゃーん。一緒にご飯食べよう!」
お昼になって、あたしは直ぐに翼の教室にダッシュする。
あまりに早く走り過ぎて、先生に怒られちゃったけど……。
「美羽……、わざわざこっちの教室に来なくても……」
翼はあたしが教室まで来たことに驚いて目を丸くしていた。
ありゃ、押し付けがましかったかな?
「あら、先約があったのかしら?」
「そ、そういうことではないが……」
あたしが先約があったのか質問すると、翼は特に誰かと食べる約束はしていないと答える。
あー、良かった。これが無駄になるところだった――。
「あたし、翼ちゃんに弁当を作ってきたんだ。ほら」
最近、料理に凝っていて、美味しいものを自分で作れるように頑張っている。
弦十郎も最初は訝しい顔をしていたが、今は普通にあたしの手料理を食べている。
「私に弁当? こ、これ、美羽が作ったのか?」
「そうよ。結構上手に出来てると思うんだけどな。食べてくれる?」
翼は弁当を感心したような顔で観察していたので、あたしは彼女に食べてほしいと希望を伝えた。
「あ、ああ。せっかくだし、頂くわ……」
「どお? 美味しい?」
翼は弁当のおかずを箸で摘んで、口に運んだので、あたしは彼女に感想を尋ねる。
「――おいしい」
彼女は何かを考え込むような顔をして、つぶやくように答えた。
えっと、その表情はどんな表情?
「じゃあ、何でそんな顔してるのよ?」
「ああ、それは――私などにこんなに温かい食事を作ってくれるなんて……、と不思議に思ってな」
あたしが翼に変な表情の理由を聞くと、彼女は弁当が温かいとか言い出す。
何を言っているのか、わからない……。
「冷めてるわよ。弁当なんだから」
「いや、温かいよ。この弁当は……」
「変な翼ちゃん」
「そうだな。私は最近変なのかもしれん……」
翼は自分が変わったと感じていて、それに戸惑っているみたいな事を話し出した。
あたしは翼との距離が縮んで嬉しかったけど、彼女は悲しみが消えて風化してしまうことを恐れているみたいだ。
大事な人を亡くした彼女の悲しみは計り知れないし、その人への気持ちを強く持つことは尊いと思う。
しかし、それに縛られて一歩を踏み出せないなんて、救いがないじゃないか。あたしは時間がかかっても彼女を引っ張り上げたいと思っていた。
何も知らなかったから――。あたしにはそんな権利が無いことも――。
学校生活にも慣れてきたある日、あたしは深夜にどうしてもラーメンが食べたくなって、少し離れた美味しいラーメン屋までカロリー消費がてら走って行った。
100キロくらい走ったらラーメン一杯くらいノーカンでしょ?
ふぅ、もう少しで着くはずだけど……。ん? 何かしら? 爆発音みたいなのが聞こえたけど……。
あたしは音のする方に足を向けると、大きな自然公園の中で金髪の小さな女の子が何者かに追いかけられている。
「はぁ……、はぁ……。くっ……、ここまでか……。まさか、このオレが自分の作った人形に……。いつも通りの力さえ使えれば――」
「憐れなマスターよ。せめて派手に死んでもらおうか」
金髪のオレっ娘に襲いかかるのは、手にコインを携えて、それを飛ばそうとしている人形のような人……。ていうか、人形そのもの?
で、その人形が金髪の女の子にコインを物凄い勢いで飛ばしたの。
これって何かの撮影ってわけでもないし、やだ、大変じゃない。
「危ないっ!」
あたしはスピードを上げて金髪の女の子を抱えて、コインから彼女を助けた。
コインは大爆発を起こして、公園の遊具は粉々に砕け散る。
あのコインは爆弾か何かなの? 物騒な物を持ってるわね……。
「大丈夫? 怪我はない?」
「――っ!? お、お前は……? どうやってオレを抱えて……?」
少女は自分が助けられたことが不思議でならないようだ。
まぁ、普通ならあたしたちが粉々になっちゃうわよね。
「ほう。私のコインを避けるとは、地味にやるらしい。しかし、我らのマスターを庇っても何の得にもならんぞ」
変なポーズを取っている人形はあたしにこの場を引くように促す。
マスターと呼ばれている金髪の少女を庇うのとあたしごと殺すとでも言いたいのだろう。
「――あら、分かんないわよ。こーんなに小さくて可愛い子を苛めるなんて、あたしが許さないんだから」
あたしは警察に通報しようと思ったけど、携帯を忘れたので、とりあえず一戦交えて考えようと思った。
“ノイズ”じゃないし、“ファウストローブ”は要らないだろう。
「無駄だ! オレの作成した
あたしが拳を構えると、金髪の少女は自分が作った“おーとすこあらー”というものにあたしが勝てるはずないから逃げろと言ってくる。
この子がアレを“作った”? それって、本当だったらエライことよ。
だって、あんなの兵器だもん。それに普通に喋る人形ってだけでも現実離れしている。
「子供置いて逃げるなんて出来るわけないでしょ。ちょっと待ってなさい」
あたしはそんな言葉を聞いて下がるつもりは一切なくって、臨戦態勢を整えた。
そして――。
「悪いが私は加減をするつもりは――。――ぶっ……!」
「
人形との間合いを一瞬で詰めて、あたしは拳を人形の腹に向けて繰り出す。
何かブツブツ呟いていた人形は数百メートルほど吹き飛んで、大木に激突して倒れた。
「ま、まさか。人間がレイアを吹き飛ばすとは――! お、お前は何者だ!?」
その光景を見ていた金髪の少女は目を見開いてあたしが誰なのか質問してきた。
いや、それを答えると面倒なことになりそうなんだけどな……。
「通りすがりの女子高生でーす」
「絶対に嘘だ!」
あたしはニコリと笑って誤魔化そうとしたが、少女はジト目であたしを見つめて全く信用しようとしなかった。
これがあたしと錬金術師キャロル・マールス・ディーンハイムとの出会い。
いやー、この日から色々あって大変だったんだよね――。
次回、護国の鬼、幼女を連れて帰る。
通報案件勃発!?
感想とか貰えたら嬉しいなー。