風鳴訃堂が“美少女”になって護国のために頑張るお話 作:焼きめし
「で、あれは何なの? あんなのに追いかけられるって、どういう事情よ」
あたしは金髪の少女が変な人形に追いかけられていた理由を尋ねた。
この子が普通じゃないのは何となくわかるけど、理由は知っておきたい。
「そんなことを聞く暇があったら、とっとと此処を離れるんだな。オレの
金髪の少女はあたしの質問には答えず、ここから離れろと言ってくる。
あら、本当だ。あのレイアとかいう人形、立ち上がっちゃった。ちょっと優しくしすぎたかしら?
「くっ……、派手にやられたな。いいだろう。ここからは貴女を敵と認識して戦おう」
レイアは再び変な構えを取って、あたしに鋭い視線を送った。
何よ、殺る気満々じゃない。じゃあ、どうしようかなぁ――。
「はぁ……、面倒ね。――よっと」
あたしは少女を抱きかかえる。よく見ると、この子って小さくて可愛いわね……。
「な、何をする。離せ、馬鹿!」
少女は足をバタバタさせて抜け出そうとする。もう、危ないから止めなさいって。
「逃げる気か? そうはさせん!」
レイアはまるで踊っているような動きでコインを幾つも投げながら、格闘戦を仕掛けてくる。
ふーん。逃がすつもりはないみたいね……。
「あはっ、何それ? ダンスかな? 面白ーい! ――でも、それじゃ遅すぎるわ……」
「――がはっ!!」
あたしはコインを掻い潜って、彼女の蹴りを躱し、腹を蹴り上げて、浮き上がったところに更に顔面に回し蹴り加えて吹き飛ばす。
レイアはさっき以上に遠くまで飛ばされて、見えなくなってしまった。これくらいやったら、流石にすぐにはこっちまで来ないだろう。
「ふぅ、これで後は警察が来る前に逃げちゃおっと。見つかると弦ちゃんにも迷惑掛かりそうだし……」
これだけ派手に暴れたら、流石に誰かが通報しているかもしれない。
面倒な事になる前に遠くに行ってしまったほうが良いだろう。
そう思ったとき、空中から何者かの視線を感じる。
「圧巻だね。今の動きは……。勝てないだろう。レイアじゃ、彼女には……」
「驚きました。キャロルの
白いスーツに白い帽子を被った長髪のイケメンと、腕の中の金髪の少女と瓜二つの容姿をした女の子が空中に浮いて、あたしたちを見下ろしていた。
ちょっと、今度は空飛ぶ人間? 絶対に普通の人じゃないでしょ。
「アダム・ヴァイスハウプト! そして、貴様も来たのか……、エルフナイン! オレの力を奪っておいて得意気な顔するな!」
どうやら、男の方はアダム、少女の方はエルフナインという名前らしい。
腕の中の少女は特にエルフナインに強い敵愾心を持っているみたいだ。
「キャロル。ごめんなさい。でも、ボクには君の計画を見逃すことは出来ません。世界の為にはこうするしか……」
金髪の少女はキャロルという名前らしく、エルフナインは彼女と何かしらの因縁があるような感じだ。
しかし、この二人からはただならぬ気配をビリビリ感じるわ。これは本気で逃げた方が良いかもしれない……。
「黙れ! 洗脳され操り人形になったお前の言葉など聞きたくない! アダム、貴様らの目的は何だ!? 何故、オレを消そうとする!」
キャロルはエルフナインが洗脳されていると言い放ち、アダムに自分を殺そうとする理由を尋ねる。話が全く見えないわ……。
「別にないんだけどね。僕には君をやっつける理由は。ただ、邪魔みたいなんだ。君の存在が
キャロルはどうやら誰かの邪魔になって殺されそうになっているらしい。
とにかく、この子はとんでもないヤツに狙われているって事だけは確かね……。
「
エルフナインはアダムを
これは彼女らが撤退する可能性も――。
「元よりかけるつもりはないよ。僕は時間を……。済ませば良いのさ。全部消し飛ばして。幸い誰も居ないからね。深夜の公園には」
あたしがそう思ったとき、アダムは巨大な炎の塊みたいな物を魔法のように右手から発生させた。
あんな事できるって、やっぱりとんでもない連中じゃないの。
――ていうか、何であの人は衣服が燃えて全裸になっているのに平然としているの?
「――黄金錬成!? だ、ダメです。あの女の人を巻き込みます。さすがに殺すのは……」
その巨大な炎の玉を見たエルフナインはアダムにあたしを巻き込むから、攻撃を止めるように求める。
「殉じて貰うしかないのさ。僕らの理想のために。わかってくれるだろ? 優しいエルフナインくんなら」
「――はい」
しかし、アダムの目が青く光ると、エルフナインの目もそれに呼応するように光り、彼女の体の周りに四つの魔法陣みたいな形の光の円が浮かび上がった。
あの光の円も嫌な感じがするわね……。
「ちっ! ここまでか。残念だったな。人助けなどするから無駄死にするんだ」
キャロルはあたしが彼女を助けようとしたから無駄死にすると毒づく。
うーん。そういうこと言ってる割には悲しそうな声を出すわね。
「よく分からないけど、どういう状況なの?」
キャロルは現状が理解出来ているみたいなので、あたしは彼女にこの状況を質問した。
「見てのとおりだ。黄金錬成と
キャロルはよくわからない技の名前を呟いて、この辺が消し飛ばされると説明する。そんな、大袈裟な……。
「黄金錬成? ありすとてれす? 何よ、それ……。――って、やばっ! あいつら、とんでもない化物じゃない!」
あたしがキャロルの言葉を復唱していたら、アダムの炎の玉は更に巨大になり、エルフナインの周りからは炎とか水とか様々なエネルギーが充満されている様子が見えた。
こりゃ、気を引き締めないと――。
「気付いたところでもう遅い……。――な、何をするつもりだ!?」
あたしはキャロルを抱える腕の力を強くしつつ、しゃがみ込んだ。
「よーく掴まってなさい。キャロルちゃん。あたしは今からジャンプする……!」
そして、アダムとエルフナインがこちらに向かって技を繰り出すのと同時にあたしは高く跳躍してこの場からエスケープする。
うわぁ……、マジで自然公園が消し炭になっちゃってるじゃない……。これは、特異災害に認定されるかもしれないわ……。
「はぁ? ――ぐっ……!? 凄まじい跳躍力……!? お前、本当に人間か!? だが……!」
「――っ!? 思ったより範囲が広い……! でも……!」
あたしたちは何とか直撃は免れたものの、爆風による衝撃まで完全に避けきることが出来ずにいた。
あたしは頑丈だから大丈夫だけど……、このままだとキャロルが……。
あたしは何とか彼女を衝撃から守ろうと、必死でキャロルを抱き締める。
「うぷっ……」
キャロルを胸に強く抱きしめたまま、あたしは何とか爆風に耐えきることが出来て、安全な場所まで逃げ切ることが出来た。
まったく、ラーメン食べ損ねちゃったじゃない。あとで、カップヌードルでも買って帰ろうかしら……。
「いやー、びっくりしたわ。キャロルちゃん、とんでもない奴らに狙われてるじゃない。あれ? キャロルちゃん?」
あたしは胸の中のキャロルに話しかけるが、彼女はまったく返事をしない。
まさか、あたしが衝撃を完全に殺すことが出来なかったとか? ちょっと、大丈夫?
「――ぶはぁっ! はぁ、はぁ……、こ、殺す気か!? 馬鹿力でオレの顔に胸を押しつけやがって!」
あたしが顔を青くしていると、キャロルはあたしの胸の中で窒息するところだったと文句を言ってきた。
あー、良かった。つい力が入っちゃったのよねー。
「ごめーん。キャロルちゃんを守らなきゃと思って、つい」
「オレを守る? 意味がわからん。見ず知らずの人間を助けても何も報われんぞ。それどころか、それで命を落としてバカを見る」
キャロルは人を助けるという行為は意味がないみたいな事を口にした。
それってつまり――。
「へぇ、キャロルちゃんはそういう人を知ってるんだ」
あたしはキャロルが特定の誰かを連想しているような気がしてならなかった。
さっきから、彼女は助けられるという行為に戸惑っているみたいだったからだ。
「――っ!? まぁ、助けてもらったことは礼を言っておいてやる。――お、おい。なぜ、また抱きかかえる?」
キャロルはそれでも助けられた事にはお礼を言う。
あたしは彼女をこのままにはしておけないと思ったので、この子を再び抱きかかえた。
「ついでに家においで。ほっとけないわよ。あんな連中に狙われてるって分かったら」
「馬鹿! 離せ! オレのことは放っておいてくれ!」
再びジタバタしだしたキャロルを抱えたあたしは、来た道を急いで戻る。
そして、弦十郎の家にキャロルを連れて帰った。
弦十郎はボロボロの制服を着たあたしが小さな女の子を連れて帰ってきたので、何か言いたそうだったが、とりあえず何も聞かずに家の中に入れてくれた――。
「なるほど、爆発に関してはさっき連絡が入ってきた。原因が不明すぎるということで、俺たち二課が預かることになった。キャロルくん。その爆発を起こした錬金術師とは何者なんだ?」
弦十郎はキャロルに爆発を起こしたアダムとエルフナインの正体について質問をする。
それは、あたしも気になるところだ。
「パヴァリア光明結社という名前は知っているか?」
「うむ。詳しくは知らないが、欧州を中心にあらゆる陰謀の裏で暗躍する秘密組織だったか?」
キャロルが出したパヴァリア光明結社という名前……。
あたしはもちろん知らなかったが、弦十郎は聞き覚えがあるみたいだった。
そんな漫画みたいな秘密組織があるんだー。
「さすがは特異災害対策機動部二課の司令官。それなりに知っているみたいだな。爆発を起こした者の一人であるアダムはパヴァリア光明結社の副統制局長。組織のナンバー2だ」
キャロルはアダムがその結社のナンバー2だと説明する。
へぇ、あの変なしゃべり方をするイケメンは組織のナンバー2だったんだ。人前で簡単に全裸になるような人なのに……。
「パヴァリア光明結社のナンバー2は錬金術師なのか?」
「いや、そもそもパヴァリアの構成員の多くが錬金術師だ。もっともアダムは規格外の錬金術師だが……」
キャロルによると、そもそもパヴァリア光明結社の構成員はほとんど錬金術師らしい。
「もう一人はキャロルちゃんにそっくりな子だったけど、すんごい技を使っていたわよね」
あたしは自然公園を破壊したもう一人の方、エルフナインについて尋ねた。彼女はどう考えてもキャロルと関係が深いに決まっている。
「あいつはエルフナイン――オレの複製躯体で廃棄予定の個体だった」
「複製躯体? ど、どういうことだ? 話が見えん」
キャロルの聞き慣れない言葉にさすがの弦十郎も頭をひねる。複製――つまり、コピーってこと?
「ああ、オレはそうやって生き永らえていた。自らのクローンを作り、そこに記憶を複製転写することでな。そもそも、オレの目的は――」
キャロルは「もうどうでも良くなったことだが」という台詞を前置きにして自分の半生を語った。
彼女は大昔のヨーロッパの方で生まれて父親と仲良く暮らしていたのだそうだ。そして、その父親は疫病の薬を長年研究して完成させて村を1つ救ったのだという。
しかし、そこで悲劇は起こった。キャロルの父親は疫病の患者を治したことがキッカケで異端者ということで処刑されてしまったらしい。
そして、キャロルは父の遺言である「世界を知れ」という命題に立ち向かう為に、何百年も月日をかけて研究をして“世界の分解”をすれば、世界のすべてを知ることが出来るという結論に至った。
その何百年もの月日を生き長らえることが出来たのは彼女が自分のクローンに記憶を転写させるという方法を取ったからだ。
エルフナインはそんなキャロルのクローンの中でも粗悪な存在だったので廃棄する予定の個体だったらしい。
「世界の分解だとぉっ!? まさか、そんなことを君が……。まぁいい。そのエルフナインとやらはそんな巨大な力を持っていたにも関わらず廃棄される予定だったのか?」
弦十郎はキャロルの計画を取り敢えず置いておいて、エルフナインについて詳しい話を聞こうとした。確かにエルフナインから感じた力はもの凄かった。
「いや、ヤツの力は本来はオレの力だ。どうやってなのかはイマイチ把握してないのだが、ある日オレは力を奪われた。そして、その力がエルフナインの方に渡っていて、ヤツはパヴァリア光明結社の操り人形になっていた」
キャロルはエルフナインの力は元々自分の力だったと説明をする。原因は分からないが、自分の力がある日奪われて、それがエルフナインの元に移ったのだそうだ。
「つまり、パヴァリア光明結社はキャロルちゃんの力を奪って、さらに消そうとしたっていうこと? そんなにキャロルちゃんのことが嫌いだったんだー」
「好き嫌いの問題か?」
あたしがパヴァリア光明結社に嫌われたからキャロルが酷い目に遭ったと口にすると、弦十郎は呆れた顔をしてツッコんできた。もう、冗談が通じないんだから。
「連中が何を考えてるのかはわからん。しかし、何百年もかけたオレの計画は水泡に消えた。命を助けられたことには礼を言ったが、よく考えてみれば、オレには野垂れ死にするくらいしか残された道はない」
キャロルは力を失って計画が遂行出来なくなり、自暴自棄になっているみたいだ。だから、赤の他人のあたしたちに全て話したのだろうけど……。
「ねぇ、弦ちゃん。この子、凄い錬金術師なんでしょう? それなら……」
「うむ。パヴァリア光明結社とやらがこの地で何かを成そうとしているこの状況。悪い予感がする……。そうだな……、キャロルくんさえ良ければ、ウチに来ないか?」
あたしの体も錬金術師が絡んでいるし、大爆発を平然と起こすような錬金術師がこの国に潜んでいるというのは大問題だ。
だからこそ、弦十郎は錬金術のプロとしてキャロルを特異災害対策機動部ニ課に勧誘する。あたしもそれが良いと思う……。
「はぁ? お前ら、オレの目的を聞いてよくそんなことが言えるな! この世界を壊そうとしていたんだぞ!」
キャロルは自分を勧誘するあたしたちに対して信じられないというような顔をして大声をだした。
一応、悪いことをしようとしていた自覚はあるのね……。
「でも、キャロルちゃんは何もしてないし。それにいい子そうに見えるし……」
そう、キャロルはまだ何もしていない。それにあたしは彼女から優しさのような感情を感じ取っていた。
「君の父親が残した命題とやらが世界を分解することだとは、俺には俄に信じられん。君もそれは分かっているんじゃないか? 俺には君にやり場のない感情があり、そして力があったから、そういった事に手を染めようとしていたとしか思えない。どうだ? もう一度、君の父親が残した命題について考え直してみないか? 今度は俺も協力しよう。それが大人の努めだからな」
そして、弦十郎はキャロルの父の命題について、もう一度、一緒に考えようと提案する。それが大人の努めらしい。
「くっ……! 二度とオレを子供扱いするな。もはや、オレには何もかもがどうでもいい。お前らがオレを利用したければ勝手にすればいい」
「んもう! そういう可愛くない言い方しなくても良いじゃない。あたしはキャロルちゃんとお友達になりたいだけだよ」
「――友達? ふん……、勝手にしろ……。とりあえず、寝床さえ貰えれば当分は文句を言わないでやる」
キャロルはあたしたちの仲間になることを了承して、あたしの友達にもなってくれた。
こうして彼女は錬金術という新しい概念を特異災害対策機動部二課に持ち込むこととなる。
パヴァリア光明結社がキャロルを襲ったり、何か事件を起こしたりしないか警戒していたが、彼らはそれからというもの、怖いくらいに大人しかった。
そのまま時は流れて、あたしは2年生になる――。
そして、この日に出会ったのは――人助けが趣味だという素敵な後輩だった――。
キャロルとエルフナインの力の逆転ネタも短編で書いてみようと思っていたのですが、丁度いいからそれもこの話にぶち込んでみました。
パワーバランスの調整で敵サイドは原作よりも厄介になっています。
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