ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
俺は“漆黒のオーディン”、闇の都市シャンバラを制圧し、新たに真の闇の都市を築く、選ばれし闇の呪術士だ。
「正面城門内部は制圧した! 『頑固な老将軍』よ……その門を開け!」
俺たち連合軍の選抜隊は、シャンバラからグロンダーズ平原へ戻ると、すぐにメリセウス要塞の攻略作戦に取りかかった。
メリセウス要塞攻略の主軸となる戦術は、もちろん転移魔法〈ワープ〉と〈レスキュー〉だ。
帝国軍も、そう簡単には城門を開けさせまいと必死の様子だった。
だが、転移魔法で送り込んだ英雄の遺産を持つ精鋭部隊には、なすすべもなかったようだ。
やがて、メリセウス要塞の正面門が開き、連合軍が一斉に殺到する。
門を開けさせたとはいえ、数の上では帝国軍に劣っている。
ここからは、慎重に攻略していかなければならない。
「クロードの同盟軍は城門の確保! 要塞内のディミトリと王国軍は敵兵力の掃討! 私たちは敵将を倒しにいく!」
総大将のベレス先生が指示を飛ばす。
前回のグロンダーズ平原では、信号呪術〈華炎〉によって通信を妨害されていた。
だが、今回はそれがない。
やられたら普通に厄介な戦術なんだが……もう、魔道士を妨害に割くほどの余裕はないのだろう。
「来い! 帝国軍ども、俺を斬れる者はいるか!!」
「張り切ってるな、フェリクス……まあ、俺たち“英雄の遺産”持ちは目立たなきゃなんねえけどな!」
「フェリクス、シルヴァン! 出過ぎよ、自重なさい!」
「打ち砕くものは近接武器だから扱い辛いなぁ……これじゃあ余り活躍できないかも〜」
「……アネット、お前は前に出る必要はない」
「オーディン、すまないが“アラドヴァル”が壊れかけている。代りの武器をくれないか?」
敵兵の掃討を任せられた、王国軍のみんなが暴れている。
“アイギスの盾”、“破裂の槍”、“ルーン”、“打ち砕くもの”……英雄の遺産と一致する紋章を持つ者が振るえば、その効果は絶大だ。
まあ、一人だけ、“アラドヴァル”を前回のグロンダーズで使いすぎて壊しかけている王様もいるが……。
英雄の遺産を一戦でブッ壊すとか、どんだけ怪力なんだよ。
「来たか……逸楽よ」
「イエリッツァ先生!」
「先生ではない……そして、貴様には用はない。俺が用があるのは、その逸楽のみ……」
敵の総大将、死神騎士は思ったよりも早くこちらに現れた。
敵と時間をかけて正面から戦うより、精鋭でこちらの主力を潰すほうが勝機があると判断したのだろう。
死神騎士は先生にしか眼中にないようだが、先生は連合軍の総大将だ。
……さすがに、総大将同士で戦わせていいものだろうか?
まあ、先生はシャンバラで屍兵のジェラルトさんとかと戦ってたし、今更か……
そもそも、先生が負けるわけないしな。
「オーディン……先日ぶりだな。こっちはもう逃げ場はないからな。勝っても負けても、最期の喧嘩になるぜ」
「まったく……ここまで付き合わされるとはね。僕の人生はいつもままならないものだよ」
「カスパル、リンハルト……降伏する気はないのか?」
カスパルとリンハルト……かつての黒鷲の学級の友人たちも、死神騎士と一緒に現れた。
エーデルガルト、ヒューベルト、ペトラたちはすでに帝都アンヴァルへ移動している。
メリセウス要塞にいる、かつての同級生はこの二人だけだということも、呪術によって把握済みだ。
「降伏……そんなもん、ベルグリーズ家には無えぜ! 逃げられねえ時は、死ぬまで戦い、最後まで足掻く。それが家の家訓……親父の教えだ」
「……あっ、じゃあカスパルを倒したら、僕は降伏するよ。この状況で降伏を勧めるなら、命の保証はしてくれるんだよね?」
「おい……ここに来て意見が食い違ってるけど、大丈夫か、お前ら」
こちらとしては、カスパルを倒したらリンハルトが降伏してくれるのは正直安心できる。
……というか、リンハルトの奴、全然変わってないというか、相変わらずの変わり者だな。
「おいおい、そりゃねえだろ、リンハルト!」
「いや、それでいい、リンハルト……俺とカスパルで決着をつける。お前の白魔法の援護は無しだ」
「ああ、それでいいよ」
責任は重いが、メリセウス要塞全軍の戦いがこれで終わる。
連合軍も帝国軍も、余計な犠牲を出さずに済む。
カスパルなら……まあ、たぶん勝てるだろう。
「じゃあ、やらせて貰うぜ、オーディン! 最後の喧嘩、血が騒ぐぜっ!」
「なっ!? カスパル、俺の台詞をとるんじゃねえよ!」
開幕から、まさかの言葉による先制パンチを決めてくるとは……。
カスパルの持つ籠手型の神聖武器〈ヤルングレイプ〉。
カスパルは紋章を持っていないため、紋章一致による神聖武器の回復効果は受けられない。
だが、それでも普通に厄介な武器だ。
特に厄介なのは、カスパルが〈魔殺し〉スキルを持つ格闘使いだということ。
魔法剣士である俺にとって、魔法を封じられたようなものだからだ。
「シャア! 喰らえ!」
「フッ……この技を魂に刻め! ……エンドレス・レジェンド!!」
格闘使いのもう一つの厄介なところは、連続攻撃を仕掛けてくることだ。
その対応に、俺は封魔剣エクスブレードとミステルトィンの二刀流で挑む。
格闘使いとの戦いは、この世界に初めて来た頃は戸惑った。
だが、五年もこの世界にいれば、流石に慣れる。
「俺の武技に沈め! スペシャル・サティスファクション!!」
「くっ……相変わらず、無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きしてやがる!」
俺の幻想的な二刀流に、カスパルは幻惑されている。
俺は、ロードの持つ剣戦技〈手加減〉を持っていない。
カスパルを殺さずに倒すには、なかなか難易度が高い。
「これで決めるぜ〈連打〉! ……からの〈豪拳〉!!」
拳戦技〈連打〉。
そして拳戦技〈豪拳〉。
カスパルにとって、最大の必殺技だったのだろう。
しかし、俺には届かない。
「〈魔刃〉! 蒼炎剣ブルーフレイムソード!!」
魔防の低いカスパルにとって、たとえ防げたとしても相当なダメージのはずだ。
カスパルの身体が、かすかにグラつく。
その隙を逃さず、闇魔法〈ミィル〉で追撃を入れた。
「これが……最期の喧嘩か……なん、か……あっさり、終わっち、まったな……」
カスパルは意識を失う寸前に、死ぬ時みたいな台詞を言っているが、俺の闇魔法は普通に非殺傷だ。
喧嘩なら、起きた後に好きなだけやればいい。
……俺以外の奴とな。
「ああ、カスパル。負けちゃったんだね……僕も降伏するよ」
「フッ……俺と魔法対決はしなくて良いのか、リンハルト?」
「するわけないじゃないか、そんな面倒なこと。あと、カスパルを殺さないでくれて、ありがとう」
カスパルが倒れるのを見たリンハルトが、素直に降伏する。
まあ、魔法対決をするとしたら、リンハルトは魔力も魔防もめちゃくちゃ高い。
ステータス的に中途半端な魔法戦士である俺は、普通に負ける可能性がある。
「殺すか、死ぬか……いずれしか味わえぬのが、口惜しい……」
「よし、勝てたね」
そして、もう一つの勝負にも決着がつく。
先生と死神騎士の戦いは、俺とカスパルの勝負よりも少し長引いたが、無事、先生の勝利で終わった。
死神騎士も、自分が死んだみたいな台詞を言って倒れたが、先生は生かしておいてくれたみたいだ。
倒れた死神騎士に、メルセデスが駆け寄っていく。
「……メル……セデス」
「やっと、迎えに来てあげられた。おかえりなさい、エミール」
……いや。
死神騎士イエリッツァ=フォン=フリュムは、死んだのかもしれない。
これからは、メルセデスの弟エミール=フォン=バルテルスに戻るのだから。
◇◇◇
メリセウス要塞は、無事に制圧した。
連合軍の損害は軽微。
これは良いことだ。
帝国軍からは、死神騎士、カスパル、リンハルトをはじめ、多くの将官と兵士を降伏させることができた。
これで、戦果の把握に時間がかかる。
要塞の管理にも時間がかかる。
捕虜の管理にも時間がかかる……。
つまり、めちゃくちゃ忙しくなったわけだ!
だが、忙しいのは俺だけではない。
先生、クロード、ディミトリ、セテスさんをはじめとした連合軍のリーダーたち。
金鹿の学級、青獅子の学級、灰狼の学級の元生徒たち。
同盟軍、王国軍、教会軍。
そして、降伏した黒鷲の学級と帝国軍。
これだけの人数が手分けして作業すれば、何日か忙しくするだけで済むだろう。
当面の目標は、帝都アンヴァルのエーデルガルトに向けた和平交渉を進めることだ。
メリセウス要塞が落ちた今、帝都アンヴァルとその周辺貴族領で防衛線を維持するのは難しい。
現実的に考えれば、和平は実現するはずだ。
俺たち連合軍が提示する和平の条件は、大司教レア様の身柄を無事に引き渡すこと。
千年祭の前。
ミルディン大橋攻略前。
グロンダーズ平原の大戦前……。
全ての戦いで使者を送り、同じことを伝えている。
エーデルガルトは、もう追い詰められている。
この和平交渉を呑まなければ、アドラステア帝国は滅びる。
少なくとも、俺にはそうとしか思えなかった。
「オーディン……貴方、働き詰めじゃないの。そろそろ休憩したら?」
「おっ、メルセデスか……エミールと話は終わったのか?」
書類と睨み合っていると、メルセデスが俺のところへやって来た。
メリセウス要塞を攻略した後、彼女はずっと死神騎士……いや、エミールの側にいたはずだ。
ちゃんと話をすることができたのだろうか。
そして、もう俺のところへ来ても大丈夫なのだろうか。
「ええ、ちゃんと話せたわ。昔のこととか、今のこと、色んな話をね」
「それは良かった。フッ……また一つ成し遂げてしまったな」
「そうね……オーディンとも色々とお話したいから、お茶でもしない? 美味しいお菓子を焼いてきたのよ」
メルセデス特製のお菓子か!
どれも外れなく美味しいから、今回も期待できる。
しかし、お茶会でのお話か……まあ、話したい内容は想像できるが。
まずは、メルセデスが淹れてくれたお茶を一口飲む。
ベリーティーか……なかなか美味いな。
ちなみに、俺が一番好きな茶葉は、母さんの親友がよく淹れてくれたベルガモットティーだ。
フォドラでは貴族御用達の高級品らしく、値段を聞いた時には、飲むのがもったいないと思ったほどだ。
「ありがとう、オーディン。貴方のおかげでエミールを救うことができたわ」
「フッフッフッ……礼には及ばないぞ。エミールを救い出すことは、五年前に約束していたことじゃないか。俺も約束を果たせて嬉しいぞ」
「……オーディン」
「だが、どうしても俺を称賛したいというなら、喜んで受け取ろう。毎朝、起きたら俺を称賛しに来てくれてもいいぞ」
「ふふっ……それは遠慮しておくわ〜」
エミールを救うことは、士官学校時代に約束していた。
メルセデスを『フォドラの夜明け』に誘った時の、誘い文句にもなった約束だ。
五年越しに、その約束を果たすことができた。
「エミールとオーディンって何となく似てるのよね」
「ほう……俺と死神騎士イエリッツァ先生が……やはりか」
死神騎士が纏う闇のオーラと、俺の真の闇の力はそっくりだと思っていた。
やはり、見る者にはわかるのだろう。
イエリッツァ先生のことは正直かっこいいと思っているし、似ていると言われて嬉しいぞ。
「死神騎士やイエリッツァ先生っていうより、弟のエミールに似ているの」
「どれも同じ人間だと思うが……どう違うんだ?」
「うーん、今のエミールっていうより、子どもの頃のエミールかしら。8つか9つの頃なんだけど」
つまり子どもっぽいって言われてるだけじゃねえか!
「今も似てるだろ! 禍々しい雰囲気とか、選ばれし闇の戦士感とか!」
「ごめんなさいね。やっぱり似ていないかも〜」
似てると思うんだけどなぁ……今度イエリッツァ先生に直接聞いてみるべきか……話す機会はこの後いくらでもあるからな。
「この五年間、色々なことがあったわね〜」
「フッ、そうだな……だが、この五年間を語り尽くすには、この小さなお茶会では収まらないぞ」
「そうね……でも、この五年間、オーディンのおかげで毎日充実してるわ〜」
話題は、自然とこれまでの五年間へ移っていった。
メルセデスは『フォドラの夜明け』の一員として、五年間ずっと俺たちと戦ってきた仲間だ。
フォドラで最も長い付き合いの一人だからこそ、話は尽きない。
「私、将来は教会で働きたいと思っていたのよ。司祭様みたいな人になりたいなって」
「あー、そういえばアネットとそんな話をしたことあるな……一応、今も教会で働いているが、騎士団だもんな。ちょっと、違ってすまんな」
「それは別に良いわよ〜。『フォドラの夜明け』は、困っている人たちを助ける仕事……一番私がやりたかった仕事だから」
それを聞けて、良かった。
メルセデスは戦闘そのものを好むタイプではない。
だからこそ、戦い続けることになる『フォドラの夜明け』に誘ったことを、彼女が後悔しているのではないかと思うこともあった。
「オーディンが誘ってくれた時……私、自分の人生ではじめて選択したのよ。ずっと、何かを決めるのが怖くて、誰かの意向に流されるまま生きてきたの」
「……そうなのか?」
「ええ。あの時オーディンは言ってくれたわよね。『運命を決めるのは女神様じゃなくて自分だ』って……私、選択して良かったって、心からそう思っているわ」
確かに、そんなことを言ったような気がする。
だが、俺としては、割とその場のノリで格好良いことを言っただけだったんだが……。
まさか、あの時の言葉がここまでメルセデスの心に響いていたとは。
……ナイスだ、過去の俺!
「最近は義父からの縁談の手紙が来なくなったわ。『元気にしてるか? お母様は元気です』って、私の顔色を伺うような手紙ばかりになってるわ〜」
「まあ、メルセデスはもうセイロス教会の聖騎士だからな。その辺の貴族より、格式が上とも言えるしな」
「将来の夢も、不安も、エミールのことも……全部、貴方が叶えてくれたわ」
全部が俺の力というわけでもないが……そう言われると照れるな。
照れ隠しに菓子を頬張る。
……メルセデスの作るお菓子は、いつ食べても美味い。
「今度は私が貴方を助けたいわ。なんでも手伝うわよ〜」
「いつも『フォドラの夜明け』で手伝ってくれてるじゃないか……世界を救うまで、よろしく頼むぞ」
「ふふふっ……違うわ。貴方なら、きっと世界を救えるわよ。世界を救う使命が終わったら、オーディンは何をしたいの?」
その言葉に、俺は衝撃を覚えた。
世界を救った後のことなんて、考えたこともなかった。
ラズワルドとルーナは、元の世界へ帰ることができる。
しかし、俺は違う。
元の世界へ帰るために必要だった力は、すでに
つまり、俺にはもう、元の世界へ帰る手段がない。
世界を救った後も、俺はこのフォドラで生きていかなければならない。
……だが、よく考えてみれば、それは別に悪いことではない。
俺は、この世界が大好きだからな。
ただ……幼馴染の選ばれし希望の戦士たちや、家族にもう会えなくなるのは、やっぱり残念だが。
「……フッフッフッ。世界を救った後のことなど、考えたことはなかったな……」
「あらあら〜。じゃあ、どうするの?」
「だが、それは“漆黒のオーディン”の新たな伝説が始まるだけだ……」
「つまり、まだ何も決めてないってことね。オーディンらしいわ〜」
結局、世界を救った後に何をするのか。
俺はまだ、何も決めていない。
だが、それでいい。
今はただ、目の前にある戦いを終わらせる。
そして、このフォドラを守る。
その先のことは……その時になってから考えればいい。
フッ……それもまた、“漆黒のオーディン”の新たな伝説の一幕なのだから。