ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

105 / 107
第95話『神を屠る星』

 

 

 ディミトリ視点

 

 

 フォドラ大陸連合軍はファーガス神聖王国のタルティーン平原へと辿り着いた。

 

 そして平原には予想通り屍兵……いや、古代兵の軍勢が陣を組んで待ち構えていた。

 

 闇に蠢く者たちと、十傑の古代兵……そして、解放王ネメシスだ。

 

 古代兵の数は予想していたよりも遥かに多い……闇に蠢く者たちは全ての力を注いでこの軍勢を復活させたのであろう。

 

 平原の向こうまで、古代兵が並んでいる。

 その数は、もはや一つの軍という言葉では足りない。

 連合軍の兵士たちから、息を呑む音が聞こえた。

 

 

「ひとりで10体くらい倒せばいけるか?」

 

 

 だが、俺は悲観していない。

 

 連合軍の精鋭たちは今まで、どんなに数で劣っていようとも質と連携で覆してきた。

 

 

「……ネメシスも十傑も、俺たち連合軍が持つ“英雄の遺産”より強力な武器を持ってやがる」

 

 

 オーディンが〈神軍師〉の能力で敵が持つ武器を見て吐き捨てた。

 あのオーディンがいつもより余裕がなさそうに見える。

 

 質でも俺たちに劣らないというわけか……難敵だな。

 だが、最終決戦に相応しい相手だ。

 

 

「オーディン、いつもの余裕はどうしたのかしら? 今回は私たち黒鷲遊撃軍(シュヴァルツァアドラーヴェーア)もいるのよ」

 

「フッ……そうだったな。俺としたことが敵の纏う闇のオーラに気圧されてしまっていた。……だが、強さ(レベル)能力(ステータス)も敵と僅差だ。慎重に動け」

 

 

 エーデルガルトが話しかけてると、オーディンもいつもの調子を取り戻したようだ。

 

 エルと肩を並べて戦える。

 士官学校のあの日以来、こんな日が来るなんて思っていなかった。

 

 あの頃の俺たちは、それぞれ違う理想を抱えながらも、同じ場所で笑っていた。

 

 そして五年後──俺たちは五年もの間、互いに戦い続けた。

 

 それなのに今、こうして同じ敵へ武器を向けている。

 

 そして、共に戦うのは帝国軍……エルだけではない。

 

 

「解放王ネメシス……貴方との因縁を含めてこの戦いで全てを終わらせます」

 

 

 この戦いを終えたら、大司教の座をベレス先生に譲り引退するセイロス教団中央教会大司教レア様。

 

 

「まさか、ご先祖様たちと戦うことになるとはな……フォドラってのは中々面白い世界だぜ」

 

 

 連合軍結成以来、肩を並べ共に戦い続けた、レスター諸侯同盟の盟主クロード。

 彼の手にはリーガンの紋章と適合した、英雄の遺産フェイルノートがある。

 

 

「そのまさかだよねー、ご先祖様って兄さんより強いのかな?」

 

「十傑グロスタール……先祖と決着を付けて新たな貴族としての歴史を僕が作ってみせるよ。はーっはっはっは!」

 

 

 ゴネリルの紋章とフライクーゲルを持つ、ヒルダ。

 グロスタールの紋章とテュルソスの杖を持つ、ローレンツ。

 

 

「エミール……よろしくね」

 

「ああ、姉上は必ず守る」

 

 

 ラミーヌの紋章を持つ、メルセデスとイエリッツァ先生。

 イエリッツァ先生の首元には“英雄の遺産”ラファイルの宝珠がある。

 

 

「ご先祖様ね……まあ、言ってやりたいことは沢山あるさ」

 

「シルヴァン。なら言ってやりなさいよ、貴方の女癖の悪さは血筋だってことを」

 

「あたしだって、ご先祖様に言ってやるんだから! もっとかっこいい武勇伝はなかったの? って!!」

 

 

 ゴーティエの紋章と破裂の槍を持つ、シルヴァン。

 ダフネルの紋章とルーンを持つ、イングリット。

 ドミニクの紋章と打ち砕くものを持つ、アネット。

 

 

「相手が誰だろうと関係無いぜ。この“雷霆”でレア様の邪魔する奴はみんな斬ってやるよ」

 

 

 カロンの紋章と雷霆を持つ、カトリーヌ殿。

 

 

「フン……邪王ネメシスと十傑か……斬る相手としては不足はない。そうだろう、ディミトリ」

 

「ああ、そうだなフェリクス」

 

 

 フラルダリウスの紋章とアイギスの盾を持つ、フェリクスから声をかけられる。

 そして俺自身もブレーダッドの紋章とアラドヴァルを持っている。

 

 今日はファーガス神聖王国の国王としてではなく、フォドラ大陸を守る一人の戦士として戦うつもりだ。

 

 ……胸も血も魂も熱くなる。

 

 これが、オーディンのよく言う『血が騒ぎ、魂が躍動する』というやつか……

 

 

「まずはまわりの十傑を排除していく、ネメシスを叩くのはその後」

 

 

 フォドラ大陸連合軍の総指揮を取るベレス先生が指示を出す。

 

 先生とオーディンが提示した作戦は単純だ。

 

 俺たち、“英雄の遺産”を持つ十傑の子孫たちは、復活した十傑と戦い、『フォドラの夜明け』と『黒鷲遊撃軍(シュヴァルツァアドラーヴェーア)』が闇に蠢く者たちを討つ。

 

 

「さあ、選ばれし希望の戦士たちよ! 我らの手で、このフォドラに新たなる夜明けをもたらすぞ!!」

 

 

 オーディンがいつも通りの仰々しい様子で鼓舞をしている。

 連合軍として長く共に戦ってきたが、これを聞くのも最後だと思うと感慨深い気分だ。

 

 

 毒沼と化したタルティーン平原を越え、一騎の〈ダークナイト〉が現れた。

 

 俺の相手は、ブレーダッドの始祖。

 

 かつて「王」としてフォドラの歴史に名を刻んだ男。

 そして俺は、その血を継ぐ現在の王だ。

 

 だがこの戦いでは同じ魔槍を振るうただの戦士同士……この戦いで決着をつけよう。

 

 

『叫びたまえ、死を前にした絶望を!』

 

 

 眼前の〈ダークナイト〉が告げる。

 生前強い力を持っていた者は、屍兵となっても意識を保つことができるとオーディンから教わった。

 

 

『嘆きたまえ、私にそれを教わる不運を!』

 

 

 屍兵の紅く禍々しく光る目には確かに理性と狂気が存在した。

 

 この男がブレーダッドか。

 

 ブレーダッドの始祖が生前どのような人物だったのか、その詳細はほとんど伝わっていない。

 ただ、こうして死してなお強い意志を保っている以上、並外れた力を持っていたことだけは間違いない。

 

 ……だが。

 

 この男が父上より強いとは、どうしても思えなかった。

 

 黒い馬に乗った〈ダークナイト〉が急激に距離を詰める。

 

 すれ違いざまに槍が交錯する。

 

 

 ──〈無惨〉。

 

 魔槍アラドヴァルに一致するブレーダッドの紋章を持つ者のみが使用できる戦技。

 

 俺の持つ、ブレーダッドの小紋章が浮かび上がる。

 

 

「ああ、しまったな」

 

 

 全てのものを破壊する、無慈悲な一撃。

 その代償として──アラドヴァルもまた、無惨に砕け散った。

 

 

『ガッ……ハッ……誇りたまえ……この私に……』

 

 

 その言葉を最後に、ブレーダッドの始祖は淡い光となって消えた。

 

 

「……これも血の定めか」

 

 

 まるで、オーディンの台詞のようなことを言ってしまった。

 

 ブレーダッドの紋章は、怪力と引き換えに手に持つ武器を壊してしまうという、実に困った性質を持っている。

 

 実は予備の武器として腰に差している剣、以前フェリクスから貰った名剣ゾルタンの剣はすでに壊れてしまっていた。

 激しい戦闘で何度も壊しすぎて、修理用のミスリルが無くなった……フェリクスから「壊すなよ」と言われた手前、別の剣を使っているところを見られれば、ゾルタンの剣を壊したことがバレてしまう。

 

 ついに、王家に伝わる英雄の遺産アラドヴァルまで壊してしまうとは……まあ、父上もアラドヴァルをよく壊していたと聞くし、また修理すればいいか。

 

 

「ドゥドゥー、手槍はあるか?」

 

「……陛下。槍はこちらに」

 

 

 傍らにいた従者のドゥドゥーに手槍を受け取る。

 一般兵に広く使われている量産品だが……やはり、英雄の遺産や名剣より俺の手にはこの手槍の方が良く馴染む……。

 

 俺の目標は既に撃破した。

 後は味方のために、古代兵の雑兵たちを削るだけだ。

 

 百体でも千体でも相手してやる。

 

 

「ドゥドゥー、まだ戦いは始まったばかりだ。行くぞ!」

 

「はっ、陛下……運命を共にっ!」

 

 

 長年の従者であるドゥドゥーにも、オーディンの口癖が感染してしまっていることに笑いが漏れそうになった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ルーナ視点

 

 

「ルーナ、もっと速く飛べないのか! これでは戦えんぞ!」

 

「……うっさいわね! あんたが乗ってるから重いのよ! グダグダ言うなら蹴り落とすわよ!」

 

 

 あたしは何故か今グリフォンの上でフェリクスと口喧嘩していた。

 

 何故そんなことになったかと言うと……

 

 

『邪神のしもべよ、貴様に死を! 惨たらしい死を!!』

 

 

 眼前の〈ファルコンナイト〉……フラルダリウスが槍を掲げて迫ってくる。

 

 フラルダリウスの紋章が浮かび上がる。

 次の瞬間、槍が眼前まで迫っていた。

 

 フェリクスが寸前のところで“アイギスの盾”でその槍を防いだ。

 

 あたしの槍、グラディウスで反撃をするも敵の盾(名前は知らないがアイギスの盾より強力らしい)で防がれる。

 

 フラルダリウスのファルコンとあたしのグリフォンは再び大きく距離をとった。

 

 空中戦である。

 

 フェリクスは飛行技能を持っていない。

 しかし、フラルダリウスと戦わなければならない。

 だから、こうして〈グリフォンナイト〉で〈運び手〉スキルを持つあたしが一緒に乗せて、戦わせてあげているのだ。

 

 

「おい、剣の間合いで飛べ! 今のも反撃が出来なかったぞ!」

 

「だ・か・ら! 乗せてもらってる分際で文句ばっか言ってんじゃないわよ! あんな奴、あたし一人で十分なのに、なんであんたなんか乗せて戦わなきゃならないのよ」

 

「知らん! 先生とオーディンの判断だ。いいからもっと戦いやすく飛べ!」

 

 

 知り合いや縁のある屍兵が現れた時は、一番関係の深かった者が相手をするのが、あたしたちの世界での流儀だった。

 だけど、それはあくまで戦えればの話であって、こういうミスマッチで無理矢理戦ったりはあまりなかった。

 

 

『死を! その邪悪なる本性に相応しい死を!!』

 

「チッ……あのような気狂いの雌猪がフラルダリウスとは……」

 

「あんたにそっくりの戦闘狂じゃない」

 

 

 フラルダリウスは狂ったように『死を! 死を!』と言っている。

 屍兵は自我を持つ者ほど、生前に強大な力を持っていたとされる。

 けれど、コイツは……たぶん、生前からまともに意思疎通できるタイプじゃなかったんじゃないだろうか。

 

 

「ルーナ、もういい。奴の頭上を飛べ」

 

「はあ、なんで敵の上を……弓なんて持ってきてないでしょう?」

 

「いいから、言う通りに飛べっ!」

 

 

 癪に障るがフェリクスの言う通りに飛ぶ。

 

 弓や遠距離武器を持っているなら、一方的に攻撃できる有利な位置取りと言えるが、生憎あたしもフェリクスも弓を持ってきていない。

 切り札のグラディウスを簡単に投げて使うわけにもいかないし……

 

 

「斬ってくるから、拾え」

 

「拾えって……あんたまさか!?」

 

 

 フラルダリウスを下に捉えるとフェリクスがグリフォンから飛び降りた。

 

 頭上からフラルダリウスへ向けてフェリクスが愛用のモラルタの剣を振る。

 

 

「……絶対、負けん!!」

 

 

 ──〈流星〉

 

 剣を極めし者(ソードマスター)の最強の奥義。

 

 落下しながら五閃、ファルコンもフラルダリウスもバラバラに斬り裂かれた。

 

 

『死を……無残な……死を……』

 

 

 空の上でフラルダリウスが雲散していった。

 

 あのバカっ!! めちゃくちゃしてっ!! 

 

 グリフォンを急降下して、なんとか追いつくとフェリクスは何食わぬ顔で乗り込んできた。

 

 

「あんた!! バカじゃないの! 飛び降りるなんて、何考えてるの!」

 

「……フン、良い操縦の腕だ。お前を信頼していなければ俺も飛び降りなどしない」

 

「……し、信頼って……べ、別にあんたのためにやったわけじゃないんだからね」

 

 

 し、心配とかはしてないけど、心臓に悪いからやめなさいよね……

 

 フェリクス、先祖のフラルダリウスより頭狂ってるんじゃないの? 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ラズワルド視点

 

 

 タルティーン平原は闇に蠢く者たちの術の影響なのか毒の泉が広がっている。

 地上で戦う歩兵の僕やシルヴァンのような騎兵は毒を避けつつの移動でどうしても進軍が遅れてしまう。

 

 古代兵は毒の泉の影響を受けないのか、気にせず進軍してくる。

 地の利も相手にあるというわけだ。

 

 目の前には〈グレートナイト〉……破裂の槍によく似た強力そうな槍を持っている。

 

 十傑の一人、ゴーティエだ。

 

 

『男は死ね。女は私が貰ってやろう』

 

「おいおい、いきなりなんてこと言ってるんだ……あれが俺の先祖のゴーティエだって言うのかよ」

 

「シルヴァン、やっぱり君の女好きって遺伝だったんだね」

 

「冗談キツイぜ、全く」

 

 

 目の前に僕とシルヴァンという色男が二人いるのに、いきなり女の子について口にするなんて、どう考えてもシルヴァンのご先祖様だと思うんだけどなぁ……

 

 

『女はおらんのか、まあいい。ならば強者だ。歯応えの無い雑魚は要らん……血の滴るような極上の獲物を……私に食わせろ!』

 

「男でも良いんだって。良かったねシルヴァン」

 

「いや、それはそれでどうかと思うぜ……まあ、戦う他ないんだけどな」

 

 

 シルヴァンが“英雄の遺産”破裂の槍を構える。

 ゴーティエが今更気付いたようにシルヴァンの槍に目をやった。

 

 

『ほう、我が槍を返しにきたのか、我が子孫よ。殊勝なことだ』

 

「お生憎だが、こいつは俺が受け継いだ物でな……紋章も英雄の遺産も俺はいらないんだが、ゴーティエ家には必要なんだよ」

 

『なに、ならば家と領地ごと私に返せばいい。どうせ、全て我らの物になる』

 

 

 ゴーティエは自我を保って、こちらと会話できている。

 それだけで、生前も相当な実力を持っていたことがわかる。

 まあ、意思疎通はできても話は通じそうにないけどね。

 

 

「話しは終わりだ。ファーガスの人間ならその武器を持って語らう、俺らしくはないが……それでいいさ」

 

『ふん……貴様も、我が血を継ぐ者なら、せいぜい私を楽しませろ?』

 

 

 ゴーティエとシルヴァンが同時に馬の腹を蹴り、騎馬が駆け出した。

 

 

 ──〈裂空〉。

 

 破裂の槍をゴーティエの紋章を持つ者が使った時だけに使える戦技。

 この技は多くのドラゴンや魔獣を葬ったと言い伝えられていた。

 

 そして、その技をゴーティエはいとも容易く受け流してみせた。

 

 

『……私が何度〈裂空〉を使ったと思っている? くだらぬ戯れだ』

 

「くっ……そうかよ!」

 

 

 シルヴァンが劣勢になる。

 ……ディミトリやフェリクスと比べるとやっぱり修行不足だね。

 

 援護してあげるしかないか。

 

 

「踊るよー!」

 

 

 〈踊り子〉の踊りによる再行動スキルとスキル〈不思議な踊り〉、さらに僕の個人スキルでシルヴァンのステータスを強化する。

 目の前のゴーティエは多分僕なら殴り勝てるけど、ここはシルヴァンに花を持たせてあげよう。

 

 

「……踊らせてやるよ!」

 

 

 シルヴァンが叫びながら、槍戦技〈葬騎の一撃〉を使う。

 

 最初から、騎馬特効を持ってるそっちを使えばいいのに。

 

 再行動スキルは流石に予想出来なかったのかゴーティエはあっさりと食らって斃れてしまった。

 

 

『グ……ガアアッ……! なぜだ……! 血を継ぐ者ごときが……!』

 

「悪いな、ご先祖様……時代は変わったんだよ。この時代は、紋章も英雄の遺産も無くても強い奴は強いんだ。あんたは時代遅れすぎた」

 

 

 ゴーティエが消滅していった。

 

 シルヴァンは、カッコつけて気障な台詞を言ってるけど僕がいないと大分厳しかったからね。

 

 

「……僕は、戦闘狂の男なんかと戦うんじゃなくて、女の子とお茶してたいよ」

 

「はははっ……そいつは同意見だ。この戦争が終わったら、また二人でナンパでもしようぜラズワルド」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 イングリット視点

 

 

 

 シルヴァンとラズワルドが、目標の一体である十傑ゴーティエを撃破したのを空から確認する。

 

 二人で笑いあっているが、どうせくだらないナンパの話でもしているんでしょうね。

 

 タルティーン平原は毒の泉による瘴気に満たされている。

 地上を進む兵士たちにとって、この毒沼は大きな障害だ。

 だからこそ、私たち飛行部隊の役割は大きい。

 

 同盟軍はクロード殿の不死隊とヒルダの金鹿飛竜隊。

 教会軍はセテス殿率いるキッホル竜騎兵団。

 帝国軍からはペトラ率いる帝国飛竜隊。

 いずれも〈ドラゴンマスター〉と〈ドラゴンナイト〉を中心とした混成部隊だ。

 

 一方、私は王国天馬兵団、セイロス天馬兵団、同盟天馬兵団、帝国天馬兵団と黒鷲天馬兵団、そして自領のガラテア天馬隊。

 フォドラ大陸連合軍の全天馬兵を集めた部隊の総指揮を任されていた。

 

 

「さあ、フォドラ大陸連合軍の天馬兵たちよ! 私たちで制空権を取り、タルティーン平原を……このフォドラを取り戻すのです!」

 

 

 私の号令で千騎を超える天馬兵たちが一斉に動くのは気持ちがいい。

 まるで物語の英雄になったような気分だ。

 

 

『おぉ……おぉぅ……麗しき私の小鳥たちよ!』

 

 

 眼前の古代兵を率いる〈ホーリーナイト〉、情報が正しければ十傑のダフネルが、私たち天馬兵たちの姿を見て感嘆の声を上げる。

 

 彼は男性だったためペガサスには乗れなかったが、天馬の愛好家として歴史の記録に記載されていた。

 

 

『私はフォドラ解放軍の十傑が一角。美と智慧とを兼ね備えた偉大なるこの私を呼ぶがいい! オリヴァーと! さあ!』

 

「……貴方が私の先祖で間違いないようですね」

 

 

 ダフネルの始祖、オリヴァー=タナス=ダフネルは十傑の中では珍しく名前が残っている。

 

 ダフネルは自己愛が強く強烈な美の信奉者だったと言われていた。

 その性格から、本人の容姿も美形だったと言われている。

 

 ……しかし。

 

 目の前にいるのは、禿げ頭で、脂ぎっていて、見るからに恰幅のいい男だった。

 どう考えても、記録にある「美形」とは一致しない。

 

 或いは、子孫がどこかで歴史を捻じ曲げて伝えているのかもしれない。

 

 ……少し残念だ。

 

 いや、人を見た目で差別するのは良くない。

 彼は私のご先祖様だから、敬意を持って接するべきだ。

 

 

『ああ、美しい私の小鳥たちよ……美しい者は私に所有されてこそ幸福を得られるのじゃ!』

 

 

 訂正しよう。

 やはり、敬意など必要ない。

 

 ダフネルは美しいものを好んだ反面、醜いものを差別して罵倒したという人物像も記載として残っていた。

 どうやら、その記述については合っていそうだ。

 

 

『死の淵より蘇りし私は、ほどよく進化を遂げた。まろやかに相手をしよう……我が美しき槍“ルーン”を持つ娘よ、名はなんという?』

 

「イングリット=ブランデル=ガラテア。ダフネルの紋章とルーンを継承する者です」

 

『我が紋章を……なるほど、可憐でほどよい私に少しは似ておる。だが、千年も経てば血は薄まっておるようだな……ぱっとしなくて幸薄そうな顔をしておる』

 

 

 化粧はあまり得意でないし、女性らしくない面が多い自覚はあるが、容姿をここまで貶されたのは生まれて初めてだ。

 

 怒りが沸々と沸いてくる。

 

 ダフネルは武功もなく、放蕩三昧だったとも聞く……この先祖がもっとしっかりしておけば、父も祖父たちも苦労しなくて済んだかもしれない。

 

 英雄の遺産“ルーン”を構える。

 

 ……このダフネルは私一人の力で倒す! 

 

 

「……いざ、参ります!」

 

『華麗に舞おうぞ!』

 

 

 肥満体型のダフネルが鈍い動きでルーンによく似た槍を私に突き立てた。

 

 

「残像です……!」

 

『ほほぅ!』

 

 

 かつての士官学校の剣術武闘大会。

 オーディンは幻影呪術を用い、翻弄され私は完敗した。

 

 あの時、思ったのだ……世界には現実離れした技を使う者も、まるで騎士物語の英雄のような技を使う者も。

 

 そして、その技を嬉々として教えてくれる者もいる。

 

 ──〈震炎〉。

 

 このルーンをダフネルの紋章を持つ者が使うことで使用できる戦技。

 

 私の持つダフネルの小紋章が輝きを放ち、浮かび上がる。

 

 

「トライアングルアタック!!」

 

 

 熟練した飛行兵が三人いてはじめて使えるとされる奥義トライアングルアタック。

 

 私はそれを二人分の幻影を用いて、使ってみせた。

 

 私の……私だけの必殺技。

 その名も『ひとりトライアングルアタック』。

 

 

『ぐほっ……美とは……なんと儚き……も……の……こふっ…………』

 

 

 鈍い動きのダフネルが避けきれるはずもなく、斃れる。

 はじめて、この必殺技『ひとりトライアングルアタック』を実戦で使った。

 このような最終決戦で使うことになるとは……努力して練習した甲斐があったというものだ。

 

 ……この必殺技をみんなに見せたら、なんと言うでしょうか。

 

 少しだけ、楽しみだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 メルセデス視点

 

 

 私は『フォドラの夜明け』の本隊から離れたところを、私の指揮する部隊である紫苑隊だけを率いて移動していた。

 

 

「……姉上、私のそばを離れるな」

 

「大丈夫よ、エミール。私だって、成長したのよ。今は『フォドラの夜明け』の部隊長……聖騎士なのよ〜」

 

 

 隣には、〈死神騎士〉ではなく〈剣聖〉に兵種の変更をした弟のエミールがいる。

 エミールは子どもの頃から一番剣が得意だった。

 得意な武器を使える兵種になれて、エミールも少し嬉しそうだ。

 

 エミールの首元には、英雄の遺産ラファイルの宝珠がある。

 かつて死神騎士だった頃に私へと贈られたそれは、再びエミールの元へ戻った。

 ラファイルの宝珠がきっとエミールを守ってくれるはずだ。

 

 

『くす……くす……やはり私は優れた存在……

 選ばれた存在だったのです……邪神のしもべ共……解放王の恩恵を受けた私の貴い姿をよく見るのです!』

 

 

 私たちの前にいる〈グレモリィ〉が声をあげる。

 長身にパーマのかかった長髪、厚化粧、異様に鋭い鉤鼻と太い眉毛。

 女性しかなることが出来ない〈グレモリィ〉なのに彼は男性にも見える。

 

 十傑の一人ラミーヌだ。

 

 なんとなく、太い眉毛だけは遺伝しちゃったのね、と場違いな感想が思い浮かんでしまった。

 

 

『その装備……どこの軍の者ですか? 流石は邪神のしもべ……みすぼらしくて品のないこと』

 

「まあ……そうかしら〜? 私たちの装備、そんなにみすぼらしく見えるのね〜……でも、あなたのその格好も、随分と個性的だと思うわ〜」

 

 

 千年前と今とでは、流行も価値観も違う。

 だから、ラミーヌには私たちの服がみすぼらしく見えるのかもしれない。

 

 でも、私は紫苑隊の薄紫を基調とした神官服が気に入っている。

『フォドラの夜明け』を再編するとき、各隊の隊長たちで話し合って、それぞれの隊に合わせた色を主色にした衣装を作った。

 みんなであれこれ意見を出し合いながら決めた時間は、とても楽しかった。

 

 ラミーヌも衣装が合っていないように思えるので、どうにかした方がいいかもしれない。

 

 〈グレモリィ〉ではなくて神官系の服にして、お化粧は……。

 

 

「姉上、油断するな。相手は十傑だ」

 

「あらあら? そうだったわね〜」

 

 

 エミールの声で、私はようやく我に返った。

 

 いけない、いけない。

 目の前にいるのは、千年前の英雄戦争を生きた十傑の一人。

 

 今は戦場なのだから、服装の心配をしている場合ではないわね〜。

 

 

『偉大なる私に比べて……なんて貧相な存在たちでしょう。さあ、ちっぽけな生き物よ、私に許しを乞うのです。神聖魔法〈バルオーラ〉!!』

 

 

 ラミーヌの手からリング状の光魔法が拡散される。

 〈バルオーラ〉……聞いたことのない魔法だけど、上級攻撃光魔法〈オーラ〉の亜種かしら? 

 それほど、威力は出ていなかったけど……。

 

 私も紫苑隊も神官系の兵種だから、魔防には自信がある。

 エミールだけが、少し多くダメージを受けてしまった。

 

 

「エミール、大丈夫〜?」

 

「問題ない。……だが、これは毒か?」

 

「あら本当、毒状態になっちゃってるわ〜」

 

 

 〈バルオーラ〉はどうやら当てた相手を毒状態にする効果を持っている技らしい。

 全然、光魔法っぽくない技だけど、ラミーヌは本当に個性的だ。

 

 

『くす……くす……地に這いつくばって私の靴でも舐めなさい……そうすれば許してあげなくもないですよ』

 

「エミール、そんなことしなくていいのよ〜。〈レスト〉……えいっ!」

 

 

 状態異常回復魔法の〈レスト〉を発動する。

 

 私の持つラミーヌの小紋章が浮かび上がり、魔力の消耗が抑えられる。

 

 紋章が発動すると、なんだかお得な気分になっちゃうわね〜。

 

 

「沈め」

 

『……ッ! ……ガハッ……!』

 

 

 エミールがラミーヌを斬りつける。

 

 剣による二回攻撃。

 

 その二撃をまともに受けたラミーヌは、あっさりと斬り伏せられ、そのまま消滅した。

 

 

「あらあら、エミール。せっかくのご先祖様なのよ……もう少しお話したかったわ」

 

「姉上、相変わらずだな。だが、あのような者とは話す価値はない」

 

「そうかしら? ……そうかもね〜」

 

 

 あのご先祖様……ラミーヌは、なんとなく意地悪そうな雰囲気だったから、エミールが正しいのかもしれない。

 

 

「さあ、私たちの目標は倒したわ。『フォドラの夜明け』に合流しましょう」

 

 

 私たちは、先祖の一人である十傑ラミーヌを倒すことができた。

 

 千年前の英雄戦争を生きた、ご先祖様。

 

 その人と実際に言葉を交わすことができたのは、少しだけ不思議な気分だった。

 

 でも、いつまでもここにいるわけにはいかない。

 

 私たちは仲間たちの待つ『フォドラの夜明け』へと戻ることにした。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。