ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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第96話『白の旋律』

 

 

 クロード視点

 

 

 

「先生、十傑は五体は倒せたぜ。今のところ順調みたいだ」

 

「うん。狙いどおりに進められているね」

 

 

 先生が戦場を見渡す。

 先生もオーディンの〈神軍師〉の力のように、空から俯瞰するように戦場を把握できているらしい。

 

 ⋯⋯俺は空を飛んで目視でやっと見ているのにズルいぜ。

 

 タルティーン平原の各所で、連合軍と古代兵たちとの戦闘が続いている。

 俺たちは、十傑を一体ずつ各部隊に分担して撃破する作戦を取っていた。

 

 既にブレーダッド、フラルダリウス、ゴーティエ、ダフネル、ラミーヌを倒している。

 残りはリーガン、ゴネリル、グロスタール、ドミニク、カロン。

 

 そして、奴らを復活させた闇に蠢く者たちと解放王ネメシスだ。

 

 

「それにしても、十傑の末裔が自分のご先祖様を倒していくってのも、なかなか皮肉な話だよな」

 

「そうだね。オーディンの作戦は面白い。私は考えたことなかった」

 

「あいつはこういう英雄話っぽいのが好きだからな」

 

 

 俺は苦笑する。

 千年前にフォドラを救ったとされる英雄たち。

 

 その血を継いだ者たちが、今度はその英雄たちを倒している。

 

 なんとも皮肉な話だ。

 

 

「……まあ、勝てば俺たちはみんなフォドラの英雄さ」

 

「そうだね。でも、負けたら私たちは邪神のしもべたちだね」

 

「はははっ……勝った方が歴史を作る。それは千年前も変わんねえようだな」

 

 

 さて、俺も仕事の時間だ。

 

 戦場に出れば、俺も駒のひとつだ。

 駒としての役割を果たさないとな。 

 

 先生のもとを離れ、〈バルバロッサ〉の白いドラゴンで空を飛び目標に近づく。

 

 目の前には〈ボウナイト〉……リーガンだ。

 

 

「あんたがリーガンか。何か話はできるのか?」

 

『ネメシス様からの伝言を伝えます。我は、タルティーン平原の【玉座】にて、お前たちを待っている……』

 

「解放王は玉座で待つってか……伝言、ありがとな、ご先祖様」

 

 

 解放王ネメシスは、先生とオーディン曰く〈伝説の剛王〉という力を持っているらしい。

 そこから動かないのは玉座が関係しているのかもしれない。

 

 

「ご先祖様、あんたは何者だったんだ? なんでネメシスと一緒に戦ってる?」

 

『ネメシス様からの伝言を伝えます。我は、タルティーン平原の【玉座】にて、お前たちを待っている……』

 

「いや、それは聞いたって……」

 

『ネメシス様からの伝言を伝えます。我は、タルティーン平原の【玉座】にて、お前たちを待っている……』

 

「あんた……まさか、それしか喋れないのか?」

 

 

 どうやら、本当にそれしか喋れないらしい。

 

 千年前の英雄の一人と、千年ぶりに会話できると思ったんだけどな。

 

 少しだけ残念だ。

 

 

『ネメシス様からの伝言を伝えます。我は、タルティーン平原の【玉座】にて、お前たちを待っている……』

 

 

 英雄の遺産“フェイルノート”を構える。

 

 

 ──〈落星〉。

 

 フェイルノートと一致するリーガンの紋章を持つ者のみが使える戦技。

 

 その破壊的な一撃はいとも容易く、〈ボウナイト〉を吹き飛ばした。

 

 

『ネメシ……様からの……伝……えま……』

 

「結局、最後までネメシスの人形か……生前のあんたがそういう奴じゃなかったことを祈るよ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 アネット視点

 

 

「アネット、無理はするなよ……我々の目標はドミニク。十傑の一人であり、私たちの先祖だ」

 

「わかってるよ、父さん。あたしたちが頑張ってご先祖様を倒さなくっちゃね」

 

 

 あたしは今、父さんと山の上に構える〈ドラゴンマスター〉……ご先祖様のドミニクを目指して歩いていた。

 

 あたしの持つ英雄の遺産“打ち砕くもの”……伯父さんにお願いして借りてきたのに、まだ一度も使えていない。

 

 せっかくの英雄の遺産なんだから、ちゃんと使ってみたい。

 

 もちろん、戦場だから遊び半分じゃない。

 

 ご先祖様を倒すために必要な力だ。

 

 

「あっ、父さん……あれっ!」

 

「むっ、あちらから来たか……」

 

 

 山の上を飛んでいた古代の〈ドラゴンマスター〉が悠然と飛んできた。

 今まで見たどんな竜騎兵よりも巨大な竜に乗っている。

 

 

『うぬ、ここまで登って来たか! ならば、ここから叩き落としてくれる!』

 

「えっ……あなたが降りてきただけだと思うんですけど……」

 

 

 今、ちょうど山頂を目指して登ろうとしていたところだ。

 

 

『むっ……そうだったか、わしとしたことが……はっはっはっ!』

 

 

 ご先祖様……ドミニクさんは笑ってごまかしている。

 

 あたしのご先祖様であるドミニクさんは、何故かかっこ悪くて変な武勇伝ばかり沢山残っている。

 

 樽や木箱に躓いて盛大に転んだり、野営の料理中にお鍋を大爆発させたり……あたしもその血を受け継いでいる心当たりが有りすぎる武勇伝が大量だ。

 

 空回りしやすいけど、努力家で仲間や部下からは慕われていたっていう話もあったけど……

 

 

『それは、“打ち砕くもの”……貴様、わしの子孫か! 黄泉がえり、自分の縁者と会うことになるとは、なんと数奇な運命よ!』

 

「あたしはアネット=ファンティーヌ=ドミニク! 貴方の血……ドミニクの紋章を受け継ぐ者として、貴方を倒します」

 

『はっはっはっ! 我が末裔よ! その“打ち砕くもの”を持ってわしを打ち砕いてみせよ!!』

 

 

 竜が急降下する。

 

 巨大な身体が迫り、空気が震える。

 

 

 ──〈砕塵〉。

 

 英雄の遺産“打ち砕くもの”の戦技。

 

 当たったものを打ち砕き、守備を崩壊させる技、あたしはその戦技を使──わなかった。

 

 

「覚悟して! 〈エクスカリバー〉!!」

 

 

 最上級風魔法〈エクスカリバー〉。

 飛行特効を持つ竜殺しの魔法。

 

 ご先祖様が、なす術なく薙ぎ払われる。

 

 

『見事な……魔法の腕だ……我が子孫よ……』

 

「あっ……結局、魔法使っちゃった……」

 

「アネット。今のは流石に、打ち砕くものを使うべき時だったのでは……」

 

 

 ……父さん、しょうがないじゃない。

 魔法の方が間違いなく勝てる確率が高かったし……。

 

 

『ははは……よくぞ、わしを打ち砕いた……子孫よ』

 

「うう……ごめんね、ドミニクさん」

 

『フフ、構わんよ……だが、残念だ、未来の者たちよ……ははは……弱者が、いくら寄り集まったところで、何ができる……この地上に生きる誰一人として陛下には敵わぬというのに……』

 

 

 そう言って、ドミニクさん……ご先祖様は消えていった。

 

 

「……負けないよ」

 

 

 ご先祖様がどれだけ強かったとしても。

 

 千年前の英雄たちが、どれだけ強かったとしても。

 

 あたしたちには、あたしたちの仲間がいる。

 

 

「父さん。行こう……次こそは“打ち砕くもの”で敵を倒してみせるよ」

 

「アネット……本当にそれは使うのか?」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 カトリーヌ視点

 

 

 アタシは“雷霆のカトリーヌ”、カロンの紋章を持ち英雄の遺産“雷霆”を使う選ばれし聖騎士だ。

 ……なんてな、オーディンみたいな自己紹介になってちまったな。

 

 

「お〜、いるいる。死人どもがワラワラと……古代の戦士って言ったって斬り応えがねえけどな」

 

「数も多いが質もそれなりだ。油断するな」

 

 

 現在アタシは相棒のシャミアと共にセイロス教会軍の最前線で戦っている。

 古代兵は、とにかく数が多いが、厄介なことにそこそこ強い。

 教会軍は他の三国の軍と比べ数が少ないから、気合入れていかないとな。

 

 セイロス教会軍の指揮は、騎士団長のオーディンでも副団長のアロイスでもなく、先日帝国から解放されて復帰したレア様がやっている。

 

 大司教代理のベレスがフォドラ大陸連合軍の総大将で、その下のセイロス教会軍の指揮を大司教のレア様が率いるという逆転現象が起きているが、レア様が良いならそれでいい。

 

 レア様もなんか嬉しそうだったしな……。

 

 

『お〜、いるいる。こりゃ良いや、選り取り見取りだな』

 

 

 目の前の〈エピタフ〉。

 雷霆によく似た、特徴的な形の剣。

 十中八九、コイツがカロンだろう。

 

 

『ヒャハハハハハッ! ネメシス様について正解だったぜ。女神の眷属共や、その他の手練れ共を好き放題、斬らせてくれっからなあ!』

 

「あ~、やっぱりコイツはアタシの先祖じゃないかもな……全然似てないし」

 

「何を言ってる? お前にそっくりだぞ」

 

 

 相棒のシャミアが淡々と言い放つ。

 何を言ってるんだ。

 

 全然、似てねえよ。

 

 コイツは強い奴と戦うため……誰かを斬るために、解放王に従っている。

 アタシはセイロス教の正義のため……全てを捧げてレア様に従っている。

 

 

「信念が違う。アタシとコイツは全く似てないさ」

 

『この俺の末裔がセイロス教会の聖騎士だとはなあ? 女神様にヤラせてもらったのか?』

 

「……そうだな。たしかにお前の方がいくらか品があるようだな」

 

 

 本当に品性の欠片も無い野郎だ。

 

 敬虔なセイロス教徒のアタシに向かってこんなことを言ってくるとは……そもそもカロン家は、英雄戦争でコイツが死んだ後からずっとセイロス教会を信奉してきた貴族家だ。

 

 こんな奴が、歴史に名を残したフォドラの十傑の一人でアタシのご先祖様だったとは……顔も見たくなくなった。

 早めに斬って終わらせよう。

 

 ……まあ、性格の悪さに比例して腕は良さそうだから、そう簡単にはいかないかもしれないが。

 

 

「アタシはカトリーヌ。女神の僕たるセイロス騎士団の剣、その身で味わいな!」

 

『ヒャハッ! グチャグチャにしてやるぜ!』

 

 

 ──〈雷迅〉。

 

 雷霆の戦技であり、アタシ“雷霆のカトリーヌ”の代名詞でもある必殺技。

 

 英雄の遺産による超速度の二連撃。

 

 目の前のカロンは、その二連撃を完全に捌ききった。

 

 そして、そのカロンの額に矢が突き立っている。

 

 

『ギグアッ……! ガ……うそダ……』

 

「よし、死んだな」

 

 

 カロンは何が起きたかも分からず、そのまま倒れて消滅した。

 

 後ろでシャミアが澄まし顔で頷いている。

 

 ……コイツ……やりやがったな!! 

 

 

「ふざけんなよ、相棒!! 何してくれてやがる!!」

 

「何、援護をしただけさ、相棒。完璧だっただろう」

 

「ああ、最悪のタイミングの最高の援護だったよ。……でもな、もっと空気読めよ!」

 

 

 間違いなく、今までで一番の援護射撃だった。

 アタシが必要としていたかどうかは除いては……。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ヒルダ視点

 

 

「ヒルダさん、行きましょう。目標の姿が見えてきました」

 

「マリアンヌちゃん、無理しないでよねー」

 

 

 今、あたしは親友のマリアンヌちゃんと一緒に十傑の一人ゴネリルのもとへと向かっていた。

 本当は十傑なんて強くて危ない敵は、もっと強い人に任せたかったが、何故かゴネリルの子孫であるあたしが戦うことになってしまった。

 

 そして何故かマリアンヌちゃんはいつもより気合が入っている。

 英雄の遺産みたいな武器、ブルトガングを手に入れた後のマリアンヌちゃんは憑き物が取れたようになっていたが……最近は何か別のものに憑かれたように、やる気に満ちている。

 

 ……なんか、マリアンヌちゃんらしくなくて少し怖い。

 

 

「まあ、マリアンヌちゃんがそこまでやる気なら、あたしも頑張るかー」

 

「ええ……ブルトガングが……この血が戦えと……言っているんです」

 

 

 なんかオーディンくんみたいなこと言ってるんですけど……本当に大丈夫かな? 

 

 そうこう言ってる内に敵のもとへと辿り着いてしまった。

 

 

『俺は“ゴネリル”、砂漠の傭兵あがりだ。本当の名前は別にあるんだが……前の生ではそう名乗っていた』

 

 

 〈ウォーマスター〉ゴネリル。

 歴戦の猛者に相応しい雰囲気を纏っている。

 

 この人、ホルスト兄さんやバル兄より強そうなんですけど……。

 

 ゴネリルはフライクーゲルによく似た斧を持っている。

 フライクーゲルは竜特効の戦技を持っているから、ドラゴンから降りよう……。

 

 

「よいしょ、っと……あっ、攻撃してこないんですね。あ、ありがとうございます。このまま戦わなくていいなんてことは……」

 

『あるわけねーだろ』

 

「ですよねーははは……」

 

 

 ご先祖様のゴネリルはあたしの持つフライクーゲルに目が釘付けだ。

 マリアンヌちゃんのことに気付いていないわけじゃないんだろうけど……

 

 

『フライクーゲル。女二人が相手かと、残念に思っていたが、俺の子孫だったのか……そいつが使いこなせるか見てやるよ』

 

 

 ……もう、あたしがやるしかないじゃん。

 

 しょうがない。

 

 フライクーゲルを構えなおす。

 

 戦技が発動し、あたしの持つゴネリルの小紋章が発動する。

 

 ──〈劫火〉。

 

 フライクーゲルの持つ戦技。

 

 あたしの斧とゴネリルの斧が激しくぶつかりあい火花を散らした。

 

 

『へぇ……流石は俺の子孫か、思ってたよりも戦えるじゃねえか』

 

「……っ! 簡単に止めた……やっぱり、この人兄さんよりっ!」

 

 

 あたしは本気なのに、この人は簡単そうに止めている。

 戦技も使っていなかった。

 

 

「今日は血が騒ぎます……!」

 

 

 ──〈獣牙〉。

 

 ブルトガングの持つ、戦技。

 竜と騎馬を葬る魔法剣。

 

 マリアンヌちゃんが横合いから、剣を突き立てる。

 

 

『チッ……嫌なタイミングで絡んできやがる。しかも、その剣は……』

 

 

 マリアンヌちゃんの攻撃にゴネリルはようやく、マリアンヌちゃんをまともに見据えた。

 今度はマリアンヌちゃんの持つブルトガングを見ている。

 

 そういえば、マリアンヌちゃんがこの剣を手に入れた時に喋る魔獣があたしのフライクーゲルを見て『友達の武器』だって言ってたけど、もしかして……

 

 

『その剣は……“ブルトガング”! ……ってことはモーリスは……』

 

「ええ、ヒルダさんの持つフライクーゲルで解放してあげました」

 

『そうかい……そいつはありがとよ』

 

 

 あれは成り行きだったんだけどなー。

 しかも、そういうの聞いちゃうと戦い辛くなっちゃわない? 

 

 

『……来いよ、末裔共! お前らを踏み台に俺は上に行く。悪く思うなよ!』

 

 

 もう本気だしちゃうしかない! 

 

 マリアンヌちゃんとほぼ同時に突っ込む。

 

 

「魂が躍動するっー!!」

 

「この血が戦えとっ!!」

 

 

 フライクーゲルが持つ専用の戦技ではなく……使い慣れた斧戦技〈スマッシュ〉、全ての斧使いが使うとされる元祖の戦技。

 

 あたしの戦技は防がれる。

 

 しかし、マリアンヌちゃんの剣戦技〈魔法剣〉により、ゴネリルが両断された。

 

 

『ああ……懐かしい……フライクーゲルと……ブルトガングを持つ者が……並んで……戦っているところを……見れるとはな』

 

 

 ゴネリルが満足そうに消えていく……ひとりじゃ多分勝てなかったな。

 

 

「マリアンヌちゃん、ありがとね。おかげで、なんとか勝てたよ」

 

「ええ、ヒルダさん。これで始められます……フォドラの英雄は十一人いた。その序章の物語を……」

 

 

 マリアンヌちゃん……何言ってるの? 

 本当に魔剣ブルトガングに取り憑かれてない……? 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 リシテア視点

 

 

 

「さて、十傑も残るは一人! そしてそれは、僕の先祖グロスタール! 見ていてくれリシテアさん。この、ローレンツ=ヘルマン=グロスタールが討ち取ってみせよう!」

 

「あんたがモタモタしてたから最後の一人になったんでしょう! 早く行きますよ!」

 

 

 タルティーン平原は毒の沼に覆われている。

 

 騎兵のローレンツと魔法歩兵のわたしじゃどうしても遅れてしまう。

 

 わたしは転移魔法〈ワープ〉を使えるけど、ローレンツを飛ばすのは流石に不安がある。

 

 

『ふふ……良し。実に良い。この狭い戦地に、我が雷の魔道……戦うまでもなく、すでに勝負は決まったようなもの。戦いとはつまり、算術。賢い者こそが勝利するのだよ』

 

 

 まだ、わたしの手持ち魔法ではオーディンに教わった闇魔法〈スライム〉くらいしか届かない距離にいる、グロスタールの声が聞こえる。

 拡声の魔法を使って、わざとわたしたちに聞こえるように言っているのかもしれない。

 

 ……誰かさんによく似て目立ちたがり屋だ。

 

 闇魔法〈スライム〉を撃ち込んでやりたい気持ちになるが、魔防の高い〈ビショップ〉であるグロスタールには通用しないだろう。

 

 

『貴様らは【玉座】にたどり着けん……決してな。みな、この毒泉の底に沈んでもらう!』

 

「なっ……?」

 

「毒沼が増えただとっ!?」

 

 

 グロスタールが声を発すると毒沼が拡がっていく……どうやらアイツが毒沼を発生させていたらしい。

 

 

『そして、我が雷魔法を食らうがいい! いかずちよ! 〈サンダーストーム〉!!』

 

 

 最上級雷魔法〈サンダーストーム〉、グロスタールの放つ魔法でわたしたちは一気に窮地に立たされることになった。

 

 雷魔法の嵐がわたしとローレンツに向かって振り注ぐ。

 

 

『いかずちよ! いかずちよ! 我が叫びを聞け、いかずちよ!』

 

「まずい……〈スライム〉!」

 

「くっ、闇魔法〈スライム〉!!」

 

『効かぬわっ!! いかずちよ! いかずちよ!』

 

 

 わたしとローレンツは必死に遠距離闇魔法〈スライム〉を撃ち返すが、予想通りあまり効いてはいなかった。

 

 ……もう、我慢できなかった。

 

 

「ああ、もういいです! テュルソスの杖を貸してください、ローレンツ!」

 

「なっ……!? それは我がグロスタール家の家宝だぞ……それに、いくらリシテアさんといえど一致する紋章がなければ」

 

 

 テュルソスの杖……魔法攻撃の射程を伸ばす効果があるとされる、破格の性能を持つ英雄の遺産。

 

 オーディン曰く「二マス分」らしいが、わたしにはその意味が分からない。

 

 そもそも「マス」って何なのよ。

 

 あいつが勝手に作った単位なんでしょうけど……。

 

 

「……私はグロスタールの紋章を持ってますから大丈夫です!」

 

「なにっ……!? 君が持ってるのはカロンの小紋章では?」

 

 

 忌々しいことに、わたしはグロスタールの紋章を持っている。

 闇に蠢く者たちの実験によって、後天的に植え付けられた2つめの紋章。

 わたしはこの紋章を消すために必死に研究をしていたのに……頼ることになるなんて。

 

 

「ローレンツ、つべこべ言ってないで私を守ってください! ラファエルからウコンバサラの斧を借りたんでしょう!」

 

「くっ……わかった。君を守ろう!」

 

 

 ウコンバサラの斧はグロスタールの紋章と一致すると効果を発揮する神聖武器だ。

 元々、教会軍『フォドラの夜明け』所属の聖騎士であるラファエルが使っていた武器だが、今回の最終決戦ではローレンツに快く貸してくれている。

 

 ちなみに、神聖武器の紋章一致効果もオーディン曰く「ターン開始時に最大HPの10%分のHPが回復する。小紋章一致時は20%、大紋章一致時は30%」と言っていた。

「ターン」も「HP」もよくわからない……このオーディン語が理解できるのはベレス先生だけだ。

 

 しかし、神聖武器の紋章一致が回復魔法と同じ効果を持っていることは理解できていた。

 

 ローレンツがわたしの盾となって、雷魔法を凌ぐ。

 

 テュルソスの杖を握った瞬間、魔力の感覚が変わった。

 今までなら届かなかった距離。

 

 それが、今なら届く。

 

 

「闇の裁きです! 闇魔法〈ゲーティア〉!」

 

 

 〈ゲーティア〉、オーディンの世界にあったという伝説の闇魔法。

 

 わたしとオーディンが協力して完成させた最強の闇魔法。

 

 フォドラ大陸の最上級の闇魔法〈ハデスΩ〉を上回る威力を誇る純粋な闇の奔流。

 

 その闇にグロスタールは飲まれていった。

 

 

『ありえない……こんなことは……』

 

 

 わたしは大きく息を吐く。

 

 忌々しいと思っていた、もう一つの紋章。

 

 消してしまいたいと思い続けていた力。

 

 そんなものに助けられてしまったことには、正直、複雑な気分だった。

 

 でも──。

 

 

「この杖……すごく使いやすいですね」

 

「それはグロスタール家の家宝だよ。返してくれたまえ、リシテアさん」

 

 

 




十傑は過去のファイアーエムブレムシリーズ敵キャラのパロディです。

元ネタは↓
設定資料⑧十傑の設定
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=344964&uid=294404
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