ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
エーデルガルト視点
「『
「『フォドラの夜明け』、闇に蔓延る刺客共を殲滅せよ!!」
私とオーディンの掛け声で、帝国軍の皇帝直属部隊『
最後の十傑グロスタールを討ったことにより、タルティーン平原を覆っていた毒の沼は全て消え去った。
私たちの進軍を阻むものなど、もう何もない。
「ククッ……闇が囁いていますな……〈ゲーティア〉!」
従者のヒューベルトがオーディンから伝授された最上級闇魔法〈ゲーティア〉を使い古代兵たちを薙ぎ払う。
兵種も〈ソーサラー〉という超特級職になることが出来ていつもより嬉しそうだ。
「私もヒューベルトに負けてられないな……我が名はフェルディナンド=フォン=エーギル!! 古代の戦士たちよ! 私が相手だ!」
「俺は“情熱の”……いや、えーと、“烈火のカスパル”だ!! かかって来やがれ!」
「私も、フォドラの歴史! 名を残し、名を刻む、します!」
「もう最後だもん! 働いた分だけ引き籠ってやる!」
「せっかく、十傑が蘇ったっていうのに、研究も出来ないなんて勿体ないなぁ……」
フェルディナンド、カスパル、ペトラ、ベルナデッタ、リンハルト。
かつて、黒鷲の学級で共に過ごした仲間たちが再び集結し、『
「またこうして、黒鷲のみんなと一緒に……人生って、何が起こるかわからない舞台なのね」
「きっと、女神様も見守っていてくださるわ。みんなで無事に帰りましょうね〜」
「僕は、僕にできることを果たします。フォドラに生きる、一人の民として!」
「……これで、本当に最後の戦いですよね。ボクたちは思い描いた未来を掴みます!」
「さあ、オデの筋肉! もうひと踏ん張りだぞ!」
「気合一発! 師匠から教わったすべてと、学校で学んだすべてをぶつけてやるさ!」
同じ黒鷲の学級で学んでいたドロテア、別の学級だったメルセデス、アッシュ、イグナーツ、ラファエル、レオニー。
五年間、私たち帝国の最も厄介な敵として戦ってきたオーディン率いる『フォドラの夜明け』。
彼らもまた、私たちと肩を並べて戦っている。
「ネメシスと闇に蠢く者を討てば、全てが終わる。僕たちの使命も終わる」
「あと少しよ……みんなで生き延びて、最高のエンディングを迎えましょう」
「女神の使命が終わる時……『フォドラの夜明け』が訪れる。それは新たなフォドラの時代の幕開けだ」
ラズワルド、ルーナ……そして、オーディン。
世界を救うため、この世界へとやって来たという三人組。
私はオーディンに戦争で負け続けた。
だが、皮肉なことに完敗を続けた結果、帝国軍は形を保ち続け、私も最後まで生き残ってしまった。
もし、オーディンが私たちを徹底的に打ち滅ぼしていたら。
もし、帝国軍そのものを壊滅させることを目的としていたら。
私は、とっくに死んでいただろう。
帝国もまた、跡形もなく消えていたかもしれない。
「エーデルガルトさん、ついに最終決戦ですわよ! わたくしたちの因縁の相手である闇に蠢く者……そして、解放王ネメシス」
「ええ、そうね。フレン、私たちの『血の定め』に決着を付ける時が来たわ」
フレンが意気揚々と話し掛けてくる。
士官学校で出会った友人。
悠久の時を生きる、女神の眷属。
四聖人の一人、『聖女セスリーン』。
もし彼女との出会い、交流がなかったら、ガルグ=マク大修道院の戦いで捕虜にした大司教レアと積極的に関わることはしなかったであろう。
私は炎帝として、彼女を誘拐し血を採取し人工魔獣の実験に使ったこともある。
しかし、フレンは全てを赦してくれた。
『赦す』という言葉すら、彼女には必要なかったのかもしれない。
彼女はただ、以前と変わらない態度で私に接してくれた。
そして再び、友として私を扱ってくれている。
「さあ、エーデルガルトさん行きましょう……わたくしの“光の同胞”として!」
「フッフッフッ……何を言っている、フレン。エーデルガルトは俺の“闇の同胞”。随分前にそう決着がついたではないか」
フレンとの話にオーディンも加わる。
かつての士官学校で三人で他愛もない話をした。
懐かしい日々が甦ってくる。
「二人とも……私は“光の同胞”でも“闇の同胞”でもないわ」
「まあ!?」
「なにっ……? では、なんだと言うのだ、エーデルガルト」
二人が同時に驚いた顔をする。
その反応がおかしくて、懐かしくて、私は思わず笑ってしまった。
「私たちは“炎の同胞”よ」
光でもない。
闇でもない。
ただ一つの目的のために、異なる立場の者たちが集まり、肩を並べて戦っている。
これを“炎の同胞”と呼ばずして、なんと呼ぶ。
「エーデルガルト……やはり天才か」
「ま! 流石エーデルガルトさん……わたくしも認めざるを得ないですわ」
昼も夜も関係なく燃え続けて、フォドラを照らす炎……私たちはフォドラの篝火となる。
そして、フォドラは夜明けを迎えるのだ。
『
私たちの目標は闇に蠢く者とその首魁タレスだ。
「現れたか、エーデルガルト。忌々しい裏切り者め! 我らを滅ぼそうなど、小癪な……!」
「言ったはずよ。最初から、貴様らの仲間などではないと!」
古代兵たちと闇に蠢く者たちの中央、敵の首魁タレス。
紫がかった白い肌と、虹彩も瞳孔も存在しない白い眼の人ならざるものの姿……数年前、殺し損ねた時の姿のままだ。
「ついに相見えましたわね! わたくしたちの真なる敵……闇に蠢く者タレス! わたくしは“純白のフレン”、選ばれし光の戦士ですわ」
「俺は“漆黒のオーディン”、選ばれし闇の戦士だ! 暗き深淵の地の底を蠢く者の王よ! この“漆黒のオーディン”が貴様を討ち……全てを終わらせてやる……! 」
「忌まわしき女神に連なる者どもめ! 貴様らが何者であろうと最早関係ない! 未来永劫、人の世から葬り去ってくれるわ!」
フレンとオーディンが名乗りを上げる。
ふと、思い出す光景がある。
士官学校時代、夜明け前の訓練所で三人で遊んだ記憶が蘇る。
オーディンが『この世を牛耳る悪の親玉を追い詰めて倒す』……まさにそんな場面だった。
「滅せよ! 〈メガクエイクΣ〉!」
タレスが両手を掲げる。
次の瞬間──。
大地そのものが、唸り声を上げた。
闇の波動が地面を駆け抜け、タルティーン平原全体が激しく揺れ始める。
「誰も死なせない! そう言ったはずだ……〈リザーブ〉!」
「〈リザーブ〉ですわ!」
オーディンとフレンが上級光魔法の〈リザーブ〉を発動する。
広範囲を癒しの光が包み込み、闇の波動の侵食を防ぐ。
二人だけではない。
連合軍の至るところから上級光魔法〈リザーブ〉が発動され、フォドラ大陸連合軍を守っている。
タレスとの戦闘前、オーディンが言っていた。
〈メガクエイクΣ〉は一度限りの敵の切り札。
必ず防いでみせる、と。
そして今、その言葉通りになった。
タレスが放った大規模な破壊の波動を、オーディンは事前に予測し、連合軍全体に〈リザーブ〉を用意させていたのだ。
〈神軍師〉の名に偽りはない働きだ。
「おのれ……! 〈デスΓ〉!」
「ま! 効きませんわ!」
切り札を防がれたタレスは一気に手札が薄くなった。
中級闇魔法〈デスΓ〉は強力だが、魔防の
高いフレンには殆ど効いていない。
そして、フレンの〈ダークペガサス〉の持つスキル〈魔力変換〉によって、闇の力を浄化され光の力に変わっていく……。
「はぁぁぁぁ! 〈ライトニング〉! 必殺! アウェイキング・ホーリ──ー!!」
「闇魔法〈イル〉! 必殺っ!! アウェイキング・ヴァンダ──ー!!」
フレンの光属性攻撃を連続で発射する魔法〈ライトニング〉。
そして同じく、オーディンの闇属性による連続攻撃魔法〈イル〉。
光と闇。
本来ならば相容れない二つの力。
その二つの流星群、純白の閃光と漆黒の魔力が、タレスへと迫った。
「ぐっ……我らの悲願、我らの復讐が、このようなところでっ……!」
最後の抵抗のように、タレスが魔力の防壁を展開する。
必死に光と闇の奔流を防ごうとしている。
そして、私はその魔力の光と闇の中を駆け抜け、タレスの元へと迫っていた。
〈カイゼリン〉の堅く重い鎧も、今は羽のように感じるほど軽い。
手に持つのは、かつて一度完全に壊れてしまったものを、残された少ないアガルチウムで無理矢理修理した魔斧アイムール。
闇に蠢く者たちの技術によって、私という実験動物を生かすために作られた武器。
彼らの技術によって生み出され、彼らの野望のために使われるはずだった、この魔斧。
今度は、私自身の手で奴らの野望を終わらせる。
私は覚悟の証である、赤い幻影の炎をこの身に纏わせた。
この一撃で全て終わらせる。
「ストライクゼステューラ!!」
──戦技〈スマッシュ〉。
剣の戦技〈剛撃〉よりも、さらに古い斧の戦技。
人が武器を手にし、ただ力の限り振るった。
それこそが始まりとされる、原初の一撃。
私は渾身の力を込めて、アイムールを振り下ろす。
そして、その一撃とともに叫ぶ。
オーディンと初めて開発した、あの必殺技の名を。
「ガハッ……ここで、終わる……? 我らが大望が……幾千年の、復讐が……ここで……」
──私の一撃は届いた。
魔斧アイムールが、タレスの身体を両断する。
長きにわたってフォドラの地下に潜み続けた、闇に蠢く者たち。
その首魁であるタレスの身体が、ゆっくりと崩れ落ちていく。
そして、手の中でもアイムールが限界を迎えていた。
かつて完全に壊れ、それでも無理矢理に修復した魔斧。
最後の力を振り絞ったかのように、その刀身に亀裂が入り音を立てて崩れ始めた。
役目を終えたのだ。
「……フッ、無様な姿だな」
「自業自得ですわ……貴方は自らが放った悪辣な邪気に食されたのですわ」
オーディンとフレンがタレスの亡骸を見て吐き捨てた。
いくら邪悪な者の末路とは言え、この二人が死者に対して、このようなことを口にするのは珍しい。
いや……これは。
「さあ、肥大化した野望を悔やみつつ、永遠の眠りにつくと良い……」
「これにて“純白のフレン”と」
「“漆黒のオーディン”、そして……」
オーディンとフレンが台詞のように続ける。
かつて、三人で語り合った士官学校時代の朝のように。
あの頃の、二人がやっていた悪の親玉を討ち取る予行演習のように。
オーディンとフレンの目が私を見据えた。
「……“炎帝エーデルガルト”」
私も、二人の言葉を引き継ぐ。
あの日と同じように。
けれど、今度は遊びではない。
「“炎帝エーデルガルト”の、遥かなる勇戦の終幕よ!」