ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
俺は“漆黒のオーディン”、暗き深淵の地の底を蠢く者の王を討ち取り、真の平和を取り戻すための最終決戦に挑む、選ばれし闇の聖騎士だ。
闇に蠢く者の首魁タレスを討ち取ったが、タルティーン平原を埋め尽くす古代兵は消えなかった。
予想はしていたが、召喚した術者を倒しても消えないタイプの屍兵……いや、こいつらは古代兵だったか。
やはり、【玉座】にいる解放王ネメシスを倒さなければ、古代兵は消え去ってくれないだろう。
十傑と闇に蠢く者たちを倒したとはいえ、まだ古代兵の方が圧倒的に数が多い。
ディミトリ、フェリクス、シルヴァン、イングリット、カトリーヌさん、アネット、ヒルダ、ローレンツ……十傑を倒した後もそれぞれ古代兵と戦ってくれているが、数の多さに押されはじめている。
「流石に数が多いな、俺のフェイルノートも使い過ぎて壊れかけちまっている」
「今までとは少し違うね……これでは、【玉座】に近づく前に武器が壊れて魔力が尽きるかも……」
クロードと先生が話し合っている。
二人の言う通り、これでは解放王ネメシスと戦う前に消耗しきってしまう。
俺の持つ
だが、他の皆が持つ武器や魔力は無限ではない。
ましてや、その先には解放王ネメシスが待っている。
ここで力を使い果たすわけにはいかなかった。
「ネメシスまでの道を、私が露払いします。ベレス、オーディン、エーデルガルト……後を頼みましたよ」
レア様が玉座のネメシスを見据えながら、俺たちに語りかけた。
また、あの時の……ガルグ=マク防衛戦のように白い巨竜“白きもの”となって戦ってくれるのだろう。
「レア……貴女、またあの竜に変身するつもりなの?」
「ええ、このタルティーンの野の戦いにて初代皇帝ヴィルヘルムの子孫である貴女と、女神の依代であるベレス……そして、女神の使徒であるオーディンたち。……貴方たちにフォドラの未来を託します」
「おいおい、レアさん。同盟軍の俺には何の言葉もないってか?」
「クロード……十傑の子孫の貴方も、役目を果たしてくれました。後は皆で解放王ネメシスを討ち果たしてください」
レア様の体が光を発し、巨大な竜となり飛び立っていく。
そういえば、レア様は俺たちの世界のマムクートみたいに、竜へ変身するための竜石を使わないのだろうか?
マムクートは竜石を使って人の姿と竜の姿を切り替える。
だが、今のレア様が変身する時に、竜石を使っているような様子はなかった。
……まあ、フォドラの竜と俺たちの世界の竜では、そもそも仕組みが違うのかもしれないな。
レア様は空を飛びながら、口から光線を発射し古代兵を薙ぎ払い蒸発させていく。
フォドラ大陸連合軍のイングリット率いる天馬部隊がレア様を守るように飛んで援護している。
「まあ、二回目だからもう驚かないが……あの“白きもの”を見ちまうと俺たちの味方なのかっていう疑問は浮かぶよな」
「あれが、フォドラを支配してきたものの正体よ……でも、レアと話をしてみると、長生きしているただの女性という印象だったわ。……私が絆されたと言えばそれまでだけど」
クロードとエーデルガルトが大暴れしているレア様を見ながら、感想を言っている。
俺は竜族の戦闘は見慣れているけど、フォドラの人からしたら魔獣以上の怪物にしか見えないだろうからな。
『……おお、もう始まっとるようだのう。あれはセイロスか?』
『お主が重いから時間が掛かったではないか……少しは運動せい!』
『我は、“動かざる重きもの”だからな! 運動などしない!』
『……何を自慢気に言っておる』
“白きもの”レア様が暴れていると、西の空から巨大な影が飛んでくるのが見えた。
巨大な亀のような聖獣を運ぶ、巨大な竜の聖獣。
トータテス湖の聖獣、“動かざる重きもの”。
そして、スレン半島砂漠の聖獣、“風を呼ぶもの”だ。
「まあ? おじ様たちですわ! 来てくださったのですか?」
『おお、セスリーン……懐かしい顔が見たくなってな』
『お主……あれだけ「我は行かぬ、引き篭もりだから」と言っておったくせに……』
「インデッハ、マクイル……まさか、君たちが来てくれるとは……」
セテスさんの声に、喜びが滲んでいる。
「再び四聖人が揃う時が来るとはな」
……セテスさん、嬉しいのはわかるが全部、聞こえてるんですけど……。
セテスさんが聖人キッホルなのと、フレンが聖人セスリーンなのがバレちゃいますよ……。
『フン、再び神祖に暴れられたら迷惑なのでな……人間どもの為ではない』
『我は知っておるぞ、こういうのをツンデレって言うのをな! ……どうだ、我の方が世の流行りに詳しいだろう? 引き篭もりなのに!』
ツッコミ代りに“風を呼ぶもの”が古代兵の上に、持っていた“動かざる重きもの”を落とす。
巨大な質量に押しつぶされ、できた地割れにのみ込まれて古代兵たちが大量に消滅していく。
『さて……久しぶりの外出だ。せいぜい派手に暴れるとするか』
『憎き十傑は既に討ち取られておるか……まあ良い。解放王ネメシスが、十傑の子孫どもに討ち取られるのを見るのも一興よ』
「我らも共に行くぞ、フレン!」
「はいっ! お父様! 運命を共にですわっ!!」
熱い展開なのはわかるが、セテスさんのことを普通に『お父様』呼びになっているぞ、フレン……流石にそれはまずいんじゃないか?
まあ、楽しそうだから良いか……。
援軍に来た二体の聖獣たちの暴れぶりは、“白きもの”にも劣らないものだった。
“動かざる重きもの”が、その圧倒的な質量をもって古代兵たちを次々と踏み潰していく。
大地が揺れ、地面が陥没する。
その巨体が通り過ぎるだけで、古代兵の群れが薙ぎ払われていく。
“風を呼ぶもの”も負けてはいない。
空高く舞い上がると、無数の幻影兵を召喚する。
そして幻影兵たちが一斉に放った風魔法が、古代兵の群れをまとめて吹き飛ばしていく。
タルティーン平原を埋め尽くしていた古代兵たちも、目に見えてその数を減らしている。
これなら、ネメシスの待つ【玉座】まで辿り着ける。
俺たちの進む道が、開かれていく。
「
「王国軍! 俺たちも続け!」
「さあ、同盟軍。死に損ないの解放王をぶっ倒して、嘘だらけの歴史にケリをつけてやろう」
「教会軍、『フォドラの夜明け』! ……解放王ネメシスの【玉座】を目指すぞ」
エーデルガルト、ディミトリ、クロード、そして、この俺“漆黒のオーディン”が率いる四つの軍が、ネメシスの【玉座】を目指す。
『力無き者よ……命を搔き集めるがいい……!』
解放王ネメシス。
フォドラの十傑を率いて、女神ソティスの眷属たちセイロス教会に戦いを挑んだ人属の王。
千年以上前に死んだはずの男が、古代兵として復活し俺たちの前にいる。
その姿には、かつて英雄と呼ばれた頃の面影が残っている。
その身から放たれるのは、人族最強と呼ぶに相応しい禍々しい魔力。
そして、その手に握られているのは巨大な剣──天帝の闇剣。
ベレス先生の持つ天帝の覇剣を、さらに強力にしたような性能を持つ闇の魔剣。
女神の力を宿した神剣に対する、禍々しき闇の剣。
『跡形も残さぬ』
ネメシスが天帝の闇剣を振り上げる。
──〈崩天〉。
ネメシスの身体に刻まれた炎の紋章が、大きく浮かび上がった。
天帝の闇剣が禍々しい魔力光を放ちながら、鞭のように伸び、撓りながら薙ぎ払われた。
「うっ……!」
「ぐっ!」
エーデルガルトが、ディミトリが、連合軍の前衛たちが、〈鉄壁の備え〉を掛けているにもかかわらず吹き飛ばされる。
「……絶対負けない!」
「踊らせてあげる!」
「ここで決める!」
──〈風凪ぎ〉。
ルーナが、ラズワルドが、そして先生が反撃する。
連合の前衛たちが吹き飛ばされながらも、天帝の闇剣を防いだ一瞬の隙を見逃さず、三人が同時に斬り込んだ。
『……効かぬ! 無に帰すがよい』
再び、ネメシスの〈崩天〉。
天帝の闇剣が、三人の放った反撃不可能な剣戦技〈風凪ぎ〉を真正面から薙ぎ払う。
そのまま三人を近付けさせることすら許さない。
無茶苦茶な強さだ。
『その剣……お主、我と同じ炎の紋章を宿すか……!』
「この炎の紋章は貴方のものではない……これは、女神ソティスの意志を宿す証」
『あの邪神の意志を宿すだと? 笑わせてくれる』
ネメシスとベレス先生が言葉を交わす。
その間に軍を動かす。
「漆黒隊! 計略、集団魔法〈闇〉! 滅せよ!!」
「援護する! 獅子王隊〈車懸〉!」
「手伝うか、不死隊〈灰燼射撃〉」
「私もやるわね! 覇鎧隊、〈猛火計〉!」
俺の率いる『フォドラの夜明け』の漆黒隊の騎士団計略を皮切りに、ディミトリの獅子王隊、クロードの不死隊、エーデルガルトの覇鎧隊がネメシスへの連携計略を発動した。
解放王ネメシスは確かに強かった。
だが──。
俺たちは、一人で戦っているわけじゃない。
『群がる事でしか……戦えぬ弱き者どもよ!!』
「そうさ、俺たちは弱き者だ。だからこそ壁を乗り越え、手を取って、心で触れ合う」
ネメシスの咆哮にクロードが答える。
〈伝説の剛王〉という十傑がいることでステータスが上昇する個人スキルを持ってる奴が言っていい台詞じゃない……ネメシスも群がってるだろうと俺は思う。
「生きるために!」
クロードが壊れかけたフェイルノートを引き絞り、上空へ向けて矢を放った。
──〈囲いの矢〉。
放たれた矢が無数に分かれ、解放王ネメシスへと降り注ぐ。
逃げ場を塞ぐように降り注ぐ矢の雨。
「
──〈雷斧〉。
エーデルガルトが、その身に赤い炎を纏いながら戦技による雷の斧を振りかざした。
エーデルガルトの持つセイロスの小紋章が浮かび上がる。
帝国のフレスベルグ一族に代々受け継がれてきた神聖武器ラヴラウンダ。
その刃が天帝の闇剣と激しくぶつかり合う。
ラヴラウンダが砕け散る。
だが、その代償として放たれた雷の魔力が、解放王ネメシスの身体を撃ち抜いた。
「勝利を掴む!」
ディミトリが何かを投げつけた。
目で追いきれないほどの異常な速度で放たれたそれが、解放王ネメシスの身体を貫く。
……そして、初めてそれが何なのか分かった。
一般兵が使う普通の手槍だ。
『おのれっ……』
胸に手槍が刺さった解放王ネメシスの身体が大きく揺らぐ。
ベレス先生と視線が合う。
その目が、俺に最後の攻撃をするように伝えている。
俺に、決めさせてくれるのか……。
「俺は“漆黒のオーディン”」
『……!』
──〈天空〉。
イーリスの聖王の血筋である聖痕とファルシオンを受け継ぐ者にのみ伝わる最強の〈太陽〉と〈月光〉の奥義二連撃。
世界を救う使命のために振るうに相応しい最後の技。
ネメシスははじめて俺の存在に気付いたように、その赤く光った目を見開いた。
「選ばれし!」
『ヌゥ……』
──〈太陽〉。
「闇の戦士だ!!」
──〈月光〉。
大きく飛び上がり、剣と共に回転しながら斬りつける。
イーリス王家に伝わる、最強の剣技。
「うおおおおぉぉぉ!!!」
『グオオオオオオオオオッ!!!』
同時にネメシスの身体から、禍々しい魔力が噴き出す。
『人の世を……解放した……この我が……』
その身体に刻まれた炎の紋章が、最後の輝きを放つ。
『……ここで、終わるというのか……』
解放王ネメシスの身体が、光の粒子となって崩れ去った。
「終わった」
先生が、そう呟いた。
俺も周囲を見渡す。
ついさっきまで、タルティーン平原を埋め尽くしていた古代兵たち。
その動きが、次々と止まっていく。
そして──。
古代兵たちの身体が、一体、また一体と光へ変わっていく。
ネメシスを倒したことにより、役目を終えたのだ。
「勝ち鬨をあげよ! 我々、フォドラ大陸連合軍の勝利だ!」
総大将である、ベレス先生が宣言する。
それに呼応して、教会軍が、同盟軍が、王国軍が、帝国軍が勝利の歓声を上げ始めた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
「勝ったぞ!!」
「俺たちの勝利だ!」
「フォドラ大陸連合軍、万歳!!」
タルティーン平原を埋め尽くすほどの歓声。
「これで終わったんだな……」
闇に蠢く者たち、十傑、解放王ネメシス……最後の戦いに相応しい相手だった。
女神ソティス様との約束、世界を救う使命はこれで果たされたはずだ。
俺の役目も終わった。
周囲では、仲間たちが勝利を喜んでいる。
ディミトリが青獅子の学級の旧友たちと肩を叩き合い、クロードは金鹿の皆に向かって何かを叫んでいる。
エーデルガルトも、
レア様は再び人の姿へと戻り、セテスさんやフレン、“風を呼ぶもの”や“動かざる重きもの”と何かを話している。
五年間、長い間苦楽を共にした『フォドラの夜明け』の仲間たちが、俺の周囲に集まってきた。
「一件落着だな! これで全て解決だ」
「ええ、そうね……これで世界に平和が訪れるのね〜」
レオニーとメルセデスが感慨深そうに話している。
『フォドラの夜明け』は元々、世界の破滅を救うために結成した部隊……目的を果たすことが出来てよかった。
「僕はこの光景は絶対忘れません……絶対に絵として残したいですね」
「騎士物語として……いえ、英雄物語としても最高の結果ですね」
「私も舞台でこの物語を演じてみたいわ。内容はそのまま『フォドラの夜明け』ね」
イグナーツ、アッシュ、ドロテアが話す。
そう、今誕生したのだ……一人の英雄が……!!
「フッフッフッ……もちろん主人公はこの俺! “漆黒のオーディン”だろう? 解放王ネメシスにトドメを刺した伝説の黒き英雄!!」
「うっわ……完全に調子に乗ってるよ」
「ベレスの最後の一撃で終わった方が良かったんじゃないかしら」
ラズワルドとルーナが何か言っているが無視する。
解放王ネメシスにトドメを刺したのは、完全に俺……!! もう、これは大英雄と呼んでも差し支えないだろう!
そうだな……物語のタイトルは『漆黒の英雄オーディン──解放王を討ちし者──』なんてどうかな?
いや、待て。もっと格好良く……『漆黒の聖騎士オーディン──天空より舞い降りし黒き救世主──』とかは……。
「さあ、みんな篝火を増やして! 勝利の宴の時間よ!」
「さあ、みんな宴会だぁ! たらふく食うぞぉ!」
「ですわですわ! みんなで夜明けまで楽しく騒ぎますのよ!」
先生の宣言に、再びタルティーンの連合軍が沸き始めた
ラファエルとフレンが大声で広めていく。
「……むっ」
俺の英雄譚のタイトルを考えている場合ではない。
どうやら、今夜は寝かせてもらえそうにないな。
こうして、長きにわたった戦いの終わりを祝う、最後の勝利の宴が始まった。
──その時の俺たちは誰一人気付いていなかった。
──まだ、最後の戦いが終わっていないことを……。
──この日、フォドラの大地に夜明けは来なかった。