ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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第9話『闇の呪術』

(花冠の節 二日)

 

 俺は“漆黒のオーディン”、蒼き炎を身に纏い、世界を救うべく戦う、闇の戦士だ。

 

 

「リシテア、闇魔法を教えてくれ!」

 

「……オーディン、またあんたですか。私言ったはずですよね……理学の基本も出来ていない人に教える暇なんて無いって」

 

「そこを、なんとか……何かコツだけで良いんだ。さわりの部分だけ教えてもらえたら後は自力でなんとかするっ!」

 

 

 講義後、リシテアがさっさと帰ってしまう前に捕まえて頼み込んでいた。

 前回、頼んだときも俺の理学の技能不足を理由に断っていたが……今回は逃がさないぞ! 

 闇魔法についての文献は生徒が閲覧できる範囲ではないし、理学が得意分野のハンネマン先生も使えない。

 生徒の中で使える人間もリシテアとヒューベルトだけらしいのでコイツに頼むほかない。

 ヒューベルトは怖いしな。

 何か教えてくれるまで、絶対帰さないぞ! 

 

 

「だいたい、あんたみたいな怪しい人に闇魔法なんて教えられるわけないでしょう!」

 

 

 ぐはっ! ……また怪しいって言われた。

 みんなは、俺のことを誤解している。

 

 

「俺は清く正しい呪術士だ! 怪しくなんてない!」

 

「清く正しい人が呪術士なんてしないでしょう!」

 

 

 ぐぬぬ……子どものくせに口の上手い奴だ。

 

 

「そもそも呪術って理学や信仰に属さない外法の魔法の総称ですよね……堂々と呪術士なんて名乗っている人を見るのはあんたが初めてですよ」

 

「そ、そうか? 照れるな……」

 

「誉めてません! だいたい魔法で人を探しあてたなんて話も、いままで聞いたことがありませんよ……」

 

 

 俺がアネットのお父さんを見つけたという話を誰かから聞いたみたいだな。

 わりとお手軽にできる呪術なんだが、この世界にはなかったようだ。

 

 

「おっリシテア、呪術に興味あるのか? なら闇魔法を教えてもらうかわりに呪術を教えてやるよ」

 

「き、興味なんてありません!」

 

「遠慮すんなよ~どんな呪術が知りたいんだ? 標的の体調を悪くする呪術か? ウソがつけなくなる呪いか? それとも、俺が開発中の幽霊が見えるようになる呪術か?」

 

「ゆ、幽霊? そんなもの見えるようになりたくないです!」

 

 

 リシテアは、数歩後退りして叫んでいる。

 幽霊が苦手なのかな? 

 

 

「とにかく、あんたには何も教えませんから!」

 

 

 そう言ってリシテアは走り去っていった。

 うーん、リシテアは勉強熱心なやつだから、呪術に興味を持つと思ったんだがな。

 もうちょっと理学を勉強してから頼んでみるかな。

 

 

「その標的の体調を悪くする呪術ってやつ、俺は興味があるな」

 

 

 考えてたらクロードが声をかけてきた。

 

 

「……ほう、この漆黒のオーディンに呪術を教わりたいと……」

 

「ま、こんな教室のど真ん中でするような話じゃあないけどな」

 

 

 ……確かに。

 教室中の視線が俺に集まり「オーディンってやっぱりヤバいやつだ」とかヒソヒソ声で聞こえてくる。

 こういうところから誤解が広がってくるのか……

 

 

「みんな、誤解だ! 呪術は決して悪いものじゃない……そうだ、みんなにも教えてあげよう!」

 

「級長として頼む……金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)に変なものを広めないでくれ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 とりあえず教室から移動し、呪術に使うもの一式を持ってクロードの部屋までやってきた。

 

 

「……もっと几帳面なやつだと思ってたが、意外に散らかってるな」

 

 

 クロードの部屋は床に本が散らばってたり、机の上も本やら書きかけのメモやらで雑多だ。

 棚にはすり鉢や瓶の類いもあるし、薬の調合でもするのかな。

 

 

「男の部屋なんてこんなもんだろ、あまり人を呼ぶことなんてないしな」

 

「まあ、それはそうだな。おっ! この本は英雄の遺産についての……書庫には無いやつだな」

 

「それは俺の私物さ。ま、リーガン家の書庫にあったんだが」

 

「他には、フォドラの地理についての本が多いな……何か調べてるのか?」

 

 

 机の上に置いてあるのは、ガルグ=マク大修道院周辺の地理に関する本が多く、開きっぱなしになっている。

 

 

「この前の盗賊退治で、谷に行っただろ。それで気になったことがあったんだ」

 

「……赤き谷ザナドか」

 

 

 なかなか血が騒ぐ名前の谷だったな。

 何が由来かはわからないが……

 クロードはそんなことが気になって、いちいち調べてるのか、変わったやつだな。

 

 

「そう、それだ。あの谷には赤いものなんて何一つなかった」

 

「戦争とかが由来じゃないか? 多くの血が流れ……みたいな感じで」

 

 

 物騒な由来だけど一番ありえそうだろ。

 遺跡みたいなのも有ったから、昔は人が住んでいただろうし。

 

 

「書庫の資料を漁っても出てこないんだよなあ」

 

「うーん、千年の歴史を持つ書庫に資料が無いってことは別の由来なのか」

 

「そもそも赤き谷ザナドが聖人セイロスに因って大きな意味を持ってるらしい。修道会に属する人間も立ち入りは制限されているんだ」

 

「じゃあ単純に、生徒は閲覧不可のところにあるんじゃないのか? そんなものを調べるのは危なくないか」

 

 

 こいつ、そんなことを調べて大丈夫なのか? 

 セイロス教がそういうやつを異端扱いして処刑するような組織かどうかはわからないが。

 

 

「俺はこういう隠されたことっていうのを暴きたくなる質なんだよ」

 

 

 クロードって実はヤバいやつなのかな? 

 俺も謎とか秘密とかを知ると血が騒ぐ性質だが、ここまでではない。

 

 

「教会だって隠したいことの一つや二つあるだろう……これだけ大きな組織なんだし……」

 

「その一つや二つが暴かれたとき、フォドラ大陸を揺るがすようなことにならなければいいがな……」

 

 

 怖いこと言うなよ……

 そもそも、クロードに呪術を教えにきただけなのになんでこんなこと話してるんだ俺は。

 

 

「……結構、物騒な話になってきたな。本当はこの話がしたくて俺を部屋に呼んだのか?」

 

「つい、話が盛り上がっちまっただけさ。オーディンたちは教団にそれほど肩入れしてないようだし意見が聞けて良かったよ」

 

 

 肩を竦めてクロードが答えた。

 確かに、教団のことはあまり信用していない。

 ……千年もフォドラ大陸の秩序として存在していた組織だから、それほど邪悪なものだとは思わないが、とにかくまだわからないことがが多すぎる。

 

 

「……そういえば、ザナドのことなんだがもう一つ気になることがあるな」

 

「気になること? この際だ、なんでも言っちまえ」

 

「あの盗賊の頭が死ぬ前に『あんな奴の口車に乗ったのが間違いだった』って言ってたんだ」

 

「ほう、そんなことを……」

 

 

 あの時、盗賊の頭は死に際に確かにそう言っていた。

 多分、ザナドの件じゃなくて、ルミール村の件だろう。

 クロードたちが俺たちに会った日、生徒たちが課外授業をしているときに盗賊団に襲われた。

 たまたま近くにいたジェラルト傭兵団がいなければ生徒たちに被害が出ていただろう。

 

 

「そもそも、あの規模の盗賊団がルミール村の近くにいることがまずおかしい」

 

「盗賊なんてどこにでもいるだろう、何がおかしいんだ?」

 

「ジェラルト傭兵団みたいな強力な傭兵団がなわばりにしている村の周辺は、滅多に盗賊が現れないんだ。それが急にあの規模の盗賊団が現れた、何か狙いがあったんだろう」

 

 

 盗賊団が現れたときからずっと違和感はあった。

 そのあといろんな事が起こりすぎて忘れていたから、それを誰かに話したことはなかった。

 

 

「うちの学校には狙われる理由があるやつなんて山ほどいると思うがな」

 

「教団内のやつから狙われる理由があるやつもか?」

 

「……なるほど、教団の中に『口車に乗せた奴』がいると……」

 

「あるいは課外授業の計画に関わったやつだな」

 

「……また調べることが増えたな」

 

「教会の秘密なんか暴くより、こっちを優先した方がいいんじゃないか? 自分や仲間に危害が及ぶ可能性もあるし」

 

 

 狙いが誰で何なのかはわからないが士官学校関係者を狙っているのは確かだろう。

 

 

「さあ、辛気臭い話は終わりだ。これからは楽しい楽しい“漆黒のオーディン”の呪術の時間だ」

 

 

 そう言って呪術の材料を並べる。

 クロードは初心者だし簡単なやつがいいよな。

 俺が誰かに呪術を教えることになるとはな……フッフッフッ……血が騒いできたぞ。

 

 

「ちょっとまて、これはなんだ?」

 

「コウモリの羽だが……」

 

 

 クロードが指差したものについて教える。

 コウモリの羽はわりとオーソドックスな素材だな。

 悪魔との交信の媒体になったり、供物として捧げたりする。

 

 

「……これは?」

 

「豚のしっぽだ」

 

 

 豚のしっぽもよく使われる材料の一つだ。

 だいぶ前に貰ったやつだから干からびてるが、材料としては問題ない。

 

 

「……こいつはなんだ?」

 

「……水辺に隅し小さな守護獣……イモリの脱け殻だ」

 

 

 トカゲやカエルの類いもよく使われる材料だ。

 蛇やドラゴンの素材を使うとより強力な呪術になる。

 

 

「……オーディン」

 

「……フッ、なんだクロードよ」

 

「お前ってやっぱりヤバいやつだな」

 

 

 お前まで俺を誤解するのかっ! 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 クロードに教えた、三日間鼻水が止まらなくなる呪術は、かなりの好評を得た。

 ついでに呪詛返しや解呪の方法も実演しながら教えたので、クロードも呪術のさわりの部分を身に付けたことになる。

 今、この世界に新たな呪術士が誕生した。

 

 今日は先生と食事する約束をしていたので、そのままクロードと食堂に行くことにした。

 

 先生は朝昼夕の三食をそれぞれ別の生徒と三人以上で食べることが多い。

 熱心に生徒の好みの食べ物を調べて、わざわざ材料を揃え調理してもらったりもしているらしい。

 そういう気配りが生徒たちから評判を上げてるんだよな。

 

 

「むっ、クロード、君も来たのかい?」

 

「俺が食堂に来たら悪いのか、ローレンツ。飯を食うことは、生きることと同義だよ」

 

「来たら悪いとまでは言っていない。ただ、今日は僕とオーディン君が先生に誘われたんだ」

 

「三人で食うのも四人で食うのも同じさ。な、先生」

 

「構わない」

 

 

 今日は俺とローレンツを誘っていたのか……先生は好物を調べて誘うので俺とローレンツが好きなメニューを準備したと思われる。

 

 

「うは……ザカルトのクリーム添えか……この料理苦手なんだよ」

 

 

 やっぱり俺の好物だったな! 

 どうやらクロードは苦手らしいが……おいしいのに。

 

 

「んー、うまいぜ、俺としたことがこれ以上の言葉が出ない!」

 

「食堂に期待などしていないのだが……この料理は悪くない」

 

「味わってもらえて何より」

 

 

 先生も美味しそうに食べている。

 先生は基本的に好き嫌いはないし、とにかくよく食べる。

 今日も三人前くらいが最初からあったし、さっきもおかわりしに行っていた。

 傭兵時代からよく食べるし、全く太らないことから、栄養が全て胸にいってる、とか言われていたな。

 

 

「オーディン君、君は貴族の出身なのか?」

 

「えっ?」

 

「君の所作はお世辞にも洗練されているとは言えないが……貴族としてのマナーを誰かに習ったような所作だ」

 

 

 食事をしているとローレンツが言ってきた。

 コイツ、こんなことまでわかるのか、意外に鋭いやつだ。

 

 

「……知り合いの貴族の人から習ったことがある」

 

「やはりそうか、ラズワルド君やルーナさんからは感じなかったが、君だけ貴族のような所作をすることがたまにあると感じてね……」

 

「……俺は貴族じゃないぞ、貴族の人から習っただけだ」

 

 

 う、嘘はいってなから……俺は貴族ではなく王族だから……

 子どものころ、母さんの親友の貴族の人から、その人の息子やイーリス王女の従姉妹といっしょに、貴族のマナー全般について習ったことがある。

 あの人は結構厳しく教えてくれたから無意識につかっていたのか……

 

 

「ふむ、平民に貴族のマナーを教えるとは……変わった人がいたものだ」

 

「……呪術が使えたり、貴族にマナーを習ったことがあったり……お前には興味が尽きないよ、オーディン」

 

「おかわりしてくる」

 

 

 先生おかわりしすぎぃ! 

 しかし、詮索好きのクロードに目をつけられるのは厄介だな……どうにかしないと。

 

 




サーリャさん支援呪術ネタ多くて助かる

補足

コウモリの羽、豚のしっぽ、イモリの脱け殻
呪術の素材、すべてサーリャ支援系から引用

三日間鼻水が止まらなくなる呪術
サーリャの娘ノワールと父親の支援会話

貴族のマナーを教えてくれた人
リズの親友マリアベルのこと
その息子ブレディとはウードも親友同士
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