ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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第10.5話『ラズワルドとルーナの休日②』

(花冠の節 十五日)

 

「ラファエル、手伝ってもらっちゃって悪いわね~」

 

「気にすんなルーナさん、力仕事はオデに任せておけ!」

 

 

 今日は兵舎から学生寮への引っ越しを行っていた。

 なんでも、学生寮に一つ空き部屋ができたので傭兵用の兵舎で暮らしている、あたしたちの中から一人学生寮に移ることができたのだ。

 当然、女の子であるあたしが引っ越すことになった。

 

 今日はその引っ越しの予定日だったのに、オーディンもラズワルドも朝からどこかへいなくなったので、一人で荷物を運んでいたところ、ラファエルが手伝ってくれた。

 どうせ、あの二人は手伝わされると思って逃げたのだろう。

 まったく、頼りがいのないやつらね。

 

 

「しっかし、ルーナさん荷物多いよなあ。ここに来る前は傭兵だったんだろ、持運びが大変だったんじゃねえか?」

 

「そ、それは、ここに来てから買ったものも多いから……」

 

 

 半分くらいはそうである。

 しかし、この世界に来る時に持ってきたもの、傭兵時代に買ったもの、大修道院に来て集めたものを合わせたら結構な量になる……ある程度はいらないものは処分しなくてはならないだろう。

 

 

「ラファエル、今日は手伝ってくれてありがとう。今度お礼に何か食べさせてあげるわ!」

 

「本当かあ、ルーナさん!」

 

「ええ、アンタたくさん食べそうだから奢りじゃなくて何か作ってあげるわ。こう見えて料理は得意なのよ、野菜と白身魚の煮込みとか」

 

 

 金欠なので、お店で奢るとかはなしだ。

 料理は得意な部類だ、特に野菜の皮剥きは教わった父さん以外には負けない自信がある。

 

 

「野菜かぁ、悪くねえけどよ……オデは肉が好きなんだ! 肉を食わせてくれよ、肉を!」

 

「肉ねえ、そういえばこの前買った燻製肉があるわ。とりあえずこれ全部あげるわ」

 

「こんなにくれんのか!? ありがとう、ルーナさん!」

 

 

 傭兵時代からのくせで、日持ちする食べ物はつい大量に買ってしまうことがある……けして衝動買いしたのではない。

 この燻製肉は買ってからまだそんなに経ってないから、たぶん大丈夫だろう。

 

 

「また、何かあればいつでも言ってくれよな!」

 

「料理も何か考えておくから楽しみにしておいて」

 

「おう! それじゃあな」

 

 

 ラファエルみたいな、裏表のないわかりやすい善人は話が早くて助かる。

 前の世界の同世代の男にはいなかったタイプだし、親世代では緑の騎士と元村人のあの人たちくらいかな……こういう人にはあたしたちの使命について話をしてみるのも良いかもしれない。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 引っ越しの後片付けも終わってすっかり昼になってしまった。

 食堂でさっさと昼食を済ませると手持ちぶさたになってしまう。

 ヒルダの部屋に遊びに行くか、レオニーと鍛練でもするかな……

 そうしてどこに行こうかと考えながら教室の前を歩いていると、急に騒がしい喧騒が聞こえてきた。

 周囲には睨み合う男子生徒が数人と様子を伺う野次馬たちがいる。

 

 

「ちょっと、なんの騒ぎよ?」

 

「あ、ルーナ。喧嘩みたいですよ、金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)の生徒が黒鷲の学級(アドラークラッセ)の生徒と揉めているようですね。まったく、くだらない……」

 

 

 近くにいたリシテアに聞いてみるとウチの学級の生徒が黒鷲の学級(アドラークラッセ)の奴らに喧嘩を売られてるらしい。

 そうこうしているうちに睨みあっていた男子生徒たちは掴み合い、喧嘩が始まった。

 

 

「ちょっと! アンタたちやめなさいよ!」

 

「うるせえ! 女はすっこんでろ!」

 

 

 慌てて止めに入ろうとすると、黒鷲の学級(アドラークラッセ)の生徒に突き飛ばされた。

 

 ──ハア!? 女だからって、あたしのことバカにしてんの!? 許さないわ! 

 

 突き飛ばしてきた奴の顔に一発叩き込んでやると、他の黒鷲の学級(アドラークラッセ)の生徒たちも殴りかかってきた。

 殴りにきた腕を掴んで投げ飛ばし、倒れたところで腹を蹴りあげる。

 傭兵時代、格闘術の得意なベレスに組み手で何度も挑んだため格闘戦は得意な方だ。

 

 絡まれていたウチの生徒たちもそれぞれ揉み合い始めている。

 

 

「なんだ、お前ら!? 喧嘩か! やめろ!」

 

 

 今度は別のほうから背の小さい男子生徒が走ってくる。

 

 

「何よ、アンタ! 関係ないじゃない、引っ込んでなさい!」

 

「カスパル、手伝え! この女強いぞ!」

 

「何ぃ!? やめないなら俺も混ぜろ!」

 

 

 そう言って、背の小さい男子生徒……カスパルは殴りかかってきた。

 

 ──次の相手はコイツね! 上等じゃない! 

 

 カスパルは小刻みにステップを踏みながら左右に移動した、と思うと今度は一気に距離を詰めて二回殴ってくる。

 左拳は回避したけど右拳をこめかみにもらってしまう。

 

 

「ちょっと! 顔はやめなさいよ!」

 

「はあ? なに言ってるんだ、お前?」

 

 

 コイツ……女の子の顔を殴るなんてサイテーね! 

 

 小ささを活かした小回りの良さと機動力が持ち味のようだが……背丈はほぼ同じ、機動力もあたしのほうが速そうだ。

 下段蹴り数発、それと腹部や脇腹を重点的に殴って防御を下に意識させる。

 腕が下がってきたところを顔を思い切り殴ってやる。

 

 

「……っ! 痛ぇな……顔は殴るなって言っておいて自分は殴ってくるのかよ……」

 

「あたしは女の子でアンタは男だから良いのよ!」

 

「この野郎……!」

 

 

 だから、野郎じゃなくて女の子って言ってるじゃない。

 

 

「コラーッ! 君たちなにをやってるんだ!!」

 

「やべぇ、セテスさんだ!」

 

「クソッ、逃げるぞ!」

 

 

 セテスさんが大声を上げながら走ってきた。

 揉み合っていた生徒たちは一斉に逃げ出し始める。

 まずい、あたしも逃げないと! 

 

 

「逃がすかぁ!」

 

「ちょっ、ちょっと! 離しなさいよっ!」

 

「まだ勝負は終わってねえよ! 力は俺のほうが上だ、このまま締め上げてやる!」

 

 

 カスパルが掴みかかってくる。

 そんなことやってる場合じゃないんだって……

 

 

「君たち止めなさい、離れるんだ」

 

「あれっ、セテスさん? ……あっ、やべっ」

 

「アンタのせいで逃げそびれたじゃないのよ……」

 

「私の部屋で詳しい話を聞かせてもらうぞ」

 

 

 よりにもよって一番説教されたくない相手に会うなんて……

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 セテスさんの部屋で、起きた事の詳しい経緯を話したあとは説教タイムだ。

 と言っても、あたしもカスパルも途中から参加したので、喧嘩の原因も何も知らないのだが……

 

 

「君たち、喧嘩を仲裁しようとする精神は褒めてもいいが、仲裁者が率先して参加してどうする……」

 

「すまねぇ、セテスさん喧嘩をみるとつい体が動いちまって……」

 

「あたしだって喧嘩がしたくてやったわけじゃないわよ……」

 

 

 セテスさんは説教を続ける、相変わらず気に入らない……

 

 

「カスパル……君は入学してから、喧嘩するのはこれで何度目だ……少しは落ち着いて行動しなさい」

 

「うっ、気を付けるよ。でもよ、俺から喧嘩を仕掛けるのは……まあ少しはあるけどよ、だいたいは喧嘩を売られたり止めに入ったりだぜ……いつも喧嘩してるアイツらの方をどうにかしたほうがいいんじゃねえか」

 

「……この大修道院の士官学校は、ある意味フォドラの縮図のようなものだ。貴族の子弟の中には国家間の領土問題や遺恨を持った家同士の者もいる……全てをなくすことはできんだろうが、私も努力はしてみよう」

 

 

 カスパルはこの喧嘩が初めてではないらしい。

 だいぶ喧嘩慣れしていたし、黒鷲の学級(アドラークラッセ)に喧嘩があればすぐに駆けつけて喧嘩に参加する喧嘩バカがいることは噂で聞いていた。

 たぶんカスパルのことだろう。

 

 

「ルーナ、君もだ。喧嘩をするのは初めてのようだが、自分より優れた者を見つけるとすぐ勝負を挑んで打ち負かそうとしていると、問題として上がっている。向上心があることは結構なことだが限度を知りなさい」

 

「……うるさいわね! 学校ってそういう場所でしょ……勝負をして自分を高めて何が悪いのよ」

 

「勝負という方法をとらなくても、一緒に鍛練をすること、教えを乞うことでお互いを切磋琢磨することもできる」

 

(がら)じゃないわ!」

 

 

 そう言って顔を背ける。

 この()で説教されると腹が立ってくる。

 

 

「……ルーナ、君が教団に対して不信感を持っているのは知っている。私も君たちには不審な点が多いとは思っている。しかし、それとこの件は別問題だ、少しは年長者の話に耳を傾けてみたらどうだ?」

 

「……嫌よ」

 

「君だけではなく、先生にも迷惑をかけることになるぞ」

 

「……ぐっ、それは」

 

 

 確かに、あたしも先生に迷惑をかけることは本意ではない。

 言っていること全てが正論なことにも腹が立つけど……しょうがないわね……

 

 

「わ、わかったわよ。次からは気をつけるようにするわ……それに……」

 

「それに?」

 

「……別に教会に不信感があるからアンタにあんな態度をとったわけじゃないわよ」

 

「むっ、ならば何故だ?」

 

 

 セテスさんは当然のように聞いてくる。

 言うべきか言わないでおくか迷ったけど、結局言うことにした。

 

 

「……その、セテスさんの声があたしの父さんの声に似すぎてて、腹が立ったのよ。父さんに説教されてるみたいで」

 

「私の声が、君の父に?」

 

「最初に聞いた時は、耳を疑ったわ、似すぎてて……そ、その、あの時は理不尽に怒って、わ、悪かったわね」

 

「そんな理由があったのか……」

 

「まだ全てを信用したわけじゃないし、大司教様のこともよく分からないけど、アンタが悪くない人ってことはわかってきたわ、あたしたちの素性はまだ話せないけど……いつか話したいとも思っているわ」

 

 

 セテスさん個人は悪い人ではないのだろう。

 セイロス教団という組織も強大で、あたしたちの使命に協力してくれたら大きな助けとなるだろう。

 ただ、最近王国の貴族がここセイロス教団の中央教会に対して反旗を翻したらしい。

 詳しい話はまだわからないが教団に対して反感を持っている勢力もいるみたいなので油断は禁物だ。

 

 

「ならば、私たちも君たちに信用してもらえるよう行動するよ」

 

「ふ、ふん、せいぜい努力することね……」

 

「なんで、お前が上から目線なんだよ」

 

 

 カスパルがつっこみを入れているが気にしない……上から目線じゃなくて対等な関係と言って欲しいわね! 

 

 

 

 セテスさんの部屋から退室するとそのまま、マヌエラ先生の医務室に行く。

 カスパルに殴られた顔を見てもらうためだ。

 顔に痣でも残ってたら大変だし。

 

 

「なんでアンタも一緒に来てんのよ?」

 

「お前に殴られた顔を治してもらうためだ。あの後、奥歯がグラグラするからよ」

 

 

 カスパルはそう言って一緒について来ている。

 医務室にはマヌエラ先生は居らず、生徒が一人寝てるだけだ。

 仕方ない……きずぐすりを塗って我慢するしかないか。

 

 

「おっ、ちょうど良いな! 起きろリンハルト! 〈ライブ〉かけてくれ!」

 

 

 カスパルは寝ている生徒を起こしはじめた。

 どうやら、白魔法が使える生徒みたいだ。

 

 

「……うーん、カスパル? なんでここに?」

 

「ここは医務室だぜ、怪我したからに決まってるだろう」

 

「……マヌエラ先生に治してもらえばいいじゃないか……僕は眠いんだ……」

 

「いないからお前に言ってるんだろう! 起きろ、リンハルト! 起きろって!」

 

 

 しばらく、カスパルが揺すっているとようやく男子生徒、リンハルトは体を起こした。

 

 

「しょうがないなあ、はいカスパル」

 

「おっしゃ! 治ったぜ!」

 

「じゃあ僕は寝るよ。おやすみ」

 

 

 カスパルに回復魔法をかけると、そう言ってすぐにリンハルトは寝はじめた。

 

 

「ち、ちょっと待ちなさいよ! あたしも治しなさいよ!」

 

「うーん、君は誰だい?」

 

「ルーナよ、金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)のルーナ!」

 

「なんで僕が君を治さないといけないの?」

 

「アンタの友達に殴られて怪我してるんだから、治しなさいよ。回復魔法が使えるんでしょ」

 

「えー? 僕は関係ないじゃないか……」

 

「治してくれるまで、アンタの横で騒ぎ続けるわよ!」

 

「それは、めんどくさいなぁ……はい」

 

 

 あたしにも回復魔法をかけたら、またすぐに寝はじめた。

 片手間でも回復魔法が使えるあたり、かなりの使い手みたいだけど……なんなのコイツ? 

 極度の面倒臭がりのようだ。

 

「リンハルトとはガキの時からの付き合いなんだ、マイペースなやつだろ! はっはっはっ!」

 

「マイペースなのにも限度があるでしょ。はじめて見たわ、こんな面倒臭がりなやつ」

 

「はじめて見たって言えば、お前もだぜ。喧嘩で野郎共に混じってやってる女子生徒なんて、はじめて見たぜ!」

 

「それはたまたまよ。いつも喧嘩してるわけじゃないわ」

 

「格闘術の訓練は女としたことはあるけどよ、喧嘩ははじめてだ。またやろうぜ!」

 

「やらないわよ!」

 

 

 カスパルも信じられないくらいデリカシーのないやつね。

 喋ってると腹が立ってくるので、とっとと戻ろう……

 

 

 

□□□

 

 

 

 僕は“蒼窮のラズワルド”選ばれし……ってこれはもういいか。

 

 

「エーデルガルト、今日も可愛いね。また、前みたいにお茶でもしながら、お喋りしようよ」

 

 

 僕は今、アドラステア帝国第4皇女にして皇位継承件第一位、黒鷲の学級(アドラークラッセ)の級長のエーデルガルトをお茶に誘っていた。

 さっき、ヒューベルトが大修道院の外に出かけるのを見かけたので、ここぞとばかりにエーデルガルトをお茶に誘っていた。

 

 

「ラズワルド、残念だけど今は忙しいの……お茶はまた今度にしましょう」

 

「そうかい? 僕にできることなら、手伝えるよ」

 

「帝国のことで、いろいろやることがあるの。貴方に手伝えることはないわ」

 

「エーデルガルトはいつも忙しそうにしているよね。たまには息抜きも必要だよ」

 

「息抜きしたいのも山々だけど、そうも言ってられないわ」

 

「そんなこと言わないでさ、ね?」

 

 

 なかなか強情だなあ、態度を見るに嫌われてはないようだけど……もう一押しかな? 

 

 

「でも……そうね、貴方が私の傭兵として専属契約を結んでくれると言うなら喜んでお茶にするわ」

 

「えっ? そ、それは……」

 

「貴方は私と楽しくお茶ができて、雇い主もできる。私は貴方という優秀な傭兵と専属契約できる。どう? 両方に利益の有る話じゃないかしら」

 

 

 さすがに勝手に専属契約なんかしたらルーナたちに怒られるよなあ……

 僕たちの使命に帝国の協力が必要な時が来るかもしれないが、今は時期尚早だ。

 

 

「私は貴方たちの実力は買っているのよ……契約を結んでくれると言うなら、いつでもお茶をしてあげるわ。考えておきなさい」

 

「わかったよエーデルガルト。今日は諦めるよ」

 

「ええ、また今度ね、ラズワルド」

 

 

 手強いなあ、流石帝国の次期皇帝、うまくかわされた。

 ただ、セイロス教団が信用できない組織だったときは帝国に行くのもいいかもしれない。

 次期皇帝と知り合いなら、僕たちの使命に帝国の大きな協力が得られるだろう。

 

 そう考えていると、見知った男子生徒に声をかけられた。

 

 

「よう、ラズワルド。見てたぜ……まさか皇女殿下を口説きにかかるとはな……」

 

「……シルヴァン」

 

 

 シルヴァンとは前節の休日、イングリットのナンパに失敗したあと一緒に食事して以来、そこそこ喋るようになった。

 まあ、仲良くなったと言うより、お互いの存在を意識したというべきか……

 

「流石の俺でも皇女殿下を口説きにかかることは難しいぜ……」

 

「ふっ……まあ、君には無理だろうね」

 

「おまけに、逆に情熱的に口説かれ返されているときた……内容に色気は無かったけどな」

 

 

 シルヴァンはこちらの挑発に皮肉で返してくる。

 出会った時から僕たちは敵同士……それは本能で気付いている。

 

 

「それで……シルヴァン、僕に何か用かい?」

 

「たまたま見つけたから、声をかけただけだ。それはそうと……ラズワルド、お前がっつき過ぎだぜ……下心が有りすぎて駄目だな、あのやり方じゃ」

 

「むっ、君なら上手くできると言いたいのかな?」

 

「おうさ、当たり前だろ? そこで見てな」

 

 

 そう言ってシルヴァンは辺りを見渡すとちょうど近くを歩いていた、僕と同学級のマリアンヌに声をかけた。

 

 

「やあ、マリアンヌ。今日の予定はもう済んだのかい?」

 

「……シルヴァンさん。はい……寮に戻るところです」

 

「ようし、それならちょうどいいな。どうだい、これから街にでないか?」

 

「街……ですか?」

 

 

 シルヴァンはマリアンヌとはすでに知り合っているらしい。

 マリアンヌは僕が誘っても一度もお茶をしてくれたことがないから……お手並み拝見といこう。

 

 

「四六時中、修道院に籠ってばかりの麗しい令嬢がいると聞いたもんだからさ。勇敢な騎士が連れ出してやらなきゃあ、な。連れ立って街歩きと行こうぜ、ご令嬢」

 

「あの……どうぞ、お構いなく……」

 

「そんなこと言わずにさ……部屋に籠りきりより楽しいぜ……いや、俺が楽しくしてやるぜ」

 

「……その、結構です」

 

 

 どうやら、失敗した様だな、何が「当たり前だろ、そこで見てな」だよ。

 近づいて二人に声をかける。

 

 

「大口を叩いた割には全然だね、シルヴァン」

 

「ラズワルド、まだ出てくるのは早いっての、これからだっていうのに」

 

「マリアンヌ、こんな奴はほうっておいて僕とお茶しようよ。同じ学級としてもっと君のことが知りたいな」

 

「……ラズワルドさん、遠慮します……私に関わらないでください」

 

 

 やっぱり手強いなマリアンヌは、人に対して心を閉ざしているというか、自分に近づいて欲しくないとか思っていそうだ。

 こういう娘が笑顔になってくれたら、すごく可愛いだろうし、うれしいのになあ。

 

 

「それに……貴方はもっとそばにいてあげるべき人がいるはずです……オーディンさんとか」

 

「えっ、オーディン? なんでオーディンの名前が出てくるの?」

 

「……いえ、なんでもありません。失礼します」

 

 

 マリアンヌはそう言って行ってしまった。

 何故オーディンの名前が急に出てくるんだ? 

 また何かやらかしたのかな……

 

 

「えーと、オーディンってお前の傭兵仲間の男だよな? なんでそいつの『そばにいてあげるべき』なんて言ってるんだ……ハッ! まさかお前ら、そっちの気があるんじゃ……」

 

「そんなわけあるはずないよ! きっと、またオーディンがくだらないことやらかしただけだよ」

 

 

 シルヴァンが変なことを言い出したので慌ててやめさせた。

 オーディンはいつも意味がわからないことを言ってるから、マリアンヌを混乱させただけだろう、たぶん。

 

 

 

 

「それより次は僕の番だね。君より僕のほうがモテるって証明してあげるよ」

 

 

 近くに女子生徒は……いた。

 ちょうどイングリットが食堂から出て来た。

 昼食にはちょっと遅い時間だけど、彼女はよく食べるらしいから……何か食べてきたのかな。

 イングリットはシルヴァンの幼馴染みらしいので口説き落としたらさぞ悔しがるだろう。

 

 

「おいおい、まさかイングリットを口説くのか? やめとけって……」

 

「君は幼馴染みと僕が楽しくお茶をするのを、せいぜい眺めておくがいいさ」

 

「どうなっても知らないぞ……」

 

 

 イングリットの前まで近づく、シルヴァンはイングリットから見えない位置で様子を伺っているようだ。

 

 

「やあ、イングリット。食事の後かな? よかったら、これから僕と食後のお茶でもしない?」

 

「……結構です。これから食後の訓練をしますので」

 

「なら、一緒に付き合うよ。その後、お茶もしようね」

 

「はあ……本当シルヴァンみたいな人ですね、貴方は……貴方みたいな人と二人も仲良くするなんて嫌なのでお断りします」

 

 

 シルヴァン……君のせいで振られたんだけど……

 

 

「だから、言ったじゃねえかやめとけって」

 

「……シルヴァン、どうして?」

 

 

 シルヴァンが表れて、イングリットは驚いている。

 

 

「いやー、イングリット、俺は止めたんだぜ、コイツがお前を口説くって言って行っちまうからよ……」

 

「……まさか貴方たち、女の子を口説く勝負なんて、くだらないことしてるんじゃないでしょうね?」

 

「えっ? どうしてそれを……」

 

 

 凄いな、なんで気付いたんだろう。

 イングリットはその可愛い顔に鬼のような形相を浮かべシルヴァンに近づいていく。

 

 

「あっ、バカッ言うなって!」

 

「シルヴァン……貴方のやりそうなことはお見通しよ!」

 

 

 そう言ってイングリットはシルヴァンの頬を平手打ちして去って行った。

 結構怖い娘だね、イングリットって……

 

「いっててて……なにもひっぱたくことないじゃねえかよ」

 

「はははっ、仲が良いんだね」

 

「うるせぇよ! ……見てろ、最後に笑うのは俺だ」

 

「えっ! まだ、続けるのかい?」

 

 

 イングリットに叩かれて頬を真っ赤にしてるのにシルヴァンはまだやるつもりらしい。

 

 

 

「ふふふっ、見つけたぜ! 次の標的はあの娘だ」

 

「あれは……ルーナ?」

 

 

 遠目でもわかる赤髪のツインテールが一人で歩いている。

 

 

「……ルーナはやめときなよ」

 

「ふん、幼馴染みが口説き落とされるのを見てるんだな」

 

 

 シルヴァンはルーナが僕の幼馴染みということを知っていたらしい。

 忠告を無視して行ってしまった。

 近くに隠れて様子を見てみる。

 

 

「やあ、可愛いお嬢さん。今、暇かい?」

 

「ハア!? あんた、誰よ!」

 

 

 うわっ、ルーナめちゃくちゃ機嫌悪いよ! 

 機嫌が悪くないときなら「あたしが可愛いなんてわかってるわ」なんていうからね。

 

 

「まあまあ、何をそんなに怒ってるんだ? 可愛い顔が台無しだぞ」

 

「アンタには関係ないでしょ!」

 

「ま、まあ、そりゃそうだが落ち着きなって……」

 

 

 ルーナはシルヴァンに敵意を剥き出しにして怒りはじめた。

 シルヴァンも流石に対応しきれないと見たのかチラチラこちらを見出した。

 行きたくないんだけど……しょうがないなあ。

 

 

「ルーナ、そんなに怒ってどうしたの?」

 

「ラズワルド! 別に怒ってないわよ……」

 

「どう見ても怒ってるじゃないか」

 

 

 僕が来たことで多少は怒りをおさめてくれた様子だ。

 機嫌が悪い時のルーナは普通に手が出るから慎重に……

 

 

「流石は幼馴染みだな……お前が来たらすぐにお姫様はお怒りを静めてくれた」

 

「……なんで、ラズワルドが来るって知ってたのよ?」

 

「えっ? ちょ、シルヴァン余計なこと言わないでよ!」

 

「……まさか、アンタたち、コイツがあたしをナンパしてどう反応するか見て、面白がろうとしてたんじゃないでしょうね……」

 

「そ、そんなわけないよ!」

 

 

 す、鋭い、当たらずとも遠からずだ。

 シルヴァンが余計なこと言ったせいで、またルーナが怒りだした……

 

 

「嘘ね、アンタ嘘つくとすぐ顔に出るからわかるのよ!」

 

「……ル、ルーナ、許してね。ごめんね」

 

「イ・ヤ・よ! 歯を食い縛りなさい!」

 

 

 なるべく爽やかにカッコ良く謝ってみたけど、ダメだった! 

 ルーナは拳を強く握りしめて構える。

 ちょっ! グーはやめて! 

 

 がはぁっ! 

 

 

「……は、ははは……仲が良いな」

 

「ひどいめにあったよ……」

 

 

 ルーナが去ったあと、シルヴァンは倒れている僕に手を貸してくれた。

 

 

「……ったく、幼馴染みの女の子ってのはなんであんな暴力的なんだろうな……」

 

「……僕以外が殴られてるのは、あんまり見たことないから愛情の裏返しってやつさ」

 

「そういえば、イングリットのやつもフェリクスや殿下をひっぱたいてるところは見たことないな……そういうことだったのか!」

 

「……今日のナンパはもう終わりにしよう」

 

「ああ、そうだな。反省会がてらメシでも行こうぜ!」

 

「いいね! お互いの幼馴染みについても、もっと話そうよ!」

 

「そりゃいいな! はっはっはっ!」

 

 




長くなってしまいました。
揉めているらしい→喧嘩を売られているのところはルーナが勝手に脳内変換しているだけです。

補足
親世代の緑の騎士と元村人
FE覚醒の親世代ユニットのソールとドニ
他にも善人キャラは重騎士カラムがいるが、影が薄いのでルーナは忘れている

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