ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
(花冠の節 二十二日)
俺は“漆黒のオーディン”、『英雄の血』と『闇の力』相反する二つの力を持つ、選ばれし闇の戦士だ。
「……闇の供物たちよ、今日もしっかり育っているな。貴様らのその真の力が解放される時も近い……」
温室の俺の植えた区画はよく育っていた。
すでに何度か収穫出来ているし、安定して魔草薬草を手に入れられる。
寒い地方で育つ種類の草は大修道院の外に蒔いて育てればいいし、これで呪術の開発が捗る。
こっちは先生が植えた場所か……相変わらず毎回植えているものが違う。
先生は、花、野菜、果物、薬草、果てはただの草だったりいろいろなものを栽培している。
……まさか適当に種を蒔いたりしていないだろうな。
とりあえず土に魔力を注いで、間引きをする。
まあ、先生みたいに種だけ蒔いてほったらかしにするのは勘弁してほしいけど。
温室の世話をしているとアッシュがやってきた。
「よお、アッシュ。調子はどうだ?」
「……ああ、おはようオーディン」
いつもより元気が無いな~
アッシュはおとなしい奴なんだが、暗くはないのにな。
「どうした、元気がないぞ? 良い必殺技の名前が思い浮かばないのか?」
「……僕は必殺技なんて考えないよ。……オーディン、ロナート様が反乱をしたことは聞いてる?」
ああ、その件か。
知ってるも何も金鹿の学級の課題だしな。
なんでも、王国貴族のロナート卿とかいう貴族が教会を相手に反乱を起こしたらしい。
王国の小領主であるロナート卿はたいした兵力を持ってないので、セイロス騎士団の先遣隊で鎮圧できるという話だが、金鹿の学級は後詰めと事後処理を任されている。
「今節の
「ロナート様は僕や弟や妹たちを養子に迎え、実の子のように育ててくれた方なんだ。……それが、どうしてこんなことに……」
「……アッシュ」
こんなに重い話だったのか……そりゃ元気がないのも無理がない。
アッシュは貴族の養子で士官学校に入れたのもその人のおかげと言っていた。
その人がロナート卿だったのだろう。
「ロナート様は……殺されるのかな? ……そうなったら……僕は……」
どうしよう、かける言葉がみつからない。
先生や……ディミトリにでも相談してみるか……
◇◇◇
放課後、騎士の間でディミトリを見かけたので話かける。
ドゥドゥーも一緒にいる。
「よっ、ディミトリ。……ちょっと話があるんだが」
「オーディン、珍しいなお前から話があるなんて」
そういえば、こうやって話すのは出会って以来だな。
学校で顔を会わせれば挨拶くらいはしていたが。
「話ってのは、ロナート卿とアッシュのことなんだが……」
「……その話か、王国内の騒動でお前たちに尻拭いをさせるのは心苦しいが……」
「ディミトリは王子なんだろ。なんとかならないのか?」
「……すまない。俺はまだ王位についていない学生の身だ、政治的な介入はできない」
王子のディミトリでもどうにかするのは難しい話なのか。
ファーガス神聖王国は国王不在だし、かつてのイーリス聖王国のように王子も国の権限の一端を握っていると思っていたが……違ったようだ。
「何も知らないのに無理言って、すまない」
「いや、いい。ファーガスは王を失って乱れている。ロナート卿の挙兵もその一端だろう。王位を継げぬ自分の幼さがもどかしい」
「殿下……」
謝るとディミトリやドゥドゥーまで落ち込みはじめた。
ロナート卿の討伐は避けられないようだ。
「アッシュの方はどうにかならないのか? 朝に話したんだが、めちゃくちゃ落ち込んでたんだよ……」
「……課題協力という形をとれば、お前たちと一緒に連れていくこと可能だが……少し酷かもしれないな」
「課題協力?」
課題協力とは他学級の生徒を課題に連れて行ける制度らしい。
親代わりだった人を討伐するのに参加するのは、ディミトリが言うように酷なことかもしれないが、弟たちや街にいる知り合いのことも心配だろうから、伝えてみるか。
「ありがとう。アッシュと先生に相談してみるよ」
「力になれなくて、すまない」
「……訓練は怠るな。何があるかわからんからな」
ディミトリとドゥドゥーに別れを告げて去る。
課題協力か……先生なら許可してくれるだろうが、アッシュはどうするかな……
◇◇◇
先生は課題協力の話をするとあっさり許可してくれた。
ただ、本人の意思を確認したいからと、アッシュのところ……大聖堂にいたのでそこで話しを聞くことにした。
大聖堂は大司教レア様に遇って以来苦手なんだよなあ……セテスさんもよく来るみたいだし。
先生はアッシュに課題協力の話を伝えている。
「……僕がロナート様の討伐に……参加……ですか……?」
「直接話すことも、戦うことも無いかもしれない……でも、ここで何もできずに終わるのどっちがいいか……貴方が決めて」
アッシュは悩んでいる様子だ……当たり前か、行くことになったら、恩人に刃を向ける可能性もあるかもしれないからな。
「……先生……僕をガスパール領に連れていって下さい! ……覚悟は決まりました」
……よしっ! それでこそ男だ。
アッシュ……お前の覚悟しかと受け止めたぞ。
──運命を共に……!
◆◆◆
(花冠の節 三十日)
“
かつてのフォドラ十英傑の一人カロンは女神より力を授かり、雷霆を手に邪神と戦った。
その雷霆を手にし、ロナート卿討伐戦の助っ人として来てくれた女性が目の前にいる。
「泣く子も黙る“雷霆のカトリーヌ”さんとご一緒できるなんて、光栄の至りですね」
「今回は雷霆を振るう機会はないさ。アタシらの任務は事後処理だからね」
クロードとカトリーヌさんが話している。
ぐぬぬ……戦闘前でなければいろいろと見たり聞いたりしたかったが……後でじっくり話せないかな?
雷霆をじっと見ていると声を掛けられた。
「アンタが例の生徒になった傭兵たちの一人かい? セテスから聞いてるよ……アンタたちのことはよく見ておくようにするよ……何を考えていてもいいようにね……」
ひいぃ! ……殺気!?
とても、戦闘後とかに話しかけれる雰囲気ではないな。
“雷霆のカトリーヌ”さんはかなり大司教に心酔していると聞く、セテスさんから怪しいやつ扱いされている俺たちのことを警戒しているのだろう。
「報告! 敵が接近中です……避けられません! 敵の兵力が予想以上に多く、霧のせいで騎士団の包囲をすり抜けてきます!」
偵察の教団兵が報告にきた。
どうやら、霧のせいで包囲を抜けた連中がいるらしいな。
後詰めの兵力は生徒たちを含めても大した数ではない……結構、危ういかもな……
「みんな戦闘準備を、警戒担当は松明の火を絶やさないで」
先生が指示を飛ばす。
アッシュからの助言で松明を持って来ているが、流石に霧が深すぎるな。
「……アッシュ、この辺はいつもこんなに霧が深くなるのか?」
「いや……ここまで霧が深くなることは滅多にないよ」
敵の作戦で意図的に魔法で霧を深くしているのか?
だとすると、それなりの練度の魔術士部隊が居るはずだ、警戒しないと。
「術者を討てば霧が晴れる可能性があります。敵の魔術師を探しましょう」
魔法に造詣が深いリシテアも気づいて先生に提案している。
剣戟の音と雷のような音が聞こえだした……教団兵たちは戦闘を始めたようだ。
「うおおおっ! 領主様を死なせてたまるか!」
森の中から敵兵が現れる。
魔法〈ファイアー〉を撃ち、近づいた敵には剣で対応する。
この課題の前に生徒はみんな下級職になっている。
俺は〈修道士〉になったので魔法を以前より上手く使えるが、鎧などを着込んで無いので油断は禁物だな。
接近した敵を剣で切り捨てる。
──この程度か。
この練度の敵なら10人くらいに囲まれてもやられはしないだろう。
ただ、正規兵にしては弱すぎるな。
「……そんな!? ……街のみんなまで戦場に……!? ロナート様は、どうしてこんな……」
「……民兵か。どおりで兵力が多いわけだ」
アッシュが絶句している。
町の人間まで動員してセイロス教団に刃向かって来たわけか……ロナート卿は相当な恨みをセイロス教団に持っているみたいだ。
「オーディン、霧を発生させている魔術士のだいたい居場所を特定できた。ルーナとラズワルドたちとそこに向かって」
「……この“漆黒のオーディン”に任せておけ!」
早く霧を晴らしてロナート卿を討ち取って、民兵たちは降伏させないとな!
森の中に魔術士部隊を発見した。
「ロナート様には近づかせぬ……!」
「この漆黒のオーディン……甘く見るなよ!」
魔術士の隊長らしき人物に〈リザイア〉をぶつける。
魔術士たちも〈ファイアー〉や〈サンダー〉を撃ち返してきたが回避する。
こっちは俺以外、魔法攻撃はできない。
森で魔術士たちと戦うのは危険だが斬り込むしかないな。
「ラズワルド! ルーナ! 斬り込むぞ、手を貸してくれ!」
「サポートするよ!」
「仕方ないわね!」
俺たち三人を先頭に魔術士部隊へ強襲をかける。
ザナドでの盗賊との戦闘以来、他の生徒たちも戦う覚悟はできているようだ。
剣を振り敵の隊長に斬りかかる。
「ぐぅ……貴様っ!」
「逃がすものか! 必殺……黒竜剣ブラックライトソード!!」
剣に黒い光……いや闇を纏わせて斬りつける。
理学の才能が開花していろいろとできるようになった。
特に威力が上がるわけではないが、とりあえずかっこいいしな!
これで魔術士部隊は片付けた。
霧も急に晴れてきたし、戦闘も佳境だろう。
先生たちとカトリーヌさんたちは合流したみたいだ。
敵の部隊と睨みあっている。
「カサンドラ……雷霆のカサンドラ! 我が息子を裏切った狂信者め……!」
「アタシの名はカトリーヌだ。女神の僕たるセイロス騎士団の剣、その身で味わいな!」
馬上で指揮をとる中年の騎士……あれがロナート卿か。
カトリーヌさんが雷霆を振るうたびに敵兵が倒れていく……あの人の実力もさることながら、やはり注目すべきは英雄の遺産だな。
雷を迸らせ戦う様は、本当に伝説の魔剣のようだ。
実際、威力も相当あるだろう……イーリス聖王国の国宝ファルシオンに勝るとも劣らない。
「霧が晴れても、我が息子の無念は晴れぬ! 腐った中央教会に主の裁きを……!」
霧が晴れて、カトリーヌさんが雷霆を振るい無双する様子を見てもロナート卿と配下の兵たちは士気は下がっていない。
流石に正規兵は覚悟が違う……ロナート卿を討たなければ止まらないだろう。
「ロナート様……もうお止めください! なぜ、こんな無謀な振る舞いを……!」
「……アッシュか!? ……そこをどくのだ。わしは悪鬼どもを討たねばならん! 必ず! あの女狐……レアは民を欺き、主を冒涜する背信の徒だ! 大義は我らにある!」
……大司教が民衆を欺いている? ちょっと気になる話だな。
アッシュの説得も空しく、ロナート卿は止まるつもりはないようだ。
「ロナート卿を討つ! ……みんなは周囲の敵を! ……カトリーヌっ!」
「……っ! ……わかってるよ!」
先生の指示でロナート卿までの敵兵を惹き付ける。
最強戦力であるカトリーヌさんに討たせるつもりだろう。
「貴様だけは、貴様だけはこのわしが……!」
「せめてアタシの手で送ってやるよ。主の身許へね……」
カトリーヌさんがロナート卿に突撃し剣を一閃……いや二連撃か、それでロナート卿は呆気なく倒れた。
「あの、女狐、め……ああ……クリストフ……父を、許せよ……」
終わったか。
正規兵たちも一気に士気が下がったのがわかる。
もう戦えないだろう。
戦闘後、一段落してアッシュの様子を伺う。
「ロナート様……僕は……」
……アッシュを連れてきたのは間違いだったのだろうか……こんなつらい思いをさせることになるなんて……
「……どうして、こんな。ロナート様は優しい方だったのに。街のみんなもいい人ばかりで……僕はそんなみんなを……殺してしまった」
「……すまない、アッシュ。お前を連れて来るべきではなかった……」
「……オーディン……いや、いいんだ……こうするしかなかった。それは……わかっているんだ。……それに、もし僕が今日ここに来れなかったら……君たちのことを恨んでしまっていたかもしれない」
「アッシュ、無理はするなよ……」
「……心配かけて、ごめん。僕、街の様子を見てくるよ。弟たちが無事でいればいいけれど……」
「……俺も一緒に行くよ」
……連れてきた責任として、しばらく見守るべきだよな。
戦いに勝って、こんな思いをするのはしばらくぶりだ……ディミトリには早く王座についてもらい王国の混乱を治めてほしいものだ。
補足
黒竜剣ブラックライトソード
ファイアーエムブレム無双のウードの必殺技
ヘンリー・ノノ支援の竜の幻影を見せる呪術を応用して剣や体に炎や光(エフェクト)を纏わせている設定です