ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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第16話『紅蓮の炎』

(青海の節 十九日)

 

 俺は“漆黒のオーディン”、母なる影と父なる闇により生まれた、選ばれし闇の呪術士だ。

 

 今日の講義も終わり、明日は休日だ。

 どうして休日の前の日っていうのは、気分が良くなるのだろうな……くっ、そう考えてると……血が騒ぎだしたっ! ……落ち着け……俺の英雄の血よ……! ……明日は休日だ……明日になって思う存分、封印されし力を解放しようじゃないか……! 

 

 教室で帰り支度を整えていると、エーデルガルトが教室に入ってきた。

 金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)の教室にエーデルガルトが来るなんて珍しいな、従者のヒューベルトも一緒にいる。

 誰かに用があるのかな? と見ているとエーデルガルトたちは真っ直ぐこちらに向かってきた。

 

 

「こんにちわ、オーディン。今、空いてるかしら」

 

「フッ、我が“闇の同胞”エーデルガルト、金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)によく来たな」

 

「や、やめて、オーディン。……そんなものになった覚えはないわ」

 

「おやおや」

 

 

 エーデルガルトは顔を赤らめて恥ずかしがっていて、その様子をヒューベルトは面白そうに眺めている。

 

 

「俺に何か用か?」

 

黒鷲の学級(アドラークラッセ)にベルナデッタという生徒がいるのだけど、今週ずっと部屋に引きこもっていて授業に出ていないの。聞いてみたら、“漆黒のオーディン”を名乗る呪術士に呪いをかけられたから、怖くて部屋から出たくないって言ってるの。心当たりはあるかしら?」

 

「うーん、無いな。呪いをかけられたのはいつなんだ?」

 

「この前の休日らしいわ。本当に、心当たりはないの?」

 

 

 この前の休日か……そういえば、俺が新呪術の開発をしていた時に、たまたま近くにいた女子生徒がいたな。

 たしかベルと言っていたし、被害妄想全開で呪いを解いてくれって叫んでいたし、アイツのことだろう。

 

 

「紫髪のちんまい女子生徒か?」

 

「ええ、そうよ……間違いなく貴方が原因かと思ったわ。それで、呪いをかけたの?」

 

「か、かけてないぞ! 俺が新しい呪術を開発してたら、アイツが勝手に勘違いしただけだ」

 

「そういうことだろうと思ったわ……一緒に来てオーディン。ベルナデッタの誤解を解きましょう」

 

「まさか、断ると言う選択肢はないでしょうな。貴殿が撒いた種なのですから」

 

「……わかったよ」

 

 

 ヒューベルトが威圧してくるし、断る訳にはいかないだろうな。

 俺が、誰彼構わず呪いをかけるような人間と思われても困るし、行ってやりますか。

 

 ベルナデッタの部屋は寮一階の通りに面した部屋だった。

 食堂にも温室にも、行きやすい良い部屋だ……羨ましいな。

 エーデルガルトは部屋の扉を叩いてベルナデッタを呼んでいる。

 

「ベルナデッタ、いるかしら?」

 

「え、エーデルガルトさん!? もうベルは部屋から出ませんよ! 部屋から出たら最後……呪われるんです! あの恐ろしい呪術士に!!」

 

「オーディンは貴女に呪いはかけてないと言っていたわ……ここを開けてベルナデッタ。落ち着いて話をしましょう」

 

「う、嘘です! そう言ってベルを騙すつもりなんでしょう!? 騙されませんよ!」

 

「そのオーディンを連れてきたわ。オーディン、誤解を解いてあげて」

 

「えっ? ……えっ? あの呪術士があたしの部屋の前に……」

 

 

 これ、俺が話かけて出て来てくれるのかな? 

 

 

「ハッハハハハハ! 俺は“漆黒のオーディン”、フォドラ最強の選ばれし闇の呪術士だ!!」

 

「ほげええええええ!! 出たあああああ!!」

 

「オーディン! ベルナデッタは貴方のことを怖がってるのよ、もっと優しく話をしてあげて!」

 

 

 すまない……ついノリでやってしまった。

 部屋の中からは、ドタバタ音がするし多分凄いオーバーなリアクションをとっているのだろう。

 

 

「……聞け、封じられし部屋に棲みし者よ……俺は貴様に呪いなどかけてはいない……」

 

「う、嘘です! あのとき、ベルを呪ったんでしょう!? あれからベルは全然眠れないし、お腹が空くし……とにかく大変だったんですよ! は、早くベルの呪いを解いて下さい!」

 

「……嘘ではない! 俺は稀代の呪術士だ、俺が呪いをかけていれば、既に貴様の命はなかった」

 

「ひ、ひぃ! そんな……」

 

「部屋から出てこい、暗き深淵なる部屋に身を潜めし者よ……」

 

「い、嫌です! 怖い! 部屋からは絶対出たくありません!」

 

 

 なんか余計に、強情にさせたような気がする。

 いちいち反応が面白いから、ついやってしまうなあ、怖がられるのは好きじゃないんだが……

 

 

「駄目みたいだ……」

 

「……当たり前よ。あのやり方で出てきたら、逆に驚いていたわ」

 

「あまり、エーデルガルト様のお手を煩わせないでほしいですな……」

 

 

 しかしどうしたもんかね……部屋から叩き出すくらいは出来るかな。

 

 

「今日は諦めましょうか……来週の授業には出てくれるといいのだけど」

 

「いや、部屋から出てこさせるくらいは出来るぞ」

 

「……嫌な予感はするんだけど、出来るの?」

 

 

 ──フッ、この“漆黒のオーディン”に不可能は無い! 

 

 

「……聞け、ベルナデッタ……貴様が部屋から出てこないというなら、本当に呪いをかけるぞ……」

 

「……えええええ!? そんなぁ!!」

 

「一生部屋に引きこもれなくなる呪いだ!」

 

「な、なんて呪いを!? い、嫌……やめて下さい!」

 

「ならば、出てこい……これが最後通告だ……」

 

「……ひっ、ひぐっ……ぐすっ……どうして……どうしてベルがこんな目にぃ……」

 

 

 えっ!? ……もしかして泣いてるのか? ヤバいな、急に凄い罪悪感が……エーデルガルトは「どうするの?」みたいな顔で見てるし、ヒューベルトは手を頭に当てて首を振っている。

 後戻りはできない……もう、やるしかないな。

 

 目に見えない場所に〈華炎〉を使うのは初めてだが……意識を集中しろ……重要なのは想像力だ……きたっ……きたきた……! ……闇の力がっ……! 

 

 

「……愚かにも部屋に籠りきっている者に、命の代償を払わせてやる……紅蓮の炎よ!」

 

「……えっ? うそっ? 部屋が燃えてるぅぅぅ!! なんで!? いやあああああ!!」

 

 

 ……成功したようだ。

 ベルナデッタは幻影の炎に慌てて、部屋を飛び出てきた。

 

 

「……あたしの……部屋が……なんてこと……」

 

 

 ベルナデッタは燃えている(幻影だけど)部屋を見て、口を開いて放心状態だ。

 さ、流石にやりすぎたよな、謝っておこう。

 

 

「手荒な真似をして、すまなかったな」

 

「ひいぃぃぃぃ!!」

 

 

 声をかけた俺に驚いたのか、ベルナデッタはこけて尻餅をついた。

 

 

「じ、呪術士! ……エーデルガルトさん……ヒューベルトさんまでいる! ……怖い人が三人も!」

 

「いやぁ……だから、悪かったって……」

 

「……私も怖い人の扱いなの?」

 

「やれやれですな」

 

 

「先生ぇぇぇぇ! 助けてくださぁい!!」

 

 

 先生……居たのか? 

 

 ベルナデッタは、いつの間にかに近くにいた先生にすがりついて泣いている。

 というより、なんか結構な数の野次馬がいるな……これって、俺が泣かしたみたいじゃないか! 

 あっ、いや、俺が泣かしたんだけど……

 

 

「先生……先生ぇぇ!」

 

「大丈夫、ベルナデッタ。もう安心して」

 

 

 先生はベルナデッタを抱きしめて頭を撫でている。

 先生と目が合うと、眉をキッと吊り上げて睨んでくる。

 

 

「先生! 誤解ですよ、これは、その……」

 

「オーディンが泣かした」

 

 

 ぐはぁっ! 

 言い訳しようとしたら、先生はただ事実を突きつけてきた。

 こんなことになるとは、思わなかった……正直すまんかった。

 

 

「……先生、先生」

 

「なあに? ベルナデッタ」

 

 

 しばらくして、ベルナデッタは落ち着いてきたのか、先生に話しかけられるようになったみたいだ。

 ベルナデッタの背中を撫でながら、先生もいつも以上に優しく答えている。

 

 

「……ベルを、ベルを先生の学級に入れて下さい……今の学級は、怖い人がいて、独りで、寂しいです!」

 

「いいよ、金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)に来て……」

 

 

 ベルナデッタ……金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)に入りたかったのか……それに、先生にこんなに懐いていたとは、知らなかった。

 エーデルガルトは目の前で、学級を移る話をされてショックを受けた顔をしている。

 さっき、怖い人扱いもされていたしな。

 

 

「ほ、本当ですか? ふえええええん……先生の学級には、先生がいるから寂しくないです!」

 

「でもベルナデッタ……金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)にはオーディンがいるよ」

 

 

 そう言って先生は俺のほうを指差す。

 ベルナデッタは今俺の存在を思い出したかのように固まっている。

 

 

「………………」

 

「ベルナデッタ?」

 

「ぎええええええええええ!!!」

 

 

 ベルナデッタは叫び声を上げたかと思うと、口を開けて白目を剥いて動かなくなった。

 

 

「ベルナデッタ? しっかりして……」

 

「……まさか、気を失ってるのですか?」

 

「オーディン、貴方に頼んだのは失敗だったわ」

 

 

 俺が悪いの!? ……どう考えても俺が悪いか……

 でも、ベルナデッタの所属についてはどうするんだろう? 黒鷲の学級(アドラークラッセ)に残るのだろうか、金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)に来るのだろうか……本人次第か……

 

 

 

 ◆◆◆

(青海の節 二十日)

 

 

 

 今日は休日だが、教室に金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)の生徒が全員集まっていた。

 

 

「……オーディン、アンタ他学級の生徒を泣かせてたらしいじゃないの……サイテーね!」

 

「わたしも見てたよ……流石にアレは擁護できないね」

 

「ベルナデッタちゃん、可哀想……」

 

「……女の敵です!」

 

 

 来て早々、女子から非難轟々だ。

 まてまて、俺も悪気があったわけじゃあ、無いんだって……

 

 

「まあ、オーディンの悪行については取りあえず、置いといて……今日みんなに集まってもらったのは今節の課題についてだ」

 

 

 俺が、一通り非難に晒されたあとに、クロードが今日の本題について話しはじめた。

 

 今節の課題は、修道院の警備だ。

 前節の課題の時に、ロナート卿の密書が見つかり、女神再誕の儀に合わせて大司教を暗殺すると書き記されていたらしい。

 今、セイロス騎士団は大司教様の警備に大忙しで、俺たち生徒も再誕の儀で手薄になる修道院の警備に駆り出される予定だ。

 この課題が出されてすぐ後に、先生やクロードは、敵には他に狙いがあると言って、再誕の儀の日に警備が薄くなる場所を調べてまわって、敵の狙いを見極めようとしてたのだった。

 

 俺は、ちょっと忙しくてほとんど参加してなかったんだけどな! 

 

 

「……ふーん、それで結局なにかわかったの?」

 

「たしか、みんなで調べてたんだよね」

 

 

 ……ルーナもラズワルドも、この様子だと何もしてないな。

 休みの日に、熱心に推理するような奴らじゃないから仕方ないか。

 

 

「おいおい、お前ら他人事だな。……こっちはお前らにも期待してたっていうのに」

 

「うっ、休みの日は忙しいのよ。しょうがないじゃない!」

 

「まあ、戦闘になったら、いつも通り頑張るよ」

 

「相変わらずの調子だな、お前らは……それで“漆黒のオーディン”は、どんな考えなんだ? まさか、遊んでた、なんてことは無いよな?」

 

 

 クロードは俺にも聞いてくる。

 ……うっ! 全然、調べてないとかは言えない……

 何か、適当に誤魔化すか……

 

 

「敵の狙う場所はわからないが……敵の狙いの物ならわかったかもしれないな……」

 

「へえ、そりゃなんだ?」

 

「……それは、伝説の武器だ!」

 

「また、それか? お前もそればっかりだな……」

 

 

 クロードは呆れたように言っている。

 

 

「いやいや、本当の話なんだって……解放王ネメシスが振るったとされる天帝の剣をはじめ、神聖武器のウコンバサラの斧やタスラムの弓……所在の知れない、英雄の遺産と神聖武器。それを教会が秘密裏に保管しているんじゃないかって噂を聞いたことがある」

 

 

 情報源は書庫番のトマシュさんだ。

 結構、書庫に通っているので、仲良くなって、ほぼ正確な情報から眉唾の噂話まで色々と話をしている。

 まあ、この話はだいぶ眉唾物の話なんだけどな。

 この大修道院には、英雄の遺産である雷霆(らいてい)をはじめ、それに匹敵する武器がいくつかある。

 ほとんどが、セイロス騎士団の聖騎士が持ち歩いているので、奪うのは難しいが、使っていない伝説の武器をまとめて保管してある場所があるなら、それを狙う可能性があるかもしれない。

 

 

「それを今回狙っている奴らがいると……でも神聖武器はともかく、ネメシスが使った英雄の遺産なんて、一致する紋章を持ってないと狙う意味がないだろ?」

 

「それはそうなんだが……もしかして、英雄の遺産を解析してネメシスの復活を目論むとか……」

 

「おいおい……空想の物語の読みすぎだ。そんなことがあってたまるか」

 

 

 そりゃ、そうか。

 クロードと話をしてるとまた考察が変な方向に向かった。

 そもそも、敵の狙いが伝説の武器かどうかもわからないんだけどな。

 

 

「どちらにせよ、今回重要なのは何を守るかじゃなくて、どこを守るか」

 

「そういうことだ、先生。女神再誕の儀までもう一週間を切った。もう少し情報を集めてみようぜ」

 

 

 そう言って、みんな解散していった。

 再誕の儀の日には、何も起こらなければ良いけど、そんなわけはないだろうな。

 ──闇がそう囁いている。

 

 

 

 




ベルちゃんトラウマになってます

ベルちゃんファンの皆様すみません
次の次の話からオーディンには罰が下り、ベルちゃんのメンタルケアの話も入れますので…
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