ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
(翠雨の節 二日)
俺は“漆黒のオーディン”、フォドラ全土に名を轟かせる、選ばれし闇の戦士だ。
今日も、いつも通り夜明け前に起きて、顔見知りの門番や巡回の兵士に挨拶をしながら訓練所に行くと、先客がすでにいた。
とくに鍛練している様子はなく、篝火をぼーっと見つめている……エーデルガルトだ。
「よう、エーデルガルト。今日は早いな」
「オーディン……なんとなく、早く目覚めてしまって……ここにいたら、貴方が来るかと思って」
そういうことか、俺はほぼ毎日こんな時間から鍛練しているので、早寝早起きが習慣化してしまっている。
「さすがに、こんな時間に訓練所に来る奴は少ないしな~エーデルガルトも早めに寝てるから起きるのが早いのか?」
「……私は……違うわ。つまらない悪夢を見るせいで、眠れない時があるのよ」
「悪夢か……どんな夢なんだ?」
「昔の夢よ。私がまだ私でなかった頃の、つまらない夢」
意味深なことを言う……私が私でなかった頃の……なかなかカッコいい台詞だ、今度使わせてもらおう。
「夢のことについてなら、この“漆黒のオーディン”に任せろ。良い呪術を知っている」
「……じ、呪術?」
「ああ、俺が枕元で呪術を使えば夢を操作することができる」
俺が新たに開発した夢を操作する呪術だ。
とある魔草を持って、眠っている対象に見せたい夢を話すだけでできる、お手軽な呪術なのだ。
試しに、同じ天幕にいるラズワルドにこっそり使ってみたら、ほぼ完璧に夢の内容を操作できていたので、効果も立証済みだ。
「……枕元って、貴方が私の部屋で眠っている私に呪術をかけるの?」
「まあ、そうなるな」
「やめておくわ……ヒューベルトが知ったらなんと言うことか……」
そうか? たしかに、女のエーデルガルトの部屋に入って、枕元で話し続けると……従者のヒューベルトに「消しますよ」とか言われて脅されそうだ。
「なら、ヒューベルトにやってもらうのはどうだ? 簡単な呪術だからアイツにもできると思うぞ」
「……ヒューベルトに?」
「あっ……でもアイツにとっての良い夢が、エーデルガルトにとっての良い夢とは限らないか……なんか、恐ろしい夢を見させられそうだ……」
「……フフッ、それはさすがに言い過ぎじゃない?」
その後も、エーデルガルトと雑談を続けていると、妙な視線を感じる……
──……そこかっ!
振り向くと、柱の影から、じーっとこちらを見ている女の子がっ!
その女の子は食い入るように真剣にこちらを見つめていた。
「ま! 見つかってしまいましたわ」
フレンが柱の影から出てきて、こちらに向かってきた。
いつから見てたのだろうか……?
「お二人が、あまりに楽しそうにお話をしてられたので、つい見いってしまいましたわ」
「……フッ、ここまで気配を消せるようになるとは、腕を上げたな、フレン……」
「えっ、フレン……?」
「こうして、お話するのは初めてですわね、エーデルガルトさん。わたくしは“純白のフレン”、聖人の血を受け継ぎ、聖なる力を操る、選ばれし光の戦士ですわ」
フレンは決め顔で、ポーズをしながら自己紹介をした。
完璧だな! フレンはセスリーンの紋章を持っているし、白魔法も得意だから設定に矛盾はない。
二つ名のほうは“純白”と“宵闇”のどちらか迷っていたみたいだが……俺の“漆黒”と対になる“純白”を選び、光属性設定の路線になったのだ。
──あーあ、出会っちまったか
ついにこの二人が邂逅したか……いつか、この日が来ると思っていた。
お互いのことは少しは知っているらしいが、こうして、話すのは初めてらしい。
俺の“闇の同胞”同士の会話……どんな会話がされるのか俺でも予想がつかない……
「エーデルガルト=フォン=フレスベルグ、アドラステア帝国第四皇女であり第一位の皇位継承者よ。今は
エーデルガルトはずるいよなぁ……肩書きを並べるだけで、自己紹介が異様にかっこ良くなるなんて……そうだ! 俺も「イーリス聖王国王妹の一子、王位継承権第三位」とか、言えば……駄目だ、そんなこと言えば正体がバレてしまうし、そもそもイーリス聖王国は王位継承権とか、なんかそういうものが曖昧だったような気がする……
「まあ! エーデルガルトさん、ズルいですわ。そんな事実の肩書きを並べるだけで、かっこ良くなるだなんて……わたくしだって、一生懸命考えましたのに!」
「そ、そうかしら? 普通だと思うのだけど」
フレンも同じようなことを考えていたらしい。
フレンはその後、興奮したように続けた。
「それより、お二人はどういうご関係ですの? こんな時間にこんな場所で、お二人で逢ってるなんて……ご関係を想像しただけで……血が騒ぎますわっ!」
「エーデルガルトは、俺の“闇の同胞”だ。二人で必殺技の開発を行っている……貴様と同じ様にな……」
「まあ! わたくしと同じ……って違いますのよ、オーディンさん。わたくしは光属性ですので“闇の同胞”ではありませんのよ!」
「……闇は常に俺たちと共にある……貴様も闇に堕ちるのだ……フレン」
「オーディンさんのほうこそ、黒魔法より白魔法が得意なのではありませんか? わたくしたちと共に“光の同胞”になるべきですわ!」
「……なっ!? この俺に、光に堕ちろと言うのかっ……! ……くっ、俺がまだ俺でなかった頃の……選ばれし希望の戦士時代の俺が……英雄の血が騒ぎだしたっ!」
「……会っていたとは聞いていたけれど、仲が良いのね」
エーデルガルトは呆気にとられた様子だ。
まあ、週に1~3回会って、一緒に必殺技を考えたり雑談したりしていたので、仲は良いかな。
俺の設定や昔話を楽しそうに聞いてくれるフレンは貴重な存在だ……前の世界では、幼馴染みの中にそういう存在が何人かいたのだが、ラズワルドやルーナは茶化したり気持ち悪がったりするからな。
ただ、最近は解釈違いが結構起きてるんだよな、その議論をするのも楽しいけど。
「エーデルガルトさんは“光の同胞”と“闇の同胞”どちらになるんですの? もちろん“光の同胞”ですわよね!」
「わ、私……?」
「エーデルガルト……もちろん“闇の同胞”だよな……ちなみに『私は、そんなものにはならないわ』なんてのはなしだぞ……光か闇かふたつにひとつだ……」
「……そうね……私は……闇よ……光は私には似合わないわ……」
「……フッ……さすがエーデルガルト。貴様こそ我が“闇の同胞”だ!」
光が似合わないなんてことはないと思うが、エーデルガルトは闇属性寄りと思っていたぞ!
「ま! 光が似合わないなんて、そんなことはないですわ。エーデルガルトさんは、とっても華やかで眩しいくらいですわ」
「……それは違うわ、フレン。貴女が眩しいと思っているそれは光ではないわ……それは……炎よ、瞼を焼いてしまうほどの連獄の業火……」
「まあ! なんてカッコいい台詞……」
これがアドラステア帝国次期皇帝の教養と語彙力か……今度、使う機会があったら真似してみよう。
「わかりましたわ。わたくしがいつか必ず、お二人に巣食う闇を払ってあげましょう……これも血の定めですわ!」
「……貴女にそれができるかしら?」
「俺は闇を愛し、闇に愛された男。俺の闇を払うことなど不可能だ……」
このあと無茶苦茶雑談した。
◇◇◇
朝の鍛練が終われば、温室の草花の世話だ。
学業に鍛練、趣味、人々との交流……なかなか充実した学校生活を送れているな。
世界を越えて、本来なら決して来るはずのない場所に来て、出会うはずのない人たちに会い、役目を果たしたら元の世界へ戻る。
俺たちが去った後に残るものはないのかな……今、育てている草花は元の世界から持ってきたものだけど、誰かに育て方を教えようかな。
そうすれば、“漆黒のオーディン”の伝説とともにこの薬草や魔草が受け継がれることになるのか……地味だな。
やっぱり、派手な呪術とか必殺技を教えて受け継がせていきたいところだぜ。
温室の手入れをしていると隣の
そういえば、今は
ドゥドゥーが一息ついたみたいだから、話しかけてみる。
「……フッ、ドゥドゥー……次期国王に仕える、寡黙なる忠義者よ……調子はどうだ?」
「オーディンか……あまり俺に近寄るな。つまらん誤解を招く……」
……えっ……? ……ドゥドゥーに……拒絶された……だと……?
そこそこ話したことはあるし、強面で口数少ないが、穏やかで優しい良い奴だと思っていたのに……ベルナデッタの一件で関わりたくないと思われたのか!?
「待ってくれドゥドゥー! 噂になっている一件だが、アレは不幸な行き違いから起きたことなんだ……決して悪意が有ってやったことじゃないんだ!」
「なにを言っている? ……ああ、お前はフォドラの外の出身だったな、ダスカーの反乱のことは知らないのか?」
ダスカーの反乱と言えば四年前に起きた国王暗殺事件のことだな、その後からファーガスが不安定になっているらしい。
ドゥドゥーはダスカー人だし、ディミトリのお父さんは殺され、アネットのお父さんは失踪してしまう等、
「……四年前に起きた反乱のことなら、詳しくはないけど知ってるぞ、ディミトリのお父さん……ファーガスの国王が殺されたんだろ?」
「ああ、ダスカーの人間はそれからずっとフォドラの人間に疎まれ続けている……お前も必要以上に俺に近寄るのは勧めない」
教団兵や教会の修道士の中にも「ダスカー人は何をしでかすかわからない」なんて言っている奴も確かにいるが……ディミトリはドゥドゥーのことを最も信頼しているのは、普段の様子を見ればわかる。
「でも、ディミトリがダスカー人のお前を従者にしているのなら、ディミトリもダスカー人を恨んでいないんだろ?」
「殿下は……別だ」
「じゃあ、アッシュは? アネットやメルセデスは? アイツらがお前を疎んじているようには見えないぜ」
「……それは……」
「なら俺とも仲良くしても良いだろ……お前が俺と関わりたくないなら……それはしょうがないが……めちゃくちゃ落ち込むけど……」
「……お前は変わり者だな」
よく言われるけど、今の会話に変わり者要素無かっただろ!
「ディミトリだって、ドゥドゥーに友達を増やしてほしくて一緒に学校に入ったんじゃないのか?」
「殿下は優しすぎる御方だ……俺のような者にも格別の扱いをしてくださる」
「……ディミトリって、なんか俺の国の王様に似てるんだよな」
「お前の国の王に、殿下が……?」
言葉づかいを気にしないところや、よく物を壊したりするところ、王子のころから……王様になっても先頭で戦い続けたところ。あと、誰よりも優しくて弱者を見捨てないところとか……前の世界の、俺の出身国イーリス聖王国の現国王に共通点が多い。
邪竜ギムレーを倒すために……運命を変えるために戦い続けた本物の英雄。
俺の憧れの存在の一人であり、一応俺の伯父さんにあたる人だ。
王子なのに自警団の団長をしてて、かなり変わってるところもある。
ドゥドゥーにその人のことについて話すと、興味深そうに聞いてくれる。
話していると、そろそろ授業の時間になった。
「おっと、もうこんな時間か。温室には朝しか入れないから、また明日な!」
「ああ……いい話が聞けた。……殿下にも話してみよう」
「もっと色々、話そうぜ。今度はお前の故郷についてのこととかな!」
「……面白い話は話せないが」
「そんなことはない……貴様は地獄のような戦乱の生き残り……滅びた人々の文化や経験を話せる……貴重な存在だ」
「急に口調が変わったな……やはり、おかしな奴だ……」
滅ぼされた民族の生き残り……不謹慎だし、本人には言えないけどカッコいい過去だ……正直、もっと知りたい。
◇◇◇
普段は、
マヌエラ先生は護身用くらいの剣術しか使えないので、あまり武術の得意ではない生徒に指導中で、他の生徒は自主鍛練だ。
「オーディン! アレを教えてくれよ! あの炎を出すやつ!」
「私にも、指導、願う、願います!」
「おいおい、今は武術の授業中だぜ……俺の〈華炎〉は呪術、どちらかといえば理学の領域だ」
「まあ、いいではないか……武術と魔法を組み合わせるのも立派な武術だ。私も君のあの技には非常に興味がある……あの技を戦場で使えば味方たちは奮起し、敵は驚き震え上がるだろう!」
ペトラやカスパル、フェルディナントが俺の〈華炎〉を教えてくれと言ってきた。
しかし、フェルディナントはよくわかっているな……俺の〈華炎〉を伝承するにふさわしい!
「オーディン、皆、ちょっと待って……これを見てほしいわ」
エーデルガルトがみんなに声をかけ注目させる。
訓練用の剣を持っているが、まさか……
エーデルガルトが構えると剣が赤い炎を纏いそのまま、振り回す。
動きのひとつひとつが洗練されていて絵になるな。
エーデルガルトは、自信有り気な顔で皆を見渡した。
「おお! エーデルガルト、遂に習得したのか!?」
「ええ、本当は朝に見せようと思っていたのだけど……」
「ずりぃぞ、エーデルガルト! いつのまに教えてもらったんだ!?」
「エーデルガルト様! 見事です!」
「なに!? すでにエーデルガルトが……こうしてはいられないな! オーディン、私にも大至急で教えてくれ!」
三人の他にも興味が有りそうな生徒たちがみんな集まってきた。
「ちょっとオーディン、エーデルガルト。あたくしの授業を乗っ取らないでよ」
「……でもマヌエラ先生、あの技……歌劇でも使えないでしょうか?」
「まあ? たしかに、歌劇であれを使えたら面白そうね」
マヌエラ先生の許可も取れたので、俺とエーデルガルトで教えていった。
結局、気合いを入れて覚えたがっていた、カスパル、ペトラ、フェルディナントは覚えることができず、ドロテアとヒューベルトしか覚えることができなかったが、このオーディンの闇の呪術がどんどん広がっていく事実に、興奮を覚えざるを得ない。
──フォドラの大地に確かに残りつつあるのだ……この“漆黒のオーディン”がいた証が……
──……血が騒いできたぞっ!
アビスするので更新頻度落ちます(確信)
呪術の〈華炎〉は理学が得意な生徒は覚えられる感じです(リンハルトはサボり)
補足
夢を操作する呪術
オーディン・ルーナ支援
ルーナがやり返しできるくらい簡単な呪術
ウード(オーディン)の話を楽しそうに聞いてくれる幼馴染
ルキナ、シンシア、ノワール
オーディンの出身、イーリス聖王国の国王
FE覚醒の主人公クロムのこと
覚醒本編で王子から国王に
ディミトリとの共通点は多いが、似ているかどうかはオーディンの主観です