ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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第20.5話『ラズワルドとルーナの休日④』

 

(翠雨の節十七日)

 

 士官学校の休日の昼下がり、とある人物を探しに訓練所に入ると中は閑散としていた。

 そういえば黒鷲の学級(アドラークラッセ)はこの休日は出撃してるから、いま士官学校には金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)青獅子の学級(ルーヴェンクラッセ)の生徒しかいないんだったわね。

 

 訓練をしている生徒は青獅子の学級(ルーヴェンクラッセ)の級長ディミトリとイングリット、少し離れた場所にドゥドゥーがいるのみだった。

 槍を打ち合っている、ディミトリとイングリットに声をかけるのは憚られるため、遠巻きに様子を伺っているドゥドゥーに声をかけることにした。

 でも、なんでこんなに離れて見てるんだろ? 

 

 

「ねえアンタ、フェリクス見なかった?」

 

「……むっ、あいつか……先程までいたのだがな……俺たちと入れ違いで出ていった」

 

「あら……入れ違いか~間が悪かったわね」

 

 

 今日こそはフェリクスにディミトリとの和解をさせようと思っていたのだけど、訓練所以外でフェリクスを見つけるのは中々の手間だ。

 

 

「ああ、ルーナか。お前も訓練しに来たのか?」

 

「こんにちは、ルーナ。一緒に訓練はどうですか?」

 

 

 ディミトリとイングリットもわざわざ訓練の手を止めて話かけてきた。

 訓練の誘いに心が揺らぎかける……先週の槍術武闘大会で準決勝でディミトリに負けた無念を晴らしたいところだけど。

 

 

「……先週の大会の雪辱を晴らしにきた、と言いたいところだけど、フェリクスを探しにきたのよ。アンタの一件で……」

 

「ルーナ……ありがたいのだが、この問題は俺たちの問題だ……お前がわざわざ骨を折ってくれることはないのだが……」

 

「……あたしがやりたいんだからいいのよ。十何年来の幼馴染み同士が、ああいう仲になってるなんて見てられないわ」

 

「フェリクスも、きっと素直になれないだけと思いますが……」

 

「だからよ……ディミトリとイングリットの話も聞かない、もう一人のナンパ野郎も動かないのなら、外野からガツンと言ってやったほうがいいのよ!」

 

「すまない、世話をかける……」

 

 ディミトリが謝り、イングリットとドゥドゥーも申し訳なさそうな表情をしている。

 ディミトリたちは、まだ訓練所で訓練を続けるらしいので見つけたらここに連れてくることを約束し訓練所を後にする。

 フェリクスの居そうな場所を聞いたので、探しに行ってくるとしよう。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 厩舎の裏の通路でフェリクスを発見した。

 人通りもなく、特に面白いものもなさそうな、こんなところで一体なにをしているのだろう……

 フェリクスの視線の先には黒い物体……黒猫が眠っていた。

 

 

「アンタ、こんなところで……猫の観察? 暇ならちょっと話に付き合いなさいよ……」

 

「……チッ、またお前か……俺はお前に用などない……」

 

「アンタはなくても、あたしにはあるのよ!」

 

 

 訓練所以外で話かけても、だいたいこんな感じだ。

 ディミトリの件で何度か話をしようと試みているのだが、いつも逃げられてしまう。

 剣の訓練には嬉々として付き合ってくれるのだけど。

 

 

「今日こそは逃がさないわよ! アンタの話も聞くし、あたしの話も聞いてもらう……それまではね」

 

「……なぜ、そこまで俺に構う、お前には関係ないだろう」

 

「ホント、言うことはディミトリと同じね。幼馴染み同士で仲違いしているのを見るのが嫌なだけよ」

 

「……俺の話は前に話した通りだ。あの猪は、二年前の反乱鎮圧で、わざわざ相手を苦しめるように嬲り、痛め付け、そして殺した……奴の本性は血と殺戮を好む獣だ……」

 

 

 フェリクスが言っているのは、二年前の王国で起きた反乱の時にあった話だ。

 その時、ディミトリとフェリクスは初陣で、その後士官学校で再開するまでは一度も会っていないらしい。

 

 

「たしかに、その時にとった行動も……感情も、ディミトリは否定しなかったわ……」

 

「ならば、そういうことだろう。奴は自分が化け物だと自覚があるのだろう……反吐が出る!」

 

「アンタの気持ちはよく解るわ。幼馴染みがそんなことになったら、あたしも耐えられない……」

 

「……ならば、もう奴と関わるのはやめておけ、ルーナ」

 

 

 フェリクスは話は終わりだと、踵を返し帰ろうとしていたが……それを引き留める。

 

 

「フェリクス、待ちなさいよ……だとしても、アンタのディミトリに対する態度はおかしいわっ!」

 

「なんだと……!」

 

「だってそうでしょ! アンタは『薄気味悪い笑顔はやめろ』とか『本性を見せろ』だのまるでディミトリにそうなってほしいみたいに言ってるじゃない!」

 

「それの、何がおかしい……?」

 

「そうなってほしくないって、思うのが普通のことなんじゃないの? ……アンタだって昔のディミトリに戻ってほしいって思っているんじゃないの?」

 

「……」

 

「素直になりなさいよ……アンタは、ディミトリのことを……まだ友達だと思っているんでしょ……?」

 

 

 フェリクスは険しい表情で目を瞑り、何も答えない。

 

 

「何か言いなさいよ……」

 

「……俺が伝えて……奴の本性が変わるとは、思わん……」

 

 

 やっと本音が言えたわねっ! 

 フェリクスの腕を引っ張り、訓練所に向けて走り出す。

 

 

「……おいっ! ……一体なにをっ……?」

 

「ディミトリのところへ行くのよっ! ……伝えてみないとわからないじゃない!」

 

「……チッ、わかったから、腕を引っ張るな!」

 

 

 その言葉を無視して、腕を引き走り続ける。

 

 

 

 そのまま、訓練所までフェリクスを引っ張ってくると、ディミトリたちはまだ訓練所に残っていた。

 

 

「フェリクスを連れてきたわよっ! ほらっ!」

 

「チッ、本当に強引な女だ……」

 

 

 ディミトリの前まで腕を引き、フェリクスの背中を押して前に立たせる。

 フェリクスはディミトリの前に立つと問いかける。

 

 

「……おい猪、お前に聞かねばならないことがある。血と殺戮を好む、獣の顔。能天気で善良な、人の顔。……結局、本当のお前の顔はどちらなんだ?」

 

「……どちらも俺の本性だ、フェリクス」

 

「貴様の、その獣の本性はダスカーの反乱で生まれたものだな……?」

 

「……ああ」

 

 

 フェリクスとディミトリは会話を続けて、イングリットとドゥドゥーも固唾を飲んで見守っている。

 

 

「あの時、貴様が何を思い、考えたのかはわからん……お前の父や兄上の死にお前も思うところはあったのだろう……ただ、あの反乱鎮圧の時の様に獣性を曝け出すのはもう止めろ」

 

「フェリクス……それがお前の本音か?」

 

「ああ、いずれ王位に就く人間が本能のままに殺戮を繰り返すのなら……いずれ大事なものを失うことになるぞ……」

 

「……ふっ。なぁ、フェリクスお前は年々兄に似てくるな、本当に。口が悪くて、それでも本当は誰より……」

 

「どういう意味だっ!」

 

「いや、何でもない。とにかく礼を言うよ」

 

「チッ、言いたかったのは、それだけだ」

 

 

 フェリクスが伝えたかったことを言い終えて、ディミトリも受け入れたようだ……これで一応和解できたのかしら? 

 イングリットが目を擦りながら、鼻を啜っている。

 

 

「どうしたの、イングリット?」

 

「……グスッ……まるでグレンがそこに……いえ、殿下とフェリクスが仲直りできたようで、良かったです」

 

「お前にも礼を言いたい。ルーナありがとう……」

 

 

 イングリットとディミトリから礼を言われ、ドゥドゥーもしきりに頷いている。

 

 

「べ、別にアンタたちのためにやったわけじゃないんだから! ……ただ、あたしが気に食わなかっただけよ!」

 

「フン、素直じゃない女だな」

 

 

 フェリクス! アンタに言われたくないわよっ! 

 

 

 

 □□□

 

 

 

 僕は“蒼穹のラズワルド”、この士官学校で女の子を笑顔にするために日夜奮闘している、選ばれし希望の戦士さ。

 ……最近、オーディンが金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)に居ないからやってみたけど、やっぱり恥ずかしいね、コレ。

 

 午前中はヒルダとお茶をして楽しめたし(いろいろと仕事を頼まれもしたけど)、午後も女の子とお茶でも楽しむかな……

 そう考えて、辺りを散策していると騎士の間でシルヴァンを見つけた。

 シルヴァンは何をするわけでもなく上の空で立っている、珍しいな。

 

 

「シルヴァン、ぼーっと突っ立って何してるの?」

 

「……ああ? ラズワルドか……」

 

「暇なら、また二人でナンパでも行く?」

 

「悪いな……今はそんな気分じゃないんだ」

 

 

 シルヴァンがナンパの誘いを断るとは珍しいな、何かあったんだろうか……

 

 

金鹿の学級(お前らのとこ)の今節の課題って覚えてるよな」

 

「ああ、ナントカって賊が、ナントカっていう英雄の遺産を盗み出して暴れてるから、討伐してくれってナントカって貴族からの依頼でしょ?」

 

「お前……名前を一つも覚えて無いのかよ……?」

 

 

 まあ、特に興味は無いからね……これから殺しに行く人間をあまり深くは知りたくはない。

 オーディンなら英雄の遺産の名前を覚えて、その形状や武器の威力なんかを調べてくるのだろうけど……今回の戦いでは先生の天帝の剣を主力に戦うことが決まっているし、僕たちはそのカバーを上手くやれば良い。

 

 

「その賊が、かわいい女の子の賊っていうのなら、こっそり助けてみるのもありかもしれないけど」

 

「お前は本当にブレないな……女、女って……」

 

「シルヴァンだってそうでしょ」

 

「……まあな。お前らの課題の依頼主、ゴーティエ家ってのは俺の実家……で、賊の頭目のマイクランってのは俺の兄貴なんだ」

 

 

 えっ!? そうなんだ。

 たしかに依頼主はゴーティエ家、賊の頭目はマイクランと言っていたような気がするけど、まさかシルヴァンと深く関わりのある人物だったなんて……

 

 

「えっ……じゃあ、助けなくていいの?」

 

「助ける……? いや、その発想はなかったな……あんなやつをな……常々とんだ屑野郎と思ってたんだが、英雄の遺産まで盗み出しちまうとはなあ」

 

「でも、君のお兄さんなんだろ?」

 

「奴は、もうゴーティエの人間じゃない。性質(たち)の悪い賊の頭目……クソ野郎だ、助ける必要なんてないさ」

 

 

 シルヴァンは苦虫を噛み潰すような表情で吐き捨てた。

 実の兄マイクランに対して、持っている感情は良い感情ではないようだ。

 

 

「じゃあシルヴァン……僕たちが君の兄を討つことに思うことは無いんだね」

 

「思うことね……関係の無いお前らに頼むのは心苦しいんだが……俺にはそうする他ないぜ……」

 

「なんだ、答えを言ってるじゃないか……心苦しいのなら、君も来たらいい……自分でけじめをつけたいんでしょ?」

 

「俺のエゴでお前らの課題に参加させてもらう訳にはいかないだろ……」

 

「先生なら、きっと許可をくれるさ……一緒に行こう」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 先生に相談をすると二つ返事で許可がもらえた。

 級長のディミトリにも話を通すらしいので、三人で会うことにした。

 

 ディミトリは訓練所でフェリクス、イングリット、ドゥドゥーそしてルーナと訓練を行っていた。

 

 

「あれっ? 珍しい組み合わせだね」

 

「3対2の訓練……? 面白いことをやってるね」

 

 

 先生が言うように、ディミトリ、ドゥドゥー、イングリットとフェリクス、ルーナで戦っていて、ディミトリの護衛をイングリット、ドゥドゥーで行い、ルーナたちは刺客役をやっている様子だ。

 ルーナが近頃フェリクスとよく訓練をしているのは知っていたが、二人の連携も中々見事なものだ。

 逆にディミトリ側は、イングリットとドゥドゥーが上手く息を合わせられないようで、ディミトリも戦いにくそうにしている。

 

 息を合わせてほぼ同時に踏み込んだルーナとフェリクスがディミトリに攻撃し、勝負がついたようだ。

 

 

「殿下がフェリクスと……本当に、珍しいことやってますね……」

 

「シルヴァン、休日に訓練所に来るとは珍しいな……」

 

「……その顔ぶれ、またナンパでもしてて先生に捕まったんでしょ」

 

 

 シルヴァンが声をかけ、ディミトリとイングリットが答える。

 シルヴァンとディミトリ、イングリット、フェリクスは幼馴染みだったはずだ。

 ディミトリの従者のドゥドゥーとルーナを加えて、訓練をしているのは特におかしなことでも無かったか……

 

 

「いいえ、殿下……ちょっと真面目な話です。今節の課題、金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)の賊討伐に参加することにしました。その報告を」

 

「シルヴァン……マイクランの件か……」

 

「ええ。駄目な兄貴の尻を拭ってやるのは、弟の仕事ですから」

 

「……だが、それはできない」

 

 

 えっ!? まさかディミトリに断られるの? 

 

 予想していなかったことにシルヴァンも驚いている。

 ディミトリはこう続けた。

 

 

「お前たちの課題、俺も参加させてもらう……それなら許可しよう」

 

「ええ? でも青獅子の学級(ルーヴェンクラッセ)の課題も同じ日にあったでしょ、大丈夫なんですか?」

 

 

 ディミトリが参加すると言いだしたことにシルヴァンが驚いている。

 他の連中はルーナ以外驚いていない様子なので、予想できてたのかな。

 

 

「俺たちの課題は日程を早めてもよかったもののはずだ。ハンネマン先生に相談して一週間早めてもらう」

 

「水くさいじゃないの、シルヴァン……貴方が悩んでいるのは知っていたわ。幼馴染みじゃない、私たちにも手伝わせてよ」

 

「……フン……先生、ルーナ、ラズワルド、お前たちと肩を並べて戦えるのは面白そうだ。俺も参加させてもらうぞ」

 

「……殿下が行くのなら、俺も行く」

 

金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)青獅子の学級(ルーヴェンクラッセ)で共同戦線ってこと? 面白そうじゃないの!」

 

 

 みんなも参加する気の満々だね。

 肩を震わせているシルヴァンの背中をポンと叩く。

 

 

「良い仲間たちだね……」

 

「……ああ、俺にはもったいないくらいのな……」

 

 

 シルヴァンの呟きは小さくて、僕にしか聞こえていないようだった。

 

 

 

 

 




黒風の塔は金鹿に青獅子有志を加えたものになります

フェリクスの変化は「猪!血と殺戮を好む獣!本性を曝け出せ!」から「猪!人の心を保て!本性を押さえ込め!」に口撃内容が変わるだけです…
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