ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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第22話『仮面の騎士』

(翠雨の節 二十一日)

 

 俺は“漆黒のオーディン”、闇に身を委ね、闇の囁きを感じとる、選ばれし闇の呪術士だ。

 

 

「はぁぁぁぁ! 必殺! アウェイキング・ホーリーーー!!」

 

「必殺っ! アウェイキング・ヴァンダーーー!!」

 

「……ふっ、無様な姿ですわね」

 

「だがこれは自業自得……お前は自らが放った悪辣な邪気に食されたのだ」

 

「さあ、肥大化した野望を悔やみつつ、永遠の眠りにつくとよろしいですわ……」

 

「これにて“漆黒のオーディン”と」

 

「“純白のフレン”……遥かなる勇戦の……終幕! ですわ」

 

 

 ──……決まったっ! 

 夜明け前の朝、訓練所で俺とフレンはいつも通り訓練を行っていた。

 二人で考えた決め台詞、特に「遥かなる勇戦の終幕!」の部分は秀逸すぎる。

 

 

「貴方たち……何をやっているの?」

 

「むっ、貴様は……エーデルガルト!」

 

「あら、エーデルガルトさん、ごきげんよう」

 

 

 フレンと二人で必殺技と決め台詞を合わせながら訓練しているとエーデルガルトがやってきた。

 

 

「フッ……予行練習をしていたのだ。俺たちがこの世を牛耳る悪の親玉を追い詰めて、最後に親玉が放った闇の力を利用して逆転勝利する場面のな」

 

「わたくしは闇の力を浄化して光の力に変えることができる設定ですわ」

 

「そ、そう……そんな場面が実際に起こり得ることってあるのかしら」

 

 

 闇の力を利用して勝つ、ってところがカッコいいのに、フレンは頑なに光の力に浄化する設定にしたがっていたので、そうすることにしたのだ。

 

 

「エーデルガルトも一緒に決め台詞を考えようぜ!」

 

「ま! 素敵ですわ、三人で決め台詞を言えばもっとカッコいいものになりそうですわね!」

 

「私は遠慮するわ……なんとなく来ただけだし」

 

 

 エーデルガルトはそんなことを言っているが、こういうことが好きなのはわかっているんだぞ。

 俺たちが新しい台詞について話していると、意見を出してくる。

 

 

「……エーデルガルトさん、それはちょっと悪役っぽくなりすぎですわ」

 

「いや『その血がすべて流れるまで斬り刻む』ってカッコいいだろ、意思と覚悟の強さを感じる台詞だ」

 

「フレンは剣を使わないから、少しひねったほうがよさそうね。『この闇の力でその身に流れる、血の全てを止めてあげる』なんてどう?」

 

「だから、わたくしは光の戦士ですわよ! わかってて言ってますわね! エーデルガルトさん!」

 

 

 エーデルガルトがからかっていると感じたフレンがプリプリと怒りだす。

 やっぱりコイツら良い友達になれそうだ。

 

 

「……やっぱり、こうやってお友達とお話するのは楽しいですわね」

 

「……そういえば、昼はあまり人と関わってはいないようだけど、なんでなんだ?」

 

 

 フレンは昼も修道院をウロウロしていることは多いけど、特定の人物と長話をしている印象はない。

 先生には結構話かけているのを見たことがあるが……

 

 

「わたくし、お兄様から人との関わりあいを避けるように言われてますの……本当はこうやって密かに会うこともよろしくないかもしれませんわ……」

 

「セテスさん過保護だってよく聞くしな~」

 

「……フレン……籠の中の鳥をやめたいのなら力をつけるしかないわ、そうすれば貴女のことも認めてくれるわ」

 

 

 先日、俺も似たようなことを言われたな。

 エーデルガルトは、そういう自分が努力して力をつけて道を切り開いて行くような人物を目指しているようだ。

 すでに次期皇帝としての立場があるのに意識が高い……いや、だから意識が高いというべきか。

 

「エーデルガルトの言う通りだ……ここで必殺技の訓練をしてもっと強くなる必要があるな」

 

「わかりましたわ……わたくし、もっと頑張ってお兄様に認めてもらって、皆様に関われるようにしますわ」

 

「そうね、その意気よ……フレン」

 

「……魂が躍動しますわっ!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「オーディン、次は俺の剣の相手をしてくれよ」

 

「フッ、カスパル……お前も我が剣の餌食になりたいか」

 

 

 今日の黒鷲の学級(アドラークラッセ)の授業は訓練所での実戦形式の武術だ。

 この学級で特に武術に秀でている生徒はエーデルガルト、フェルディナント、カスパル、ペトラあたりだ。

 黒鷲の学級(アドラークラッセ)金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)青獅子の学級(ルーヴェンクラッセ)の生徒に比べて、魔法が得意な生徒が多い。

 まあ、その割には白魔法が苦手な生徒が多くてマヌエラ先生が嘆いていたけど。

 

 

「よっしゃああああ! くらいやがれ!」

 

 

 カスパルの剣を軽く捌く、性格通り太刀筋が単純で大雑把だ。

 力も技も速さもそこそこ、だが俺の敵ではない! 

 

 剣を絡めとるように巻き上げるとカスパルの手から剣がすっぽ抜ける。

 

 

「なにぃ!?」

 

 

 カスパルは、驚いて飛んでいった訓練剣を見ている。

 実戦では、なかなかできない技なのだが、決まると気持ち良いな。

 

 

「やっぱ(つえ)えな、お前! 魔法職なのに剣もこんなに使えるとか」

 

「そりゃあ、元々剣のほうが得意だったからな」

 

「でも、お前の剣って独特だよな。手を顔の前にやったり、体を傾けてポーズしたり……なんか意味あるのか?」

 

「当然だ……それは、カッコいいからだ!」

 

「ただカッコつけるためにやってるのかよ!?」

 

 

 もちろんそれだけではない。

 体に一見無駄な動きを加えることで、敵がどの瞬間に動くかを見極めたり、動き自体がフェイントになったりするのだ。

 それを説明するとペトラやフェルディナントは感心したように頷いていたが、カスパルはよくわかっていなかった。

 まあ、カスパルみたいなのには、こういう細かいフェイントは効果がないからな。

 

 

「オーディンくんのそれって本当、無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きよね」

 

 

 無駄無駄言うなっドロテア! 今、意味があるって説明したじゃねえか! 

 

 

「しかし、やってみる価値はあるかもしれない……私も貴族らしく優雅かつ勇ましい動きを取り入れて……」

 

「私も、参考する、してみます」

 

 

 フェルディナントとペトラは俺の動きを参考にしてみるらしい。

 こういうのはオリジナリティが重要だからな……如何に自分らしさを出せるかだ。

 

 

 

 その後、授業を続けていると、訓練所の入り口がざわめきはじめる。

 入ってきた人物に生徒たちが驚いていた。

 

 

「イエリッツァ先生……復帰したのか」

 

 

 “仮面の騎士”イエリッツァ先生である。

 前節の月末に負った傷が重症だったらしく、今日久しぶりに顔を見せたみたいだ。

 黒鷲の学級(アドラークラッセ)の生徒たちは、武術や戦闘指揮はイエリッツァ先生に習っているので、みんな復帰を喜んでいる。

 

 生徒たちから声をかけられつつ、真っ直ぐこっちに向かってきた。

 

 

「オーディン……黒鷲の学級(アドラークラッセ)になったそうだな……剣を見てやる、()合え」

 

 

 そう言って鉄の剣を渡される。

 

 

「……あの、これ刃引きされてないやつなんですけど」

 

 

 何も言わずにイエリッツァ先生は剣を抜く……先生の剣も実戦で使うような剣だ。

 

 

「えっと……」

 

「早く構えろ……死ぬぞ……」

 

 

 そう言って、イエリッツァ先生は斬りかかってきた。

 この人っ! 正気かっ!? 

 

 初撃をなんとか防いで、そのまま打ち合う。

 慣れた相手ならともかく、はじめて訓練する相手と実剣でやり合うなんて怖すぎる! 

 それに……この人の殺気……尋常じゃない! 

 

 ……くっ! 

 

 受け損ねて左手を剣が掠めて、血が滲みはじめた。

 イエリッツァ先生はそれでも訓練を止める様子はない。

 

 躊躇してたら、本当に殺される……! 

 

 踏み込みを深くし、斬りつける。

 イエリッツァ先生もこちらが本気になったのを感づいたのか、さらに攻撃の勢いが増した。

 

 イエリッツァ先生は帝国出身者がよく使う剣術を基本としているようだ。

 よく似た剣術を使うのは、エーデルガルトやフェルディナント、黒鷲の学級(アドラークラッセ)の生徒にも多いが、熟練度が段違いだ。

 

 斬り払いを受け流し、斬り上げる。

 大きくバックステップで回避されたと思ったら、また懐に飛び込むように突きがくる。

 

 この人……本当、速いな……! 

 

 明らかに速さで負けてるし、腕力も相当ある。

 先生は俺の剣術を武闘大会で審判としてよく見ていたので、カッコいい動きやフェイントに釣られて動くようなこともない。

 ただ、復帰したばかりのせいか、前の剣術武闘大会で先生と戦ったときより、動きにキレがない気がする。

 

 ──これならっ……! 

 

 

「イエリッツァ先生っ! オーディン! そこまでよ、やめなさいっ!!」

 

 

 マヌエラ先生が大声で制止した。

 俺もイエリッツァ先生も動きを止める。

 マヌエラ先生がさりげなく俺たちの間に割って入る。

 

 

「まったく……イエリッツァ先生、復帰できたからって、いきなり本気で戦いすぎよ。生徒に大怪我させたらどうするのよ……」

 

「……余計な真似を」

 

「ほらオーディン、腕を見せてちょうだい」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

 

 マヌエラ先生が、怪我をした左手に〈ライブ〉をかけてくれる。

 

 ふぅー、助かったー。

 

 息は上がってるし、背中は冷や汗で湿っているのがわかる。

 このまま続けていたら、どちらかが大怪我をしていたかもしれない。

 

 

「フッ……仮面の騎士よ……見事な腕だった、この決着はいずれ着けよう」

 

「…………」

 

 

 ……いや、何か言ってくださいよ~! 

 今日みたいなのは嫌だけど、これからイエリッツァ先生に剣を習う機会が増えるのは楽しみだ。

 

 ──……血が騒ぐぜっ! 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 午後の授業が終わって教室を出ると、とある女子生徒が俺を待っていた。

 他の生徒よりは幾らか年上で、女性らしさ溢れる体型と穏やかでのんびりした印象の女子生徒は男子から密かに人気があるらしい。

 教室を出る生徒や外の生徒から視線を感じる。

 

 

「……オーディン、少し良いかしら? 話したいことがあるのよ」

 

「メルセデスか……この“漆黒のオーディン”に何用か?」

 

 

 女子生徒……メルセデスは俺に用があるらしい。

 メルセデスは他の学級の生徒の中では、よく話す方だ。

 前節の先生とのお茶会でお菓子のお礼を言ったら、作ったお菓子をわけてくれたり、アネットを交えたお茶会に呼んでくれるようになった。

 

 

「う~ん、ここではちょっと言えないわ~私の部屋まできてくれる?」

 

 

 部屋まで? 

 野次馬たちからどよめきの声が上がる。

「マジかよ……」「オーディンのくせに」みたいに言っているが、俺のくせにとはどういう意味だよ! 

 

 メルセデスに連れられて部屋に行く。

 中に入ると綺麗に片付いており、なんだか良い匂いがする。

 そういえば、女子の部屋になんて入るのは初めてだな……なんだか緊張してきたぞ……

 

 

「それで、話とはなんだ? この“漆黒のオーディン”の秘密を知りたいと言うのなら、それはできない相談だぞ……この俺の秘密は闇のヴェールに包まれているからな」

 

「う~ん、違うわ。オーディン、前にアンに呪術でお父さんを探してあげたわよね……私も探してほしい人がいるのよ……」

 

 

 アネットに呪術を使ってギルベルトさんを探し当てたときは、メルセデスもいたしな。

 アネットも最近は、ギルベルトさんと話すことが増えて、少しずつ親子としての時間を取り戻せているらしい。

 

 

「俺の呪具では、親兄弟がどのくらいの距離の方向にいるかがわかるくらいだぞ……それでも良いか?」

 

 

 俺に呪術を教えてくれた人なら、情報だけで他人でもどこにいるか詳細な場所を知ることができるのだけど……水晶とか星の位置とかを使う複雑で難しい呪術なので、まだそこまで教えてもらえていなかったのだ。

 

 

「それで良いわ、ただ調べたいだけだから……」

 

「わかった。それで、探したい人というのは?」

 

 

 メルセデスの探している人物というのは、一歳年下の弟のことらしい。

 十数年前、9歳のときにメルセデスは母親と共にバルテルス家を出た。

 その時に連れていけなかった弟が、4年前にバルテルス家の当主と一族が不審死したときに行方不明になったらしい。

 

 

「その消息不明になった弟の居場所が知りたいと……」

 

「会いにはいけないかもしれないけど、生きているのか、どこにいるのかが知りたいの」

 

「そういうことなら、この俺に任せておけ! 俺にも妹がいるし、他人事とは思えないからな」

 

「あら? オーディン、妹がいたの?」

 

 

 まあ、俺の妹は行方不明でもなんでもないけどな! 

 あっ、なんでもないことはなかった……あいつは記憶喪失だったか。

 ……今は、俺の方が行方不明ということになるのか、心配していないと良いが……

 

 

「すぐに呪術道具を作ってこよう! この“漆黒のオーディン”にかかれば朝飯前だ!」

 

「ふふっ、この時間だと夕食前になっちゃうけどね~待ってるわね」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 メルセデスの部屋を出てすぐに呪術道具の製作に取りかかり、なんとか夕食時間くらいに作り終えることができた。

 以前、アネットの呪術道具を作ったときに要領を掴んだから、短時間で作れるようになったな。

 そういえば、まだこの道具の名前を決めていなかったな……後で考えておこう。

 

 メルセデスの部屋に持って行って早速使ってみることにした。

 

 

「一つ注意してほしいことがある……」

 

「注意? なにかしら~」

 

「言いにくいことなんだが……もしも、弟さんが生きていないときは、その呪術道具は反応しない……まあ、俺の呪術が失敗している可能性もあるが……だから、その……」

 

「わかったわ、大丈夫……ありがとう」

 

 

 メルセデスにそう伝えると、小さく微笑んで頷いた。

 頼むぞ……生きていてくれよ……! 

 

 意を決してメルセデスが魔力を込め始めた。

 

 呪術道具は浮かびはじめ、北方向を示しはじめた。

 

 

「おお、動いたぞっ! っていうか近いっ!」

 

 

 この浮かび方は間違いなく大修道院の中にいる! 

 こんなにすぐ近くにいたのか……

 

 

「……やっぱり、そうだったのね」

 

 

 メルセデスは驚いた様子もなく、小さく何か言っている。

 会いにいかないのか? 

 

 

「……メルセデス。近くにいるんだぞ、会いにいかないのか?」

 

「うんうん……今日はいいわ。誰かはわかっているから……」

 

 

 そ、そうなのか……もしかして、大修道院の中で似た人を見つけて、その確認のために行ったのかもしれない。

 最後に会ったのは9歳のときだったらしいし人違いの可能性もあったからな。

 

 ……しかし、凄く気になるぞ……! 

 

 

「オーディン、今日はありがとう……このお礼はきっとさせてもらうわね」

 

「あ、ああ。礼には及ばない、この“狂気の天才”……フォドラ最高の呪術士オーディンの呪術が入り用の時は、また頼むといい」

 

 

 そう言って、メルセデスの部屋をあとにする。

 

 …………。

 たしか、方向は北を指していたはずだ……ここから北方向には訓練所と大聖堂があるが、さっきの角度的には訓練所かな……

 今行くと、まだそのメルセデスの弟はそこにいるかもしれない。

 あまり詮索すべきことではないが……くっ、駄目だっ! 腕が勝手に……引き寄せられるっ! 

 

 訓練所の中に入り様子を伺うと、中には生徒が数人とイエリッツァ先生の姿があった。

 今日は訓練であんなことがあったので、イエリッツァ先生には話かけづらいな……

 

 たしか、メルセデスの年は22歳だったので、弟の年は21歳くらいのはずだ。

 それらしき生徒や騎士の人もいないが……イエリッツァ先生は仮面で顔を隠しているので年齢はわかりづらい……髪の色もメルセデスに似ているし、もしかしたら……

 

 ──! 

 入り口から覗き込んでるとイエリッツァ先生と目があってしまい、慌てて訓練所を出ていった。

 

 また実剣で斬り合うのは嫌だからな。

 

 しかし、メルセデスとイエリッツァ先生が姉弟の可能性があるのか……こんな血の定めを目にすることになるとは……

 

 

 

 

 




「エミール、やっぱり貴方だったのね…」
「………」


オーディンがカスパル相手に使った技は剣道の巻き上げという技です
『剣道 巻き上げ』で検索すると出てきます
気になった方は参考程度に



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