ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
(翠雨の節 二十四日)
俺は“漆黒のオーディン”、“狂気の天才”と吟われた、フォドラ最高の闇の呪術士だ。
「やあ、来たかオーディン。先生に君の好きな種類の茶葉を聞いていてな、丁度良質な茶葉が手に入ったからお茶に誘ったのだよ」
「……フッ、呼んでもらえて嬉しいぞ。フェルディナント=フォン=エーギル」
休みの日の朝、訓練所で訓練を終えたあとにフェルディナントからお茶でもしないかと声をかけられたのだ。
暇だったから、承諾したけど男女や身分、出身国の違いも気にせず、誰にでも分け隔てなく接するコイツは、俺の中でもフォドラ良い奴ランキングトップクラスに入ると思う。
「この茶葉はエーデルガルトも好みだと聞くが、私の手に入れた茶葉のほうが断然美味しい。そうは思わないか?」
「いや、エーデルガルトとお茶をしたことはないから、わからないんだが……」
「そうなのか、仲が良さそうに見えたが……」
エーデルガルトに対して、対抗心を剥き出しにしすぎるところが玉に瑕だけどな。
そのままの流れで好きな茶葉の話になった。
といっても茶葉の種類の話なんて詳しくないから、フェルディナントの話を聞いているだけだが。
「……あとは、最近はテフにはまっていてね。焙煎した翌日だとコクが増してだな……」
「テフって珈琲のことか? なんか意外だな……フェルディナントが紅茶以外も飲むなんて」
「最初は私も苦手だったさ、黒いし、苦いし、泥のように感じるし、飲むと目が冴える気がする。しかし、そこで私は気づいたのだ……朝に飲むようにすれば、目が覚めるようになり、一日が活気のあるものになるのではないかと!」
珈琲は苦いし、あまり好きではないな。
ただコーヒー豆があるのならどこかにカカオ豆もあるかもしれないな、交易路の安全が確保されて、遠くから商人が来るようになったし、今度また探してみようかな。
「やあ、フェルディナント君、オーディン君、遅れてすまないね。ご招待を受けて参上したよ」
「ああ、ローレンツ。先にはじめさせてもらっているよ」
「よう、ローレンツ。なんか、顔を合わせるのは久しぶりだな!」
フェルディナントと話をしていると、ローレンツがやってきた。
もともとはこの二人でお茶をする予定だったが、俺のことが共通の話題に上ることもあるみたいで、今回は呼ばれたらしい。
ローレンツはフェルディナントが淹れてくれたお茶に口をつける。
「果実を思わせる瑞々しい香り……この色、この後味、まさに至高の紅茶と呼ばざるを得まい。最近は良く出来た紛い物も多いが、これは最高の品質……よく入手できたな」
「ほう、よくわかっているな……私はこの茶葉はルサルカ産と決めているからな。あそこのものなら間違いない」
「へえー……このお茶ってそんなに良いものなのか、知らなかったぜ」
そういえば、母さんの親友の人も貴族だったし、先生が前に淹れてくれたお茶も高いものだったのだろうか?
「オーディン君、君はこのお茶の価値が判らずに飲んでいたのかい?」
「ああ、子どものときによく飲んでたから、高いとは知らなかったな」
「ほう、子どもの頃に……オーディン、君はもしかして貴族だったのかい?」
「いや、違うぞ……貴族の知り合いがいただけだ!」
「隠さなくてもいい……このような高級茶葉を子どもの頃から飲める身分、つまり貴族だったわけだろう」
フェルディナントがやけに嬉しそうに絡んでくる。
コイツ、なんで俺が貴族であることに固執しているんだろう? たしかに、俺は貴族といえば貴族なんだろうけど、このフォドラでは意味がないはずだ。
「君が本当に貴族というのなら、もっと立ち振舞いに気を使うべきと思うがね……正直言って、君の気品の無さはクロード以下だ」
「今は違うんだから、別にいいだろう……」
「『今は』というとこは、以前は貴族だったわけか!」
ローレンツからはなぜか苦言を言われてしまった。
フェルディナントはなぜか嬉しそうに、詳しく聞いてくる。
なんとか、話題を反らさねば……!
「そ、そんなことより、暗き深淵なる部屋に身を潜めし者……ベルナデッタの
「むっ? それは私も気になるな……彼女は元気にしているか? ローレンツ」
話題反らしに使ったが、実はこれが本題でもある。
ベルナデッタから「
今節の課題は、ゴーティエ辺境伯家から盗みだされた英雄の遺産“破裂の槍”を取り戻すという、面白そ……重大な課題なんだ……なんとか課題に参加したいところだ。
そういえば、この課題は
「ああ、彼女か。先生やヒルダさんを中心に面倒をみているようだが、上手くやれているのでは」
「私たち
ベルナデッタは先生によく懐いているそうだ。
女子ではヒルダが気を回したり、レオニーやルーナが世話を焼こうとしたり、男子ではイグナーツが絵を描く趣味(知らなかったけど)同士で一緒に絵を描いたり、ローレンツやラズワルドにお茶に誘われたりなどしているらしい。
まあ、ルーナとラズワルドは俺の仲間扱いされて、ベルナデッタから怖がられているそうだ……先生は良いのに? 基準がわからないやつだな。
「なんにせよ、君が怖がられていることはたしかだよ……彼女は君のことが話題に出るたびに、叫びだして怯えているからね」
……本当に戻れるの? これ……
◆◆◆
(翠雨の節 二十七日)
懸念していた、
今日からゴーティエ領に向け出発することになっている。
「今日もエーデルガルトさんは来てくださらないのかしら?」
「最近そればっかりだな、フレン」
フレンは、この前エーデルガルトに会った朝以来一週間、毎朝この訓練所に来るようになっていた。
あのとき話したことで、よほどエーデルガルトのことを気にいったらしい。
「エーデルガルトは寝覚めが悪いときがあったら来るみたいだから、そんなに頻繁には来ないと思うぜ」
「でも、オーディンさんも今日から課題でいなくなってしまわれるので、寂しいですわ……わたくしも皆さんと同じように生徒として学べればいいのですのに……」
「セテスさんに頼んでみたらどうだ?」
「お兄様は何度頼んでも許してくださらないですわ。過保護で、頑固で、わからず屋ですから!」
セテスさんは、もう少しフレンが成長してから学校に入れるつもりなのかな?
リシテアくらいの年で学んでいる生徒もいるし、フレンも問題無いような気がするが……
「じゃあ今日も必殺技の特訓をするとしようか……」
「今日は必殺技はいいですのよ……それより、またお話をしてくださいませんか? オーディンさんのお仲間の実際あった恋物語……わたくしの乙女心を躍動させるお話をっ!」
う~ん、その話か……いい加減ネタも尽きてきたんだよな。
前の世界にいたときに、選ばれし戦士たちでおこなった『親の馴れ初め暴露しよう』で話されたことを、ちょっと脚色しながらフレンに話したら凄く称賛され、続きや新作を要求されるようになったのだ。
フレン曰く「実話なのに、登場人物や出来事が物語の様で素晴らしいですわ」ということらしい。
「……二人とも……今日も早いわね」
どの話をするか考えていると、エーデルガルトが訓練所にやってきた。
フレンは嬉しそうに声をかける。
「まあ! エーデルガルトさん、お待ちしておりましたのよ」
「よく来たな……我が“闇の同胞”よ……」
「おはよう、オーディン、フレン。貴方たちは朝から元気ね……」
エーデルガルトは寝不足なのか少し元気がない。
学業以外にもやることが沢山有って大変だ、と言っていたこともあるし、疲れが溜まっているのかもしれない。
「……オーディン、今日は
「フッ……やはり、俺の居場所は先生のもとの
「……ええ、そうね」
エーデルガルトが俺に
先生や俺たち三人組のいる
エーデルガルトは本当に負けず嫌いだな!
「エーデルガルトさん、今日はオーディンさんのお話を聞きませんか。オーディンさんのお仲間の恋のお話なんですけど、まるで恋物語みたいで素晴らしいですのよ!」
「え~エーデルガルトが恋物語なんかに興味あるのか?」
「失礼ね……少しくらいはあるわ」
「ま! 女性に対してそれは失礼ではごさいませんこと。わたくしは『千年生きた竜の少女と強面の傭兵のおじさん』のお話が一番好きなのですわ! あれを聞かせてくれませんか」
あの話か……フレンは妙に「千年生きた竜の少女」について知りたがっていたし、マムクート自体この世界にはいないのだろうな。
前にハンネマン先生と話した、湖の神獣聖インデッハ説のように、隠れて住んでいるだけで実際はいるのかもしれないけど。
「竜の少女? オーディン、貴方の仲間にそんな人がいるの?」
「ああ、フォドラに来る前の仲間だよ。その人とその娘、それにもう一人、竜に変身できる人が三人いた。マムクートっていう種族で、凄い長生きの人たちなんだ」
そのまま『千年生きた竜の少女と強面の傭兵のおじさん』の話をする。
あの人たちは、自警団に合流する前から知り合っていて、その出会いも面白くて、仲良くなる過程も微笑ましい。
フレンは楽しそうに、エーデルガルトは興味深そうに聞いていた。
「わたくしは、その少女が自分の鱗で腹巻きを作ってあげるところが好きなのですわ。お礼とその身を案じることを兼ねて、自分しかできない方法で愛する人に贈る物……なんて乙女心を躍動させる話なんでしょう……」
「竜に変身することができて、千年以上もの寿命を持つ種族……興味深い話ね」
話を終えるとフレンはうっとりした表情で感想を述べた。
エーデルガルトは話よりも、マムクートという種族に興味を持った様子だ。
「ねえ、オーディン、フレン……もし仮に、人の姿をした人ではない者が、千年もの間、人を支配し続けていたなら貴方たちはどう思う?」
「……えっ?」
「う~ん? マムクートみたいな人たちが、ってことか?」
「そうね」
急に話題の方向性が変わって、考え込んでしまう。
そういえば、大司教レア様を以前みたとき神竜の巫女様を思い出したのだが……まさかなぁ……
「……か、仮に、ですわよね」
「……ええ、そうよ……仮によ」
「……わ、わたくしは……わたくしには、そのような難しいお話はわかりませんわ……」
エーデルガルトの強い視線から逃げるように目を反らしフレンが答える。
フレンみたいな年の子には、まだ難しい話かもしれない……いや、俺にも結構難しい話なんだけど……
「う~ん……そういう国があったって、別に良いんじゃないか?」
「貴方は、人が人ではない者に支配されていても平気だと言うの?」
「その国に住んでいる人たちが納得してるのなら良いんじゃないか? もともと俺の国でも、神竜信仰というものがあって、マムクート族が神聖視されているところもあるんだ」
「その者たちが自分たちにとって都合の良い世界を作ろうとしていても?」
う~ん……そういう話か……仮に、とは言いつつこの話は、どこかの出来事を揶揄しているのだろう……
可能性が高いのは……セイロス教なんだろうなぁ……
「遥か昔の話なんだが……俺の住んでいた地方でも、竜族に支配されていた時代があったんだ。人間が支配を破るため竜族を倒したのだが、人間を支配していた竜族は人間の横暴さに失望して国を興したとされるんだ……結局はどちらが正しいんだかな……」
遥か昔の話だから、これが真実かどうかもわからない話なんだが、竜族には竜族側の理由があったのだろう。
……もし俺がこの時代にいたとしたら、多分人間側で戦っているんだろうけど……
「……随分、人ならざる者たちの肩を持つのね……」
「少なくとも、俺の仲間のマムクート族は信頼の置ける人たちだった。仮定話でも、身近な人間に置き換えて考えるのは仕方ないだろう?」
「……そう……そうね」
長話をしていると、すっかり空が明るくなってきた。
もう夏だから、日が上るのも早いな。
「……話込んでしまって、すっかり夜が明けてしまっているわね。私はやることがあるからもう行くわ」
「おう、またな。エーデルガルト」
「……ごきげんよう、エーデルガルトさん」
「ええ、オーディン、フレン、
補足
ベルガモットティー
オーディンの好物の茶葉
柑橘類の製油で香りづけされていて、格式が高く、多くの貴族が好む(グレード★4、300G)
『千年生きた竜の少女と強面の傭兵のおじさん』
FE覚醒の親世代グレゴ・ノノ支援
遥か昔の話~
ファイアーエムブレム暗黒竜と光の剣