ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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第28話『地の底』

(角弓の節 十五日)

 

 俺は“漆黒のオーディン”、知識の探究者であり叡知の賢者……選ばれし闇の呪術士だ。

 

 

 今節の課題はガルグ=マク内の警備強化だ。

 青海の節には聖廰の襲撃事件、今節のはじめにはフレンの誘拐事件があったので、今節は先生や生徒たちが警備の穴や怪しい者の出入りなどを注意深く確認することとなったのだ。

 

 

「……オーディン、地下への新しい入り口を見つけたぞ。そこに出入りする怪しい人影もな……」

 

 

 俺の天幕を訪れたクロードが開口一番そう言った。

 

 

「ほう、ついに見つけたか……ラズワルドとルーナを連れてくる。先生にも報告したほうがいいかな?」

 

「先生も連れて行こうぜ。今節の課題はガルグ=マクの警備……不審人物を追いかけるのは何も悪いことじゃない」

 

 

 とりあえずその俺たち五人で行けばなんとかなるかな……時間としては寝出す生徒もいるくらいの夜だし、実際俺も寝ようと思っていたところにクロードが訪ねてきたのだった。

 ラズワルドはこの時間は訓練所にいるだろうし、ルーナは部屋にいると思うから、さっさと連れて来るか……

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ルーナとラズワルドを連れて来る際に訓練所から武器を持てるだけ持ってくることにした。

 ユーリスのやつにバレている場合は手荒な歓迎が待っているだろうからな……

 

 二人を連れてクロードに指示された場所に向かうと、クロードと先生の他にエーデルガルトとディミトリが待っていた。

 

 

「おっ、級長連中にも声を掛けたのか……なかなか根回しが早いな!」

 

「いや、コイツらは俺と先生が話してるのを聞いて着いてきただけさ」

 

「貴方たち、武器をそんなに持ってきて……物々しいわね」

 

 

 エーデルガルトが俺たちの持ってきた武器を見て驚いている。

 

 

「俺とクロードが前に地下へ行こうとしたときに、そこで遭ったユーリスって奴に言われたからな『来たら手荒に歓迎してやる』ってな」

 

「お前たちは、また勝手にそんなことを……」

 

 

 ディミトリが呆れている。

 い、一応、今回は先生に報告してるしセーフだろ……! 

 

 

「なら、王子様と皇女様はここで待っていてもらえるか。俺たちで賊らしき男を追いかけるとするよ。戻ってこなかったら騎士団を呼んでくれよ」

 

「待ちなさい。そんな勝手が許されるはずもないでしょう? 私たちも行くわ。ディミトリも、それで構わないかしら?」

 

「ああ、もちろんだ。賊かもしれない相手を、黙って見過ごすわけにはいくまい。今節もあんな事件があったばかりだからな」

 

「地下街に潜むならず者どもを懲らしめてやろうってのね、面白いじゃない」

 

「じゃあ、武器を配るよ。ディミトリは槍、エーデルガルトは斧でいいよね」

 

 

 エーデルガルトとディミトリも来てくれるようだ。

 兵装には着替えていないがこの7人ならなんとかなるかな……この面子は士官学校に入る前に出会った頃のことを思いだすな。

 

 

「あっれれー? 先生……と、級長さんたち勢揃い? それにルーナちゃんたちも……武器を持って何してるの?」

 

「なんだか、珍しい組み合わせですよね。こんな時間に、いったいどうしたんですか?」

 

「面倒事みたいですね。それじゃ、ボクはお休みなさい……」

 

 

 いざ、抜け穴に入ろうとしたらヒルダ、アッシュ、リンハルトに声を掛けられた。

 お前らの三人ほうが珍しい組み合わせだと思うんだけど……共通点が見当たらないんだが……桃のシャーベットが好きなこととか? いや、あれは好きな人結構いるな……俺も好きだし。

 リンハルトはさっさと帰ろうとしているし、面倒事という言葉を聞いた瞬間にヒルダも後退しはじめている。

 

 

「リンハルト、そうはいかないわ。通りがかった不運を嘆きなさい」

 

「丁度良かったなーヒルダ。斧が一個余ってたんだ。手を貸してくれ」

 

「ああ、アッシュも頼む。弓もあったよな」

 

「僕は構いませんが……時間を持て余していたところだったので」

 

「ええー!? サイアク! 声掛けるんじゃなかったぁ……」

 

「もう……ヒルダ、だからやめとこうって言ったのに」

 

 

 リンハルトは回復魔法が使えるし、アッシュは鍵開けが得意だ。

 なかなか悪くないメンバーが揃ったな。

 

 

「ではこの10人で抜け穴に入ろう。構わないな、先生」

 

「賑やかなのも悪くない、か。さーて、どうなるやら……」

 

「楽しみだね」

 

 

 ディミトリとクロードに対して先生が握り拳を作りながら答える。

 何気に先生が一番楽しそうだな

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「ここは……ただの通路ではなさそうね。人の痕跡も多いし、住居のようにも見えるわ」

 

「……フッ、この前降りた時はただの通路だったけど、今回は当たりの様だな……」

 

 

 エーデルガルトが言っているとおり、明らかに人が生活している痕跡がある。

 その割りに人影は無い様子だが……

 

 

「ガルグ=マクの地下……そういえば昔、兄さんから聞いたことがあったっけ」

 

「ん? ああ、ホルストさんも士官学校の卒業生だったか」

 

 

 ヒルダの兄ホルスト卿は同盟きっての勇将と聞いたことがある……話を聞く限り、セテスさん並に妹に対して過保護みたいだ。

 ああ、セテスさんとフレンは親子だったな……この事を知っているのは生徒では俺だけなんだろうか。

 

 ヒルダはホルスト卿が生徒だった頃にあった地下にまつわる噂について話している。

 アンナさんが言っていたとおり後ろ暗い人たちが住む地下の街がその頃にもあったらしい。

 

 

「ガルグ=マクに存在する、光を失った者たちの楽園にして常闇の牢獄……その名も“アビス”!」

 

「おいおい、牢獄とは言ってくれるじゃねえか! ここはガルグ=マクの地の底“アビス”だ!」

 

 

 俺の言葉に反応して筋骨隆々の大男と武装した連中が数名表れた。

 皆、前回遭ったユーリスと似たような制服を着ている。

 

 

「ようこそ、士官学校の生徒さんよ! 華々しい方々が、こんな場所に何の用だ?」

 

「いや、俺たちは大修道院をうろついていた怪しい人影を追ってきただけでね」

 

 

 大男の問いにクロードが答えた。

 見るからに強そうな奴だな……周りの連中も腕が立ちそうだし……武器を持っていない女二人はたぶん魔法職だろう。

 こちらも武装しているとはいえ制圧するのは、なかなかキツいか……

 

 

「貴方たちに用はないわ。そこを通してもらえないかしら」

 

「おーっほっほっほっほっほっほっ! それは無理な相談ですわよ! そこの暴れん坊は騙せても、私の目は誤魔化せませんわ……! 貴方たちの真の目的、このコンスタンツェ=フォン=ヌーヴェルが当ててあげましょう! アビス住民の排除を目論む教団の指示で、介入の口実を探しに来たのですわね!」

 

 

 エーデルガルトに対して魔法職の女……コンスタンツェが答える。

 教団はアビス住民の排除を目論んでいるのか……大修道院の地下にこんな無法者の集団っぽいのが居るのは教団も当然嫌がるだろうしな。

 名前に“フォン”が付く人は貴族に多く、エーデルガルトもコンスタンツェが名乗った時に『ヌーヴェル……?』と驚いている様子なので、貴族なのかなコイツ。

 

 大男は「やんのか? やらねえのか?」などと挑発してくるのに対し、ディミトリとクロードは分が悪いとみたのか、引き揚げる話をしている。

 隣のルーナとかはすでにやる気満々なんだけどなぁ……

 

 

「また遭ったな“漆黒のオーディン”にクロード! この期に及んで帰るだなんて寂しいこと言ってくれるなよ。なあ? 前に言ったろ、遊んでやるって」

 

 

 背後からユーリスたちが表れた……チッ、挟まれたか。

 前後挟まれて数でも劣っているか……突破しないと厳しそうだな。

 

 

「よくやったユーリス! というわけでお前らこの“レスターの格闘王”の拳、味わってけ!」

 

「“レスターの格闘王”……? 同盟一の格闘術の使い手ってわけ?」

 

「うーん……あの男の人、なーんかどこかで見たことあるような……」

 

 

 “レスターの格闘王”ね……なかなかの異名じゃねえか……ルーナが露骨に反応しているし、ヒルダも会ったことがあるのか首を傾げながら大男を見ている。

 

 ルーナが剣を剣帯ごと腰から外し、腕捲りをしながら“レスターの格闘王”に向かって行く……あんな大男に素手で挑む気か!? 

 

 

「ちょっ……ルーナ!?」

 

「なんだぁ? お嬢ちゃん……まさか素手で俺とやりあう気か?」

 

「格闘王なんでしょ? あたしがブッ倒してその称号貰ってやるわ!」

 

「はっはっは! 面白え女だ!」

 

 

 ……やめとけよ……そもそも、先生やラファエルにも素手格闘で一回も勝ったことないだろ、ルーナの奴。

 

 大男は鋼の籠手を外して放り捨てた。

 

 それを見た敵側の男たちも何を思ったのか、武器を置き始め、上着を脱いだり腕捲りをし始めている。

 なんかこれ……みんなが素手で戦うような雰囲気になってないか? 

 

 

「仕方ない……武器でやりあって人死にを出すよりはマシか……」

 

「格闘術ね……実戦で使うのは初めてよ」

 

 

 ディミトリが腕を回し、エーデルガルトは拳を鳴らしている。

 こちら側もみんな武装解除してしまっている。

 マジか……! 

 

 

「なんだぁ? 俺たちの相手は姉ちゃんがやってくれるのか?」

 

「なかなかイイ体だな……楽しめそうだ……」

 

「ゲヘヘッ……!」

 

 

 先生が複数の男たちの前に出て絡まれ始めている。

 

 先生は少し体をのけ反らせると……

 

 ──正面の男に頭突きを放った

 

 

「これは手本にならないね」

 

『大乱闘に参戦するのじゃ!』

 

 

 先生の攻撃を皮切りに一斉に大乱闘が始まった。

 

 ──俺、格闘術の訓練なんてほとんどしてないんですけどっ! 

 

 

「なんか思ってたのと違う展開になっちまったな……まあいい、相手してもらうぞ“漆黒のオーディン”!」

 

 

 ユーリスが俺の目の前に来て構えている。

 剣ならともかく格闘で勝てるのか……コイツに? 

 

 

「なんだぁ? えらく腰が引けてるが……まさかお前、喧嘩は初めてか?」

 

「そ、そんなことはないぞ……! この“漆黒のオーディン”の武技の極み見せてやる!」

 

 

 そういえば、フォドラに来て驚いたことの一つが素手や籠手を使った格闘戦も重視していることだった。

 イーリス聖王国では接近戦は武器を使うのが普通だったので、フォドラに来て敵兵の中に素手で殴りかかってくる者がいたのは心底驚いた記憶がある。

 

 授業で習った型どおりの攻撃を繰り出すが、簡単にかわされてしまう。

 

 コイツ……! 速いっ! 

 

 ユーリスの放つ顔を狙った二連続の攻撃をなんとか防いだ。

 

 ──がはぁっ……! 

 

 鳩尾に衝撃が走り、息ができなくなり倒れてしまった。

 

 つ、強い……! いつの間に攻撃を……!? 

 

 

「弱っ……!? まったくビビる必要なかったじゃねえか……」

 

「こんなのでも剣を使えば君よりは強いはずだよ……さあ、次は僕が相手になるよ」

 

「お前は“蒼穹のラズワルド”だな……いいぜ、遊んでやるよ」

 

「ええ? なんでそのあだ名を……恥ずかしい!」

 

 

 意識が少し遠退いているが……俺を倒したユーリスはとうやらラズワルドと戦い始めたみたいだ。

 

 しばらく倒れていると、意識がハッキリしてきた。

 倒れたまま周囲の状況を観察する。

 

 先生の周りには既に何人か倒れ伏している。

 先生は格闘術はかなり得意だったので、数人相手でも問題無く戦えている……また一人打ち倒した。

 

 ディミトリが男を片手で持ち上げて投げつける。

 二人ほどを巻き込んで壁に叩きつけられた。

 そんな……人を手槍みたいに……格闘戦とか関係なく死人がでるぞ……

 

 

「ぐ、ぐるじぃでずわ……」

 

 

 エーデルガルトが両手でコンスタンツェの首を締め持ち上げている。

 コンスタンツェの顔色がどんどん悪くなっている。

 死んじゃうから、やめてあげて! 

 

 クロードは戦うふりをして先生やディミトリのところへ敵を引き付け、そのまま擦り付けて全然戦っていない。

 

 ヒルダ、アッシュは戦いには加わらず様子を見ている。

 敵側にも数名見ているだけの者がいるので、そういう人には両陣営攻撃をしないようだ。

 リンハルトは座り込んで眠り始めていた。

 

 

 ルーナが“レスターの格闘王”に思い切り殴られふっ飛ばされた。

 ルーナは大の字に倒れて起き上がれないみたいだ。

 

 

「ああ! ルーナちゃん!?」

 

「なかなか粘ったけど、俺の相手には不足だったみてえだな……」

 

 

 ヒルダが倒されたルーナに慌てて駆け寄った。

 

 

「ちょっと、こんな……女の子を相手に手加減無しに……!」

 

「あぁん? 一応、手加減はしたさ……顔は殴らないでやったし。それで、次の相手は嬢ちゃんがしてくれるのか?」

 

「えー、あたし……? あなた、あたしの知り合いに似てる気がするんだよね。誰だか思い出せないんだけど……それに免じて許してくれないかなー?」

 

「おう、構わないぜ。その代わり俺に付き合っちゃくれ……い、いや、この女は口説いちゃいけねえ。俺の中の何かが危険を囁いている」

 

 

 ヒルダが“レスターの格闘王”と話している。

 

 

「バルタザール! 終わったんなら、あっちの教師か金髪とやれ! 他の奴じゃ勝てねえぞ!」

 

「おうよ! 任せろユーリス!」

 

「バルタザール……バルタザール……バル……あああああ!! バル兄!? アダルブレヒト家の……!」

 

「なに? いや待て、その髪、その呼び方……ヒルダか! ホルストの妹の!!」

 

 

 ヒルダは“レスターの格闘王”のことを思い出したらしい。

 バルタザールという男を『バル兄』なんて親しげに呼んでいるので、だいぶ仲が良かったのかもしれない。

 

 

「はっはっは! ヒルダ! 久しぶりだな、元気だったか?」

 

「バル兄、のん気すぎー! 笑ってる暇があったらみんなを止めて! あたしに手を上げようとしてたこと兄さんに言うよ」

 

「……げっ! それは勘弁してくれっ! おい、野郎共喧嘩は中止だっ! 全員止めろ!」

 

 

 バルタザールの制止の声に喧嘩が止まった……ヒルダ、もっと早く気づいてくれれば……殴られる羽目にならなかったのに……

 

 

 

 




『大乱闘に参戦するのじゃ!』←これがやりたかっただけ

拳で語り合ったのでアビスに出入りできるようになりました。
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