ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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第29話『地下の街』

(角弓の節 二十一日)

 

 俺は“漆黒のオーディン”、武技を極めた選ばれし闇の戦士だ。

 

 

 俺は今、地下の街“アビス”にある地下書庫を訪れていた。

 先週の乱闘騒ぎが収まった後、“漆黒のオーディン”一行は地下の街“アビス”にたどり着くことができた。

 そもそも乱闘の現場も居住区だったらしく、普段は人が住んでいるが俺たちを迎え撃つために避難していたそうだ。

 

 拳で語り合いをやった件で、アビスの灰狼の学級(ヴォルフクラッセ)の連中に気に入られたらしく、地下の街への自由な出入りを許可された。

 灰狼の学級(ヴォルフクラッセ)は厳密には士官学校の生徒では無いが地上に居場所を失った元士官学校の生徒の集まりで、まとめ役で級長のような立場のユーリス、“レスターの格闘王”バルタザール、元貴族のコンスタンツェ、ハピ等の個性的な面子が十数人ほどいる。

 灰狼の学級(ヴォルフクラッセ)の奴らは地上の士官学校の生徒に比べると不良というか、怪しい雰囲気の連中ばかりだ。

 

 しかし、この地下書庫……興味深い内容の物が多すぎる……呪術に伝承、怪しげな学問や邪教に至るまで大修道院の書庫では見られない禁書のようなものばかり置いてある。

 まあ、アビスの住民やリンハルトの話ではほとんどが偽書や出鱈目なことが書いてある類いの物らしいが……それでも見る価値は十分ある。

 

 今は闇魔法や呪術の本を中心に読み漁っているところだ。

 ──むっ、この本は……なんという斬新な理論だっ! この世界の魔法にこんな法則があったとは……血が騒ぐぜっ! 

 

 

「あら? 貴方はたしか……“漆黒のオーディン”」

 

「……フッ、コンスタンツェ=フォン=ヌーヴェル……俺に何か用か?」

 

 

 しばらく本を読んでいると、コンスタンツェに声をかけられた。

 彼女はかつての七大貴族の一つヌーヴェル家の令嬢だったが、ダグザブリギッド戦役で家が壊滅状態になり没落してしまったらしい。

 

 

「別に、貴方に用など有りませんわ。見かけたから、つい名前を口に出してしまっただけですわ……私は魔道の研究をしにきただけですのよ」

 

「ほう、貴様はたしかアビスで最も魔道に長けていると聞いたことがあるな……」

 

「おっーほっほっほっほっ! そんなこと当然ですわ! 私はアビスどころか、いずれは世界に名を残すような偉大な魔導師になりますのよ!」

 

 

 世界に名を残す偉大な魔導師とは……たいした自信だな……そういうの好きだぞ。

 

 

「世界に名を残す偉大な魔導師か……素晴らしい!」

 

「おっーほっほっほっほっ! 称賛が足りなくってよ! ……貴方、怪しげな呪術士と聞いていましたが意外に見所があるようですわね。私の実験に付き合う栄誉を与えますわ!」

 

「ほう、実験か? 面白そうだな!」

 

「面白そう!? 私の偉大なる実験のことを言うに事欠いて、面白そうと!?」

 

 

 今度は急に怒り出してしまった……うーん、よくわからん奴だな……どういう魔法の実験かは知らないが基本的に魔法や呪術に関することなら興味があるぞ、俺は。

 

 

「えー? じゃあ、面白くない実験なのか?」

 

「そ、そういうことを言ってるのではありませんわ。まあ、貴方が何を考え何を仰っても取るに足らない些事。私にはどうでもいいことでしたわ。おっーほっほっほっほっほっほっ!」

 

「それで? 結局、どんな魔法の実験をやろうとしてるんだ?」

 

「私の魔法はこの大修道院一帯全てに色とりどりの花を咲かせる大魔法! それの実験を行っているのですわ!」

 

「おお! そんな素晴らしい魔法の実験をっ! ……ぜひ協力させてくれ!」

 

 

 植物を操作する類いの魔法か! 俺も温室で野菜や果物を育てる研究を色々していたので、コンスタンツェがやっている実験を応用できれば俺の研究も捗るかもしれない! 

 

 

「えっ? ……えらく乗り気ですわね……どういうことですの?」

 

「自分から誘っておいて何言ってるんだ……?」

 

「いえ……他の者はこの実験を『そんな魔法何の役に立つ?』とか『俺に何の見返りがある?』とか言いますのに……」

 

「めちゃくちゃ凄い魔法だと思うけどな……作物とかに応用できたら、平民から貴族、王様にいたるまで皆が大喜びするような魔法じゃないか……?」

 

「作物……? 私はお花を咲かせる魔法の話をしていますのよ?」

 

「花も作物も植物だろ……? まあいいか、とにかく協力させてくれよ!」

 

「……そこまで言うのできたら協力させてあげますわよ! 私の下僕として! おっーほっほっほっほっほっほっ!」

 

 

 下僕になるのは嫌だけど、とにかく魔法については教えてくれるらしい。

 コンスタンツェは、まずその『ガルグ=マク周辺一帯に花を咲かせる魔法』を作る過程で出来た魔法について色々教えてくれた。

『花を番犬のように変えられる魔法』らしい。

 

 

「……それで、この魔法を使えば怪しい人を見つけると……つぼみがパッと開きますのよ! パッと! 花を番犬のように変えられますの!」

 

「怪しい人……? そんな発動条件も付け加えれるのか!? 凄いじゃないか!」

 

「……うっ……本当は全ての人に反応してしまいますの……まだ、開発段階ですから……」

 

「あっ、そうなのか……でも、自分の意思と切り離して条件を満たせば自動で発動できる魔法って、色々な魔法に応用できるよな……十分凄いと思うぞ……」

 

 

 話をしてみるとコンスタンツェがいかに魔道に長けているのかがわかる。

 花を操作したがるのは完全に趣味だろうけど、花に感知能力を持たせたり発動条件を付け加えたりするのは、その辺の魔道士にはできない高等技術だ。

 俺も今まで温室で試してきたことを話すか……

 

 

「……実は植物っていうのは埋めた種が全て芽を出すわけじゃないんだ。ガルグ=マクの温室ではかなりの種が芽を出すことができるがそれでも全てではない。ガルグ=マク外に埋める種は更に発芽率が落ちる」

 

「へえ、そうなんですの……?」

 

「だが、蒔く前に種に微量の魔力を注ぐだけでほとんどの種を発芽させることができるんだ。注ぐ魔力の量は種の種類にもよるが……」

 

 

 色々な種を使って温室やガルグ=マクの外で実験を繰り返してわかったことだ。

 魔力を注ぎ過ぎると種が駄目になってしまうのでその加減も結構難しい。

 

 

「なるほど……発芽率を上げた種を多く蒔くことで、より多くの花を咲かせることができるようになるというわけですわね!」

 

「そういうことだ……新芽に魔力を注ぎ過ぎると駄目になってしまうから、つぼみの状態までいかに早く成長させるかの実験もしなくてはな!」

 

 

 ここに来て、新たな魔道を作る同志ができるとは……楽しくなってきたぞ……魂が躍動するっ! 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 地下書庫ではコンスタンツェと有意義な時間が過ごせた。

 魔法談義もそうだったが、コンスタンツェは実は呪術についても趣味で勉強していたらしく俺の呪術に対して凄く興味を持っていた。

 ただ、作った魔法に格好いい名前を付けようとすることにはあまり興味がないみたいで、魔法や呪術の話ばかりしたがっていたのが少しだけ残念だった。

 魔法や呪術のことを気兼ねなく話せる同志が出来ただけでも良しとするか……リシテアは俺と魔法談義をしたがらないし、アネットは「あたしなんかはもっと基本を勉強してからじゃないと新魔法の開発なんてできないよ!」と乗り気ではない、リンハルトは魔法の開発には興味が無い……コンスタンツェは新しい魔法を開発することが好きみたいだし、フォドラの魔法については俺よりも詳しいから、相談すれば色々捗りそうだ。

 

 アビスには他にも変わった施設がたくさんある。

 鼠通りには市場が開いていて(商品は地上の市場に比べると酷い物ばかりだが)、アビスのごろつき共が集まる地下酒場、セイロス教の女神ではない神を祀る祭壇、住民がいらない物を捨てるがらくた置き場、そして灰狼の教室……この他にもガルグ=マクの地下は迷宮のようになっており、ユーリスたちですら全容は把握できていないらしい。

 どれもこれも俺の血を騒がせる……興味深い施設ばかりだ……これから、がらくた置き場でも行くか……何か使える物が落ちているかもしれない……

 

 

「おいおい……てめぇ、地上の士官学校の奴だよな? 何堂々と、この“アビス”をうろついてるんだぁ?」

 

「ここは貴族のお坊ちゃんが来るとこじゃねえんだぜ……痛い目みたくねえなら有り金全部置いてどっか行くんだな……!」

 

 

 おお? 絵に描いたようなごろつきに絡まれたぞ! この二人組はこの前の乱闘騒ぎの時には居なかった奴らだな……ユーリスたちからは出入りの許可は貰っているのだけど……こうやってごろつきに絡まれるのはこの世界では初めてだし、なんか新鮮な気分だ。

 

 

「ほう、この深淵なるアビスで“漆黒のオーディン”に挑む者がまだ居たとはな……」

 

「何っ!? “漆黒のオーディン”だとっ……!」

 

「なんだ? 知ってんのかぁ? このガキを……」

 

 

 ごろつき二人組の片割れが驚いている……やはり俺の噂はアビスまで行っているようだ……有名人って辛いな~本当、辛いわ~

 

 

「お前知らねえのかよ……! “漆黒のオーディン”っていったら、学生寮に火を放って女子生徒を焼き殺し、教団のお偉いさんの家族を誘拐して……最近の噂じゃあ女神の塔で邪神を召喚してたっていう、大修道院史上最悪のイカレ野郎だぞ!!」

 

「えっ……何それは……」

 

 

 噂に強烈な尾ひれが付いてる!? 全然真実と違うんですけどっ!! 

 知らなかった方のごろつきもドン引きしているが……そんなことやらかしていたら、士官学校どころかアビスにも居られなくなっているようなレベルなんだけど……! 

 

 

「勘弁してくれっ! アンタなんかと関わるのはゴメンだっ!」

 

「ひぃー! 待ってくれぇ!」

 

 

 ごろつきたちは情けない声を上げて走り去ってしまった。

 有名になるのは良いが悪い噂が広まるのは嫌だ……なんとか手をうたなければ……

 

 

「おいおい、ウチの連中をあんまり脅しつけねえでくれるか?」

 

「ユーリス……アイツらが勝手にビビって逃げただけだ……根も葉も無い噂にな……」

 

 

 悪い噂の払拭に頭を悩ませていると、ユーリスが表れた。

 どうやら最初から見ていたらしい。

 

 

「……何が根も葉も無い噂だ。話が付け足されてるだけで全部お前が関わってるものじゃねえか……邪神召喚の件は申し開きもできねえぞ」

 

「ぐっ……詳しいな……」

 

 

 なんでユーリスの奴、こんなに俺のことに詳しいんだ? コイツが情報通なのは知っているが何でも知られているような気がする。

 

 

「最近の地上の人間の中じゃ一、二を争う有名人だしなお前。天帝の剣を扱える先生に三つの国の次期指導者の級長たち、他にも大貴族の令息令嬢が過去に例を見ないくらい大勢いるっていうのに大したもんだぜ……“漆黒のオーディン”って奴はよ」

 

「なあ、さっきからなんか小馬鹿にしてないか、俺のこと……」

 

「そんなことねえよ……まあ、初めて会って脅された時の仕返しが出来たから、取っ付き易くはなったかな……」

 

「初めて会った時の仕返し……? 別に脅してたわけじゃないんだけどな……」

 

「怪我しても回復させてやるからサシでやろう、なんてどう考えても脅しだろう……自分が負けるとは思っていない強者のな……」

 

 

 ユーリスは初めて会った時のことを根に持っていたらしい。

 

 

「……とにかく、お前に言いたいのは、せいぜいアビスに厄介事を持ち込むなって話だ。それさえ守ればうろついててもかまわねえよ」

 

「厄介事など持ち込むはずもない……こう見えて俺は常識のある人間だからな……」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ユーリスと別れるとがらくた置き場にやってきた。

 先週はここでキラーアクスを見つけて修理したんだったな……俺は斧を使わないから先生に預けたが。

 おっ、こっちの錆びた槍は綺麗にすれば使えそうだな……もとは鋼の槍だな。

 

 

「よう、へっぽこ呪術士……アビスでゴミ漁りか?」

 

「ディン……キミって地上の人間なのに誰よりもアビスに馴染んでない?」

 

 

 がらくた置き場を漁っていると通りがかったバルタザールとハピに声をかけられた……ディンって俺のことか? 二人とも変なあだ名付けるのはやめてくれないかな……

 

 

「へっぽこ呪術士はやめろ、バルタザール……俺はフォドラ大陸随一の呪術士だぞ! あとハピ、変な略称で呼ばないでくれ。一瞬誰のことだかわからなかったぞ」

 

「ははは、喧嘩が始まってすぐに地面に転がされてた奴は『へっぽこ』がお似合いだぜ」

 

「わかったんなら良いじゃん。ハピはそう呼ぶよ」

 

 

 喧嘩が弱いのは呪術士と関係ないんだけどな……

 バルタザールは“レスターの格闘王”の異名で呼ばれる大男、ハピは浅黒い肌と気だるげな雰囲気の女だ。

 バルタザールは灰狼の学級(ヴォルフクラッセ)の制服を着ているが俺よりも結構年上……二十代半ばから後半くらいでカトリーヌさんやシャミアさんと同世代だろう。

 

 

「それで、がらくた漁って何してるんだ……? 地上の人間が面白がる物なんてないと思うが……」

 

「使えそうな物を探しているだけだ……ここには修理すればまだまだ使える物がたくさんある」

 

 

 鍛冶屋のように完全に壊れた武器を修理するのは難しいが刃を研ぎ治すとか錆びを落としたりすることは俺にもできるので、壊れかけの状態で捨てられていることが多いがらくた置き場は俺にとっては宝の山なのだ。

 

 

「へえ、もしかして金になんのか?」

 

「普通の武器屋に持っていっても安値で買い叩かれるだけだ……自分たちで使うんだよ」

 

「なんだ、金にならねえのなら興味は無えな」

 

「武器代を節約できるんだし金にはなってるだろう」

 

「節約なんてみみっちいことできるかよ!」

 

 

 そういうガサツなところが借金まみれで地下に隠れなきゃいけなくなった一因じゃないのかねえ……

 そういえば、ハピには聞きたいことというか教えてほしいことがあったのだった。

 

 

「フッ、ハピ……いや、深淵なる地下迷宮に潜む異端なる魔道士よ。お前は闇魔法の使い手と聞いた……どうか俺に闇魔法を教えてくれないか?」

 

「えー? めんどくさいからヤダ」

 

「断りかたが雑っ! ……いいじゃん、教えてくれよ~! 減るもんじゃないだろ~!」

 

 

 この大修道院には闇魔法の使い手は数えるほどしかいないから、ハピのような人材は貴重なのだ。

 理由が「めんどくさい」だけなら頼みこんだら教えてくれそうだしな! 

 

 

「ハピ感覚派だし、人に教えるなんてできないよ?」

 

「俺だって感覚派だよ。最近は理論もわかるようになってきたけど……なあ~、ちょっとだけで良いからさ、頼むよ~!」

 

()()()……。しょうがないなあ、ホントにちょっとだけだよ」

 

「本当か! ……礼を言うぞハピよ」

 

 

 教えてくれるみたいだ! 頼み込んでみるもんだな! 

 

 バルタザールが急に焦り出して周りを見回している。

 どうかしたのか……? 

 

 

「おい、ちょっと待て……ハピ、お前ため息つかなかったか?」

 

「えっ? ……あっ」

 

 

 ──グヴォオオオオッ!! 

 

 突然、転移? してきた魔物ががらくた置き場に表れた! 

 

 えっ? 何っ!? 何が起きたんだ!? 

 

 

「チッ、おいオーディンとにかく手伝え! 早く倒さねえとアビスを無茶苦茶にされちまう!」

 

「バルト、ディン。頑張ってー」

 

 

 魔物がいきなり転移してくるとか……アビスって魔境すぎないか……! 

 

 

 

 




「おいコラてめぇ!厄介事を持ち込むなって言ったのを聞いてなかったのか!?」


アビスと灰狼の学級(ヴォルフクラッセ)の人の紹介話みたいになりました

次回は釣り大会辺りですかね…書き貯めがないのでぼちぼち書いていきます



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