ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
俺は“漆黒のオーディン”、ガルグ=マク士官学校
「流石ね、貴方たち。先生、クロード、オーディンの三部隊に別れて行動し、全ての部隊で戦果を挙げる。指揮官の優秀さ、それに豊富さの差が出たわね」
「個人の実力では
エーデルガルトとディミトリが称賛する。
帝国軍も王国軍も用兵は悪くはなかったけど、我ら金鹿の加護を得た同盟軍には敵わなかったようだな……ちなみに金鹿というのはレスター諸侯同盟の守護聖獣らしく
しかしアドラステア帝国の次期皇帝とファーガス神聖王国の次期国王に褒められるのは悪い気はしない……もっと褒めてくれても良いんだぞ!
「お褒めに与り光栄の至り……なんてな。ま、こっちには先生もいたしオーディンたち三人とフレンをあわせるとお前らのところより生徒数も多かった……」
「フッ、お前たちは十分に強かった……正直、終盤に共闘されたときは負けると思ったぜ……」
「どちらの学級も強かった」
俺たちも
ああ、本当に楽しかったな……何日も前からずっと準備をして、お祭りのようだったしな。
「またやりたいね」
「……先生、俺はこの面子で再戦するのは正直ごめんだぜ。ともかく、この戦いの経験が活かされる日が来ないよう願うばかりだよ」
「まったくだ。お前たちと剣を交える未来は、勘弁願いたいからな」
「私は構わないわ。いつでも受けて立つ……なんて、冗談よ」
先生の言葉に三人の級長が返事をしている。
そうだよなぁ……この三人が卒業後に再戦することになったら、それはもうフォドラの危機だ……まさかそれを止めるために俺たちが女神様に呼ばれたのかも……いや、コイツらの様子からきっとそんなことはないと思える。
──三つの国の指導者が手を携えて協力し合う未来……そんな姿が俺には見えるぞ……!
「さて、こうして三つ巴の戦いは同盟の勝利に終わったわけで、戦後の講和のお時間だ。勝者からの要求は一つ。俺の提案を聞いてくれ。ガルグ=マクに戻ったら、学級の垣根を取っ払って、盛大に楽しまないか? ……ま、食堂でだが」
宴会か! 期待はしてたんだけど、やはりクロードは他の学級のみんなと一緒に開くことを提案している。
「くっ……全面的に要求を受け入れよう。必要な物資と人員があれば言ってくれ」
「ええ、負けた以上、呑むしかないわね……こちらも手配を……」
「あっはっは! そりゃ、宴じゃ飲むしかないよな。流石は皇女様、上手いことを仰る」
「なっ……!? そういうつもりで言ったのでは……ああもう、好きに笑いなさい」
エーデルガルトがクロードにからかわれて、みんなで笑いあう……最近のエーデルガルトは妙に忙しそうにしておりピリピリしていたが、鷲獅子戦が終わって緊張も解けたみたいだな。
「勝利の美酒を……」
「先生も随分と楽しそうですね! ……フッフッフッ、宴会は我ら
「さあ、帰ろうぜ。我らの学舎ガルグ=マク大修道院へ!」
「ああ、帰ろう! 我らの魂の安住の地へ!」
宴会か……楽しみだな~今から何か宴会を盛り上げるような呪術を考えようかな?
「オーディン。なに楽しそうに浮かれてんのよ……?」
「……君は宴会を期待する前にやることがあるよね」
「げえっ!? ルーナ、ラズワルド!」
ほとぼりが冷めるまで、コイツらにはなるべく近寄らないようにしていたのに……二人の方からやって来やがった!
「オーディン! ちょっと来なさいっ!」
「いてて……! 待てっ……行くから耳を引っ張るな!」
「……というわけで、オーディンは連れていくね」
ルーナとラズワルドに引っ張られて、人気のない林まで連れて来られた。
二人ともしきりに辺りを見回して、人がいないかを確認している。
確認を終えた後、ルーナが俺に問いかけた。
「オーディン、あたしたちが何に怒ってるかわかるわよね……?」
「……俺が闇の力で召喚した邪竜のことだな……血が騒いで……すまない、力の暴走を抑えられなかったんだ……!」
「そういうのはいいから」
「……ここでもふざけてるとブッ飛ばすわよ」
あわわ……どうしようめちゃくちゃ怒ってるぞ……!
ルーナとラズワルドから怒られるのは慣れているけど今回の件は真剣にまずい。
「なんで、よりにもよってギムレーなんかの幻影を出したのよ……! 心臓が止まるかと思ったんだからねっ!!」
「まあ、僕は君がまたやらかしたってすぐに気づいたけどね」
「ほんと、ごめん……反省してます……」
たしかにコイツらからしてみればいきなりギムレーが現れたら、そりゃあ驚くよな……俺だってビビるだろうし……
なんで俺はいつも調子に乗ってしまうのか……これはきっと血の定めだ……いたずら好きの母さんの血を色濃く受け継いでしまった俺の宿命……!
「そもそも、僕たち皆ギムレーの話題については滅多に話さなかったよね。特に、君はお父さんの一件があったから。それなのに、急にあんなことするなんて……何か心境の変化でもあったの?」
ラズワルドが俺に問いかける。
たしかに、平和になった元の世界でもこちらに来てもギムレーの話題はあまりしなかった。
ギムレーの話をするのも嫌だったのもあるが、俺の父さんがその身をもって邪竜を討滅したことから、ラズワルドもルーナも気を使って話題にしなかったのもあるだろう。
「……あんた。まだあたしたちに隠してることが有るんじゃないでしょうね!」
「そ、そんなことあるわけないだろう……おれたちのなかにかくしごとなんてない……」
「嘘だね」
「この期に及んでまだしらを切るつもりなのっ……!? さっさと言いなさいよ……!」
わ、わかったからっ! 首を締めるのはやめてくれ、ルーナ!
俺は以前ハンネマン先生の部屋で紋章を調べたところ、俺にはイーリスの聖痕とギムレーの邪痕が有ることがハンネマン先生とリンハルトにバレたことを白状した。
一応彼らが邪悪な連中じゃないとは説明したけど、当然のようにルーナとラズワルドは激怒して、しばらく説教された。
「以前に比べると君がギムレーに対して嫌なイメージを持っていないことはわかったけど、もう二度とやらないでね」
「そろそろ誰かにあたしたちの使命を打ち明けるのは考えていたけど、あんたは迂闊すぎるのよ……次やったら承知しないからね……!」
落ち着いたラズワルドとルーナがこう締めくくり長い説教は終わったのだった。
本当にすまん……
◆◆◆
ガルグ=マク大修道院に帰った日、大修道院の食堂で士官学校の生徒全員と教師陣、一部の騎士団や教会関係者で盛大に宴会を開いていた。
机にはところ狭しと料理が並び、あまり見たことのない珍しい料理も並んでいる。
フォドラの料理はどれも美味いものばかりだからな……何を食べようか……
「こっちはドゥドゥーが作ってくれたダスカー料理だよ」
「うんめぇな!! オデ、これならいくらでも食えるぞ!」
「この塩の効いた味付け……ダスカーの料理って初めて食べましたけど、凄い美味しいですね!」
アッシュの説明しているダスカー料理を食べて、ラファエルとイグナーツが絶賛している。
……どれどれ、と一口食べると口の中に旨みが広がる……美味え!!
「わぁ! すんげー美味いな!! 俺としたことが、これ以上の言葉が出ない……!」
「……口に合ってなによりだ……」
「あはは、気にすることなかったね、ドゥドゥー……みんな君の料理を美味しそうに食べてるよ」
「……そうだな」
「ドゥドゥーくんはこんなうめぇ料理をモリモリ食ってたのか? そりゃあ、でっかくなるし強くもなるよなぁ!」
「ドゥドゥー君、ダスカーってどんなところだったんですか? ……僕、フォドラの外の世界に興味があって……」
ドゥドゥーが他の学級の生徒たちと話をしているのは珍しい光景だ。
鷲獅子戦ではラファエルとドゥドゥー、イグナーツとアッシュが戦い……なんか、こう友情みたいなものが芽生えたのだろう……
この宴会では他にもあまり見ないような組み合わせで話をしている光景がそこかしこに見える。
アネットとリシテアが談笑し、ペトラがフェリクスに腰の剣を渡して見せていたり、フレンがリンハルトから話かけられていたり様々だ。
まあ、ラズワルドとシルヴァンが揃って女の子に声をかけていたり、マヌエラ先生とハンネマン先生の言い争い、先生が料理にがっついているなどいつもお馴染みの光景もあるけどな。
くっ、俺の血も騒いできたぞ……! いろんなやつに話かけよう!
まずは近くで談笑している、フェルディナントとローレンツに声をかける。
「“漆黒のオーディン”参上! フェルディナント、ローレンツ、この絢爛たる学舎の優美なる宴……楽しんでいるか?」
「やあ、オーディン。私も楽しませて貰っているよ」
「僕はもう少し上品な宴会のほうが好みだけど……まあ、クロードが準備したのなら、所詮はこの程度か……」
「そうは言ってやるなローレンツ。これはこれで楽しいさ。上品な催しならば再来節の落成記念日があるからな」
「それもそうだな、フェルディナント君」
なんでも、再来節のガルグ=マク落成記念日には舞踏会があるみたいだ。
一年に一度の士官学校学生のための舞踏会……毎年盛り上がるらしい。
そういうイベントは好きだぞ、俺は……また楽しみが増えたな。
「しかし、オーディン君。君の部隊指揮は見事だったよ……僕はフェルディナントくんに一騎討ちで負けたあとも見学していたけれど、君ほど用兵に長けている者はフォドラにもそうは居まい」
「聞けば私とローレンツの一騎討ちの最中にも作戦の指示を出していたそうだな……士気の上がっていた帝国軍がああもあっさり壊滅させられるとは……」
「一騎討ちで部隊の士気を上げる作戦は良かったが、そういうのは指揮官がするものじゃないぞフェルディナント」
この“漆黒のオーディン”は相手の一騎討ちでさえも利用して策を立てるのだ!
本当は、俺も凄く一騎討ちに出たかったのは内緒だけどな……
「まだ卒業後の士官先が決まっていないのなら、騎士となって僕に仕えることを許そう。まあ、そのときは、君の事件を起こす気質も治してもらわなければならないがね……」
「なっ……? もう人材確保をおこなっているのかローレンツ。オーディン、それならば帝国きっての名門貴族、栄えあるエーギル公爵家の私のもとへ来るのはどうだい? 不自由はさせないぞ」
「……フッ、誘ってくれたところ悪いが、俺はジェラルトさんにセイロス騎士団に誘われていてな……まだ本決まりではないが、受けようかなと思っている」
そう言うと二人は残念そうにしていたがすぐに別の話題に切り替えたようだ。
……そろそろ卒業のことも考えないといけない次期になってきたのか……セイロス教団が問題無さそうなら、フォドラの中央に位置するここで世界の破滅に対抗するのが一番良いよな……
ローレンツとフェルディナントとは別れて、次の話し相手を探す。
レオニーと談笑してるのは、ジェラルトさんか……最近、忙しそうにしていたしグロンダーズ平原とは別方面に任務があったらしかったけど、戻ってきていたのか。
ジェラルトさんは酒の席があると、どこから聞きつけてきたかわからないがすぐに現れる。
「よお、オーディン。飲んでるか?」
「ジェラルトさん、俺は酒はあんまり好きじゃないんですよ……」
「そういうとこはまだまだガキだな……レオニーはなかなかイケる口だぞ?」
傭兵は酒好きが多かったけど、俺やラズワルド、ルーナは基本的に酒は飲まない。
別に酒に弱くはないのだが、酔って注意力や判断力が鈍るのが好きではないからだ。
あと、ルーナは酒癖が悪いからなるべく飲まさないようにしている。
「……オーディン、師匠仕込みのあんたの用兵見せてもらったよ。わたしだって負けてられないな」
「ベレスはともかく、オーディンたちには何も教えて無いんだけどな……ガキのわりには学もあるし、腕も立ちすぎる……正直、この士官学校の卒業生かと思ってたぜ」
「あれっ? そうだったんだ」
「ま、まあ、教えて貰ったことも少しはありますし……」
ジェラルトさん、そんなことを思ってたのか……
そのままジェラルトさんは最近の出来事について話をしてくれている。
「……最近は俺がよく行ってた村も盗賊が現れるようになってきてな……
「よく行ってた村っていうと……ルミール村とかですかね」
「わたしの村は大丈夫かな……」
「お前のとこの村は大丈夫だろ……サウィン村の自警団っていったら、そこらの傭兵よりはずっと強いからな……」
「……師匠、なんでそんなこと知ってるの? あの後一度も来てないよな」
「はっはっは、傭兵の情報網を嘗めるなよ……あと奴らに誰が戦いを教えたと思ってる?」
ジェラルトさんはレオニー以外のサウィン村の人間にも戦い方を教えていたらしい。
レオニーの暮らしていたサウィン村は腕利きの猟師が多いらしく、今では強い自警団が有る村としてそこそこ有名みたいだ。
ジェラルトさんは自衛手段を持たせるために行った村の人に戦い方を教えることが結構有った……そういうことを昔からしていたので、慕って傭兵団に入団してくる人も結構いる……レオニーみたいに士官学校に入学したやつは初めてらしいけど。
「とにかく、オーディン。あんたには負けないからな……師匠の一番弟子としてね」
「ほう、またこの“漆黒のオーディン”に挑もうとする憐れなる闇に囚われた者が現れたか……」
「はっはっは! 若いって良いな、頑張れよ!」
ジェラルトさんもレオニーもだいぶ酒が進んでいたけど大丈夫かな……?
まあ、ここで酔いつぶれても誰かが面倒を見てくれるから良いか……
フレンを見つけたので声を掛けようとしたが、その近くにセテスさんの姿も見かけたので、俺の本能が行動を制止した。
「ま! オーディンさん、そんなところで何をしてるんですの……?」
気配を消して逃げようとしたらフレンにすぐに見つかってしまった……さすが我が“闇の同胞”!
いや、褒めている場合ではない! セテスさんはギムレーの幻影を出したときにめちゃくちゃ怒っていた……絶対説教されるからなるべく会わないようにしていたのに……!
「私を見て、そう嫌そうな顔をするな……オーディン」
「いえ、セテスさん……その……」
「このような場で説教はしたくはない……明日、大司教の執務室に来るように」
……やっぱり説教されるんだ。
明日に先延ばしになったことは喜ぶべきことなのか。
……あれっ? 大司教の……執務室……??
「聞き間違いですか……? 大司教様の執務室と……」
「聞き間違いではない。あの一件で大司教が聞きたいことが有るらしい……私も同席するが失礼のないように」
「いやああぁ!! 処刑される……!」
「いや待て!? 君はレアをなんだと思ってるんだ……!」
「こ、怖がり過ぎでしてよ、オーディンさん」
落ち着いてセテスさんたちの話を聞くと、本当に話が聞きたいだけらしい……説教される可能性もあるけど。
大司教様はロナート卿や西方教会の反乱の一件で容赦のないところを見せていたので、どうもそういうイメージがついてしまっていた。
「そういえばわたくしも聞きたいことがあったのですわ。あの時、オーディンさんが召喚した竜って、もしかしてオーディンさんが仲間たちと共に戦った伝説の邪竜でして?」
「あっ……ダメだフレン。しっー! フレン、しっーですわよ!」
「あら? どうしたというんですの?」
そういえば、フレンには前に一緒に遊んでいた頃に色々と話をしているんだった!
かつて俺たちが未来から過去へ転移したこと、親や仲間たちと邪竜と戦ったこと、邪竜の血を引く『父さん』がその身を犠牲にして邪竜を倒したこと……そういう設定として話をしていたけど、全部本当のことを話してしまっていた!
その時のフレンとは『ま! 素敵な設定ですわね!』『わたくしも遠い過去から長い眠りを経て目覚めた、かつての聖人……そういう設定を思いつきましたわ!』なんて言って盛り上がっていたんだったな。
「君はアレと戦ったというのか……?」
「そ、そういう設定ですよ……」
「ふふふ、あくまで設定のお話ですわよ、お兄様。あんなに怖い竜が実際に現れたら、それこそ大事件になっていましてよ」
「たしかに、それもそうか……いくらフォドラの外の事と言えど、あんな竜が現れたならさすがに耳にしているはず……」
とりあえず、そういう設定で誤魔化せたか……もう全部「そういう設定です」で誤魔化していこうかな……
「……詳細は明日聞こう。私はこれで……」
「ごきげんよう、オーディンさん」
ああ、憂鬱だ……嫌だ、明日が来てほしくない……
◇◇◇
宴が終わった夜、学級のみんなで
夜に学級全員が教室に集まることなんてなかったから新鮮な気分だ。
「あーあ、我らが級長が食い倒れてるわー」
「レオニーも酔い潰れてるわね。団長に付き合って飲むからこうなるのよ」
ヒルダやルーナの言葉通り、クロードやレオニーをはじめとした数人の生徒は食べ過ぎや飲み過ぎで椅子に体を横たえている。
「ま、彼らはほっといて……先生、お疲れ様!」
「先生とクロード君がいれば
「今回はクロードもオーディン君もよくやったと思う……それは認めてあげよう。ただ、やはり先生なしで勝利するのは難しかったな」
「ふふっ、先生の学級で良かったです。わたしたちの良さを引き出してくれましたから」
「オデはまだ戦いたりねえ! 先生と一緒にまた戦いてえ!」
「先生のおかげで、私も足手まといにならずに済みました……ありがとうございます」
「わたくしも、このような体験ができて……魂が躍動しましたわ! 改めてお礼を申し上げますわ、先生」
「レア様もセテスさんも、先生のことは凄く褒めてたみたいだよ……まあ、活躍したのに説教予定の人もいるけど……」
「……それは言わないでくれ、ラズワルド」
せっかくいい気分で忘れていたのに思い出してしまったではないか!
ちなみにあの一件がなかったら俺が鷲獅子戦MVPだったらしい……指揮官として一方面部隊を率いて勝ち進み、フェルディナント、ドロテア、ヒューベルト、ドゥドゥー、マヌエラ先生、ハンネマン先生、エーデルガルトを個人で撃破しているからな……それを問題行動でMVPが取り消しになるのは鷲獅子戦、いやガルグ=マクの歴史上初めてのことらしい。
代わりにMVPに選ばれたのが先生だ。
しかし、先生もすっかり皆に馴染んだな……傭兵団にいた頃から、無口だけどユーモアがあるからきっと受け入れられるとは思っていたけど、こんなに皆に好かれてしまうとは……いや、俺たち選ばれし三人も先生のことが大好きだったから、これは必然だったのだろう。
「まだ本気じゃない」
「おー、言ってくれますなー」
「フッ……先生もまだ『真の力』を隠しているというのか……」
先生は本気で言ってるのか冗談で言ってるのか良くわからないときがある……多分、今のは冗談っぽく本音を言ったのかな。
「いやあ、本当に流石だよ、先生は! ……敵に回したくないほどにねえ」
「ん……? あれ、クロードくん復活したんだ」
「天才的な用兵に加えて、解放王の遺産まで使いこなす。いやいやご立派なもんだ。デカい器に小さいヒビでも入っているのか、たまに抜けてるところはあるが……」
「クロードくーん? そういうこと言うと、あなたの器が小さく見えるけど……」
「そりゃあ心外だな! 俺の器の大きさときたら、先生の上を行く。ちょっと残念なことに、器の底が丸々抜けてるってだけでね」
つまり、抜けてるのはお前じゃねえか!
全く
「ちなみにオーディンの器はデカいが、とんでもなくヘンテコな形で穴だらけだな!」
「つまり抜けてるのは先生ではなくてクロードとオーディンってことですね」
「おいっ! 俺を巻き込むなよっ……!」
「……あんたのは一回叩き壊して作り直したほうが良いんじゃないの?」
「ふふっ……」
「あ、マリアンヌが笑うなんて珍しいね。君は笑顔のほうがかわいいよ」
「そうだとも! 君は自分の本当の魅力に気づいていな……コホン。失礼」
ラズワルドの言うとおり、マリアンヌが笑うなんて本当に珍しい……ずっと憂鬱そうにしている娘だったし、ちょっと相談もされていたから心配していたんだけど、少しは元気になったのかな?
「こうやって、みんなで笑い合えるのは気分が良いねー、本当に! ……あっ! 見て見て。中庭で誰かが逢い引きを……」
ヒルダの言葉に学級の皆が一斉に中庭まで覗きにいく……
こんな時間に二人で逢い引きとは、なかなか青春しているじゃないか……
中庭には二人の生徒……一人は背の高い男子生徒と……もう一人も背の高い男子生徒だ。
「……ククッ……今日は貴殿のためにこちらの紅茶を用意しましたよ……朝にでも飲むとよろしいでしょう。今日の貴殿は少し飲み過ぎていたようですし……」
「ならば私はこのテフ豆を君に贈ろう……先日、モルフィスの秘境から届いたものだよ」
「クク……クハハハ!」
「ふっふっふ……ふははは!」
ヒューベルトとフェルディナントじゃねえか!?
なに、男同士で頬を赤らめて笑いあってるんだよ!!
◆◆◆
宴の次の日の昼前、俺は呼び出されていた大司教の執務室へおとずれていた。
謁見の間にもほとんど近づかないのに、大司教の執務室へ入ることになるなんて……うう、緊張するぜ。
部屋に入ると大司教レア様とセテスさんが待っていた。
「オーディン。こうして話すのは久しぶりですね……」
「……ハイ、大司教サマ」
「そう固くならずとも良いのです。貴方には先日フレンを助けてくれたお礼をいうのもまだでしたよね。フレンは私にとってもかけがえのない家族のようなもの……改めてお礼を言います」
「……私もそのことについては、どれだけ感謝の言葉を並べても足りない。本当にありがとう」
「いえ、俺にとってもフレンは大切な友達です。助けることができて良かったです」
とりあえず、いきなり怒られるなんてことはなくて良かった。
だから、セテスさん呪術道具を取り出して満足そうに頷くのは止めてもらえますかねえ……フレンは今たぶん大聖堂の四聖人の像あたりにいるな……
しかし、大司教様とフレンが家族のようなものか……似てると思っていたけど実は親戚なのかな?
「私は貴方とルーナには避けられていたようですからね……ジェラルトが何を話したのかはわかりませんが……」
「えっと……ラズワルドは……」
「ラズワルドからは一度、お茶の誘いを受けたことがあります。その時は都合が悪かったので行けませんでしたが……」
いや、何やってるんだよラズワルド! 怖いものなしかっ!!
大司教様のことは、なんとなく苦手でなるべく会わないようにしていたが、察していたのか……
「今回、貴方と話をしたかったのは貴方が鷲獅子戦で見せた、禍々しい竜の幻影についてのことです」
「フレンからある程度のことは聞いている。君はあのような邪竜と以前戦ったことがある。そして君の父は邪竜の依り代になった存在……君もその血を引いていると……」
「そ、そうです。あっ、いえ、そういう設定です」
「設定? つまり君の作り話というわけか……?」
本当は実話だけど、フレンに話した部分はだいぶ脚色もしているので作り話とも言えるだろう。
とにかく今は『そういう設定です』で乗り切ることにしよう!
これがバレたらまたあいつらに迷惑がかかる。
前の世界にいたときはトラブルを起こす頻度は俺もラズワルドもルーナもあまり変わらなかったはずなのに……最近は俺ばかり怒られているから、さすがに面目が立たない。
「私は……実は紋章を持つ者は少し見るだけでわかるのです……貴方からは紋章の様な力を感じます」
「えっ、本当ですかっ……?」
じゃあ、最初からバレてるじゃねえか!
いや、待てよ……惑わされるな……! 大司教様も『そういう設定です』を使っているかもしれない……見ただけで紋章を持ってるかどうかがわかるなんてカッコいいしな。
……いやいや、そんなわけないか……そもそも大司教様が嘘をつく理由もない。
「しかし、貴方のその力が何に由来するかがわからないのです。その力はとても恐ろしい力なのではないのか……私はそう感じます」
「オーディン、君が何を隠しているか話してくれ……君はフレンの恩人だ。悪いようにはしない」
ぐっ、二人からの圧力が凄い……でも、あいつらに相談無しには話せないよな……俺たちをこの世界に連れてきた女神様が何者なのかまだわからないし、『大司教が信徒を騙している』『人ならざる者が人を支配し続けている』そういう話を以前聞いて、思うところもある。
「俺の『真の力』のことはまだ話せません……」
「まだ、話せない……あくまで
「……わかりました。私たちも
「ハイ、わかりました……本当に気を付けます……」
そういうと、今回の大司教の執務室から脱出できたのだった……怖かった……
「まだ本気じゃない」
「今回はわしの力(天刻)は使っておらぬしな」