ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
第36話『地下試験』
(赤狼の節 九日)
俺は“漆黒のオーディン”、世界を破滅から救った神竜ナーガの聖痕と世界に破滅をもたらす邪竜ギムレーの邪痕、相反する二つの印を持つ選ばれし闇の戦士だ。
現在、俺は以前ユーリスから貰った地下試験パスを使い、特級職〈トリックスター〉になるために地下試験を受けていた。
地下試験といっても普通に
まあ、前の世界は元の兵種に戻るのにもプルフの力を使わなければならなかったが、フォドラでは一度なった兵種は(戦闘中を除けば)いつでも戻ることができるのでそちらのほうが良い場合もあるか……闇魔法の研究をするときは〈ダークメイジ〉に戻れば良いからな。
技能も合格基準で鷲獅子戦の前に〈盗賊〉の資格を取っているので、あっさり〈トリックスター〉になることができた。
ちなみに、今日は俺以外にも試験を受けている生徒が多く、ラズワルドが〈勇者〉、ルーナが〈ソードマスター〉、クロード〈ドラゴンナイト〉、ヒルダ〈フォートレス〉、ローレンツ〈パラディン〉、リシテア〈ウォーロック〉、マリアンヌ〈ビショップ〉、レオニー〈スナイパー〉、イグナーツ〈アサシン〉、ラファエル〈グラップラー〉と
まあ、技能はみんな十分なのでたぶんみんな大丈夫だろう。
この鷲獅子戦が終わった時期くらいに上級職になれるのは例年だと学級で一~二人くらいらしい。
実際、
「これが俺に与えられし、清新なる力か……!? ……これ、前回もやったな……」
〈トリックスター〉は魔法が
今まで魔法を主力として使ってきた俺にとっては魔法の使用回数が減るのは少し痛いが、再び剣士として腕を磨いていきたいと思っていたので丁度良いだろう。
ちなみに、〈ダークメイジ〉の時に覚えた闇魔法の〈ミィル〉、〈リザイア〉、〈ルイン〉はそのまま使えた。
俺は黒魔法と闇魔法の二種類の攻撃魔法を使えるので、魔法の弾数から言えば他の魔法職とそんなに変わらないわけだ。
闇魔法の開発を手伝ってくれたハピとコンスタンツェ、ついでに地下試験パスをくれたユーリスには本当に感謝しなければな……
……そういえば、アンナさんに頼んでいた例の物が届いたと連絡があったから、アレでお礼の品でも作るか……
◇◇◇
昼過ぎの食堂……寂静なる空間……くっ、休みの昼過ぎは血が騒ぐぜっ……!
今の時間帯は食堂の人たちは後片付けも終わり休憩中だ。
料理長の許可を取れば夕食の仕込みが終わる時間までは生徒も食堂の設備を借りることができる。
料理は料理当番を交代でするから何度もやったことがあるのだけど、お菓子作りは初めてだ。
レシピ通りに作れば問題ないと思うが若干の不安がある。
「あら? オーディン。珍しいわね~」
「どうしたの、オーディン。お腹でも空いたの?」
「……メルセデスとアネットか。我が闇の調理場に何用だ……?」
「い、いつから調理場がオーディンの物になったの?」
「あらあら~」
食堂でお菓子作りの準備をしていると、
相変わらずこの二人は仲が良いな……だいたい、いつも一緒にいる気がする。
「私たちは今からお菓子を作るところなの~今日は何を作ろうかしら」
「ほう、奇遇だな……俺も今からお菓子を作るところなんだ」
「えー!? オーディンがお菓子作り? 本当にどうしたの……そんなことしてるの見たことないんだけど……」
「フッフッフッ……それもそうだろう……なぜなら、これが初めてだからな!!」
「う~ん、自慢気に言うようなことじゃない気がするけど~」
しかし、メルセデスとアネットが来たのは丁度良かったかもしれない。
この二人はお菓子作りが得意だったので手伝ってもらえるぞ。
「なあ、良かったら手伝ってくれないか? 材料もレシピもあるんだけど、お菓子作りはやったことはないからな」
「ふふっ、良いわよ~」
「へぇ、何を作るつもりなの?」
アネットの質問に一番メインの材料を見せる。
アンナさんに入手してもらった、「カカオ豆」だ。
「この豆……見たことない色と形だね……」
「匂いも独特ね~ちょっと美味しそうかも」
「これだけだと苦いだけなんだよな。テフ豆みたいに」
「あら~テフって高級品じゃない?」
「えー、あたしテフ苦手なんだけど……」
メルセデスが驚いているように、実際テフ豆と同じくらいかそれ以上に高かった。
アンナさんにレシピと作った実物を持っていくことを約束に割引もしてもらったんだけど、結構痛い出費だったな。
アネットはテフが苦手のようだが、苦手な俺でもあのお菓子は食べられるものなのだ。
「……それを闇の調理儀式で加工したものがこれだ……! 少し食べてみろ……!」
「あらあら、準備が良いのね~」
「……じゃあ、ちょっと……えっ! ちょっ……何これ……すっごく、美味しいよー!!」
よしっ、好評だな!
……正直、洗ったり磨り潰したりするのは時間がかかったけど、良いものが出来たと思う。
あとはケーキのスポンジとかを作っていかなければならない。
メルセデスとアネットにレシピを見せると「作れそうだ」と言っている。
「これを使ったケーキを作るのね。腕が鳴るわ~」
「よーし、頑張ろー!」
「俺の血も騒いで来たぜっ……!」
メルセデスとアネットは手際良く、楽しそうにお菓子作りを進めている。
俺もメルセデスに指示された通りに、材料をかき混ぜる。
「ぐああ……闇の傀儡に邪魔をされるっ……選ばれし味が封印されそうだ……!」
「オーディン、うるさいからちょっと黙ってて」
アッ、ハイ……
闇の傀儡の妨害にあってる設定でかき混ぜていたら、アネットから注意されてしまった。
……もっと、ノリ良く楽しくやろうぜ……!
「オーディン。このお菓子って結構量があるわよね~
「いや、アビスの
「……えと、アビス?
「あら、その人たちに何かお世話になったの~?」
「
俺が鷲獅子戦で大活躍できたのも闇魔法のおかげだからな。
ハピがアビスだとお菓子も手に入らないと嘆いていたので、お礼も兼ねて作って持っていってやることにしたのだ。
ユーリスは最近よく大修道院を彷徨いているし、バルタザールは堂々と
そういえば、コンスタンツェも地上に居るのは見たことないな……
「えっ、コンスタンツェ……?」
「なんだ、メルセデス、知り合いなのか? コンスタンツェ=フォン=ヌーヴェル。ま、あいつは王国の魔道学院にいたこともあるらしいから、別におかしいことでもないか……」
「コンスタンツェって、あの魔道学院の伝説の先輩?あたしは会ったことないけど、メーチェがよく話してたよね」
「士官学校に行ったって聞いたけど居場所がわからなかったから心配してたのよね……私が子供の頃、仲が良かった子なの……オーディン、良かったら私も一緒について行っていいかしら?」
「おう、そういうことなら別に良いぞ」
「よーし! じゃあ、メーチェの友達のためにもお菓子を完成させなきゃね!」
◇◇◇
完成したお菓子を三人で試食してみたが、震えるほど美味しかった。
前に仲間に作って貰ったものと味も変わらず、お菓子作りの経験豊富なメルセデスとテフが苦手なアネットも大絶賛するほどの出来栄えだ。
俺たちは三人でアビスへと来ていた。
アネットが周囲を興味深そうに見回しながら答える。
「大修道院の地下にこんな街があったなんて……」
「……ここにコンスタンツェが住んでいるのよね」
「……二人ともアビスは治安が悪いから、絶対に一人で来るなよ……いや、お前ら二人で来るのも駄目だな。来たい時は俺とか……あとはディミトリとかドゥドゥーとかなるべく強そうなやつと一緒に来るんだ」
「えー? 殿下にそんなこと頼めないよ……」
士官学校の女子生徒が一人や二人でアビスに来たら、絶対にごろつきから絡まれる。
クロードやリンハルトは出入りしているようだけど、あいつらは最初にここに来てアビスの連中とも顔見知りになっているし、なにより男子生徒だからな……
「よお、“へっぽこ呪術士”……アビスに女連れでくるとは良いご身分だなぁ!?」
「どっちもなかなか良い女じゃねえか……グヘヘ、嬢ちゃんたち、こんなやつとじゃなくて俺らと遊ばねえか?」
そんなことを言ってるとすぐにごろつきどもから絡まれてしまった。
こいつらは
傭兵や元山賊、お尋ね者など地下でしか暮らせなくなった連中である。
「貴様ら……その蔑称を今すぐやめろ……さもなくば、俺の新呪術“五日間鼻水が止まらなくなる呪い”をその身で受けることになるぞ……!」
「な、なんて微妙な呪いだ……でも、受けたくねえ……!」
「……し、“漆黒のオーディン”さん、冗談ですよぉ……俺らとアンタの仲じゃないですか……よっ、フォドラ一の呪術の天才! ガルグ=マクの伝説の男!」
「……わかれば宜しい。今後はその“ガルグ=マクの伝説の男”という異名を広めるのだ……なるべく大声でな……」
ごろつきたちが退散していったのをアネットとメルセデスが驚いた表情で見ている。
治安が悪いと説明してすぐにこれだからな……
「な、治安が悪いだろ?」
「ず、随分馴染んでるね……」
「知り合いとふざけあってるようにしか見えなかったわ~」
アネットたちと会話をしていると、今度はユーリスとバルタザールが現れた。
「よお、オーディン。お前は相変わらずだな」
「“へっぽこ呪術士”がアビスに女連れとは良いご身分だなぁ!?」
バルタザール……さっきのごろつきとセリフが被っているぞ。
「おお、ユーリス、丁度良かった。無事〈トリックスター〉になれたから、お前とハピたちにお礼のお菓子を持ってきてやったぞ……甘い物は好きだったよな?」
「まあ、たしかに好きだが……お前が菓子だあ?」
「俺はレシピを提供して、作ったのはほとんどこの二人だけどな」
「
「メルセデス=フォン=マルトリッツよ~」
「ああ、こいつはどうも。俺はユーリス、一応このアビスのまとめ役みたいなものをしている」
「俺は“レスターの格闘王”バルタザール様だ。よろしくな、嬢ちゃんたちよお」
そういうとアネットたちとユーリスたちが自己紹介し合う。
アネットもメルセデスも名前で貴族出身者とわかるからユーリスたちも紳士的だ。
「作ってきてくれるのは良いが、アビスは物騒だから普通の女子生徒は連れて来るなよ……」
「俺もそう思ったんだけど、メルセデスがコンスタンツェは子どもの頃の知り合いだって言うからさ……」
「へえ……あの日陰女のガキの頃の知り合いね……そういうことなら、まあ良いか。あいつらは部屋にいるだろうし、そっちに行くか」
……ひ、日陰女か……由来はわからないがコンスタンツェもなかなか酷いあだ名を付けられているな。
ハピたちはアビスの
部屋に行くとハピもコンスタンツェもいた。
「なにー? ディン、また闇魔法の開発でもしにきたの?」
「いや、今日はそのお礼にお前らに我が究極のお菓子を持ってきてやったぞ……」
「へえ、お礼にお菓子? やるじゃん!」
「おっーほっほっほっ! 殊勝な心がけですわね、褒めて差し上げますわ! ……でも、そちらの士官学校生は……?」
コンスタンツェは気になったのかメルセデスを見ながら答えた。
アネットもいるのだが、コンスタンツェの視線はメルセデスに釘付けだ。
「……コンスタンツェ、久しぶり。私、メルセデスよ……覚えてるかしら、昔バルテルスの家でよく一緒に遊んでたわよね」
「まさか……貴女は……お姉様!!」
「覚えていてくれたのね、嬉しいわ」
「ああっ……貴女を忘れるはずはありませんわ! ずっと、ずっとお会いしたかったですわ、お姉様!」
コンスタンツェはメルセデスに抱き付いて喜んでいる。
“お姉様”か……思っていたより、ずっと親しい仲だったみたいだ。
二人がひとしきり再会を喜びあったあと、落ち着いたらお菓子を取り出す。
「……この黒き闇を思わせるその混沌とした大地に、ほのかな甘さと同時に漂う苦味……! 濃厚なる二層の地平を持った草原……! その名も……!! ダブルブラックビター・グラスラントだ!!」
「名前は……アレだけどびっくりするくらい、美味しいよ!」
「私も初めて作ったけど自信作よ~」
アネットとメルセデスが俺の取り出したカカオ風味の独特な色と匂いのケーキ、ダブルブラックビター・グラスラントを皿に取り分けていく。
その間、コンスタンツェがお茶を淹れてくれている。
「色はあまり美味そうじゃねえけどな……テフでも使ってるのか?」
「あっ、鋭いねユーリス! カカオ豆っていう、テフ豆に似てる苦い豆を使ってるんだよ」
「ハピ、テフは好きだよ。あー……なんかこれ、匂いだけでめっちゃ美味しそうなんだけどー!」
「お姉様の作ったお菓子をまた食べることができるなんて感動ですわ……!」
「甘いもんは好きでも嫌いでも無いんだけどな……珍しいもんが食べれるなら食うしかないだろ!」
「バルタザール……貴様には世話になっていないから食べなくてもいいんだけどな……」
「ふふっ、固いこと言わないでオーディン。沢山あるから皆で食べましょう」
それぞれの下へケーキが行き渡ったあと、皆で食べる。
あ~美味い……至福の時間だ……そういえば、ラズワルドやルーナに声をかけるのを忘れていたな……まあ、あいつらは休みの日はどこかをぶらぶらしてるから捕まえられなかっただろうし、今回はいいか……
「……あー、めっちゃ美味しい! ディン、あんたサイッコーじゃん!!」
「なんて上品な味ですの……! これ、貴族社会でも流行りますわよ!」
「たしかにうめぇな……貴族のご令嬢たちは夢中になりそうな味だ……酒のつまみにはならなそうだが……」
「……ああ、俺も驚いたぜ。こんな代物めったにありつけるようなもんじゃない……オーディンがレシピを持ってきたって言ったよな。どこで手に入れたんだ?」
「俺の国にいた頃、仲間が作ってくれたんだよ……俺の国でもカカオ豆は滅多に手に入らないけど、今回は商人の伝手でたまたま手に入ったんだ」
前の世界の仲間の一人がお菓子作りが好きだったので、よく俺に作ってくれてたんだよな……親戚以外の女子の仲間の中では一番気が合う娘だった。
……俺の呪術の師匠の娘でもあるしな!
しかし、この世界でもカカオ豆が手に入ったということは、やはり前の世界と似ている部分は多いということが考えられる。
「あー美味しかった。ディンにいろいろ教えて良かったー……アンもメーチェも作ってくれてありがとね」
「あっ、うん……なんかメーチェ以外に『アン』って呼ばれるの新鮮だね」
「そうね~王国の魔道学院にいた頃は呼ぶ子は多かったんだけどね~」
「あら、お姉様たちは王国の魔道学院にいらしたの?」
食べ終わったあとは雑談タイムだ。
基本的に再会したばかりのメルセデスとコンスタンツェが話をしてアネットとハピも会話に加わる程度だ。
「そういえば、聞いたぜオーディン。またやらかしたんだってな」
「邪竜の幻影の件か……アレのせいでMVPを取り逃しちまったぜ……まあ、勝てたから良かったけど」
「今年は他の年に比べると遥かにレベルが高かったらしいな……帝国の軍務卿だったかが、お前ら
俺を含んだ野郎三人は鷲獅子戦の話で盛り上がっている。
帝国の軍務卿っていったらベルグリーズ伯だな……グロンターズ平原を領地に持つフォドラ最強の呼び声高い猛将だ。
カスパルの親父さんでもある。
「ああっ……私、夢を見ているようですわ! メルセデスお姉様に再会できるなんて!」
「そうね~最後に会った時は小さかったのにすっかり大きくなっちゃって~」
「本当に心配しましたのよ! お姉様がバルテルス家を出たと聞いて……会いに行っても門前払いで、無理矢理エミールに聞いても何も話さないし……」
「ごめんなさいね。あの頃は、バルテルス家の中でもいろいろあって……」
「それに……4年前、エミールがあんな痛ましい事件まで起こして……行方不明になって……」
エミールというのはメルセデスの弟のことだ……バルテルス家の当主や一族が不審死したときに行方不明になっていた。
俺の予想ではその『エミール』は士官学校で教師イエリッツァとして過ごし、その正体は死神騎士だった。
しかし、これをアネットとか皆がいる前で言ってもいいのだろうか……?
迷っているとメルセデスと視線が合う……メルセデスの顔にはいつも浮かべている微笑みはなく辛そうな表情だ。
「メルセデス……俺、その事を知ってしまっているんだが……言ってもいいか?」
「……オーディン、やっぱり貴方、気づいていたのね」
皆は無言で話を促す。
ユーリスやバルタザール、ハピは他人事のような様子だが興味は有るようだ。
「そのエミールって……イエリッツァ先生のことだよな……?」
「……ええ、そうよ」
「えーっ! 本当なの、メーチェ?」
「あぁん? ちょっと待て。ソイツって居なくなった仮面の教師のことだよな……ってことは!?」
「噂の死神騎士の正体がメルセデスの弟だったって訳か……」
推理を口にしようとしたら、ユーリスが答えを言ってしまった。
しかし、やはりそうだったのか……
「……オーディン、貴方には感謝しているわ。あの子が居なくなる前……フレンが拐われる前に、少しだけ話をすることができたの……」
「そ、そのときエミールはなんと仰っていましたの?」
「『私に関わるな、私はもう既にお前の知っている私ではない』って……」
話かけることはできたけど、拒絶されてしまったのか……
予想はしていたが、フレンを拐い俺たちとも死闘を繰り広げた死神騎士の正体が友達の弟だったなんて……
「しかし、弟が教団を敵にまわしちまったのか……セテスの旦那の妹君を拐った犯人っていうのなら、赦しちゃくれねぇんじゃねえか?」
「教団ってなんか変に疑ってくるところあるし、知られたらメーチェも危ないんじゃないの?」
「えっ? ……そんな、メーチェが……みんなお願い! このことは誰にも言わないで!」
バルタザールとハピが不安を増加させるようなことを言って、アネットが焦り出した。
たしかに教団の関係者たちに知れたら面倒なことになりそうだ。
「メルセデス……お前は……イエリッツァ先生をエミールをどうしたいんだ?」
俺は一番聞きたかったことをメルセデスに問いかけた。
「私は……あの子を助けたいわ……お母様も私も、ずっと後悔してきた。一緒に連れて来ていれば、あんな事件を起こすことも、今みたいなことにもならなかった……」
顔を伏せながら手を祈るように組み、メルセデスはそう口にした。
「……わかった……それなら俺も手を貸そう」
「……えっ? オーディン、でも、それは……」
メルセデスが驚いて顔を上げた。
泣きそうな表情をしているが、泣いてはいないようだ。
本当に強いな……メルセデスは。
「……俺は“漆黒のオーディン”、世界を救いに来た選ばれし闇の呪術士だ。友達の弟一人救えないような奴に、世界は救えないだろう?」
「けっ、格好つけやがって……美女のお願いだ、このバルタザール様も手伝ってやるよ!」
「ディン、バルト……何か手はあるの?」
「死神騎士が炎帝という教団に何かをしでかそうとしている者の手下なのは確かだ……生け捕りにする作戦を具申すれば、聞き入れてもらえるかもしれない。生け捕りに出来たらレア様やセテスさんを説得して助命してもらって……」
「……聞いてるだけで、勝ち目の薄い賭けだと思うぞ、それ……何度も賭けに勝たねえとならない」
「……フッ、やらないよりはマシだ」
「あ、あたしも手伝うよ! メーチェはあたしの親友だもん!」
「もちろん、お姉様のためと有らば、このコンスタンツェ=フォン=ヌーヴェル! 協力を惜しみませんわ。エミールとも知らぬ仲ではありませんし」
「またケーキ作ってくれるなら、ハピも手伝おっかな……」
「俺も情報やら何やら集めてやるか……全くお人好しだな、お前ら……」
「……オーディン、アン、コンスタンツェ……みんな、ありがとう……」
そうと決まれば、もっと作戦には協力者が必要だ……!
前に連携して死神騎士を倒したラズワルドとルーナ、先生とクロードと……あとは拐われた張本人であるフレンにも話をしておくべきか……?
とにかく、やってやるぞ!
──仲間たちよ運命を共に……!!
次回は先生ソティス外伝になります!
補足
ダブルブラックビター・グラスラント
チョコレートケーキのこと
ウード・ノワール支援
*風花雪月無双で判明した
アネット・コンスタンツェ支援によりセリフ修正