ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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第41話『ガルグ=マク大修道院の日常』

 

 

 俺は“漆黒のオーディン”、“狂気の天才策士”、“ガルグ=マクの伝説の男”、“稀代の天才呪術士”などの異名を持つ選ばれし闇の呪術士だ。

 

 

 救い出されたマリアンヌは誘拐されてそれほど経っていないこともあり、すぐに授業に復帰することができるらしい。

 他の四人の生徒は数人が体調不良を訴えている以外は命に別状はないが……誘拐された精神的なショックが大きかったらしく要観察だそうた。

 

 マリアンヌたちを誘拐した魔導師たちの一部を捕らえることができたので、いずれ奴らの目的や情報も出てくることだろう。

 

 身近な学友が誘拐されるという事件に生徒たちの受けた衝撃は大きかったが、単独攻撃を避ける、学友の動向に注意するなどの対策を生徒たちが自ら考え発案し、より士官学校生の団結が深まっていく結果になった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 今日は先生による地理の授業だ。

 すでにフォドラの主要な地理地形については過去の授業で学んだことが多いので、今は生徒たちが覚えているかの確認を中心に授業を行っている。

 

 そういえば、先生も傭兵生活が長かったからか訪れたことのある地形の特徴なんかには詳しいけど、行ったことのない都市、河川、山の名前などは全く知らなかったので着任した当時は苦労していた様子だったなぁ……

 

 

「じゃあ、オーディン。フォドラにある三大要塞の名前を言ってみて……」

 

「フッ……この“漆黒のオーディン”にとってその程度の問題、朝飯前だ……帝国の“頑固な老将軍”の異名で知られるメリセウス要塞、王国の“白銀の乙女”城塞都市アリアンロッド、そして同盟の“フォドラの首飾り”ですね」

 

 

 こういう、俺の血を騒がせるような異名を持つものを覚えるのは得意だ。

 ちなみに帝国のメリセウス要塞はカスパルの親父さんである軍務卿ベルグリーズ伯、王国の城塞都市アリアンロッドはかつては帝国貴族だったローベ伯、フォドラの喉元にそびえ立つ“フォドラの首飾り”にはゴネリル公の嫡子でありヒルダの兄でもあるホルスト卿がそれぞれ治めている。

 

 

「正解。異名まで良く覚えているね。まずはアリアンロッドは地図でいうとどこになるか……ラファエル、前に出て指してみて……」

 

「うーん……どこだったかなぁ? ……ここかぁ?」

 

「そのあたりはトータテス湖だね……アリアンロッドはこっち」

 

 

 ラファエルが間違えた場所を指し、先生が突っ込みをいれると周りからはクスクスと笑い声が溢れる。

 ラファエルは相変わらず飯と筋肉のことしか頭にないのか座学は苦手みたいだ。

 

 しかしトータテス湖か……ラファエルがたまたま指した場所のトータテス湖は以前ハンネマン先生が言っていた、聖インデッハの可能性がある神獣が棲む湖だ。

 あれからいろいろ調べ直したが、ハンネマン先生が立てた仮説のような神獣=聖人を示す記述をいくつか見つけることができた。

 大半はアビスの地下書庫にある信憑性の乏しい書物からの内容だが、女神の御使いとして伝えられている巨大な白竜……“白きもの”は聖者セイロスと同一の存在らしい。

 その“白きもの”が、もし前の世界にいたマムクート族のような長命な種族であるなら、以前エーデルガルトが言っていた「千年もの間、人を支配し続け、自分たちにとって都合の良い世界を作ろうとしている」という話も筋が通っている。

 ……それならば、現在のセイロス教の頂点である大司教レア様は……

 いや、それは考え過ぎか……そもそもアビスの地下書庫には出鱈目な記述の書物が多いし、教会の不利益になるような蔵書をあえて保管している部分もある。

 

 

「レスター諸侯同盟にある“フォドラの首飾り”の歴史とその役割を……ヒルダ、答えてみて」

 

「えー、それをゴネリル家のあたしに振っちゃうの? まあ、いいけど……“フォドラの首飾り”は九六一年に起きたパルミラ襲来を撃退したあと、次のパルミラ襲来を防ぐために同盟と王国、帝国が一丸となって“フォドラの喉元”のゴネリル領側に作った要塞だよ」

 

 

 ヒルダが先生に振られた質問にスラスラと答える。

 ヒルダはゴネリル家の娘なだけあって、“フォドラの首飾り”については詳しい。

 “フォドラの首飾り”は現在も時折攻めてくるパルミラ軍を打ち払うのに大いに役立っているようだ。

 

 ファイア~エムブレム~♪ 

 

 時間を知らせる教会の鐘が鳴り、今日の授業が終了する。

 この鐘の旋律、聞いたことがなかったはずなのに、初めて聞いた時から妙にしっくりくるのは何故だろう? ……謎だ。

 

 

「みんな。今日は解散の前に、今節の十六日に開催される白鷺杯の代表を決めておきたい」

 

 

 先生が授業後もみんなを残して話している。

 白鷺杯というのは各学級から一人ずつ代表を選び、舞踊と技の美しさを競う踊りの大会だ。

 優勝した生徒には、貴重な「踊り子」の兵種の秘伝書が与えられる。

「踊り子」という兵種自体には興味はないが、兵種の秘伝書というのは凄く気になるな……試験パス以外にも新たな兵種になる方法か……

 

 

「代表は先生が選ぶんですよね? あたしでもいいですよー? 得意なんで!」

 

「迷う必要などない。学級代表は僕に任せてくれたまえ」

 

 

 踊りが好きなヒルダと目立ちたがり屋のローレンツが立候補している。

 

 

「残念ながら、もう決めてる。ヒルダとローレンツじゃないよ」

 

「えー、やる気満々だったのにー!」

 

「僕以外に適任がいるとは思えな……いや、彼か……」

 

 

 先生と周りのみんなからの視線が()()()()に集まる……

 

 ──フッ……みんな気づいてしまっていたか……この“漆黒のオーディン”の踊りの才能に……

 

 

「フッフッフッ……俺に代表をやれと言うんですね……俺の考えたかっこいい動きと舞踊の融合……“漆黒のオーディン”! 今ここに降臨!」

 

「代表はラズワルドにやってもらう」

 

「ええっ、僕!?」

 

 

 俺の()()()()に座っていたラズワルドが指名されて驚きの声を上げた。

 お、俺じゃなかったのか……みんなが俺の方向を見ていたので勘違いしてしまった。

 

 

「踊りはたしかに好きだけど……みんなの前で踊りを競うなんて、その……恥ずかしいよっ……!」

 

「いや、いつもみんなの前で踊ってるだろ」

 

 

 ラズワルドが戦場でも踊ってみんなの士気や能力を上げていることは金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)どころか他の学級にも知られていることだ。

 今さら恥ずかしがることはないと思うのだが……

 

 

「あんた、前から〈踊り子〉になりたがってじゃないの? ……まあ、出たくないっていうのならあたしが出てあげるわ。……踊りも一番になってみせるんだから!」

 

「いや、ルーナ。ここは俺が出場しよう……この“漆黒のオーディン”、新たな伝説……輪舞曲(ロンド)のはじまりだ!」

 

「……それ、君たちが出たいだけじゃないの?」

 

 

 結局、金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)の白鷺杯代表はラズワルドに決まったのだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 放課後、温室に向かうと珍しい人物がそこにいた。

 普段は、地下でしか見掛けないコンスタンツェが温室の花壇の前でぼーっと立っている。

 俺はコンスタンツェと一緒に花に関連する魔法を多く開発しているので、こいつが花が好きなのは知っていたが地上で会うのは初めてだ。

 

 

「コンスタンツェ、貴様が地上に居るとは珍しい……貴様は深き闇世界の住人だと思っていたのだけどな……」

 

「これはこれは、オーディン様。この地上で私などの顔は見たくないと……そう仰るのですね。すぐに私にお似合いの薄暗く薄汚い地下街へと戻りますので……それでは、ごきげんよう」

 

「え、えぇ……?」

 

 

 いつもなら「おーっほっほっほ」と高笑いで話し始めるか、「(わたくし)が闇世界の住人!? どういう意味ですの!?」と怒り出すかのどちらかなのに、今日は随分と様子が違うぞ……? 

 

 

「どうしたんだ、コンスタンツェ? 何か悪い物でも食べたか?」

 

「いえ、私が食べているのはいつもの地上からアビスに施される残飯……下賤な私には十分過ぎるほど豪華な食事ですわ」

 

「いや、残飯が豪華な食事ってどういうことだよ……?」

 

 

 なんだこいつは……本当にあのコンスタンツェなのか……? 

 誰かに成り代われているのかと思うほど性格が違うぞ。

 何か怪しい魔法の実験にでも失敗したのかな……とにかく、こんな状態で放っておけないよな。

 

 

「今日のお前は体調がおかしいみたいだから、もうアビスで休んだほうが良いだろう」

 

「おやめください、私の汚い手に触れては貴方様が手が……」

 

 

 とりあえず、コンスタンツェの手を引いてアビスに連れ戻す。

 コンスタンツェは口ではそう言ってるけど抵抗する気は全くない様子で手を引かれてついてきた。

 

 

「オーディン! もう結構ですのよっ! 離して下さいまして」

 

「おわっ!? コンスタンツェ……元に戻ったのか? 本物なのか……?」

 

「ええ、そうですわ。(わたくし)は正真正銘、本物のコンスタンツェ=フォン=ヌーヴェルですわ!」

 

 

 アビスに繋がる地下通路まで来ると今度はいつものコンスタンツェに戻っていた。

 

 

「どういうことだよ……?」

 

「……これには深い事情がありましてよ」

 

 

 そういうとコンスタンツェは性格が豹変してしまう理由を語り始めた。

 ブリギッド・ダグザ戦役で家族や領地を失ってしまったコンスタンツェはお家再建のため魔道の研究を徹夜で頑張っていたらこうなってしまったらしい。

 日に当たるとネガティブな思考になるなんて、変わった奴だが……幼馴染みの一人に怒ると性格が豹変する奴がいるので、妙に親近感が沸くな……

 

 

「オーディン……私の人格を一つにするのに役立ちそうな呪術はありませんの?」

 

「うーん……人と体を入れ替える呪術なら知ってるけど……応用できるかなぁ?」

 

「人と体をっ!? どんな呪術ですの、詳しく知りたいですわ!」

 

「……口で説明するのも難しいし、試しにやってみるか」

 

 

 人と体を入れ替える呪術は俺が師匠に教えてもらった呪術の中でも、秘術の中の秘術だ。

 自分と他人の体を入れ替える呪術なのでいまいち何に使うかわからない術だったがコンスタンツェの二重人格を治すのには役立つかもしれない。

 

 ──こうして……こうやって……ええいっ!!! 

 

 視界が暗転し切り替わる……目の前には呆然とした表情の俺“漆黒のオーディン”の姿がある。

 

 

「……成功したようだな」

 

 

 俺もコンスタンツェの体になっているようだ。

 なんか女の人の体になるのは初めてだから違和感しかないな……コンスタンツェは、その……胸が結構あるから、肩が重いような気がする……あとスカートだから下もスースーする。

 

 

「……(わたくし)、今、オーディンになっていますの?」

 

 

 目の前の俺(中身はコンスタンツェ)が喋っている。

 俺がその口調なのは凄く違和感があるな……

 

 

「コンスタンツェ……俺の体で女口調で喋るのはやめてくれ、変なやつだと思われるだろ……」

 

「貴方も(わたくし)の体で品の無い口調はやめてくださいましてよ! ……とにかくこの体なら日光を浴びても大丈夫かもしれませんわ……」

 

「よしっ! 行ってこい!」

 

 

 コンスタンツェが俺の体で地下通路から飛び出して行く……! 

 その表情は晴れやかな自信に満ちた物だった……! 

 

 

「私はついに体まで失ってしまったのですね。下賤な私にふさわしい、醜い男の体に……」

 

「ダメだったぁ!!」

 

 

 慌てて俺も地下通路から出ると……俺の体にも異変が起きた……! 

 なんだこの気持ちは、闇の力に飲まれる……! まさか……コンスタンツェの体にも日光が影響しているのかっ……!? ……俺の闇の人格が、封印された人格が解放されるのか……! 

 

 ──……我はギムレー……

 

 あ、コレは出たら駄目な奴ぅ!? 

 

 闇の人格になんとか抗いながら、コンスタンツェをなんとか日光の当たらない場所まで避難させた。

 

 

「……おかしいですわ! このオーディンの体でも、(わたし)が出てきてしまうなんて……」

 

「……しかし、俺もこの体で日光を浴びたら闇の人格が目覚めそうになった……この実験は危険だ、もう止めよう……」

 

 

 呪術を解くと視界が暗転し元の体に戻れた。

 やはり自分の体が一番馴染むな。

 

 

「……オーディンの体に入って少し理解できた気がしますわ。きっと、あの人格は(わたくし)の身体ではなく精神に出来たものですわね……それがわかっただけでも収穫としますわ……」

 

 

 

 なお、後日女口調になった“漆黒のオーディン”が怪しい実験をやっていると噂が広まり、セテスさんに説教される羽目になった……解せぬ。

 

 

 

 

 




日常…??
日常回ってこんな感じで良いんですかね…

補足

人と体を入れ替える呪い
ヘンリー・スミア支援、オフェリア・ソレイユ支援
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