ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
フォドラ大陸も季節はすっかり冬となり、ガルグ=マク大修道院にも雪が残る場所が増えてきた。
この大修道院は山に建てられているため夏は涼しいが冬は寒い……フォドラ大陸の丁度中心に位置するため更に北にあるフォーガス神聖王国よりかは寒さもまだマシみたいだけどイーリスの冬と比べるとやっぱり寒いわね。
ガルグ=マク郊外の街へ買い物へ行こうとしていると、怪しい人物を見つけた。
「……朝から血が騒ぐ……! この衝動を鎮めに行かなくては……!」
「オーディン。相変わらず、あんたは朝っぱらから騒がしいわね」
左手を右手で抑えながら怪しげな行動を取る幼馴染み……オーディンに声をかけた。
幻影の呪術で闇のようなものを腕に纏わせたり、小技が上手くなってるのがちょっと腹が立つ。
「げえっ! ルーナ!?」
「人の顔を見るなり『げえっ!』って、どういうことよ!?」
「いや……なんでもない。どうした、我が“選ばれし者”の同胞……“紅蓮”いや、“緋炎のルーナ”よ……この俺に何か用か?」
「別に用ってほどじゃないけど……あんた、暇なら付き合わない? ちょうど今から買い物に行くところなのよ」
気晴らしに買い物に行くつもりだったけど、一人だと持てる荷物も限られてくる。
オーディンを連れていけば、良い荷物持ちになるだろう。
だけど、オーディンはすぐに逃げようとしている。
「お、俺はちょっと忙しいんだ。また今度な……」
「こら、待ちなさいよ! どうせ書庫とか温室で遊んでるだけでしょ……たまには買い物くらい付き合ってよ」
「あ、遊んでねえよ! だいたい、お前の買い物は長いうえに奢らされるから嫌なんだ! 他の奴に頼めよ」
「はぁ……そんなんだからあんたはモテないのよ。ラズワルドなら二つ返事で付いてきてくれるのに」
「ラズワルドだってモテてねぇだろ!」
こいつは最近密かに女子と仲良くなっているけど、まだ誰とも恋愛関係にはなっていないようだ。
お父さんを呪術で探し当ててあげたアネット、部屋まで呼ぶような仲になり
まあ、こいつもあたしたちも使命を果たせば元の世界に帰ることになるから、そういう関係になることはないのだろうけど。
「とにかく、今日はあたしの買い物に付き合う! 決定よ!」
「トホホ……勘弁してくれよ」
◇◇◇
「ふぅー、結構いっぱい買えたわね……次は服屋にでも行こうかしら」
「ちょっ、待ってくれよ……持ちすぎて、もう腕がパンパンなんだけど。一回休憩しようぜ……」
「だらしないわねぇ……鍛え方が足らないんじゃないの? ゴボウ食べて鍛えなさいよ」
「岩ゴボウはもう嫌だ……腹も減ったし、どっかでメシにしようぜ」
「いいわよ……当然あんたの奢りよね? まさか女の子に払わせることなんてしないでしょうね?」
「はいはい。だから嫌なんだ……ルーナと買い物に行くのは……」
市場には出店のようなものも沢山でている。
ガルグ=マク郊外の街は巡礼者や観光客も多く他の街と比べてもかなり賑わっているらしいし、セイロス教会のお膝元だけあって治安もかなり良い。
「そういえば、ラズワルドと先生は今日は踊りの練習をするらしいな」
オーディンが串焼きを食べながらここには居ないもう一人の幼馴染みの話題を出す。
「練習ねぇ……そんなことしなくても、あいつが勝つと思うんだけどねぇ……」
ラズワルドは前の世界でもこちらの世界に来た後でも踊りの練習を欠かしたことは無いほどの踊りが好きな人間だ。
前の世界でのお母さんと同じ兵種〈踊り子〉になることができるチャンスに気合いも十分過ぎるほどにあるだろう。
「そう簡単にはいかないだろう……
「そうだったわね……歌劇団の歌姫ならラズワルドと良い勝負になるかしら。
「青獅子は誰が出るかは予想はできないな……案外、ドゥドゥーとか出てくるかもしれないぜ」
「踊りの力強さで勝負ってワケ? 技の美しさを競う大会でしょう」
勝つにせよ負けるにせよ、ラズワルドが皆の前で踊りを披露する機会があるのは正直なところ楽しみだ……口ではあいつも「恥ずかしい」なんて言ってるけどきっとワクワクしているに違いない。
「あとは〈踊り子〉の秘伝書ってやつも気になるな……あいつが優勝したら使ってるところをちょっと見せてもらおうかな……」
「秘伝書なんて見てどうすんのよ? ああいうのは一度使ったらもう使えない物でしょ」
秘伝書というのは前の世界にも有った。
〈秘伝の書〉または〈術書〉は使用するとどういうわけか消えてしまうが、武器の扱いが上手くなる効果があった。
ちなみに、この世界にも全く同じ効果で名前も同じ〈秘伝の書〉はあるみたいだ。
「この世界の兵種って試験パスを使って試験に合格しないと変更できなかっただろ? でもその秘伝書は使えば〈踊り子〉になることができる……前の世界の兵種を再現したい俺にとっては何かのヒントになるかもしれない」
「前の世界の兵種? あんた、そんなことまで考えてたの?」
聞けば、オーディンは〈賢者〉や〈ソーサラー〉などの前の世界にあった兵種をフォドラで再現することを考えているらしい……他にもフォドラ外にある兵種を調べてフォドラで再現しようとしていたり、真剣に考えていることに少し驚いた。
「試験パスってなんとなく、プルフと形が似てるって思わないか?」
「うーん、そう言われればそうかもしれないわね」
あまり興味がなかったのでそれほど覚えてなかったけど、似ているような気がする。
オーディンは下級、中級、上級、闇魔法、地下試験パスのそれぞれの試験を受けたことがあるのであたしたちより詳しいのだろう。
「あーあ……手元にプルフが有ればなぁ……〈マスタープルフ〉とは言わないが〈チェンジプルフ〉くらいは持ってきてれば良かったぜ……」
「持ってきてるわよ?」
「え?」
〈チェンジプルフ〉も〈マスタープルフ〉も荷物の中にあったはずだ。
この世界で使えるかわからなかったから取っておいたのだけど、そのまま忘れてしまっていた。
「お、おまっ……なんで教えてくれないんだ……!」
「はぁ? だって聞いてこなかったじゃないの……あんたがそんなこと考えてるのも今日初めて知ったし……」
「それもそうか……とにかく、そういうわけだから俺にそのプルフをくれないか?」
「別に良いけど、今からの買い物は全部あんたの奢りだからね」
「お、お手柔らかに頼むぞ……」
どうせ使わないし、オーディンに渡した方が役立てくれるだろう……臨時収入も手に入ったし、何を買おうかしら。
□□□
「上手く踊れていると思うよ」
「ありがとう、先生。こういう踊りは初めてだけど、新鮮で楽しいね」
ガルグ=マク大修道院の教室前の広場で僕は先生に踊りの練習を見てもらっていた。
白鷺杯では課題舞踊と自由舞踊の二つの題目で競うらしいが、この課題舞踊は貴族社会で踊ることの多い踊りなので僕にはあまり馴染みのない踊りだった。
「ハンネマン先生、どうですか? 上手く踊れてますか」
「うむ、問題はないようだアネット君」
「ふん、悪くないな……」
「なんでフェリクスまで見てるの……?」
隣では
何故かフェリクスまでアネットの踊りを見ているが……もしかして意外と踊り好きなのかもしれない。
周囲には、フェリクス以外にも暇そうな生徒たちちらほらと居て僕たちの練習を見ている。
「あら、ラズくんも練習? 調子はどうかしら?」
「あっ、ドロテア。僕は絶好調だよ!」
踊りの練習を続けているとドロテアから声を掛けられた。
隣にはマヌエラ先生も居る。
いつからか、ドロテアは僕のことを「ラズくん」と呼ぶようになっていた……なんだか仲良くなれたみたいで嬉しいな。
「
「もちろんよ。選んでくれたマヌエラ先輩……いえ、マヌエラ先生のためにも絶対に負けられないわ」
「ラズワルド、貴方の踊りの噂はよく聞くけど、あたくしの後輩……ミッテルフランク歌劇団の歌姫の力を見くびらないことね」
マヌエラ先生とドロテアはアドラステア帝国の帝都にあるミッテルフランク歌劇団の元歌姫……踊りも歌も生半可なものじゃないことは確かだ。
「少し恥ずかしいけど、踊りで誰かと競うなんて初めてだから、凄く楽しみだよ」
「今回は私と貴方の勝負になると思うけど……私も楽しみにしているわ」
「……ほう、アネットのことは眼中にないと言ってるのか……?」
「えっ? フェリクス、急に何言い出すの……? やめてよ」
ドロテアと話をしているとフェリクスが割って入ってきて、それを見ていたアネットが困惑している。
確かにドロテアの言い方だと、そう聞こえてしまっても無理はないけど……
「……アネットちゃんの踊りは可愛くて良いと思うわ。でも、貴女には正直負ける気はしないわね、残念だけど」
「うっ……確かに、ドロテアに比べるとあたしの踊りは……」
「ふん、アネットを見くびるな。……それに、
「……えっ、秘策? あたし、聞いてないんだけど……」
本人もわかっていない秘策って……一体何をするつもりなんだろう。
「秘策って……課題舞踊でするわけないでしょうし、自由課題で何かするつもりかしら、ハンネマン?」
「そのあたりは我輩もよく分からないな。全てフェリクス君に任せてある」
「あたくしの後輩……ドロテアの自由課題に小手先の術で勝てるとは思わないことね」
「ふん、君の得意分野で我輩の生徒たちが君の生徒を打ち負かすことを楽しみにしているよ、マヌエラ」
「勝つのはラズワルド」
先生たちも火花をぶつけ始めた……楽しい大会になると思っていたのにこれは波乱になるかもね。
まあ、僕も負けるつもりはないけど。
短いけど投稿
白鷺杯はとある外伝を挟んで次々回予定です