ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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活動報告に『金鹿の学級モブ生徒16名の詳細設定』を投稿しました。
本作品の裏設定的な資料です。


第45話『死の運命』

 俺は“漆黒のオーディン”、世界を救うために召還された女神に選ばれし闇の呪術士だ。

 

 昨日、女神の塔で先生に俺たちの使命を打ち明けた後、舞踏会に戻った俺は宴会限定の新たなる呪術、ピュアジンク・キュイジーン・トメイトゥを披露した。

 この呪術は大量のトマトを召還するという、極めて画期的かつ革新的な呪術であったが……予想に反してみんなからの評判は最悪であった。

 周囲の人間をトマトまみれにしてしまい、怒った生徒からトマトを投げつけられてしまうし、怒ったセテスさんからトマトで汚れた大広間の清掃を一人で命じられる始末になってしまった。

 俺の予定ではこの呪術が認められて世界の覇者になる予定だったのに……なぜだ!? 

 

 

「あっ、ジェラルトさん、戻って来てたんですね」

 

「おう、オーディンか。前の任務が長引いてな、今戻ったところだ」

 

 

 舞踏会の次の日の昼過ぎ、大修道院を彷徨いているとジェラルトさんを見かけたので声をかける。

 ジェラルトさんは任務で忙しく各地を動き回っているので、最近は大修道院にいることが少なかったのだ。

 

 

「生徒は舞踏会で浮かれてたっていうのに、騎士は各地で任務ですか……大変ですねえ」

 

「そう言うのなら、お前らがとっとと卒業して楽させてくれ。お前ら三人とも傭兵の時よりだいぶ成長してるんだろ?」

 

「フッフッフッ……もちろんだ! この“漆黒のオーディン”の成長はすでに天元突破し、新たな高みへ……」

 

「あー、長くなりそうか? 今からレア様に報告に行くんだか……」

 

「……つれないですね。まあ、三人ともできることは増えてますよ」

 

 

 レア様の元に向かいながらジェラルトさんと話す。

 傭兵時代は三人とも剣一辺倒で俺がせいぜい少し白魔法が使えただけだったが、今はラズワルドは斧と弓と格闘を修め最近新兵種〈踊り子〉になり、ルーナは槍と飛行術を極めて〈ペガサスナイト〉として成長し士官学校在学中の生徒としては数年ぶりに最上級職に届くかもしれないと言われている。

 俺も魔法は黒魔法〈ファイアー〉〈ブリザー〉〈トロン〉白魔法〈ライブ〉〈リザイア〉〈リカバー〉〈リザーブ〉〈ワープ〉に加え闇魔法の〈ミィル〉〈リザイア〉〈ルイン〉〈スライム〉〈イル〉を使えるようになっている……これは戦闘で使える魔法の多彩さでは生徒どころか教団の中でもトップらしい。

 

 

「お前らの目的ねえ……まあ、落ち着いたら後で聞く」

 

「先生にも昨日話したんですけど、体調が悪かったみたいで……先生とあいつら二人もあわせて今度五人で集まって話ましょう」

 

「ベレスの体調がか……慣れないことばかりで無理しちまってるのかもな」

 

 

 そんな話をしながら謁見の間までたどり着くと、先生とアロイスさんが話し込んでいた。

 

 

「おお、団長! 大変です! 礼拝堂の辺りに魔獣の群れが現れたと知らせが……!」

 

「そんな馬鹿な話があるか。城郭が破られたって報告は聞いてねえぞ」

 

「だから、急ぎ確認に向かおうと! 団長も行きますよね!?」

 

「あたり前だ。礼拝堂は俺とベレス(こいつ)が警戒と調査を命じられてた場所なんだよ」

 

 

 今節の課題はジェラルトさんの言う通り礼拝堂の警戒と調査だった。

 確かに侵入した痕跡はあったし、生徒たちが交代で警備をしてたのだけど、それ以外に特に異常は見受けられなかった。

 

 

「魔物の群れはどこから来た?」

 

「妙な話だが……その前に修道士や兵士たちが礼拝堂のほうに行くのを見た者がいるのだ。どうも様子がおかしかったらしいから正気ではなかったのかもしれん。で、それより数刻のち、魔物がぞろぞろと現れたという話なのだ」

 

 

 先生の問いかけにアロイスさんが答えた。

 様子がおかしいかった、か……思い出されるのはルミール村の一件だ。

 あの時も暴れだす前に村人たちの様子がおかしかったらしい。

 

 

「……魔獣が外から侵入したはずはねえ。もしかすると……ま、今は考えるより行動だ。お前はすぐに学校のガキどもを招集しろ。俺は先に行ってるぞ!」

 

「わかった。オーディン、信号魔法でみんなを集めて」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 休日だったので金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)全員を揃えることができなかったが、ある程度の人数が集まったので先行していたジェラルトさんに合流した。

 

 礼拝堂の周辺には魔獣の姿が……7匹確認できる。

 7匹全てが背びれが赤く、体もいつものはぐれ魔獣よりいくらか細い見たことのない種類の魔獣だ。

 一部の魔獣たちが追っているのは……生徒か! 

 

 

「確かに魔獣どもがいやがる……出どころは礼拝堂と見て間違いねえだろう。お前らは逃げ遅れた生徒たちを保護してやれ!」

 

 

 ジェラルトさんはそう言うと騎士団を率いて礼拝堂へと向かう道を遮る魔獣を排除しにかかった。

 

 

「先生、逃げ遅れた生徒は三人だ東と西と北西。それぞれ魔獣に狙われてるぞ!」

 

「わかった。三部隊の第一編成、クロードは東、オーディンは西、私はセイロス騎士団と共に北を突破して北西の生徒を助ける!」

 

「了解!! 魂が躍動する……!」

 

 

 クロードの報告で状況を確認した先生が指示を出す。

 西のルートは障害物が少なくて歩兵や騎兵でも移動がしやすい……先生はいつも通り的確な指示を出している、体調に問題はなさそうだ。

 

 

「きゃっ! こわ~い! 助けて~!」

 

 

 襲われているわりにぶりっ子のような声を出しているのは金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)の女子生徒だった。

 女子生徒は武器を持っていないが、あの様子を見る限り怪我はしていなさそうだ。

 

 

「計略発動! かつて壊刃が率いし傭兵たちよ……! その力で強大な魔獣を討滅せよ! 〈一斉突撃〉!!」

 

「勝手に過去にするなよオーディン! 俺たちゃ今でも“ジェラルト傭兵団”だ!」

 

「大陸最強の傭兵団のお通りだあ!!」

 

「行くぜえ! おらおらおらあっ!!」

 

 

 元木こりの斧使い三人組を先頭にジェラルト傭兵団が突撃していく。

 初見の魔獣が相手でも精鋭傭兵団は狼狽えることはない。

 これで、計略を食らった魔獣はしばらく動けなくなるだろう。

 

 

「ぶっ飛ばすぞコラ!」

 

 

 計略が決まった隙を突いて、()()()()()()()()()()が素手で魔獣を殴りつける。

 〈ウォーリアー〉であるこの女子生徒は圧倒的な腕力と高い格闘術の技術を持ってるのだ。

 

 

「やだ、私ったら……」

 

「仮面使いの術など、この俺には通用しないぞ……それよりもなぜこんなところに?」

 

「宛名のないお手紙が落ちてて、この場所に来るように書いてあったんですよ~怖かったぁ」

 

 

 今襲われている生徒たちは誘き出されたのかもしれないな。

 魔獣を難なく仕留めた〈ウォーリアー〉の女子生徒に斧を渡して次の戦闘に加わってもらうことにする。

 そういえば、女性は〈拳闘士〉〈グラップラー〉〈ウォーマスター〉になれない問題もあったな……この女子生徒のように明らかに斧術と格闘術が得意なのに最上級職になれないのは考える必要がある。

 しかし、俺の世界でも〈バーサーカー〉という兵種はあったけど、あれも男性専用職だったんだよなあ。

 

 

「お、オーディンさん、見てください……! 魔獣の中に人が……!?」

 

「なにっ……!?」

 

 

 イグナーツの声の先に目をやると……魔獣を倒したところに人が倒れていた。

 格好はガルグ=マクの修道士のようだが、すでに息を引き取っている。

 

 

「敵は人間を魔獣にして操っているようだな……」

 

「そんな、こんなことって……」

 

「イグナーツ、落ち着け。コナン塔でも賊が魔獣になっていただろう……それを何者かが真似ているんだ」

 

 

 なんとなく予想していたが、魔獣の正体はやはり人間だったようだ。

 こんなことする連中は、俺たちの使命の敵である()()()に違いない。

 警戒してあたらなければ。

 

 

「グルルルゥゥ!」

 

 

 北側から二匹目の魔獣が現れて、意識をそちらに向ける。

 

 

「みんな! 魔獣になっている人を助けられないか試したい! 障壁を全て破壊してくれ!」

 

 

 障壁を全て破壊し、人間相手なら非殺傷で気絶させることも可能な闇魔法を用いて魔獣を倒しても、魔獣になっていた者(次は兵士だった)は助け出すことができなかった。

 すでに死んでいる人間には上位の回復魔法を使っても意味はない。

 

 ──また助けられなかったか……

 

 先生の部隊から信号呪術〈流星〉で全ての魔獣を討滅したとの報せがあった。

 ジェラルトさんが向かった礼拝堂の捜査を手伝うために移動することにする。

 

 空も澱んできたし、一雨きそうかな……

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 雨の中で何かに集っている金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)の生徒たちを見つけて最大限に悪い予感を感じた。

 先生の部隊のようだが……まさか、誰かやられたのか……! 

 

 

「……師匠、嘘だろ……こんなことって」

 

「団長……そんな……なんで……」

 

「……っ……」

 

 

 倒れた誰かにすがり付いて泣くレオニー、ルーナ……先生。

 横たわる大柄な人物は生徒ではなかった。

 

 

 ──世界を救うために現れた? お前ら、確かにまだガキだが……もうそんな年でも無えだろう? 

 

 

 初めて会った時にした会話を思い出す。

 あの時は少し話しただけだったけど、信じてはくれなかった。

 

 

「……少し、どいてくれ……今、治療する……」

 

 

 〈リカバー〉

 士官学校に入って一番最初に覚えた魔法だ。

 同級生で誰も使える人がいなくてみんなに自慢してまわった。

 

 

 ──ウチの連中は腕っぷしは確かだが、回復魔法はてんでダメでな。お前みたいなのがいると助かるぜ

 

 

「〈リカバー〉、ジェラルトさん……起きてくれ……」

 

 

 この人がやられるはずはない……誰よりも強かった……俺が知る英雄たちを入れた中でも間違いなく最強を争える……そんな、人が……

 

 

 ──三人相手とはいえ、この俺がここまで綺麗にやられるとはな……お前ら三人なら英雄の遺産持ちでもなんとかできそうだ。良い拾いもんしたな!

 

 

「なんでだ……? 〈リカバー〉! ……クソッ……発動しない……」

 

 

 俺はジェラルト傭兵団の回復要員だぞ……! 俺が治療できないと……ジェラルトさんが……

 

 

 ──俺は死なねえよ、もう何年生きてると思ってるんだ

 

 

 回復魔法は発動しない。

 どれだけ上位の回復魔法でも、死者を甦らせることはできないのだ。

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