ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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第47話『壊された日常』

 

 

俺は“漆黒のオーディン”、守りたい世界(もの)のため、時空(とき)を超えて現れた選ばれし闇の戦士だ。

 

 

セイロス騎士団騎士団長ジェラルト=アイスナーの葬儀はしめやかに執り行われた。

参列者は故人と親しい者のみとされていたが、大司教様をはじめ多くの教団関係者や騎士団員、ジェラルト傭兵団、士官学校の生徒たちが参列し多くの人に死を悼まれた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

ジェラルトさんの葬儀の翌日から、士官学校の授業は再開された。

一度も授業をサボったことのなかったルーナやレオニーをはじめ一部の生徒が授業に出ていないのに、一番悲しいはずの先生は目を赤くしながらいつも通り授業をおこなっている。

 

先生は、先日イングリットをお茶会に誘って、彼女の誕生日を祝ったらしい。

ジェラルトさんが亡くなって数日しか経たないのにお茶会で誘われ贈り物まで用意されていたことにイングリットは凄く驚いたみたいだ。

 

 

「先生はいつも通りに振るまってるけど…絶対無理してるよね」

 

「俺たちに情けない姿を見せないようにしてるのかな…」

 

 

先生は元々無表情な人だが、ガルグ=マクに来てからは分かりやすく喜怒哀楽を顔に出すようになっていた…ここ数日はジェラルトさんの件でふとした時に悲しげな表情をしている。

 

 

「ルーナも心配だな…そういえば、大切な人を失ったのは()()()じゃ初めてだよな」

 

「…こっちに着て楽天的になりすぎていたのかもね、僕たちも」

 

 

今日もルーナは授業に出ていないので、ラズワルドと二人で話す。

ルーナは思った以上に落ち込んでいるのか、ジェラルトさんの葬儀から数日たった今も部屋に籠っているみたいだ。

 

この世界に来てずっと充実した日々が過ごせていたし、だいぶ強くなっていると思えた。

正直に言って、昔考えていた“理想の俺”より今の俺は強い…だけどそれより遥かに強かった“壊刃のジェラルト”でさえあっさり死んでしまう世界…この世界を救うにはまだ力が足りないようだ。

 

「僕は、今日はルーナに声をかけてみるよ…そろそろ立ち直ってくれないとね。君は先生の様子見を頼むよ」

 

「わかった。頼んだぜ“蒼穹のラズワルド”」

 

「君もね、“漆黒のオーディン”」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「先生、ここにいたか…」

 

「…オーディン」

 

 

先生は騎士団長(ジェラルトさん)の部屋で熱心に本を読んでいた。

机に積んである本の山にはジェラルトさん字らしきものが見える。

 

 

「これ…もしかして全部ジェラルトさんの日記ですか?」

 

「うん。二十年分…父さんがこんなに几帳面だったなんて知らなかった」

 

 

そう言って先生はジェラルトさんの日記を読み進めていく。

表情は暗くなく、むしろ懐かしいものを見るように穏やかだ。

二十年、ジェラルトさんはコツコツ日記を書いていたらしく机の上には十冊以上の日記がある。

 

 

「オーディンも読む?」

 

「えっ?…いや、気にはなりますけど…俺は人に自分の書いた物を読まれるのは嫌だから、人のを読むのは…」

 

「なんだ、オーディン。お前も日記を書いてるのか?」

 

「クロード!?」

 

 

先生と話をしていると、部屋の入り口からクロードが入ってきた。

 

 

「俺もジェラルトさんの日記は気になるね…あの人は、騎士団長でありながら、何らかの事情で修道院を出たんだよな。その事情が先生の出生に関わってるなら、教団の秘密に近づけるかもしれない」

 

「読み終わった分は貸すよ」

 

「恩に着るよ、先生!断られたら夜中に忍び込まなきゃならなかったところだ」

 

「おい…我が闇の書物“黒書”を忍び込んで見るようなことはするなよ、クロード」

 

「ほう、それはどうかな?」

 

 

まあ、俺のいろいろなことが書かれている“黒書”はフォドラの文字ではなく前の世界の文字で書いているので俺の他にはラズワルドとルーナ以外には読めないのだが…

 

 

「貸してくれた礼ってわけじゃないが…ここ最近の情勢を教えといてやろう。レアさんは騎士団を各地に派遣して、血眼で敵を捜し出そうとしてるよ」

 

「その分、大修道院の戦力が手薄になっているからガルグ=マクの警備が今節の俺たちの課題だな」

 

 

アロイスさん、カトリーヌさん、シャミアさん、ギルベルトさん他、騎士団の幹部クラスはほとんど出払っている。

その間のガルグ=マク大修道院の警備は角弓の節と同じ様に俺たち士官学校の生徒の課題となったのだ。

 

 

「すでに何か情報を掴んでいるって噂もある。近いうちに大きな動きがあるはずだ」

 

「本当か!?」

 

 

クロードの情報源は相変わらず謎だが…何か情報を掴んでるらしい。

先生の目付きも鋭くなってクロードを見ている。

 

 

「もしも敵の居場所がわかったとして…あんたはどうするつもりだ?」

 

「…私は彼らを赦さない」

 

 

先生はそう一言だけ口にした。

やはり、父であるジェラルトさんの仇を討つことは先生にとっては最も重要なことなのだろう。

 

 

「俺は…いや、学級のみんなも、あんたが手を貸せと言うなら、喜んで手を貸すだろう。それがレアさんの意向と違っても、だ」

 

「大司教の意向と違っても?どういうことだ、クロード?」

 

「そりゃあ、先生が復讐に逸って飛び出しちまったら、困るからだろ?」

 

「そういうことか…でも、奴らと戦うなら先生の力は必ず必要になると思うけどなあ」

 

 

天帝の剣を持つ先生は騎士団長ジェラルトさん亡き今、“雷霆のカトリーヌ”と並ぶ教団最強戦力だ。

その先生が率いる金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)も、今や教団最精鋭の部隊と認識されつつある…だからこそ騎士団の主力がガルグ=マク大修道院を空けて大々的に各地に散って捜索活動できたのだろう。

 

 

「なんにせよ…学級のみんなは先生の味方だ。一応、覚えておいてくれ」

 

「ああ、“灰色の悪魔ベレス”…先生あってこその金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)だ。いつでも手助けするぜ!」

 

「うん…クロード、オーディン、ありがとう」

 

 

俺たちの言葉に先生は深く頷いた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「今週は上魔草が良く育っている…これでまた我が闇の力を増大化させることができるだろうな…」

 

 

温室管理人さんの言うとおりにカレドニスの土を使ったのが良かったのだろう。

 

騎士団長の部屋での、先生たちとの話を終えた俺はいつも通りに日課としてやっている温室の植物の世話をしていた。

最近は温室の中でも金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)の使える場所が増えたので結構な作業量になる…その分採れる作物や薬草の類いも増えるので助かるんだけどな。

 

 

「はあ、和む。和んじゃう。やっぱりお花は独りで愛でるに限るなあ…あっ、捕虫袋に虫が入ってる!今日はご飯食べれたんですね!」

 

 

隣の黒鷲の学級(アドラークラッセ)の担当場所で紫髪のちんまい女子生徒が花?を愛でている。

あいつは…俺のことを怖がっている黒鷲の学級(アドラークラッセ)の引きこもり少女ベルナデッタだ。

 

 

「ああ、やっぱり食虫植物は良いなぁ…あたし、生まれ変わったら食虫植物になりたい…」

 

 

隠れて様子を伺っているとベルナデッタは変なことを呟いている。

以前、ベルナデッタを泣かせた事件以来、会うたびに怖がらせてしまうので、彼女とはなるべく接触しないようにしているのだ。

しかし、前から噂として聞いていたがベルナデッタはかなりの変わり者らしい…食虫植物に生まれ変わりたいとか、きっと奴は士官学校一の変人だな!

 

 

「あっ…お花を愛でてる場合じゃなかった!今日はジェラルトさんにあげるお花を採りに来たんだった」

 

「えっ!?」

 

「ひゃう!?…だ、誰?」

 

 

ベルナデッタの独り言の内容に驚いて思わず声をあげてしまったら、気付かれてしまったようだ。

 

 

「フォドラ最強の闇の呪術士、“漆黒のオーディン” 参上!」

 

「ぎゃあああああ!!?で、出たああああ!!」

 

 

相変わらずオーバーリアクションなやつだ。

怖がられるのは好きではないが、ここまで反応が良いと逆に面白い。

 

 

「ひぅ、ひぇ、じ、呪じゅちゅ士!?なんで、ここに!?」

 

「この温室で豊穣なる実りの創成を援く崇高なる儀を執り行っていたのだ」

 

「あ、怪しげな儀式を…まさか、またベルに呪いをかける気ですか!」

 

 

こいつの中では以前俺に呪術をかけられたことになっているらしい。

俺は人に無許可で呪いをかけたことなんてないんだけどなあ…たまに実験でラズワルドにかけてるのは別だけど…

 

 

「そんなことより、先ほど話していたのは本当か?ジェラルトさんに花をあげるとか言っていたが…」

 

「そんなことってなんですか!?ベルに呪いをかけたかの話のほうが重要です!」

 

「ほう…言わないと本当に呪いをかけることになるかもな」

 

「い、言います!言いますから呪いはかけないで下さいいい!!」

 

 

話を聞くとベルナデッタは独り言で言っていたとおり、ジェラルトさんのお墓に添える花を採りに来ていたようだ。

 

 

「…お前がジェラルトさんに花をあげるなんて…そもそも、ジェラルトさんと会話したことあるのか?」

 

「…その、一度だけあります…あれは、私が金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)に移った頃…ジェラルトさんが急に会いに来て…怖くてよく覚えてないんですけど、謝られました…なんでだろう?」

 

 

ベルナデッタが金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)に移った頃に、ジェラルトさんがわざわざ会いに来て謝るような理由なんて一つしかない…前にやらかした俺のために謝ってくれたんだろうな…全然、知らなかった。

 

「ジェラルトさんは先生のお父さんですし、ベルともお話したことがあります。…だから、お花をあげようと思いました」

 

「…そうか、ありがとう」

 

「えっ…あっ、はい」

 

 

それから、なんとなくベルナデッタと二人で花を選んでジェラルトさんのお墓まで一緒にやってきた。

墓石にはジェラルトさんの名前と共に『シトリー』という女性の名前が刻まれている…彼女が亡くなったのは21年前ようだ。

 

 

「『シトリーさん』って先生のお母さんの名前でしょうか?」

 

「たぶんな…先生も知らなかったみたいだから赤ん坊の時に亡くなったんだろうな」

 

「へえ…そうなんですねぇ」

 

 

ベルナデッタと話ながら、墓前に花を供える。

今日、先生が見ていたジェラルトさんの日記には詳しい話が書いてありそうだが…

 

 

「…お花、あげましたので…ベルは部屋に戻ろうかなと思います」

 

「ああ、ありがとな…そういえば、ベルナデッタって食虫植物が好きなのか?」

 

「えっ?…どうして、それを!?」

 

 

呪術の材料として温室で育てていたハエトリグサを思い出す。

前の世界から持ってきた植物なのでフォドラには無かったはずだ。

そのことを話すと、凄い食い付きで「見てみたいです!」と言っているので、再び二人で温室へと戻ってきた。

 

 

「これが…ハエトリグサ、ですか?あたしの知ってる食虫植物とはだいぶ違いますね…」

 

「ちょっと見てろ…捕らえられし哀れな蟲を奇妙なる成形の葉に捧げると…」

 

「あっ!閉じたっ!!葉っぱで虫を捕まえるんですか!?」

 

 

ベルナデッタが興奮して叫んでいる。

動きがある分、ウツボカズラみたいな食虫植物よりインパクトが大きいからな。

 

 

「気に入ったんなら、いくつか分けてやるよ」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

「…フッ、礼には及ばん」

 

「あたし…オーディンさんのこと誤解してたかもしれないですね…少し、怖くなくなりました…いえ、まだ怖いのは怖いんですけどね」

 

 

一時は俺を見ただけで恐慌状態になっていたベルナデッタとまさかこれだけ打ち解けられるとは思わなかった。

これで、ベルナデッタと仲良くなったのでガルグ=マク士官学校にいる生徒全員と親交を深めることができたかな?

 

 

「ついでにコイツを使った呪術も教えてやるよ!…切り刻んで、すり潰せば…」

 

「あんぎゃあぁぁぁ!!やっぱり怖い人でしたあぁぁぁ!!」

 

 

 




(ベルちゃんの)壊された日常


ひっそりと更新、おまたせしてすみません…



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