ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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第47.5話『ラズワルドとルーナの休日⑧』

 

 

 

ガルグ=マク士官学校に在籍しているほとんどの生徒が暮らす学生寮、その一室…ルーナの部屋の前に僕は来ていた。

 

 

「ルーナ。今日は休日だから、気分転換にどこかへ出掛けない?」

 

 

ノックして扉越しに声をかけて、様子を伺う。

ルーナが部屋の中に居るのは気配でわかっている。

 

 

「…そんな気分じゃないわ」

 

 

中からはルーナの素っ気ない返事が返ってくる。

 

 

「良かった。今日は部屋に居るんだね」

 

「……」

 

 

ルーナがここ数日間授業に出ていないから何度か迎えに行ったけど、いつも部屋には居なかった。

 

 

「昨日調べたら、厩に君のペガサスが居なかったから…部屋にひきこもってるわけじゃなくて、敵の行方を追っていたんでしょ」

 

 

この世界では近しい仲間を失ったのは初めてのことだけど、僕もルーナもオーディンも前の世界では何度も…それ以上にひどい経験もしている。

ルーナだって、ずっと部屋に籠りきりで塞ぎ込むほど精神は弱くない。

 

扉が開いてルーナが顔を見せる。

表情に明るさはないがいつものルーナがそこにいた。

 

 

「ラズワルド…あんた、気付いてたのね。あたしは、絶対あいつらを見つけ出して団長の仇をとってやるわ」

 

「ルーナが顔を見せないから、みんな心配してるよ…授業には出よう」

 

「授業なんて悠長なことしてらんないわ!あたしたちが平和ボケしてたせいで団長は死んだのよ!」

 

 

ルーナの言いたいことも分かる。

あの敵たちは危険な存在だとわかっていたのに、僕たちは楽天的に考えすぎていた。

でも、今はルーナが先走り過ぎていることのほうが心配だ。

 

 

「…それでも、一人で捜索するのは危険だよ。僕は君まで失いたくはない」

 

「…っ!…じゃあ、どうしろっていうのよ」

 

「明日からみんなで捜索しよう。偵察訓練の課外授業の名目なら大丈夫さ」

 

 

我ながら良い案を思いついた。

これなら今節の課題のガルグ=マクの警備にも沿うし、先生も積極的に採用してくれそうだ。

 

 

「…わかったわ。それなら明日から授業に参加するわ」

 

「よかった。…あっ、部屋から出てきてくれたついでにこれから出掛けようよ!」

 

「…あんたねぇ…まあ、いいわよ」

 

 

僕も気分転換しないといけないからね!

…ルーナとデートなんて久しぶりだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 学生寮をから移動し、食堂で朝食を摂りながらのんびり話す。

 今日の朝食はファーガス伝統料理のブルゼン。

 この甘い菓子パンは僕もルーナも好物だからラッキーだった。

 

 食堂はまだまばらにしか人がいないので声を落として話せば盗み聞きされる心配はない。

 

 

「…オーディンが先生とクロード、ディミトリ、エーデルガルトの級長たちに僕たち三人の使命を話したって」

 

「あいつ…もうそんなことまで」

 

 

オーディンが三人の級長たちに使命を話したのは、ジェラルト団長が亡くなった次の日の朝らしい。

 ルーナはオーディンが真っ当に使命を果たそうとしてるのを知り、驚き少し悔しがっている。

 

 

「オーディンに負けていられないわね。あたしたちも使命のことを他の生徒たちに話すわよ」

 

「候補は親が上位貴族の…金鹿はヒルダとローレンツ、青獅子はシルヴァンとフェリクス、黒鷲はフェルディナント、ヒューベルト、カスパル、リンハルトだったよね」

 

「黒鷲のその四人とはあんまり話したことないしオーディンに任せたら良いわよね。ヒルダ、ローレンツ、フェリクス、ナンパ男を探して使命のことを伝えましょ」

 

 

 せっかくのデートが結局仕事みたいになっちゃってるけどルーナが元気になってくれたから、まあ良いか。

 でも、シルヴァンのことは名前で呼んであげて。

 

 

「あっ、ルーナちゃんだ。おはよー!…大丈夫?…元気になった?」

 

「おはよう、ルーナさん、ラズワルドくん。良い朝だね」

 

 

 ルーナと話をしているとちょうどいいところにヒルダとローレンツが現れた。

 二人もこれから食事らしい。

 

 

「別に元気がなかったわけじゃないわよ」

 

「…でも、授業に出てなかったよね。心配したんだから」

 

「ルーナが授業に出てなかったのはペガサスで周辺を偵察していたからなんだ。でも、危ないからもうやめてもらったよ」

 

「なるほど、ジェラルト殿の仇を探していたのか?でも、皆に黙って授業も受けずにするのは感心しないな」

「もう授業をサボってはやらないわよ。ヒルダも心配してくれて、ありがと」

 

 

 その後、ヒルダとローレンツと四人で食事を続ける。

 ジェラルトさんが亡くなったばかりなので、あまり明るい雰囲気にはならなかったが…

 

 

「ヒルダ、ローレンツ、大事な話があるわ。食事が終わったらあたしの部屋まで来て」

 

「ん?僕とヒルダさん二人にかい?」

 

「食後にお茶でも飲みながら…ここで話せる内容じゃないからね」

 

「えー…厄介ごとの予感がするんだけど…」

 

 

 残念ながら厄介ごとだよ、それも特大のね。

 

 

 

⬜︎⬜︎⬜︎

 

 

 

 あたしは自室までラズワルドとともにヒルダとローレンツを連れてくると、長くなりそうだったのでラズワルドにお茶を入れてもらい、この世界に来るまでのこととこの世界に来た理由を二人に説明した。

 

 

「……そういうわけで、あたしたちは女神様から呼ばれてこの世界にやって来たの」

 

「そんなことが…」

 

「ルーナちゃん、ラズワルドくんもオーディンくんも大変だったんだねー」

 

 

 この世界に来た経緯や過去について話を終えると、ローレンツは驚いているようだが、ヒルダはあまり想像がつかないのか飄々としている。

 この世界の人間には荒唐無稽にも感じるかもしれない話だが、二人ともあたしたちの話は信じてくれているようだ。

 

 

「でも、なんでそれをあたしたち二人に教えてくれたの?まあ、信用してくれたからっていうのはわかるけど」

 

「ここからが本題よ。二人とも覚えているでしょうけどルミール村の一件で奴らが使った死者を蘇らせて戦わせる術、あたしたちの世界を滅ぼそうとしてた連中も同じ術を使っていたわ」

 

「あの死人を蘇らせて行使する邪悪な魔法か…つまり、彼らがこのフォドラを脅かそうとしていると…」

 

「ローレンツ、その通りだよ。君たちへ話したのは、この件をゴネリル公とグロスタール伯へと伝えてほしいんだ」

 

 

 ゴネリル公とグロスタール伯は、レスター諸侯同盟内では盟主リーガン公に次ぐ戦力を持つ。

 ゴネリル家は東方の蛮族の国パルミラに睨みを利かせている要塞“フォドラの首飾り”と同盟最強の勇士と名高いホルスト卿を擁しており、グロスタール家は帝国と親密な交易で繁栄している。

 この諸侯二家と盟主リーガン家にフォドラの脅威について伝えておけば敵が大きく動き出した時も、同盟は対処しやすくなるはずだ。

 

 

「なるほどねー。わかったわ、お父さんと兄さんには伝えておくね。ウチはパルミラのことがあるからあまり大きくは動けないだろうけど…兄さん、張り切るだろうなー」

 

「僕も父上に伝えておくとしよう。それで、僕たちの他にはエドマンド辺境伯とコーデリア伯、マリアンヌさんとリシテアさんにもこのことを言うのかい?」

 

 

 同盟の円卓会議は同盟盟主リーガン公、ゴネリル公、グロスタール伯、エドマンド辺境伯、コーデリア伯の五人で構成されており、マリアンヌはエドマンド家、リシテアはコーデリア家の出身だ。

 同盟で脅威に備えるなら他の二人にも伝えるべきなんだろうけど…

 

 

「そのことなんだけど…マリアンヌとリシテアには伝えないわ。マリアンヌはこういうの知っちゃうと思い悩んじゃう性格でしょうし」

 

「たしかにマリアンヌちゃんはそうだよねー。でもリシテアちゃんは?」

 

「コーデリア家は諸侯とはいえたいして発言力はないんだよね?…それに、調べたら書庫番だったトマシュさんはコーデリア家からの推薦でガルグ=マクへと来たって聞いてるから…リシテアには伝えないことにした」

 

「リシテアが信用出来ないってわけじゃないわ。でも、いらないことを知ってることで危険に晒される可能性もあるからね」

 

「うっ、ルーナちゃん…それを聞いたらあたしも正直知りたくなかったかなー」

 

「まあ、円卓会議の五家のうち三家が動けば他の二家の歩調を合わせることになるだろう。心配はいらないか」

 

 

 あまり、情報を広めすぎるのも良くないと思う。

 奴らが別人になりすましてどこかの勢力に潜入している可能性もあるからだ。

 

 

「君たちの使命については分かった。父上だけでなく僕も最大限協力しよう。同盟…いやこのフォドラを担う貴族の一人としてね!」

 

「あたしは…まあ、みんなのこと応援してるね。危ないことはしたくないから!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ヒルダとローレンツと分かれた後は、フェリクスとナンパ男を探す。

 四人で結構話し込んだので既に昼前だ。

 

 フェリクスとナンパ男はイングリットと三人で食事をしていた。

 

 

「よお、ラズワルド。今日は幼馴染とデートか?」

 

「そうだよ、シルヴァン。かわいい幼馴染と二人きりでデートさ、羨ましいかい?」

 

「いいや、こっちも幼馴染三人で親睦を深めてるところだからな」

 

 

 ラズワルドとナンパ男が軽口を叩き合う。

 コイツらはいつの間に仲良くなったのか知らないが、似た者同士よくつるんでいたのだろう。

 

 

「ルーナ、その様子なら立ち直ったみたいだな」

 

「訓練所にも顔を見せないから…心配しましたよ」

 

「フェリクス、イングリット、心配してくれてありがとう。もう大丈夫よ」

 

 

 みんな、私が授業も訓練にも姿を現さなかったことを心配してくれていたみたいだ。

金鹿のみんなにも後で謝らないといけない。

 

 

「シルヴァン、フェリクス、食事が終わったら話したいことがあるんだ。ちょっと付き合ってくれないかな」

 

「俺とフェリクスに?別に良いけど、お前らデート中じゃなかったのか」

 

「くだらん話なら付き合う気はないぞ」

 

「フェリクスとシルヴァンがまた何かしでかしたのですか?」

 

「そういうわけじゃないけど…ねえ、ラズワルド。この件、イングリットにも話して良いんじゃない?」

 

 

 前節の話し合いでは、ガラテア伯は力のある貴族ではないからイングリットに話す必要性は少ないとしたが、幼馴染たちの中でイングリットだけを除け者にするのは同じく幼馴染を持つ者としては憚られる。

 ラズワルドも頷いて応える。

 

 

「それもそうだね。イングリットも一緒に来てほしいな、僕が美味しいお茶を淹れてあげるよ」

 

「そりゃ良い。コイツ、どこで習ったかは知らないがお茶を入れるのだけはめちゃくちゃ上手いんだ」

 

「お茶…急にナンパのようになりましたが、大丈夫なのでしょうか」

 

「主題はあたしたちの話よ。ほらフェリクス、あんたも来なさい」

 

「チッ、分かったから腕を引っ張るな」

 

 

 

 部屋につくとフェリクス、イングリット、ナンパ男の三人に、この世界に来た経緯について話す。

 さっき、ヒルダとローレンツに話してすぐのことだから、スムーズに説明出来たと思う。

 

 

「………」

 

「おいおい、冗談を言ってるわけじゃないよな?まるで、オーディンの妄想話のような内容だぜ…」

 

 

 フェリクスは難しい顔で考え込み、ナンパ男は現実感が湧かないのか首を振って否定している。

 イングリットはあたしたちが話終えた後、うつむき膝に手を置いている。

 置かれた手は小刻みに震えているけど大丈夫だろうか?

 

 

「僕たちは、オーディンが言ってる『この世界を救うため時空を超えて来た、選ばれし戦士』…冗談みたいだけど本当の話さ」

 

「…というか、アイツがベラベラ垂れ流してる妄言の中には半分以上は真実が含まれてるわ」

 

 

 オーディンは常日頃から『世界を救う』だの『時空を超えた』だの『選ばれし者』だの言ってるが大半の人は冗談や妄言と思って聞き流している。

 調子に乗って『世界最強の呪術士』とか『真の力が暴走する』とか言うのは本当にやめてほしいけど。

 

 

「…ま…」

 

「ま?」

 

「…ま、まるで物語の中のような話じゃないですか!感動しました!ルーナ、ラズワルド、もっと詳しくお話を聞かせてください!」

 

 

 イングリットが顔を上げたと思ったら、急にそんなことを言い出した。

 随分真剣に聞いてたと思ってたが、前の世界を救った話がイングリットの琴線に触れたのだろうか。

 

 

「ははは、僕たちの過去に興味があるなら後で話してあげるよイングリット。でも、今回はそれは置いといて」

 

「さっき言った世界を滅ぼそうとしてる連中の目星はついたわ。フレン誘拐事件の炎帝と死神騎士。ルミール村で怪しげなことをしていたソロンとミュソン。そして団長の仇のモニカ。…コイツらよ」

 

 

 屍兵を召喚するような連中だし、フォドラの安寧を願う教団を相手に良からぬことをしようとしているから、間違いないだろう。

 

 

「それで、俺たちに何をさせたいんだ?俺とフェリクス、それに殿下にはもう伝えてるって時点で…まあ、だいたい察するけどよ」

 

「シルヴァンが思っている通りの答えだと思うよ。君たちにはフラルダリウス公とゴーティエ辺境伯にこの脅威について伝えて、可能なら情報収集や討伐に協力してほしいんだ」

 

「確かに、私の実家のガラテア家ではあまり力になれるような話ではないですね…」

 

「幼馴染でイングリット一人を除け者にするのは嫌だから、つい話しちゃっただけよ。でも、そういう脅威があるってことは覚えておいて欲しいわ」

 

 

 これで王家ブレーダット、フラルダリウス家、ゴーティエ家…王国の有力な貴族も味方についてくれることだろう。

 

 

「フェリクスも分かった?さっきから難しい顔して黙ってるけど…ちゃんとお父さんに話すのよ」

 

「…チッ、わかっている。あの男と話すのは本意ではないが、事が事だからな」

 

「こいつ、親父さんとあんまり仲が良くないんだよ…喧嘩しててギクシャクしてるとでもいうか」

 

「あれっ?もしかしてフラルダリウス公って問題がある人なの?」

 

「いえ、フラルダリウス公ロドリグ殿は立派な人ですよ」

 

 

 じゃあ、フェリクスの方に問題があるのね。

 一言、言っといてあげるか。

 

 

「フェリクス、お父さんとは仲直りしといた方が良いわよ。親孝行なんていつできなくなるか分かんないんだし」

 

「ルーナ。お母さんと関係が良くなかった君に言われたくないと思うんだけど」

 

「うるさいわね!ラズワルドは黙ってなさいよ!」

 

 

 あたしと母さんは前の世界ではちゃんと仲直りできたから良いでしょ!

 母さんと父さん、それに前の世界のみんなは元気にしてるかしら…早く奴らを倒してもとの世界に帰りたいわね…

 

 

 

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