ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
俺は“漆黒のオーディン”、フォドラ大陸で闇魔法を広め闇に堕とす選ばれし闇の呪術士だ。
「オーディンさん、早く行きますわよ!」
「……フレン、本当に行くのか? どうなっても知らないぞ」
「お兄様がガルグ=マク大修道院に居ない今が好機ですの! わたくし、どうしても地下の街アビスに行きたいのですわ」
「……セテスさんにバレたら怒られるのは俺なんだけどなあ」
先日の西方教会一部宗派反乱の一件でセテスさんは王国西部にある西方教会に残り後処理を行っている。
ガルグ=マクに帰るときに先生と俺たち三人にセテスさんが「フレンのことをくれぐれも頼む」と言っていたが、フレン本人は監視の厳しい父親と離れて羽を伸ばす気満々の様子だ。
フレンは以前からガルグ=マクの地下に住む人たちに興味津々だったけど、まさか連れていくことになるとは……こんなことになるならアビスの話なんかするんじゃなかったぜ。
「オーディン、お疲れさんです。ここは本日も異常ありですよ」
「光を失った者たちの楽園にして常闇の牢獄“アビス”の番人よ……今日はどんな異常があった?」
アビスに入るといつものように入り口の番人が声をかけてくる。
彼はいつもここにいるのでアビスで何があったか知るならこの番人に聞くのが手っ取り早い。
「今日も地上の士官学校の女子生徒たちが遊びに来てますよ、一応男子生徒も連れて来てましたけど、わざわざこんな柄の悪い場所に遊びにくるなんて変わった女の子たちがいたもんですね」
「おっ、メルセデスとアネットが来てるのか?」
メルセデスはコンスタンツェと再会して以来、週に一回くらいの頻度でアビスに来ているようだ。
アネットと一緒に行くことも多く、コンスタンツェとハピの四人でよくお茶会をしているらしい。
護衛代わりの男子生徒は、強そうなのでならず者に絡まれる心配のないドゥドゥーかアビスのことを知っているアッシュのどちらかだろう。
「他にもリンハルトが来てました。……まあ、一番の異常ありはあんたらでしょうけどね。ひょっとしなくても、そちらの女の子はセテスさんの……」
「“純白のフレン”、選ばれし光の聖戦士ですわ!」
「……セテスさんには内緒で頼む」
アビスの番人がみんな
「ガルグ=マクの地下にこんな街があったなんて……わたくしは知らないことばかりですわね」
フレンは興味深そうにアビスの街の様子を観察している。
一部の住民は俺に気付くと挨拶をしてきたり、目を反らしたり、慌てて物陰に隠れたりと様々な反応を見せている。
怖がらせるようなことをした記憶は無いが……アビスには色々な事情を抱える人がたくさんいるから、しょうがないのだろう。
教室に着くとユーリス、バルタザール、コンスタンツェ、ハピ
何をしてるんだろう?
俺に気付いたコンスタンツェと目が合うと嬉しそうに笑みを浮かべてこっちに歩いてきた。
「ねえ、見て見てディン。コニーの体になったらため息つき放題なんだけど……はあ~……ほら!」
「……ん? コンスタンツェ……? いや、ハピか? もしかして入れ替わりの呪術を使ってるのか」
ハピのような口調のコンスタンツェに話しかけられて少し混乱したが、以前コンスタンツェに同じ呪術を教えたのを思い出した。
俺のことをディンと呼ぶのはハピだけだから分かりやすい。
「おっーほっほっほ! 以前、オーディンに教わった呪術を実験していたところですわ」
「本当に二人が入れ替わっちゃった……」
「あらあら~? この場合どちらをどう呼べば良いのかしら~」
高笑いするハピ(の身体に入ったコンスタンツェ)を見て、アネットとメルセデスが驚いている。
……うーん、違和感が凄いな。
「やっぱり、魔獣呼び寄せ体質はハピの身体の方に原因があるみたいだね。この魔法は他の研究にも使えそうだ。オーディン、僕にも教えてよ」
「リンハルトよ、間違えるな。それは魔法ではなく呪術だ。この選ばれし闇の呪術士“漆黒のオーディン”百二十の呪術の一つ……その名も〈シンドラルゲーター・キンスメッソル〉!」
この呪術は師匠の一人から教えてもらったのだが、呪術名が無かったので勝手に俺が命名した……悪くない技名だ、いざという時に使えそうだな。
「それより、今日は灰狼の学級のみんなに紹介したいやつを連れてきたんだ。俺の
「オーディンさんの
「おう! セテスの旦那の妹か、噂は聞いてるぜ。俺様はバルタザール! “レスターの格闘王”とは俺のことよ!」
「ハピだよ」
「ハピ! 今はわたくしと体が入れ替わっているから、フレンが混乱いたしますわよ」
「あっ、そうだった」
「
「僕はリンハルトだよ」
「……俺は
「あたしとメーチェは前に女子会でお話ししたけど、改めてよろしくね!」
「よろしくね~フレン」
フレンは人見知りはしないので、
「オーディン。お前は相変わらず無茶苦茶だな。とんでもねぇ呪術は持ち込むし、今日は更なる厄介事まで連れ込んで来る始末……バレたらセテスさんに何を言われるやら……」
「ユーリス……これも俺の血の定めだ。俺という大きな運命の螺旋には多くの巡り合わせが……」
「……今謝るなら許してやるぞ」
「正直すまん」
実は前回もアビスでちょっとした揉め事を起こした時にユーリスに苦労をさせたことがあった。
アビスの設備“異教の祭壇”にせっせと供物を捧げて手に入れたデビルソードを見せびらかしていたら、アビス廃絶派の教団のお偉いさんに見つかって「邪神と取引をして邪悪な剣を手に入れた!」と大騒ぎされたのだ。
ユーリスの根回しやセテスさんたち穏健派が大司教にとりなしてくれて事なきを終えたが、一歩間違えば大問題になっていたのは想像に難くない。
俺の“聖魔剣ホーリーデビルソード”は先生に没収されてしまうし、こんなことなら同じ供物ポイント? で手に入るレイピアの方を貰えばよかったぜ……
「そういえば、バルタザール……貴様の言ってた“山の民”クパーラの兵種〈鬼人〉についてだが俺の覚醒試験パスで再現できそうだぜ」
「おおっ、本当か!? ちょろっと話しただけなのにやるじゃねえか!」
バルタザールの母親はレスター諸侯同盟の辺境に住まう“山の民”クパーラという部族の出身らしい。
〈鬼人〉というのはクパーラ特有の格闘術と黒魔法を駆使し戦う戦士のことだ……山の民の伝承の中には〈鬼人〉を極めた者は〈修羅〉と呼ばれるようになるらしいが、それが〈鬼人〉上位兵種になるものなのかただの称号なのかはわからない。
俺の覚醒試験パスは実際にこの世界にある兵種の再現は難しくないので、〈鬼人〉は再現できそうだ。
「貴様が実験台になってくれればすぐにでもなれると思うぜ……〈修羅〉という山の民の伝承にある存在も〈鬼人〉を極めていけばなれるかもしれないしな」
「へっへっへ……面白くなってきたぜっ!」
「それで報酬なんだが……例の武器を……」
「おう、使わせてはやれないが……いくらでも見せてやるよ!」
そう言ってバルタザールが持ってきたのは大きな籠手だ。
前節にバルタザールが
材質は天帝の剣と良く似ていおり、雷霆のように紋章石が填まっている。
性質も英雄の遺産とほぼ変わらず、紋章を持たないものが使うと魔獣になってしまうらしい。
「うーん、これも“打ち砕くもの”に似てるねー。英雄の遺産って全部こうなのかな?」
「“天帝の剣”も“破裂の槍”もそうだけど、この籠手もどこか怖い感じがするわね~」
アネットとメルセデスが見たままの感想を言っている。
アネットの実家にはドミニクの紋章の英雄の遺産“打ち砕くもの”があるらしい……この英雄の遺産は、アネット曰く少し気味が悪い形をしているらしいが、いつか見せて貰えないかな?
「十傑の英雄の遺産以外にもこんな遺産があるなんて興味深いね……これはシュヴァリエの紋章石かな?」
リンハルトは紋章学に詳しいだけあって、この紋章について知っているらしい。
シュヴァリエか……十傑以外の紋章は俺にはわからないがバルタザールは“ヴァジュラ”と一致するその紋章を持っているそうだ。
「……シュヴァリエおばさま」
「ん? フレン、どうした?」
「……いえ、なんでもありませんわ。わたくし英雄の遺産見ると、どこか物寂しさを感じてしまいますのよ」
フレンがいつになく悲しそうな顔をして何かを小さく呟いていたが、すぐにいつもの調子に戻った。
もの寂しさを感じるか……それは、なんとなく分かる気がする。
英雄の遺産はどことなくイーリス王家に伝わる伝説の剣“ファルシオン”にも似ている気がする……“ファルシオン”は神竜ナーガが自身の牙を削って作りだした剣だ。
その竜の牙で作られた“ファルシオン”よりさらに骨っぽい色や形をしている英雄の遺産は、もしかして竜のような巨大な生物の骨を材料にしているのかもしれない。
ヴァジュラを一通り観賞し終えると、いつものように雑談が始まった。
今日は俺を含めユーリス、バルタザール、コンスタンツェ、ハピ、メルセデス、アネット、リンハルト、フレン……ドゥドゥー以外は全員が魔術を使えるので、自然と魔法関係の話になった。
「お姉様たちが協力してくれたおかげで、わたくしの研究は大分進みましたのよ」
「オーディンに貰った魔草が良かったのかしらね~」
「魔法薬の調合もお料理みたいで楽しいよね」
「ま! わたくしもお料理は好きですのよ。今度わたくしもご一緒させてくださいませんか?」
「そしたら、今度はフレンもメーチェたちと一緒にアビスに来れば良いんじゃない? でも、アンもコニーもすぐに鍋を爆発させちゃうから……メーチェはしっかり見ててよね」
コンスタンツェたちは4人でコンスタンツェの悲願であるガルグ=マク周辺で色とりどりの花を咲かせる魔法の研究をしている。
俺も魔草や魔法水晶を提供したり、使えそうな呪術を教えて手伝っているから、研究の成果が出る時は近そうだ。
しかし、そこにフレンが混ざるのは激しく不安だな……フレンの料理の腕は……うっ、頭が……正直、思い出したくもないレベルだ。
「最近ガルグ=マクに季節外れの花が咲いてるのはお前らの仕業だったのか」
「……それは俺も見たな」
「花なんて、どうでも良いけどよ。野菜とかの食い物が早く出来るってのなら金になるんじゃねえのか?」
「そっちはこの“漆黒のオーディン”が研究している。温室ほどじゃないが作物をそこそこ早く成長させることができている。ただ……味がなあ」
魔法を使って成長させた作物は小さいし、味もいまいちだ……コンスタンツェの研究が完成すればそれも改善されるかもしれないし、そこに期待しよう。
そういえば、魔法の話以外にもアネットたちに聞きたいことがあったな。
「アネットたちは王国魔道学院の卒業生だったよな? お前らのところにも魔道学院から勧誘は来てるのか?」
そう言って、王国魔道学院から届いた手紙を見せる。
年の変わる頃ぐらいから、いろんな団体からこういう勧誘の手紙が届くようになってきた。
「えー? 勧誘なんて来てないよ……えーと、“王国魔道学院の新設学門教授待遇”って……凄いじゃない! 一学生を新学問の教授待遇で勧誘するなんて聞いたことないよ!?」
「フッフッフッ……やはりそうか、この天才呪術士“漆黒のオーディン”の凄さに気付いた組織が出始めたか……」
「わたくしやお姉様を差し置いて、なぜオーディンなんかに……」
「私たちもオーディンに闇魔法を色々教えてもらったから……意外に教えるのが上手なのよね~」
灰狼の学級の4人とアネット、メルセデスにも俺の秘伝の闇魔法〈ミィル〉〈リザイア〉〈ルイン〉〈スライム〉を伝授してある。
次は上級闇魔法の〈イル〉、そして行く行くは最上級闇魔法の〈ゲーティア〉を再現しようと思っているところだ。
「他の魔法関係なら帝国の宮廷魔導局と魔法研究所から勧誘が来ているな……まあ、俺には違いがよくわからないんだけどな」
「……帝国魔法研究所!? なぜ、わたくしではなくオーディンを……これは許容できませんわ!」
「宮廷魔導局は宮内卿管轄でフレスベルグ皇室直属の宮廷魔道士、魔法研究所は国内貴族が中心の研究組織で
リンハルトが教えてくれた。
魔法研究所は5年前まで七大貴族のひとつだった魔道卿ヌーヴェル子爵家の管轄組織だったので、ヌーヴェル家のコンスタンツェは俺だけ勧誘されていることに憤っていた。
「リンハルトの親父さんって内務卿だったよな? もしかして俺のことを推薦したのか?」
「なんで? 僕はそんな面倒なことしないよ。君のことを、父か研究所の人かはわからないけど調べて勧誘したんだと思うよ」
リンハルトが俺を父親に紹介したわけではないらしい。
フフフッ……やはり、この“漆黒のオーディン”が有名になっているのかもしれないな……アドラステア帝国からは他にも近衛軍参謀だの軍務卿付上級士官だの……なんだか凄そうな肩書きで勧誘されている。
きっと、これは……間違いなく……
「ククク……ハッハハハハ!! フォドラ中が“漆黒のオーディン”の力を手に入れたいと思っているのだな!」
また、ガルグ=マクに“漆黒のオーディン”の高笑いが響き渡るのだった。
「……でもお前、教団所属の傭兵志望だったよな? いくら勧誘来ても意味ないだろ……」
……ユーリス細かいことを指摘するんじゃない。
魔法研究所や魔道卿ヌーヴェル家は捏造設定です。
鬼人(特級職)
推奨技能レベル:格闘術B+理学C+
兵種スキル
•格闘の達人
•鬼神の一撃
マスター時習得スキル
•鬼神の構え(相手から攻撃された時、力+4)
魔法が少し使える兵種。ファイアーエムブレムifに登場した下級職。
この作品では山の民『クパーラ』で受け継がれてれきた兵種の設定。