ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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ファイアーエムブレム無双風花雪月いよいよ発売!


第50話『覚醒』

 

 俺は“漆黒のオーディン”、フォドラ大陸最強の呪術士と謳われその名を世界に轟かす選ばれし闇の呪術士だ。

 

 

「先生、トマシュの爺さん……じゃないや、ソロンたちの居場所が判明したぜ。マリアンヌたちが拐われた時に行った、例の“封じられた森”一帯に潜んでいるそうだ」

 

「やはり“封じられた森”か……前にも敵が潜伏していたからな。俺の中の“闇の囁き”も怪しいと言ってたんだがな」

 

「…………」

 

 

 クロードに呼び出され先生と玄関ホールで待っていると、現れたなりクロードがそう言う。

 偵察訓練の名目で大修道院周辺を捜索していたが、封じられた森付近は立ち入り禁止処置が解かれないままだったので調べられなかった。

 やはり、禁を破ってでも偵察するべきだったかもしれない。

 

 

「レアさんは一網打尽にせんと探索に散っている騎士団を召集中……多少は時間がかかりそうだ。俺たちにはお声がかかってないが」

 

「なぜ秘密に?」

 

「先生が復讐に逸って飛び出して行ったら困りますからね。金鹿の学級(おれたち)には騎士団が集まったら声がかかると思いますよ」

 

 

 学生ではあるが 金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)は現在の教団の中では最精鋭部隊だ。

 天帝の剣を持つ先生もいるし、必ず出番はある。

 

 

「俺は復讐心なんてなくてもさっさと飛び出してくべきだと思うぜ」

 

「おいおい、クロード……これはどう考えても罠だ。天才策士、この“漆黒のオーディン”じゃなくてもわかるくらいのレベルのな」

 

「……それでも行く、きっと彼らが待ち構えている」

 

 

 先生は冷静なように見えて、やはりジェラルトさんの仇討ちのことで頭がいっぱい……罠だとわかっているのに先生は出撃する気だ。

 クロードにも何か考えがあるようだが……クロードは敵の戦力を軽視し過ぎている。

 

 

「先生、俺は反対です。ある程度の数の騎士団が集まるか……せめて、英雄の遺産持ちのカトリーヌさんの合流までは待つべきです」

 

「オーディンの言うとおりです。出撃は許しません」

 

「あっ、大司教様……!」

 

 

 玄関ホールに大司教レア様が一人で現れて驚く。

 現在はアロイスさん、カトリーヌさん、シャミアさん、ギルベルトさん、セテスさんをはじめセイロス騎士団の指揮官クラスは大修道院から離れてしまっている。

 

 

「騎士団が最も出払っている時に合わせて発見の報告がありました。ベレス、貴女が出てくることを狙ってわざと姿を見せた可能性すらあります。あの者たちはジェラルトを奪った相手……憎い気持ちは私もよくわかりますが、ここは堪えるのです」

 

「自分が行く」

 

「自重なさい、ベレス。ここは私たちに任せるのです。ジェラルトに続き、あなたまで失うことは、あってはならないのですから」

 

 

 先生とレア様はお互いに引かずに話を進めている。

 このままだと行く行かないの平行線になりそうだ……クロードと顔を見合わせる。

 

 

「まあまあ、聞いてくださいよ、レアさん。これはあくまで戦略的な判断なんです。ゆくゆくはフォドラに鳴り響く……予定の俺の軍略、間違いはありません。ほとんどの騎士団はいまだ遠く、今動かせる最も優秀な指揮官は先生で、先生には俺たちがついてる。そして、こんなこともあろうかと、俺たちはすでに戦闘準備を整えてある。相手に時間を与えていいんですか? これは復讐じゃない、修道院のための出撃ですよ」

 

「クロード、何度も言うが俺は反対だ。奴らは戦力を集めて待ち構えているだけじゃなく、屍兵という未知数の戦力を持っているんだぞ。金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)と今の教団から連れて行ける騎士団だけじゃ明らかに戦力が足りない。万全を期すためにもカトリーヌさんみたいな英雄の遺産持ちの人がもう一人は欲しい。レア様、カトリーヌさんはどのくらいで戻れそうですか?」

 

「カトリーヌは王国領にいます。今呼び戻しているところですが……まだ、一週間ほどはかかるでしょう」

 

「オーディン、一週間も待って敵が動いちまったらどうするんだ? 屍兵についても、天帝の剣を持っている先生と屍兵に詳しいお前らが居ればなんとか出来るんじゃないのか?」

 

「その屍兵をよく知る俺が戦力が足りないって言ってるんだけどな……まあ、戦力のあては他にもあるが、それでもギリギリの戦い……いや、それ以上に厳しい戦いになるかもしれんぞ」

 

「厳しい戦いはいつものことだっただろ? ……俺たちと先生ならやれるさ、な、先生」

 

「……」

 

 先生は言葉は無いが力強く頷いた。

 こちらが戦力を整えていると察知されると、奴らに別の動きがあるかもしれないというクロードの意見もわかる。

 ……だが、今回はかなり厳しい戦いになりそうな予感がするから、俺としては慎重に行きたい。

 

 

「レア様……私は父さんの仇を討ちます。出撃の許可を」

 

「……ベレス、わかりました。ではあなたたちに命じます。封じられた森に潜む敵を……一人残らず討滅しなさい。何が起ころうとも主の加護を持つあなたであれば乗り越えられるはずです」

 

 

 ……出撃か。

 最終的にレア様が先生の意思の強さに折れた形となった。

 悪い予感を振り捨てて、先生と仲間を信じて戦うしかない。

 

 

「オーディン、クロード。この子を……ベレスのことを頼みます」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 鬱蒼と茂る森の中、金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)が率いる討伐隊は封じられた森に部隊を進めていた。

 

 

「この先が封じられた森だ。視界も悪いから、みんな警戒してくれ」

 

「あぁん? どこも森の中なのによくそんなことわかるな」

 

 

 クロードの言葉に灰狼の学級(ヴォルフクラッセ)からの助っ人バルタザールが答える。

 英雄の遺産のような武器“ヴィジュラ”を持つバルタザールなら、カトリーヌさんの代わりとなることができると思い連れてきたのだ。

 バルタザールは日頃の先生への借りを返せる機会として喜んで自身の結成した“レスター侠客隊”を引き連れて参加してくれた。

 

 

「私たちはここへ前に来たことがありますからね」

 

「あいつら、前にマリアンヌちゃんを拐った奴らの仲間よね……さすがのあたしでも許せないわ。今日は久々に本気出すからねー」

 

「ヒルダさん……あまり無理はなさらないで下さいね」

 

 

 マリアンヌが拐われて、この森の遺跡に監禁されていたのは前節のことで俺たちにとっては記憶に新しい。

 実はマリアンヌを救出した時に捕えた謎の魔道士たちは、大修道院の牢獄に収監されたが翌日には全員が何者かに殺害されていたらしい。

 教団は俺たちにはその事は伏せ、セイロス騎士団で教団の内外を調べていたが犯人は見つからず……もしかしたらそれもモニカたちの仕業だったのかもしれない。

 

 

「敵はフォドラに害をなす、悪だ。僕たちは奴らの目的を明らかにし、阻止する。それが僕たちに課せられた使命だ」

 

「使命ですか……確かに目的のわからない敵というのはそれだけで恐ろしいですからね」

 

「悪い奴らは残らずぶっ飛ばす! それがオデたちの使命!」

 

 

 金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)で俺たちの使命のことを話しているのはクロード、ヒルダ、ローレンツだ。

 ローレンツが使命という言葉を使っているのは俺たちのことを意識しているのかもしれない。

 

 

「なんでもいいけど、わたしは仇を討つよ。それだけは譲れない。絶対に……!」

 

「レオニー、一人で先走るんじゃないわよ。仇を討つのに異論はないけど、戦場では冷静に」

 

「先鋒は僕らとジェラルト傭兵団だ。一気に行くよ」

 

 

 ラズワルドの言っているように、今日の作戦は敵将狙いで一気に攻める作戦だ。

 前衛部隊は先生とラズワルド、ルーナ、レオニー、ジェラルト傭兵団で敵を突破し、中衛部隊の俺と後衛部隊のクロードが援護と後詰めを担う。

 

「聖廰の襲撃、フレンの誘拐、ルミール村の一件、そして礼拝堂の魔獣……奴らの陰謀を暴き、闇の裁きを下す時だ!」

 

「目的を探ると言っても敵に手心を加える様な余裕は俺たちにはない。自ずとジェラルトさんの仇討ちも兼ねることになるだろう……な、先生」

 

「……敵はすぐそこ。戦闘準備」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 封じられた森に入るとすぐに複数の魔獣と黒ずくめの集団が姿を現した。

 敵の装備見る限り、フレン誘拐やルミール村の一件とは違う部隊のようだ。

 

 

「魔獣のお出迎えとは丁重なことで。奴ら、ここで俺たちを殺す気満々みたいだな」

 

「屍兵の気配はない……だが、警戒は怠るなよ」

 

 

 あの程度の数の魔獣なら問題なく倒せるだろう……敵兵と連携されれば厄介だが、金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)はそれくらいは乗り越えられる程度の経験は積んできている。

 最も警戒していた屍兵は今のところは存在しない、どうやら敵もミュソンのような高位の魔道士しか屍兵を操ることはできないみたいだ。

 

 敵軍の中央の最奥にはジェラルトさんを暗殺した女子生徒モニカの姿がある。

 

 

「あっ、来た来た! ようこそ死の森へー、なんちゃって。あたしの名はクロニエ。この弱っちい女は借りの姿よ」

 

 

 モニカは宙返りすると同時にその姿を変貌させた。

 ソロンと同じ様な不気味なほど青白い肌の女……モニカではなくクロニエか……一年前に誘拐されたモニカという女子生徒に成り代わっていたようだ。

 

 

「キャハハハハ! これがホントのあたしの姿。そこのケモノさんたち! みーんなあたしが殺して、あ・げ・る!」

 

「……っ! 戦闘開始!!」

 

 

 クロニエの高笑いと怒りを隠さない先生の号令により両軍が一斉に動きだした。

 

 

「モニカあぁぁ!! 師匠の仇! あんただけは絶対に許さない! 刺し違えてでもわたしが殺す!」

 

「だーかーらーモニカじゃなくてクロニエ! あんな借りただけの名前で呼ばないでよ」

 

「あたしらを相手にそんなザコ共を並べてどうにか出来ると思ってるの? クロニエ、あんた覚悟はできてるんでしょうね!」

 

「はあぁ!? ……ザコはあんたたちでしょ! 格の違いを教えてやるわ!」

 

 

 ジェラルトさんから受け継いだ馬を駆る〈パラディン〉のレオニーを先頭に、ジェラルトさんが愛用していた槍を受け継いだ〈ハルバーディア〉のルーナ、そして先生、ラズワルドやジェラルト傭兵団が後に続く。

 

 

「敵陣撃砕!!」

 

「絶対負けない!!」

 

 

 レオニーの槍が突き出されるたびに敵兵が枯れ草のように薙ぎ倒され、ルーナの槍が振り回されるたび敵兵は枯れ葉のように吹き飛んだ……敵もそれなりの精鋭兵だが、卒業までに最上級職の〈ボウナイト〉と〈ファルコンナイト〉になることが確実視されているレオニーとルーナの前にはザコ同然だ。

 

 

「チッ! なにやってんのよ、役立たず共! さっさと魔獣も使って殺しなさい!」

 

 

 クロニエの声に反応して魔獣たちが部隊に襲いかかる。

 やはり、敵勢力は魔獣を使役する力を持っているようだ。

 

 

「戦場を引っ掻き回すか!」

 

「備えは万全さ」

 

「迷ってる暇はねえ!」

 

 

 しかし、バルタザールを含め金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)も魔獣の相手は慣れている。

 騎士団と連携し計略を使い魔獣の障壁を破壊し危なげなく始末していく。

 

 

「はあ!? なんなの……こいつら……こんなケモノどもに……」

 

 

 

 ……ハッキリ言って、脆いな。

 クロニエの表情にも焦りが浮かんでいる。

 クロニエが率いている部隊はアサシンや盗賊のような正面戦闘に向いていない兵種が多いし、あいつ自体もただの〈アサシン〉……クロニエは個人の戦闘力はともかく指揮はハッキリ言って下手くそだ。

 

 ルーナとレオニーたちが切り開いた道を駆け抜け、先生とクロニエが対峙する。

 

 

「キャハハ、ノコノコ出て来てあんたもバッカねーそんなんじゃお父さんの仇取れないよ? あんたを殺せばガキどもも終わりさ!」

 

「あなたに私は殺せない……終わりはあなたの方……!」

 

 

 先生とクロニエが切り結ぶ。

 クロニエの持っている変わった形の剣が先生を掠めるが捉えきれない。

 逆に天帝の剣で切り返しを受け損なってクロニエが弾き飛ばされる。

 たった一合……力の差は明らかだ。

 

 

「ウソ……本気のあたしがあんたなんかに負けるわけ……クソッ!」

 

「……っ! 逃がさないっ!」

 

 

 不利を自覚したクロニエが逃げだすと、先生も足止めしようとするクロニエの部下たちを斬り飛ばしながら一人で追い始めた。

 

 

「追うな先生! 孤立するぞ!」

 

 

 必死で引き留めるが、俺の声は聞こえてないのか無視されてるのか……先生は止まる様子はない。

 クロニエの部下たちに足止めされ先生を追いかけることもできない。

 

 

「オーディン! 先生のところに新手の魔術師部隊だ!」

 

「クロード! 飛行兵で先生に救援を! 俺たちもすぐ突破する」

 

「……ダメだ! 弓兵部隊も近くに居る。空から迂闊に近づけない!」

 

 

 孤立した先生のところに現れた部隊がミュソンだったらまずいことになる……屍兵の大軍を召喚されればいくら先生でも危ない。

 ……間に合え、間に合えと願いながら残存部隊を蹴散らしながら後を追う。

 

 

 全員で一丸となって森を抜けると、古い遺跡のような場所で先生の姿を目視できた。

 遺跡の中央で対峙する先生とクロニエ……そして、かつてトマシュに化けていた魔道士ソロン。

 その、ソロンが闇の魔力を纏わせた手でクロニエを貫いた。

 

 ……なんだ? 仲間割れか? 何が起きてるんだ? 

 

 

「ソ、ロ……ン……あん……たあああ!!」

 

「時は来た……ザラスの禁呪よ、その顎を開くが良い!」

 

「たす……け……」

 

 

 ソロンによって貫かれ倒れたクロニエの周囲が闇に飲まれ、先生も闇の魔力に囲まれている。

 

 ……あれは……あの魔力はまずいっ! 

 

 

「フレン! 〈レスキュー〉を……!」

 

「……〈レスキュー〉! ……ああっ!」

 

 

 とっさに指示を出した、フレンの〈レスキュー〉は間に合わず、先生は闇に飲まれて消えてしまった……

 

 

「さらばだ、凶星よ」

 

「……ソロン! ……先生をどこへやった? 先生に何をした!?」

 

「見たか……奴は呑まれた。禁呪の闇に。未来永劫、虚ろな闇を彷徨い、再びこの世界に戻ることはない……。天帝の剣は惜しかったがな」

 

 

 闇の中に封印する類いの魔法か……それなら、先生はまだ生きている可能性がある。

 

 

「どのみち貴様らはここで死ぬ! ……ミュソン、この獣どもを死出の行列に加えてやれ……!」

 

「亡者どもよ! 高慢な女神に連なる者どもを、未来永劫、人の世から葬り去るのだ!」

 

 

 敵の魔術師部隊がミュソンの号令で魔法を唱えると、ルミール村の時と同じ様に、部隊の周囲の空に魔法陣が出現した。

 空を埋め尽くすほどの濃密な魔力と無数の魔法陣。

 瞬く間に数千を超える屍兵が封じられし森に姿を現した。

 

 ……クソッ、多い……! ……多すぎるっ! 

 

 ルミール村の時と違うのは、その規模と魔法陣に込められた魔力。

 あの時の数倍の数に加え、前回は居なかった中級職と上級職の屍兵たち。

 周囲を取り囲まれて絶望的な状況だ。

 

 

「オーディン、まずいぞっ! こいつら……尋常な数じゃない……!」

 

「……っ! 全員、方円陣! 連携して耐えしのぐんだ!」

 

 

 空から周囲を見渡した、クロードからの悲鳴のような報告。

 一斉に襲いかかる無数の屍兵に前衛の生徒と兵士たちが死にもの狂いで応戦する。

 後衛は矢と魔法を絶え間無く撃ち込み、回復と支援魔法に奔走した。

 

 部隊の最前列で、突っ込んできた〈ドラゴンナイト〉の屍兵を〈燕返し〉で撃墜し、闇魔法〈スライム〉で厄介な敵の〈スナイパー〉を仕留めながら思考する。

 

 ……ダメだ……数が違いすぎる。

 これじゃあ、いずれ大軍に飲み込まれる。

 考えろ……! 何か打つ手を……! 

 

 

 ──全員で前方を突破して、魔術師部隊を討つか? 

 

 

 攻勢に転じる余裕はない。

 たどり着く前に押し潰されて終わりだ。

 

 

 ──まとまりながら退いて一度整え直すか? 

 

 

 部隊が取り囲まれている現状、後方を突破する必要がある。

 前方突破と成功率は変わらない……無理だ。

 

 

 ──一か八かバルタザールの部隊を〈ワープ〉させて魔術師部隊を討ち取るか? 

 

 

 〈魔殺し〉持ちの〈グラップラー〉を多く含む“レスター侠客隊”は魔道士系の敵と相性が良い。

 しかし、現在の最強戦力である魔拳“ヴィジュラ”を持つバルタザールを引き抜いてしまうと前線が崩壊する。

 敵の中心部隊にぶつけるならバルタザールたちもただでは済まないだろう。

 

 ……多くの犠牲が出る指示を……俺が出せるのか……? 

 

 ……考えろ、“漆黒のオーディン”、何か策を……! 

 

 

「みんな持ち堪えて下さい! 先生はきっと生きています!」

 

 

 最上級の白魔法〈アプサラクス〉で屍兵を一掃しながらリシテアが必死に叫ぶ。

 

 

「こんなところで終われるか!」

 

「かかってこい!! 全部オデの筋肉でぶっ飛ばしてやる!!」

 

「まだまだー! 本気のヒルダちゃんはこんなもんじゃないよ!」

 

「先生はきっと戻ってくる! 皆、耐えるんだ!」

 

 

 レオニーが、ラファエルが、ヒルダが、ローレンツが……最前線で獲物を振り回し屍兵を倒す。

 

 

「聖なる光よ……傷つき倒れし者を癒し下さいませ!」

 

「神よ……どうか……」

 

「僕は先生を信じます……それまでは……!」

 

 

 フレンが、マリアンヌが、イグナーツが、〈ライブ〉〈Mシールド〉〈リブロー〉〈リカバー〉〈サイレス〉あらゆる魔法を駆使して前線の崩壊を食い止める。

 

 

「……下らん。……どれほど耐えようとも、あの凶星は戻らぬぞ」

 

「死んでないのなら、先生は必ず戻ってくる! 俺たちは信じてる!」

 

「こんなところで僕たちはやられたりしない!」

 

「嘗めんじゃないわよ!」

 

 

 ソロンの嘲りにクロードが、ラズワルドが、ルーナが……叫び返す。

 諦めている者などなど一人もいない。

 

 

「ふん、道化共め……! たとえあの者がここに居ようとも結果は変わらぬよ……貴様らはここで死ぬ運命なのだ!」

 

「……運命か」

 

 

 状況は悪い。

 先生一人が帰還して戦力が増えたとして戦況を覆すことができるかはわからない。

 だが……天帝の剣を持ち、今まで何度も仲間の窮地をその力で救ってきた先生ならきっと奇跡を起こしてくれる……そう信じて金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)はみんな戦っている。

 ……もう手札はもう少ない、今は持ちこたえるしかない。

 

 屍兵の猛攻に耐えきれず金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)の生徒たちが率いる騎士団の兵士たちが徐々に倒され、前衛の部隊が屍兵の波に飲み込まれていく。

 戦力を減らさない……死者を出さないために必死で負傷した兵士を前線から下げ部隊で守っているが、それが更に戦況を苦しいものとしていた。

 

 ──先生……間に合わないか

 

 このままだと負ける。

 

 このままだと、全員死ぬ。

 

 俺は直感でそう感じた。

 先生は本物の英雄だ、そう信じて待ち続けていた……いや、今でもそう信じている。

 ……だが、英雄にも助けられないことが、大切なものを守れないことがあるのを俺は知っている。

 物語のように先生という英雄を成長させるために、俺たちはここで死ぬ運命なのかもしれない。

 

 ……だが。

 

 ──そんな未来に……させるものか! 

 

 最後の手札……切り札はまだある。

 

 

『別の世界から人や物を取り寄せることもできるが……一度しか使えぬから滅多なことで使わぬようにな』

 

 俺たちを召喚した女神様にそう言われて渡された、世界を渡るための魔法が込められた宝玉だ。

 この力を使うと元の世界には戻れなくなってしまうが、ここで死ぬよりははるかにマシだ。

 

 

「誰も死なせない……〈リザーブ〉!」

 

 

 まずは態勢を立て直すために最上級白魔法〈リザーブ〉を使用する。

 俺の手から白魔法の光が広範囲に広がり、倒れている騎士団の兵士たちと傷付いた生徒たちを癒す。

 屍兵の波に飲まれかけた前衛部隊が息を吹き替えし前線を押し戻した。

 

 呼び出すもの……取り寄せるものは一つ。

 この戦況をひっくり返すことができる武器だ。

 

 女神から渡された宝玉と以前ルーナから貰った()()()()()()()を取り出し魔力を込める。

 イメージするのは剣と黒衣。

 

 剣は使える(覚醒)状態ならいつの時代の物でもいいが……なるべく誰にも使われていない方が良いかもしれない……遠い未来をイメージして宝玉から呼び寄せる。

 

 ──クロムさん、ルキナ……すまない、力を借りるぞ。

 

 黒衣は父さんと妹が着ていたものをイメージしてチェンジプルフに魔力を込めた。

 俺にもその適性があることはすでに知っていたが、消滅してしまった父さんと記憶喪失になってしまった妹を見て、俺はずっとその力を使うのをためらっていた。

 

 ──母さん、マーク、みんな、すまない……俺はもう、帰れない。

 

 魔力の光が体を包みこみ〈トリックスター(道化)〉から新たな兵種〈戦術師〉へと俺の姿を変える。

 それと同時にこの世界に来た時と同じ様な光の渦の中から一振りの剣が現れる。

 出現した剣をしっかりと握りしめると、女神の力で見えなくなっていたはずの右手の甲にあった聖痕がはっきりと見えるようになっていた。

 

 ──父さん、見ていてくれ! 

 

 その剣は、幾つもの伝説を持つ。

 

 その剣は、神竜の牙から作られたその刀身はどれほど使っても、どれほど時間が経っても劣化することはない。

 

 その剣は、神竜との契約者である初代聖王の血を引く証を持つ者にしか使えない。

 

 

 その剣は……その名をファルシオンという。

 

 

 世界を救う英雄の剣だ。

 

 

「運命を変える!」

 

 

 

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