ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
第52話『女神の行方』
『…おい、そこの小童。そろそろ朝じゃぞ、起きぬか』
「…ぐぅ……まだ眠い…」
『はあああ…?…わしが朝まで待ってやったというのに!さっさと起きよ!!』
「うわっ!?」
突然、少女のような声に大声で叫ばれ飛び起きる。
あたりを慌てて見回してみるが、誰も居ない…ここは…医務室?
どうやら、無事ガルグ=マク大修道院に帰還できたみたいだ。
もう一度周りを見回しても誰も居ない。
マヌエラ先生も、俺が意識を失う少し前に一緒に気絶した
そういえば、俺を起こしてくれた少女のような声は女神様によく似ていたが…夢だったのだろうか?
ベッドの横の机にはファルシオンと…女神様に貰った宝玉があった。
ファルシオンを手に取ってみると確かな重みとともに、刀身と鍔の部分に填められた赤い宝玉が仄かに光始めた。
…覚醒している状態で間違いないのかな?炎の台座もないけど、封印状態のファルシオンはこの様に光ったりしないので多分覚醒状態と見て良いだろう。
剣刃部分は俺の知る神剣ファルシオンと裏剣ファルシオンと変わらないみたいだが、鍔や柄の部分がだいぶ変わっているのでコレを見てラズワルドとルーナがファルシオンと気づくことはないだろう…多分…そう思いたい。
ーー抜き身のままだし、鞘を作らなきゃな〜
そう思いつつファルシオンを机に置くと、隣にあった女神様に貰った宝玉も気になった。
宝玉を手に取り見てみる。
以前から興味深くて何度も調べていたが、俺がファルシオンをこっちの世界に呼んだせいか、内に秘められていた魔力が今は全て失われてしまっていた。
…下手に実験して壊れて元の世界に帰れなくなっても困るから、いろいろ試すのは控えていたけど、もう使っちゃったからこれも実験に使ってみようかな…
「封じられし真の力を解き放て!女神の宝玉よ!」
何気なく魔力を宝玉に注ぎ込んでみる。すると…
『ぎゃあああああああ!!?』
「うわあああああああ!??」
宝玉からいきなり叫び声が聞こえてきて、取り落としそうになった…なんだ?びっくりした…
『…い、いきなりなにをするのじゃ!?』
「…えっ………もしかして女神様ですか」
目の前でフワフワ宙に浮かんでいるのは俺たち三人をこの世界へ召喚した女神様…ソティス様が俺を怒りながら睨めつけていた。
『なにっ!?おぬし、もしかして…わしが見えるのか?』
「…見えますけど」
『ほう?声も聞こえとるようじゃの!』
「…はい、聞こえてますね。しかしなんで急にここに…?」
女神様は、転移してから今まで俺たちの前に姿を現したことはなかった。
それが急に目の前に現れた…俺が今手に持っている宝玉に魔力を流した瞬間に叫んでいたので、この宝玉が関係ありそうだが…
『わしもわからぬ…あやつと一つになり、わしの意識は消滅するものと思っておったが気がつけばここにおった…お主の持っておる、その玉が関係しておるかもしれん』
「女神様、そういえば先生と融合しちゃったんですよね…これは女神様に貰った宝玉なので女神様の一部がこちらに入ったとか…?」
『うーん?わしは授けた記憶がないが…その宝玉からは確かにわしが由来する力を感じるが…そもそもお前たち三人を呼んだことも覚えておらぬ』
「…俺たち三人を召喚した記憶はないのに、女神様が俺たちを召喚したことは知ってるんですか?」
『うむ、わしはあやつ…べレスと共におったからな。おぬしが塔で話してくれたのを覚えておる』
あの時、先生と一緒に居たのかよ…先生も教えてくれれば良かったのに。
『しかし、いつもより頭が冴えぬ…記憶も朧げで、思考に靄がかかったようじゃ…」
「…女神様。会った時より小さくなってますし、力を使いすぎてしまったのでは?」
『小さくなったじゃと?うーむ、お主の言うことが正しいかもしれぬな…』
会った時は10歳くらいの少女の大きさだったのに、今は7歳くらいまで小さくなってしまっている。
これではもう少女じゃなくて幼女だ。
『何はともあれ、わしの意識がこちらに残ることができたのは幸いと言えるかのお?』
「…本当にまた出会えてよかったです。これからは助言を頼みますよ」
『…ふわぁ…いや、また眠たくなってきよった…力を使いすぎても困るし
、今度はいつ目覚めるかわからぬから期待せずに待っておれ…』
そういうと、女神様はあくびをしながら消えてしまった。
うーん、もう少し会話したかったんだけどな。
…もしかしたら、今持っているこの宝玉に魔力を流せば女神様が起きるかもしれない。
怒られる可能性もあるけど…ぐぬぬ…試したい…!闇の呪術士としての実験欲が…!抑えられん!
腕がっ、勝手に…!…力が暴走する…!
「闇の女神よ!再び我が前に姿を現せ…!」
『ひぎゃぁぁああああああああ!?』
…なるほど、やっぱり魔力を流せば一時的に話せる様になるみたいだ。
なお、このあとめちゃくちゃ怒られた模様。
◇◇◇
女神様との会話の後、医務室でしばらく待っているとマヌエラ先生が来て軽く診察を受けたが特に異常はなかったようだ。
今日も授業があるのでそのまま教室へ向かった。
本当は風呂にでも入りたいのだが、早朝はまだ開いていないので仕方ない。
「“フォドラ最強の呪術士”にして“狂気の天才”…“漆黒のオーディン”復活!そして参上!みんな、おはよう!!」
「おはよー、オーディンくん」
「おはよう、オーディン。医務室からそのまま教室に来たみたいだが…その様子だと元気そうだな」
教室に入り、いつものように挨拶するとヒルダとクロード、他の級友たちからも挨拶が返ってくる。
まだ少し授業には時間があるが、教室には半分以上の生徒が揃い雑談や授業前の準備などそれぞれ思い思いのことをしていた。
あれだけ激戦をした次の日でも学校に戻れば普通に授業があるのは、何気に凄いことだと思う…課題戦闘があった次の日の授業は大体それぞれの戦闘報告とか反省とかになるから今日は忙しいことになるだろうな。
「オーディン、昨日は急に気絶しちまって聞けなかったが、その髪はどうしたんだ?先生ほどじゃないが派手に変わっちまってるぜ」
「『真の力』の解放により、変身したのだ…この姿は『第二形態』…“漆黒のオーディン”はあと一段階変身できるぞ…!」
教室に来る前に鏡で確認したけど、元の世界にいた時の髪色に戻ってしまっていた。
まあ、明るい金髪から白髪への変化なので、暗い緑色から明るい緑色へと変わりさらに瞳の色まで変わった先生よりは印象は変わらないかもしれない。
「なんだかリシテアちゃんとエーデルガルトちゃんみたいな髪色になっちゃったねー。似合ってなくもないんだけど…」
「オーディンと一緒にされるのは嫌ですが…気にはなりますね。昨日はその色が地毛と言ってましたが、本当なんですか?」
「まあな。この髪色は父さん譲りさ…前までの金髪は母さんに近い髪色だったけどな」
「そうなんですか…少し、安心しました」
話を終えて、待っているうちにルーナとラズワルドも教室に入って来た。
二人とも他の生徒に目もくれず、まっすぐ俺のところにやってくる。
…あれ?二人ともめちゃくちゃ機嫌が悪そうだな。
「…ラズワルド、ルーナ、おはよ…っ!?」
声をかけたらいきなりルーナに胸ぐらを掴まれた。
表情は今までにないくらいに怒気が滲んでいる。
「い、いきなり何するんだ…痛いだろ!」
「…オーディン!あれを使ったんでしょ!!」
「あ、あれってなんだ?ちょっと落ち着いてくれ…ルーナ」
「とぼけんじゃないわよ!!女神様の宝玉よ!」
…もう、気づいてしまったのか…いつかは説明するつもりだったけど、流石に教室では不味い…
慌ててルーナを止めようとするが、ルーナは感情を抑えきれない様子だ。
「…と、とにかく…場所を移そうぜ…ここじゃみんなが見てる」
「なんてことしたのよ!?オーディン…アンタだけ、元の世界に帰れなくなっちゃったじゃない!!」
「…!!」
そこまで言うとルーナは泣き出してしまう。
あーあ、止める前に一番言われたくないことを大声で叫ばれてしまった…
教室中の視線が俺たち三人に突き刺さってる…誰一人声を発さず、ルーナの泣き声だけが響いている。
教室の空気に俺まで泣きたくなってきた。
「…すまん。泣くなよ、ルーナ…とにかく、一旦教室から出よう」
「…騒いでごめんね、みんな。…先生が来たら授業を始めてていいから…行こう、ルーナ、オーディン」
今まで成り行きを見守ってたラズワルドと一緒にルーナの手を引いて教室の外へと向かった。
◇◇◇
「…ルーナ、もう泣き止んでくれよ」
人気のない場所まで移動し、泣いているルーナを宥める。
ラズワルドが俺を睨みつけている。
「その剣、ファルシオンでしょ…なんで、すぐに言わなかったの?」
「…ごめん」
二人が気づいた原因はファルシオンか…俺の姿も元に戻ってしまったし、二人で話して、俺が女神様の宝玉を使ってしまったと結論付けたのだろう。
「…僕は、なんで宝玉を使ったかは聞かないよ。あの場面で切れる手札は僕にはなかったし、先生が戻って来てくれることを信じて戦うしかなかった僕たちに、先生がいなくても勝てる状況まで戦局を変えてくれた君を責めることなんてできない」
「ラズワルド…」
「でも、君は女神様の宝玉を『いつか使うかもしれない手札』として考えてたんだよね…そのことくらい教えてくれても良かったじゃないか…僕たちは、仲間だろう?」
「…すまん」
ラズワルドとは長い付き合いだ…俺が考えていたことやその選択に怒っているわけではない。
事前に宝玉を使うかもしれないと伝えなかったことと宝玉を使ったことを隠したことに怒っているのだ。
「…三人で帰るって、約束したじゃない…それを、アンタだけ帰れなくなったのよ…」
「辛いけど覚悟はできていた。世界を救うっていうのに何も賭けなくて済むなんて甘くないことはルーナも知ってるだろう」
「それは…そうだけど…」
まだ泣いてはいるが、ルーナも喋れるまでは落ち着いたみたいだ。
ルーナは俺たち三人の中で元の世界に帰ることに一番固執していた。
解ってはいるようだが割り切れないのだろう。
「二人とも、本当に悪かった…でも、俺は女神様の宝玉を使ったことは後悔していない。あのままだとみんな死んでた…死んだら元の世界に戻ることはできないし、俺はもう仲間や友達が死ぬところなんて見たくない」
「…君はそういう男だったね」
「カッコつけてんじゃないわよ…でも、わかったわ。まだ世界も何も救ってないのにこんなところで泣いてもいられないわね」
ファルシオンの力はこの世界を救うために大きな助けとなるだろう。
ラズワルドとルーナも納得してくれたみたいだ。
「世界を救うなんて、大それたことをしようとしてるんだ…僕たちも、あと2回宝玉で何かを取り寄せることがあるかもしれない。…戻れなくなっても戦う『覚悟』を決める必要があるね」
「ラズワルド…あんたまでなに言い出すのよ。…でも、そうね…考えてみるわ」
「いや、その必要はない…ファルシオン以外の呼び寄せれる物なんてたかが知れてるし、お前たちにはこのファルシオンを元の世界へ持って帰ってもらわないといけないしな」
前の世界のどこかの未来…あるいは過去では、俺がファルシオンを召喚したせいで大騒ぎしているかもしれない…まあ、イーリス聖王国の人達なら事情を知ったらきっと許してくれるだろう。
…多分。
「…でも、このファルシオンを持ち帰っちゃったら、ルキナの裏剣とあわせてファルシオンが三本になっちゃうね…どうしよう?」
「シンシアあたりに渡せば喜んで使うだろ、あいつも聖痕あるし」
従妹のシンシアがファルシオンを使っているのは見たことないが、あいつなら『ウードの意志はわたしが継ぐ!』とか言って使ってくれるだろう。
「シンシアが喜ぶわけないでしょ!あんたが帰って来ないのよ!!…あの娘はあんたのことを…」
「うわっ!?なんだよ、急に怒んなって…」
「…今のは君が悪いよ。君が帰ってこれないのは、みんな悲しむだろうからね」
「まあ、それもそうか…」
そういえば、女神様の宝玉を使った結果、宝玉に魔力を流せば女神様と少しの間会話できるということがあると伝え忘れていた。
ラズワルドとルーナについでにその話も説明する。
「べレスと融合して消えたわけじゃなかったのね…良かったわ」
「僕たちとも話せるのかな?」
「それはまだわからないな…緊急の時以外に魔力を流すのは絶対止めろって言われてるからなぁ、女神様が起きた時にいろいろ試してみよう」
◇◇◇
教室に授業を受けに戻ると金鹿の学級の雰囲気は案外落ち着いていた。
後から話を聞いたが、俺たちの事情を知っているクロード、ヒルダ、ローレンツの三人があの場を納めてくれた様だ。
授業が終わると大司教レア様に先生と共に謁見の間に呼び出された。
セテスさんは西方教会からまだ帰ってきていないし、ラズワルドとルーナは呼び出されていないので、レア様と先生と俺の三人だけだ。
「…待っていましたよ、べレス、オーディン。べレス、あなたは主より力を授けられました。ならば、まず訪れるべき場所があります。聖墓に行き、主の啓示を受けなさい」
「聖墓…?」
「聖墓は女神の眠る場所です。この大修道院は、元々聖墓を守るために作られたものです」
聖墓…女神様の眠る場所か…聖廰は確かセイロス聖をはじめとした聖人たちのお墓だったので更に別の場所に女神様のお墓があるのか。
お墓があるということは…やはり女神様はすでに亡くなっていて、俺たちをこの世界に召喚した女神ソティス様は神竜ナーガ様のように魂だけの状態なのかもしれない。
「限られた者しか知りませんが、聖墓にはセイロスにまつわる伝説があります。かつて女神より力を授かった聖セイロスは、聖墓にて啓示を受けたというのです。…フォドラの民を救い、導くためその力を正しく使うように、と。かつてセイロスに与えられた主のお言葉は、きっとあなたにも下されるはずです」
「…またソティスと話せるということ…?」
女神様なら今宝玉に魔力を流せば飛び起きて少しの間話せると思うけど…これ、言った方がいいのかなぁ?
「聖墓にて主の啓示を受ける儀式を行います。あなた方の学級に与える、今節の課題です」
「なぜ課題に…」
「セイロスが啓示を受けた際、その傍らには聖戦士らが控え、見守っていたといいます。あなたに導かれ、共に戦ってきた生徒たちは儀式の場に立ち会うに相応しいはず。もちろん、セイロス聖教会の首長として私も儀式を見届けるつもりです」
「レア様も一緒に?」
「ええ、それだけ特別なことなのです」
…多分、儀式的なことをすることが宗教として重要なのだろう。
この辺は女神様が起きた時に聞いてみるしかないな。
「大司教様、課題についてのことならなぜ級長のクロードじゃなくて、俺を呼んだんですか?」
「オーディン、あなたとラズワルド、ルーナの三人が主の導きによってべレスの元へ現れたのは先日セテスにより聞きました。そして、昨日…主の力を使いその姿へと変わり、その…恐ろしい剣を召喚したと聞いています」
レア様は俺の腰元のファルシオン…封魔剣エクスブレードを見て顔を強張らせた。
レア様にも怖いものがあるのだろうか…具体的に言うと竜特攻とか魔物特攻とか…
ちなみにファルシオンのことはこの世界では封魔剣エクスブレードという名前にすることが決まった。
ラズワルドとルーナは嫌そうにしていたが、俺たち自身も偽名を名乗っているしファルシオンも真名を伏せておいた方が良いだろうと思ったのだ。
まあ、本当の理由…偽りの英雄には、ファルシオンという名前の重みは重すぎると感じてしまうからだけどな。
「…この剣は俺の出身国である、イーリス聖王国の国宝です。俺の世界の神様に近い存在…神竜ナーガ様が悪しき竜に対抗するために自分の牙を自ら削って初代イーリス聖王に授けてくれたものです」
「あなたの世界の神に近い存在が作りし剣ですか…“封魔剣エクスブレード”…英雄の遺産以上の力を感じます」
「あと、この姿なんですが…元々はこちらが本来の姿でして…俺の姿を変えてくれていた女神様の力が消えてしまったというのが正しいですね。新しい兵種<戦術師>も父さんや妹が就いていた職なので俺にも適性はあったと思いますし…」
「そうですか…あなたたちは主の導きによってこの世界に現れた身です。…その力がセイロス聖教会、フォドラのために振るわれることを切に願っています」
レア様は俺たち三人の存在についてまだ少し疑っている様子だ。
いや…疑っているというより困惑している?接し方も何処かぎこちない気がする。
とにかく、節の最後には聖墓で主の啓示を受ける儀式があるのか…何か起こる気しかしないな…!