ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
俺は”漆黒のオーディン“、選ばれし闇の聖騎士だ。
授業が終わった放課後、自室で俺は呪術の道具の作成に勤しんでいた。
机の上には様々な色や形をした綺麗な石の数々、鉄片や木細工を並べ革紐や麻紐を準備する。
以前、マリアンヌに渡した『不幸を跳ね返し、幸運を招き寄せる』呪術を付与したお守りを士官学校の友人やお世話になった人たちに配るために作っているのだった。
<戦術師>になった後に知ったが、マリアンヌに渡したあのお守りには装備していると「幸運+2、必殺回避+10」という効果がある。
おまじない程度の気持ちでかけた呪術なんだが⋯呪術の力ってすげー⋯前の世界で呪術を教えてくれた師匠には感謝しなくては⋯
「生徒全員と先生たち⋯後はセイロス騎士団の知り合いとジェラルト傭兵団の人たちに配るとすれば百個以上作らなきゃなんないのか⋯こりゃ、結構しんどいぞ」
呪術自体は簡単なので、付与する媒体があればすぐに数を揃えられるのだが⋯贈り物にするからには喜んでもらいたい。
だから、こうして色々な種類の首飾りを作ってるのだった。
卒業まで後二ヶ月を切っているので生徒全員分として八十個以上は作っておきたい。
「おーい、オーディン。中にいるか?」
「いるぞ⋯この“漆黒のオーディン”の闇の部屋に用事かクロード?」
ノックの後、外からクロードに呼びかけられて答える。
教団から聖騎士に内定を貰った後、俺とラズワルドは騎士や修道士たちが暮らす建物に部屋を貰った。
今までラズワルドと二人で兵員用の天幕で暮らしていたのだが、やっと一人部屋を手に入れることができたのだった。
ルーナはすでに学生寮に部屋があるので、卒業後にこちらの建物に部屋をもらえるそうだ。
ちなみに俺が貰った部屋は前にイエリッツァ先生が使っていたらしい。
本棚の後ろには地下へと続く階段があり、以前フレンが攫われて捕えられていた地下室へと繋がっているという⋯俺の血を騒がせるような設定のある凄い部屋である。
「入るぞ〜⋯ん、作業中か。何を作ってるんだ?」
「首飾りだな⋯こいつに呪術をかけて、卒業記念にみんなに配るんだ」
「呪術って⋯大丈夫なのか、それ?」
「まあ呪術っていうよりおまじないの類だな。だけど、装備品として実際効果はあるんだぞ」
「まあ、それなら良いが⋯それにしては結構な量だな」
「他の学級のみんなにも配ろうと思ってな」
「⋯そういえば、他の学級の連中とも仲良かったなオーディンは」
黒鷲の学級には一節だけだが移籍していたし、青獅子の学級に混じってダスカーの反乱を鎮圧しに行ったこともある。
士官学校のみんなは戦場を共に戦った戦友だ。
「それで⋯何の用事で来たんだ?見ての通り、俺は結構忙しいのだが」
「お前に聞きたいことが色々あったんだが⋯なんなら手伝うぞ?俺もこの手の作業は得意だぜ」
「おお!それは助かる」
卒業までに配る分を作るだけでもかなりの数だから、手伝ってもらえるのは凄く助かる。
クロードには石を綺麗な形へと削ってくれるように頼んだ。
お互い作業しながら、クロードが口を開く。
「オーディン、教団で聖騎士になるんだってな」
「そうだな⋯卒業したら、セイロス騎士団の闇の聖騎士⋯“漆黒のオーディン”の新たな伝説の幕が開けることになる⋯」
「はははっ、闇の聖騎士か。そりゃあ、えらい珍妙な名前だな」
「そういうことだから同盟に行くって話はすまないが断らせてもらう」
「⋯良いさ、ダメ元で声をかけたんだ。⋯しかし、先生も教団に残るみたいだな⋯どっちかが来てくれれば俺の野望の達成が楽になると思ったんだが、アテが外れたな」
クロードの野望の達成⋯前に聞いたとき、新しい価値観を描き直して、壁を壊し、雪崩れ込んで、ひっくり返す!みたいなことを言っていたが⋯具体的に何をするかは聞いていない。
まさか、他国と戦争してフォドラを統一する⋯みたいなことを考えていないだろうなコイツ⋯
「それを話しにきたのか⋯?」
「いや、他にもいろいろさ⋯お前のその剣についても聞きたくてな」
「これは“封魔剣エクスブレード”⋯俺の国に伝わる、最強にして最古の剣だ!」
本当の名前はファルシオンなんだが、みんな既に封魔剣エクスブレードの方で覚えてしまっているので今更変えるわけにもいかない。
一部から「伝説の剣にしては名前が⋯」「独特なネーミングセンス」「普通にダサい」なんて言われて、そのたびに先生が悲しそうな顔をしていたが⋯すまん⋯ルキナにも謝りたい気持ちだ。
クロードにファルシオンについて説明する。
ファルシオンが英雄の遺産と違うところは、聖痕が無いとそもそも扱うことすらできないところだ。
聖痕が無い者が扱うとなまくらの剣にも劣る切れ味になり、鋼の剣くらいの重さがあるので役に立たない。
ただ、聖痕を持っている俺のような人間が使うと、切れ味が鋭くなり、壊れることもない⋯おまけに光ってなんかカッコいい。
「剣のことについてはわかった⋯だが、問題はどうやってそれを呼び出したか、だろ?」
「お前もあの時、教室にいたなら知っているだろう」
「前の世界に帰れなくなった、か⋯本当なのか?」
あの時はルーナが大声で叫んでいたからな。
クロードは俺の事情も知っているし、気になっているのだろう。
「本当だ。前の世界に戻るための力を使って、この剣を召喚した」
「⋯すまない。俺のせいだな⋯あの時、出撃を急かさないで戦力を集めていれば⋯」
「クロードのせいじゃないさ⋯この剣を召喚する選択肢はいつも頭にあったし、それがあの戦いだったに過ぎない」
元の世界に戻るための力として女神様の宝玉を貰ったが、別のことに使う可能性があることは貰った時から考えていたことだ。
世界を救うなんて大それたことをするのに何のリスクも背負わずに成せるとは思っていない。
「前の世界にってことは、故郷にも帰れなくなったんだろ?⋯そこまでして『使命』ってやつを果たす理由がお前にはあるのか⋯?」
「この世界が好きだ。滅んで欲しくない」
「⋯⋯」
クロードが珍しく黙ってしまったので、続けて言う。
「まあ、この世界⋯フォドラのことなんて俺にはまだほとんど分かっていないけど、金鹿の仲間や他の学級のみんな、教会や傭兵仲間たち⋯誰にも死んで欲しくない。あの時、女神様の力を使ったことは後悔してないぞ」
「⋯そうか、お前が納得してるんなら良かった。⋯だけど、寂しくはないのか?生まれ育った故郷だろう、帰れなくなるなんて⋯俺は考えたくないね」
「寂しいさ⋯前の世界には仲の良い人たちが沢山いた。でも、俺がいなくてもあいつらなら大丈夫さ。そう信頼している」
「そういうものか⋯」
この後は話すこともなくなり、夕方まで二人で黙々と首飾りを作り続けた。
完成したお守りの一つをクロードに渡すとすぐに首につけて、お礼を言って俺の部屋を後にした。
◇◇◇
数日後、先生と金鹿の学級の生徒たちはアドラステア帝国への出発準備を行なっていた。
帝国の外務卿ゲルズ公が手に入れた、失われた“英雄の遺産”<ドローミの連環>を受け取り送り届ける任務らしい。
その任務は灰狼の学級のコンスタンツェ=フォン=ヌーベルが受けた依頼なのだが、何故だかわからないが先生と金鹿の学級が同行することになったのだった。
⋯多分、ユーリスの差し金だろう。
「オーディン殿!良かった、まだ出発していなかったか」
「アロイスさん、何か用ですか」
準備を進めていると、アロイスさんから声をかけられた。
この人が、こちらが作業しているのに話しかけてくるとは珍しい⋯何かあったのだろうか?
「⋯実はレスター諸侯同盟からセイロス騎士団へ援軍要請が来ておってな。リーガン公爵領の領都デアドラがパルミラの水軍に攻撃される恐れあり、との報が入ったのだ」
「リーガン公爵領の領都がパルミラ軍の攻撃を⋯えっ!?」
たしかリーガン公爵は同盟の盟主でありクロードのお祖父さんだったはずだ。
⋯公爵領の領都へパルミラの水軍が攻めてきたってことは⋯結構な重大事件じゃねえか!
「騎士団は急ぎ戦力をかき集めてデアドラへ援軍を送っているところだ。オーディン殿、ラズワルド殿、ルーナ殿の三人にもこちらへ参戦してもらう様に要請に参ったのだ」
「俺たちを⋯とりあえず先生に相談しなきゃな」
俺たち三人が聖騎士になることはセイロス騎士団の主要人物には知られているらしい。
すでにラズワルドにはオートクレール、ルーナにはグラディウスが貸し与えられているので、騎士団も俺たちを戦力として扱いたいのだろう。
一旦、金鹿の学級の教室に先生たちを呼んで集まることにした。
ゲルズ公から“英雄の遺産”を受け取ることも重要な任務だから、どうするか話し合わなければならない。
「アロイスさん、デアドラがパルミラ軍に攻撃されそうだってのは本当か?」
クロードが教室に来るなり、アロイスさんに問いかける。
公爵領はクロードの実家だから心配なのだろう。
「うむ、最初は海賊被害にあっている商人からの救援要請だったのだが⋯どうやらその海賊がパルミラ水軍を名乗っているらしい。リーガン公爵からも正式に教団へ援軍要請が参った⋯同盟の他領にも援軍要請が出ているとのことだ」
「本当なら大ごとだな⋯どうするんだ?先生、オーディン」
「教団が連れて行くのはオーディンたちだけ?問題はないよ」
「先生はどうしますか?ゲルズ公の任務もありますけど」
「私はコンスタンツェたちと一緒に行く。約束したから」
先生と金鹿の学級は予定通り<ドローミの連環>の受け取りに向かうらしい。
正直めちゃくちゃ気になるんだが、仕方ないか⋯
「クロードはどうするんだ?リーガン公爵家はお前の実家だろ」
「⋯迷うところだな。リーガン領は心配だし、パルミラ軍も気になる⋯しかし、級長の俺が金鹿の学級の任務を放って実家を助けに行くのもなぁ⋯」
「私は構わないよ」
「おいおい、先生⋯その言い方は冷たくないか。俺がいなくても良いみたいじゃないか」
「そういう意味では言ったのではないよ⋯クロードとオーディンは指揮能力が高いし他の子たちから信頼されてるから、いてくれると私も凄く助かる。でも、もう卒業も近いから私と別行動で経験を積んでみるのも良いんじゃない?」
「先生⋯俺たちのことをそこまで考えてくれていたのか⋯感動で血が騒いできたぞ⋯!」
俺は先生と別行動で黒鷲や青獅子の戦闘に参加したことはあるが、クロードが金鹿を離れて別行動をしたことはなかった。
クロードは迷いがなくなったように口を開いた。
「⋯決めたよ。俺は先生と金鹿の学級の連中と一緒に帝国へ向かう。先生と別行動で経験なんて卒業した後にいくらでも積めるからな。今は士官学校でしかやれないことをやりたい」
「そう、それならそれでいいよ」
「そういうわけで、オーディン。リーガン公爵家とデアドラのことを頼むぜ。実家がなくなっちまったら俺の野望の実現なんて不可能になるからな」
「クロードの野望のことは置いといて⋯デアドラのことは任せろ!闇の聖騎士オーディンがパルミラ軍に裁きの雷を喰らわせてやるぞ」
「うむ、どうするか決まったようだな。ではオーディン殿⋯ラズワルド殿たちを呼び、急ぎ出発するぞ!」
◇◇◇
デアドラに向かう途中で、先行していたカトリーヌさんシャミアさんたちの部隊と合流した。
デアドラに派遣される援軍はかなりの大部隊で、セイロス騎士団の戦力の大部分が動員されている。
今回のセイロス騎士団の指揮官はアロイスさん、ギルベルトさん、カトリーヌさん、シャミアさんと⋯その他騎士や修道士の方たちと俺たち三人組だ。
この中で誰が指揮を執るんだろう⋯やはり聖騎士のカトリーヌさんだろうか?
「じゃあ、アロイスさん。今回の指揮は任せたぞ」
「なっ、カトリーヌ殿っ!?この軍の筆頭指揮官は貴殿のはずでは⋯?」
「アタシは最前線で雷霆を振り回してるさ、この規模の戦いで英雄の遺産持ちが後方にいるわけにもいかないからな」
「しかし、私もこれだけ大部隊の軍の指揮は初めてで不安が⋯おお、そういえばギルベルト殿は王国で軍の指揮の経験がお有りだったな、今回の指揮は貴殿に⋯」
「いえ、私はこの中では新参者なので⋯」
「誰でもいいから、早く決めてくれ。この後、同盟軍の援軍とも合流しなければならん」
流石のセイロス騎士団でもこの規模の大部隊での行動は珍しいのか、誰が全体の指揮を執るかで少し揉めている。
カトリーヌさんは聖騎士、アロイスさんの肩書きは団長代理となっているのでどちらかが指揮を執るべきなんだが⋯
「アロイスさん、この“狂気の天才”オーディンが参謀として補佐しますから心配入りませんよ」
「おお、オーディン殿⋯貴殿が手伝ってくれるなら、大丈夫かもしれんな」
「僕とルーナはカトリーヌさんと最前線かな?」
「ルーナは天馬隊を率いて遊撃を頼む。後の細かい配置は同盟軍と合流し、デアドラに到着してから考えよう」
「<ファルコンナイト>になってから、いきなりこんな激しくなりそうな戦いに参加なんて⋯燃えるわね」
セイロス騎士団の指揮官はアロイスさんということで話がまとまった。
ちなみにルーナは先日、最上級試験に合格して<ファルコンナイト>になっている。
士官学校に在籍中に最上級職に就いた生徒が出たのは八年ぶり⋯ゴネリル公爵家嫡子でヒルダの兄であるホルスト卿が<エピタフ>になって以来の快挙らしい。
金鹿の学級ではもう少しでレオニーが<ボウナイト>、リシテアが<グレモリィ>になれそうなので、最上級職が三人出るのは士官学校始まって以来の大快挙となるだろうという話だ。
「セイロス騎士団の方々、ご助力感謝します。私はジュディット=フォン=ダフネル。今回のデアドラ救援部隊の総指揮官を担当しています」
「おお、貴殿が“ダフネルの烈女”ですか⋯お噂は予々聞いておりますぞ。私はセイロス騎士団団長代理のアロイス=ランゲルトです」
デアドラへの進軍の道中にレスター諸侯同盟の各地から集められた同盟軍の救援部隊とも合流する。
指揮官はダフネル侯爵ジュディット卿⋯彼女は同盟でも屈指の猛将らしい。
ただ救援部隊は思っていたより少ない⋯レスター盟主の領都の危機にしては援軍の規模が小さい。
俺が疑問に思って見ているとジュディット卿が答えてくれた。
「ゴネリル領の『フォドラの首飾り』からも救援要請がありましてね、グロスタール領軍はそちらへ向かいました。エドマンド領軍は水軍を派遣して海から援護してくれるそうですが⋯デアドラへの救援部隊には戦力をあまり割けず申し訳ない」
「ご心配無用!セイロス騎士団と合わせてこれだけの戦力ならば、パルミラ水軍もきっと追い払うことができるでしょう」
「⋯しかし、ガルグ=マク大修道院からの援軍というから、クロードの坊やも一緒に来ると思っていましたが⋯実家の危機だっていうのにあの子はどこで何をしているのやら」
「すみません、クロードの奴は別任務に行っていまして⋯クロードの分まで金鹿の学級の俺たちが頑張りますから!」
「おや若い指揮官がいると思ったら、生徒だったのかい⋯よろしく頼むよ」
◇◇◇
デアドラに到着すると、リーガン領軍が迎え入れてくれた。
市民たちの避難はすでにある程度は終えているらしく、市街地にはリーガン領軍と同盟軍の兵士たちの姿しかない。
パルミラ水軍は港の一部を占領し、そこから陸上部隊を上陸させている。
複数の大型船が港に居座っていることから、パルミラ軍もかなりの規模みたいだな。
同盟軍とパルミラ軍は市街地の中ですでに何度も交戦しているらしく、量で勝るパルミラ軍に地の利を生かして同盟軍が対応して戦線は膠着状態だったようだ。
しかし、援軍が到着した今、戦況は一気にこちらに傾いた。
「では、まずは市外に入り込んだパルミラ軍を掃討する。セイロス騎士団、進軍せよ!」
「行くよ、聖セイロス剣兵団!パルミラの蛮族共に女神様の天罰がどういうものか教えてあげな!」
「聖インデッハ弓兵団、剣兵団を援護するぞ」
アロイスさんの指揮でカトリーヌさんが聖セイロス剣兵団、シャミアさんが聖インデッハ弓兵団を率いて市街地戦闘に参戦する。
英雄の遺産持ちの存在は、戦況を一変させるほどの力をもっているから市街地戦は彼女たちに任せておけば良いだろう。
「⋯闇の裁きだ!<メティオ>!!」
港に停泊していないパルミラ水軍の大型船に挨拶代わりの最上級黒魔法<メティオ>を叩き込む。
つい最近、理学がA+となったので覚えたが使う機会がなかったが⋯かなりの高威力だな⋯デアドラの市街地や港に停泊している船に使わなくて良かった。
必殺も出たようで、大型船は轟音を立てながら、燃え始めた⋯船体に大穴が空いているし沈むのも時間の問題だろう。
今の一撃にパルミラ軍は動揺したのか、動きが慌ただしくなってきた。
<戦術師>の能力は、戦場を空から鳥が見るように俯瞰して見ることができるので、敵将の位置も把握できる。
敵将は<ウォーリアー>、<グラップラー>、<パラディン>、<ドラゴンナイト>、<ドラゴンマスター>⋯<グルガーン>という見たことのない竜騎兵系の兵種もいるが、あれが総大将なのだろう。
ただ、<ドラゴンマスター>の方が総大将の<グルガーン>より遥かに強いみたいだからそちらの方が注意しないとな。
セイロス騎士団は市街地の敵兵を掃討しつつ、主要な建物を制圧し取り戻して行く。
セイロス騎士団は数こそ少ないが、フォドラ最も実戦経験豊富な精鋭と呼ばれているだけのことはある。
俺も長射程の闇魔法<スライム>で邪魔な敵将を屠って援護をする。
「流石はセイロス騎士団だねぇ。こうもあっさりパルミラ軍の奴らを蹴散らすなんて⋯私も血が騒いできた、同盟軍も負けずにやるよ!」
「ジェディットさん、その台詞は俺の⋯いえなんでもありません」
『血が騒ぐ』なんて素で使っている人初めて見た⋯いや、カスパルとかカトリーヌさんとかいたか⋯なんだかこの人とは気が合いそうだな。
ジュディットさん率いる同盟軍救援部隊も奮戦しはじめて市街地はほとんど同盟軍の元へ取り戻すことができた。
パルミラ軍もすでに退却をしはじめたらしく、多くの船は港から脱出中だ。
任務成功かな⋯と、少し油断していたのが悪かったのか、敵の竜騎兵たちがこちらへと向かってきた。
率いているのは総大将の<グルガーン>と精強な<ドラゴンマスター>だ。
「見つけたぞ、貴様が忌々しい蛮族の邪教徒の指揮官だな!貴様のせいで俺様の作戦がめちゃくちゃだ!」
「俺たちも何の成果もあげられず逃げ帰るわけにはいかんのでな!大将首の一つは持って帰らねえと」
なぜか、俺が狙われているみたいだが俺はセイロス騎士団の総大将ではないのだけどな。
遊撃や伝令として天馬隊を率いていたルーナが慌てて戻ってきた。
敵はルーナへ対応する部隊と俺に向かってくる部隊の二部隊に分かれた。
俺に向かってくるのは弱い<グルガーン>の方だ⋯逆なら良かったのに厄介なことになった。
「ルーナ!気をつけろその<ドラゴンマスター>、かなり強いぞ!」
「わかった!⋯でも、負けないわ!」
ルーナのグラディウスと<ドラゴンマスター>の勇者の斧がぶつかり合い、火花が散る。
まずいな⋯互角に打ち合っているようにみえるが、力量は<ドラゴンマスター>の方が上だ。
「他に気を取られ俺様を無視するとは⋯!!死ねぇ!」
「見えてるぜっ!<エクスカリバー>!!」
「⋯なっ!?ぐはぁっ⋯」
十分に引きつけて、<グルガーン>が率いている、ドラゴン部隊ごと<エクスカリバー>で薙ぎ払う。
ペガサスならともかく⋯ドラゴンが相手なら俺にとっては敵にならない。
<エクスカリバー>の他にも、竜特攻持ちの封魔剣エクブレードや<燕返し>も使えるからな。
<グルガーン>は墜落してそのまま海に落ちてしまった。
あの高さに魔法のダメージ⋯生きているかどうかは五分五分といったところかな⋯まあ、どうでもいいか。
「⋯そんな、シャハド様が⋯」
「急ぎ救出せよ!」
海に落ちた<グルガーン>を生き残ったドラゴン部隊が必死に探しはじめた。
それを見た<ドラゴンマスター>もルーナと打ち合うのをやめる。
「⋯大将がやられちまったか。ここは勝負はお預けといかねえか、お嬢さん」
「あたしはお嬢さんじゃないわ。セイロス騎士団のルーナよ」
「そりゃあ、悪かった。俺は“百戦無敗のナデル”⋯同盟ではちょっとした有名人と思ったが、セイロス騎士団ではあまり知られていないようだな」
「“百戦無敗のナデル“ね覚えたわ⋯次会ったらあんたに最初の一敗をつけてあげるから覚悟なさい」
「おお、怖い怖い⋯俺は死なない限り負けじゃないと思っているが⋯今回のは、ちょっとばかしまずいかもな」
そう言うと<ドラゴンマスター>⋯ナデルは退却していった。
パルミラ軍は大部分が船で撤退し、一部の置き去りにされた兵士たちも降伏しデアドラは脅威から解放された。
市街地と港が戦場になったことで、リーガン領としてはかなりの被害を受けたみたいだが、セイロス騎士団としては大勝利だったと言えるだろう。
アロイス・シャミア外伝『剣であり盾たる騎士団』にパルミラ水軍(ガチ)登場