ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
あたしはルーナ、セイロス騎士団の聖騎士になる予定の選ばれし希望の戦士だ。
グラディウスという槍をもらって聖騎士に内定したけど、オーディンの奴みたいに異名が必要かな?⋯と思いはじめた。
先日、戦った“百戦無敗のナデル”もそうだけど、この世界の強者には異名や二つ名のような呼ばれ方をする人が多い。
“雷霆のカトリーヌ”、“ダフネルの烈女”、“レスターの格闘王”、“灰色の悪魔”⋯オーディンじゃないけど、ちょっとかっこいいと思ってしまう。
“漆黒のオーディン”、“蒼穹のラズワルド”⋯仲間の二人には異名とか呼ばれるものがあるけど、あたしには特に何もない。
“緋炎のルーナ”、“紅蓮のルーナ”、“美少女聖天馬騎士ルーナ”、“最強無敵のルーナ”⋯うーん、聖騎士になるまでに何か決めておこう⋯
今日は休日だけど、朝から特にすることもなく教室にいた。
ガルグ=マク大修道院は山頂にあるという立地から、冬は非常に冷え込む。
街に出かけるまでに凍えてしまいそうだし、一人で部屋にいるのも暇すぎるので、暖炉もあって暖かい金鹿の学級の教室の中にいた。
教室には、他にも何名か生徒がすでにいて、自習だったり作業だったり思い思いのことをしている。
暇だし、誰かに話しかけてみようかな。
リシテアは一人で勉強中、マリアンヌも静かに本を読んでいる。
オーディンとクロードは二人で何かを作っていて、レオニーは弓の弦の調整をしていた。
話しかけるならレオニーかな?
「レオニー、調子はどう?」
「んー?ああ、ルーナか⋯調子って弓の調子のことか?」
「それもあるけど、最上級試験のことよ。受かりそうなの?」
「まだ受けないよ。最上級試験パスは高いから、絶対受かる確信がないとね」
レオニーは最上級職<ボウナイト>になるまでもう少しのところまで来ていた。
ただ、試験パスは金鹿の学級の軍資金の中から購入して資格試験を受けないといけないので、もしも失敗してしまったらかなりの痛手だ。
ふふーん⋯つまり、この士官学校で最上級職はあたしだけ⋯学校で一番の座についているのだ。
「そういえば、卒業後の話なんだけど⋯レオニーもセイロス騎士団で、あたしたちと一緒に仕事しない?」
「前に師匠たちと話してた件だよな。でも、あんたたちは聖騎士、わたしは傭兵だぞ⋯一緒に仕事ができるのか?」
「いいわよ。人選はあたしたちに任されてるし、セイロス騎士団にはシャミアさんみたいに傭兵だけど要職についている人もいるから」
「ああ、そういえば聖騎士のカトリーヌさんと傭兵のシャミアさんは相棒同士だったな。じゃあ、よろしく頼むよルーナ」
レオニー、ゲットだわ。
まずは最初の仲間⋯レオニーを確保することができた。
セイロス騎士団に新設される対“闇に蠢くもの”部隊にスカウトする人員は三人で話し合い、すでに目星をつけていた。
金鹿の学級では今スカウトをしたレオニー、騎士志望のイグナーツとラファエルは声をかければ来てくれるだろうと思っている。
後は金鹿の学級の他の平民出身者や家を継がない貴族出身を中心に声をかけて⋯他学級の生徒はオーディンが勧誘する手筈になっている。
そういえば、オーディンのやつ⋯勧誘もせずにクロードと二人で作業をしているけど何をしているんだろう?
「ふー、外は寒いねー。⋯あれっ?クロードくんとオーディンくん、二人で何してるのー?」
疑問に思って二人を見たら、ちょうど教室に入ってきたヒルダが話かけていた。
「オーディンが卒業の記念にみんなに配る『幸運のお守り』を作ってるんだ。俺はその手伝いさ」
「⋯俺の闇の呪術を込めた力作⋯貴様ら全員に行き渡らせるぞ⋯」
「いやいや、闇の呪術って⋯あっ!もしかして、マリアンヌちゃんにあげてたあの首飾りのお守り?みんなの分を作ってるの?」
そういえば、オーディンが呪術を込めたお守りをみんなに配るという話をどこかで聞いた気がする。
オーディンたちの机の上には色々な種類の石細工や金属細工で作られた首飾りが並んでいる。
ヒルダが興味深そうに首飾りを手に取ってみている。
レオニーやリシテア、マリアンヌもオーディンたちの周囲に集まってきた。
⋯へえ、ちょっと可愛いやつもあるじゃない。
ほとんどが色の綺麗な石を削って作られたようなシンプルなものだが、中には金属を加工して作った凝った造形のものや動物の牙や爪で作った野生味溢れるものまである。
「なになにー?ちょっとー、素敵じゃない!これって全部オーディンくんたちが作ったの?」
「そうだぞ⋯でも他の学級の連中にも配りたいから、まだまだ全然足りないんだ」
「⋯正直、俺は飽きてきたところなんだけど⋯まあ、手伝いだしたからには最後まで付き合ってるんだ」
「こんな楽しそうなこと、なんでヒルダちゃんに言ってくれないのよー!あたしがこういうの作るが趣味だって知ってるでしょう」
「いや⋯俺は知らなかったけど」
「あー、確かにオーディンくんには言ったことなかったわねー。でも、これからはあたしも手伝うわよ⋯そうだ!それより、金鹿の学級のみんなで一緒に作ろうよ!みんなで素材を集めて作ればもっと沢山の数が作れるよ」
「おいおい、ヒルダ。学級のみんなを勝手に巻き込んで良いのかよ」
「クロードくん、興味がある人だけ手伝ってくれれば良いのよ。最近は学校生活も血生臭くて殺伐としてたけど、卒業記念にみんなで何かを作るなんて学生らしいことじゃない」
そうかな?学校というのが身近になかったから、ヒルダの感覚は正直よくわからないけど⋯なんだか楽しそうよね。
「あたしも手伝ってあげてもいいわよ」
「流石ルーナちゃん、話がわかるー!マリアンヌちゃんも手伝ってくれるよね?」
「えっ、ヒルダさん⋯いえ⋯私なんかが触ったらせっかくのお守りの効果が無くなってしまうかもしれませんし⋯」
「そんなことは絶対ないよ!むしろ、マリアンヌちゃんが作った物の方がきっと喜んでくれる男子も多いよ」
⋯確かに、ローレンツやイグナーツはオーディンが作った物よりマリアンヌが作った物の方が喜びそうだ。
あたしが作ったお守りを喜んでくれそうな相手⋯うーん、フェリクスとか?いや、アイツはなんだか素っ気ない反応されそうだし渡したくないわね。
じゃあ、ラズワルド⋯いや、コイツは女の子からの贈り物は無条件で喜ぶから⋯って何考えてるんだろう、あたし。
「わたしは首飾りは師匠から貰ったお守りがあるから、呪術の効果付きとはいえ新しいのを貰ってもな⋯」
「⋯レオニーの首飾りはジェラルトさんに貰ったやつだったのか。⋯そのお守りに何か付け足す形で作ろうか?」
「気持ちだけ受け取っておくよ⋯師匠が作ってくれたそのままの物を大切にしたいんだ」
「うーん⋯じゃあ、腕輪型とか首飾りじゃないなら受け取ってくれるか?」
「あっ、それなら欲しいかも⋯でも、ただで貰うのもなんだし、わたしにも何か手伝わせてくれよ」
「もちろん良いぞ⋯首飾り以外にも色々作った方が良いかな⋯腕輪とか耳飾りとか」
「ヒルダちゃんに任せなさい!あたし、そういうのも作れちゃうから」
レオニーも手伝うみたいだ。
まあ、こういう沢山の装飾品を作るならいろんな人が参加した方が個性があって面白そうだ。
「⋯そのお守りにかける呪術というのを私にも教えてください。簡単に作れるとは聞きましたが、それだけの数をオーディン一人では作り切れないでしょう」
「うーん、呪術は全部俺の手でかけたいんだよな〜贈り物だし。⋯というか、リシテアは俺の呪術なんて興味なかったんじゃないのか?」
「興味がないなんて言ってません!⋯いえ⋯言った覚えがありますけど⋯本当は興味がありました⋯あと、私もみんなを手伝いたいですし⋯」
「そうか⋯まあ、呪術も何人かで掛けた方が効率的だよな。いいぜ、“漆黒のオーディン”の闇のおまじないを教えてやろう」
「今更かと思うかもしれませんが⋯本当はオーディンが作った闇魔法もずっと教えてほしかったです⋯意地張ってごめんなさい」
「お、おう⋯じゃあ、後で闇魔法も教えるぞ。まだ未完成の最強の闇魔法もリシテアが協力してくれたら完成するかもしれないな」
急にリシテアが素直になってオーディンが面食らっている。
素直なリシテアはなんだか可愛い。
⋯素直になりたくてもなれない、ああいう娘をツンデレって言うのよね。
「よしっ、金鹿の学級みんなでやるなら、級長として俺が人を集めてこよう!この時間ならほとんどのやつが大修道院にいるだろうしな」
「あたしも部屋から使えそうな道具とか部品を取ってくるねー!」
クロードとヒルダがそう言って教室から出て行った。
「さあ、レオニー!どっちが多く作れるか勝負よ!」
「よしきた!ルーナ、わたしは負けないぞ!」
お守り作りか⋯学校生活最後の楽しい思い出になりそうだわ。
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休日の士官学校の朝⋯僕にしては珍しく、訓練所で鍛錬をしていた。
僕はどちらかというと、鍛錬は夜にするタイプだから休日朝の訓練所は鍛錬している人たちも夜とは違うから新鮮だ。
なぜ、訓練所にいるかというと⋯
手に持つ斧⋯教団から貸し渡されたオートクレールを振ってみる。
正面に敵がいることを想定して、一振り、二振り⋯と振ってみるが⋯やっぱり重いなぁ。
僕も腕力にはかなり自信があるけど、このオートクレールは重すぎてまだ慣れていない。
元々、上級職<勇者>になるために斧術を鍛えてて、斧はサブウェポンとして<トマホーク>や<ハンマー>を使う程度だったが⋯まさか、こんなことになるとは⋯
先日のパルミラ水軍との戦闘では結局自分の剣をメインに使ってしまったけど⋯聖騎士として貸し出されている、この斧を使いこなせないのは流石にまずい。
「ラズワルドくん!それカッコ良い斧だなぁ⋯誰に貰ったんだ?」
「ラファエル。これは教団に貸してもらっている“オートクレール”だよ⋯良い斧なんだけど僕には重くて扱いにくいかな」
「そうかぁ?ちょっと貸してくれよ⋯フンッ!フンッ!⋯そんなに重いかなぁ?⋯ラズワルドくんがいつも使ってる<トマホーク>の方が重てえだろ」
ラファエルがちょっと借りて振り回すが、重たいとは感じないらしい⋯オーディンが言うにはラファエルより僕の方が力は強いらしいけど⋯重さの感じかたは違うのだろうか。
「確かにそうなんだけど⋯メイン武器がこれじゃ重くて追撃を喰らっちゃうよ」
「追撃⋯?なんだぁ、それ?」
「こっちが一回攻撃すると敵が二回攻撃してくるアレだよ」
「ああ、アレかぁ⋯オデはいつもだから気にしてなかったよ」
気にしてない⋯それはそれで問題がある気がするけど。
ラファエルとしばらく斧の持ち方や振り方について議論する。
⋯だけど、ラファエルはほぼ感覚で振ってるらしく参考にはならないなあ。
「やあ、ラファエルくん、ラズワルドくん。君たちが二人で鍛錬とは珍しいな」
「おはようございます。ラファエルくん、ラズワルドくん」
そんな話をしていると訓練所にローレンツとイグナーツがやってきた。
彼らも朝のお茶会の後に体を動かしにきたみたいだ。
「“オートクレール”、素晴らしい名斧だね。この目で拝むことができて光栄だよ」
「英雄戦争時代の武器ですよね。神聖武器をはじめとしたミスリル製の武器は千年近い年月が経っても劣化することがなくて、芸術品としてもすごく価値があるものなんですよ」
ローレンツとイグナーツも“オートクレール”を見て賞賛している。
フォドラの人たちにとっては素晴らしい武器なのかもしれないけど、僕はルーナに渡された“グラディウス”のような使い易くてなおかつ強力な武器の方が良かったな⋯
しかしちょうど良かった、ラファエルとイグナーツは僕たちが聖騎士になった時に率いる騎士団の人材にリストアップされていた二人だ。
セイロス騎士団に誘ってみよう。
「ラファエル、イグナーツ。ちょっと話があるんだけど良いかい?」
「ラズワルドくん、どうしたんですか?急に改まって⋯」
「おう、なんか用事かぁ」
「むっ、僕は聞かない方が良い話かい?」
「いや、ローレンツは事情を知ってるから居ても良いよ」
僕たち三人が聖騎士となった後、セイロス騎士団に新たに“闇に蠢くもの”の脅威に対抗するための部隊が設立されることを説明した。
金鹿の学級の生徒なら“闇を蠢くもの”とも何度も戦っているから、やつらの危険性も知っている。
「君たちにはセイロス騎士として、僕たちと共に一緒に戦ってほしいんだ」
「オデがセイロス騎士団に!?もちろん良いぞぉ!」
ラファエルは即答で返事をくれた。
彼のような前衛で一線級の活躍ができる猛者は何人いても困らないから助かる。
「僕は⋯どうしましょうか⋯」
「もしかしてイグナーツは他に勧誘がきていて、もう受けちゃった?」
イグナーツは指揮能力をはじめ、剣での接近戦、弓と魔法の遠距離攻撃、豊富な信仰魔法による回復と支援、さらには盗賊系職業で偵察、更に商家出身で書類管理と事務処理が得意となんでもできる万能型だ。
必要な人材としてオーディンはイグナーツを真っ先に挙げていたのでなんとしてもスカウトしたいところなんだけど⋯
イグナーツはローレンツの方をチラリと見た後に話はじめた。
「実はローレンツくんにグロスタール伯爵家に仕える騎士にならないかって言われていまして⋯受けるつもりでいるんですけど⋯」
「そっか、僕らとしてはイグナーツに来てほしいんだけど⋯ローレンツ、どうにかならない?」
「僕としてもイグナーツくんは欲しい人材なんだが⋯君たちの使命を考えると仕方ないか。イグナーツくんが良いのなら、僕は手を引くことにするよ」
「イグナーツ。ローレンツもこう言ってるし、セイロス騎士にならないかい?」
「⋯ええっと。⋯では、よろしくお願いします。僕がセイロス騎士ですか⋯なんだか実感が湧きませんけど」
イグナーツもスカウトできた。
部隊新設に向けて、こうやって仲間を集めなければならない。
集めた仲間たちにも僕たちの使命について話さないといけないかもね。
「ごきげんようですわ、みなさん。先生、クロードさん、殿方の皆様がいましたわよ」
「おーい、野郎共。休みの日に訓練所とは真面目な連中だな」
「おはよう、みんな」
イグナーツたちと話していると、フレン、クロード、先生が訓練所にやってきた。
フレンの様子を見るところ、金鹿の学級の生徒たちを探していたようだ。
「クロード⋯また何か企んでいるのか?」
「オーディンのやつが面白いことをやっていてな⋯その手伝いをしてくれるやつを集めてるんだ」
「みんなにお守りを配りたいんだって。それで装飾品を沢山作らないといけないから⋯みんなもやらない?」
⋯先生に詳しい話を聞いたところ、オーディンが呪術を込めたお守りをみんなに配るらしい。
生徒や先生、騎士団のお世話になった人にも配るので、結構な数を作るつもりみたいだ。
訓練所から教室に行くとすでに金鹿の生徒みんなが集まって作業をしていた。
僕たちも加わって手伝うことになった。
「ちょっとー、レオニーちゃん、ルーナちゃん。雑に作りすぎよー、それじゃあ貰う人が喜んでくれないでしょ」
「ごめんごめん、ヒルダ。ルーナ、勝負はやめて普通に作ろっか」
「あたし、こういう細かい作業は苦手だったの忘れてたわ⋯」
「この石を削れば良いんだなぁ?オデの筋肉に任せろ!おりゃあああ!!」
「ラファエルくん!力を入れすぎですよ、それじゃあ石が割れてしまいます!」
「ほう、この装飾はなかなか⋯いや、貴族が身につけるには質素すぎるか⋯僕にはもっと煌びやかなものが似合うと思うんだが」
「ローレンツ、文句があるなら自分で作れば良いじゃないですか。それより魔法が使える人は魔法の付与を手伝ってください。作った分は今日中に付与してしまいましょう」
「リシテア⋯なんでお前が仕切っているんだ⋯あと、魔法ではなく呪術だぞ⋯この“漆黒のオーディン”の闇の呪術⋯」
「わたくしもその呪術が知りたいですわ!わたくしの光の加護なら⋯きっと、オーディンさんものより効果がありますわよ」
「やはり、私なんかがかけるべきではないと思いますが⋯もしこのお守りを貰った人が不幸になったら⋯」
「僕はオーディンが付与したものよりマリアンヌが作ったもののほうが欲しいよ」
「大丈夫、効果はしっかり付いてるよ『幸運+2、必殺回避+10』⋯良い効果だね」
「先生、どうしてそんな効果がわかるんだよ。あんたはやっぱり謎が多いな」
こうして、休日が終わるまで僕たちは作業することになったのであった。
ラズワルドとルーナの休日はこの話で終わりとなります。