ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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白雲の章 孤月の節 EP.12 戦乱の幕開け
第58話『その疾きこと風の如く』


 

 

 俺は“漆黒のオーディン”⋯伝説を作るものと称される選ばれし闇の二刀流剣士だ。

 

 

 俺たちが聖墓から戻った直後、アドラステア帝国はセイロス聖教会とそれに味方する諸侯に対して宣戦した。

 

 前節の時点で既にエーデルガルトは父王を退位させると自らが皇帝に即位していた。

 あれだけ忙しそうに帝都と大修道院を行き来していたのは、皇帝となるためだったようだ。

 皇帝になったエーデルガルトはセイロス聖教会こそがこの世の悪だとして民衆に呼びかけているらしい。

 

 レスター諸侯同盟とファーガス神聖王国の貴族諸侯は聖教会か帝国のどちらにつくかで大混乱みたいだ。

 状況を確認しに来た諸侯の使者や避難していく商人や巡礼者たちで大修道院の人の往来がさらに激しくなった。

 

 アドラステア帝国⋯エーデルガルトの暴挙に黒鷲の学級(アドラークラッセ)の生徒たちは激しく動揺した。

 みんな、帝国が攻めてくれば自分たちがどうなるのか不安を隠せない様子だ。

 エーデルガルトと共にヒューベルト他四名の生徒が行方がわからなくなっていることから、黒鷲の学級(アドラークラッセ)にはエーデルガルトの腹心が数人潜んでいたようだ。

 

 青獅子の学級(ルーヴェンクラッセ)の生徒たちは黒鷲に比べると落ち着いていた。

 ただ、エーデルガルトが炎帝と知った時にディミトリの様子がおかしくなったという噂が流れている。

 ディミトリはエーデルガルトのことをかなり気にしていたみたいだから、俺と同じ様に動揺してしまったのかもしれない。

 

 金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)の生徒たちは、先生とクロードの指示で戦いの準備をしている。

 実家のことが心配な生徒も多いだろうけど、みんな自分にできることを黙々とやっている。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 夜が明ける前の朝の訓練所で、いつもどおり日課の剣の鍛錬を行っていた。

 

 俺は剣を振る時、悩み事があると色々と考えてしまうタイプの人間だ。

 それで解決策が思い浮かぶと良いんだが、いつも悶々としながら無心になれず終わることも多い。

 

 この夜明け前の時間の訓練所、滅多に人が来ることはないんだが入り口のところで気配がした。

 その人物は柱のところで動きを止めてこちらを覗っている様子だ。

 

 

「隠れていないで出てきたらどうだ? 俺に用があるんだろう」

 

「オーディンさん」

 

「フレンか……この時間、ここで会うのは久しぶりだな」

 

 

 フレンと夜明け前の訓練所で会うのは数節ぶり……そういえば、最後に会ったのはフレン誘拐騒動が起きる前の課題に出発する朝だったかな? 

 あの事件以来、フレンはこの時間の訓練所には来なくなってしまったが、昼の訓練所や外の広場で必殺技の練習をしているので、普通に仲が良い。

 

 

「そうですわね……あの時はエーデルガルトさんもいましたでしょう」

 

「……そうだな」

 

「……あの時、エーデルガルトさんとお話しした内容をオーディンさんは覚えていらっしゃるかしら?」

 

 

 ……うーん。

 フレン誘拐事件の前、最後に会った時はフレンとエーデルガルトと雑談をしていたはずだ。

 内容までは覚えてないが、ちょっと難しい話をしていた気がする。

 

 

「……あまり覚えてないな。歴史とか政治の難しめの話をしてたかな?」

 

「オーディンさんが『千年生きた竜の少女と強面の傭兵のおじさん』のお話しをしてくださった後に、エーデルガルトさんとそのようなお話しをしましたわ」

 

「……思い出した。マムクート……じゃなくて、長寿の種族が人の上に立って支配することの話をしたな」

 

 

 たしか、エーデルガルトは「人の姿をした人ではない物が、千年もの間、人を支配し続けていたなら」という問いを俺たちに投げかけてきた。

 俺はそんな国が有っても民が納得しているなら問題ないと答えたが……

 

 

「……あの時、わたくしは質問から逃げてしまいました。難しいお話はわかりませんわ、と……」

 

「そういえば、フレンはそう言ってたな」

 

「わたくし、考えてしまいますの。もしも、あの時上手く答えることができていたら、エーデルガルトさんもあんなことをしなかったのではないかと……」

 

 

 エーデルガルトは教会に対し宣戦し「教団は、フォドラを支配するため教義を利用し、人々を欺いている」と演説を行なっている。

 もちろん、打倒教会のための大義のために偽りの情報を流している可能性もあるが……エーデルガルトは教会の秘密を知って戦争を決断したようにも思える。

 

 フレンがあの時点で上手くエーデルガルトに答えることができていても現状何かが変わっていたように思えないが……

 

 

「それに、わたくし本当は気づいていましたわ。エーデルガルトさんが本当はわたくしたちの敵なのではないかと……それでも、なんとかならないかと悩んでいらっしゃったのではないかを」

 

「……フレンはエーデルガルトが炎帝だと気づいていたのか?」

 

「確信はありませんでした。でも、あのお別れの後、エーデルガルトさんはいつかわたくしたちの前に敵として現れる……そんな予感はありましたわ」

 

 

 俺はそんなこと全く考えてはいなかった……だが、考えてみれば炎帝は俺たちの前に何度も現れているし、魔法で声色を変えているとはいえ口調もそのままだし、背格好も鎧や飾り兜で分かりにくくしているとはいえ、女性の中でも小柄な方だった。

 名前も炎の皇帝、フォドラで皇帝を戴ているのはアドラステア帝国だけだし、エーデルガルトの好きな炎のモチーフ……むしろ、なんで気づかなかったってレベルだな。

 まあ、友達が敵になるなんて考えたくないから、違和感があってもそう思考しなかっただけかもしれない。

 

 

「……これからどうすれば良いんだろうな」

 

「……オーディンさん」

 

「あと数日で帝国と戦争になる。敵の指導者はエーデルガルト……俺たちの友達だ」

 

 

 エーデルガルト以外にも一緒に居なくなったヒューベルト他4人の生徒も一カ月だけとはいえ黒鷲の学級で一緒に学び戦った学友であり戦友だ。

 ……正直戦いたくはない。

 

 

「らしくないですわね……オーディンさん。わたくしたちが何者なのか忘れてしまいましたの?」

 

「……俺たちが何者か……だと……?」

 

「わたくしは選ばれし光の聖戦士“純白のフレン”。そして、貴方は選ばれし闇の呪術士“漆黒のオーディン”ですわ! ……わたくしたちが“光の同胞”のエーデルガルトさんを止めなくて、誰が止めれるとお思いですの」

 

 

 ──!!! 

 

 そうだ……俺は自分が何者か忘れかけていた……俺は“漆黒のオーディン”選ばれし闇の呪術士だ。

 今まで数々の不可能を可能にしてきた天才軍師ではないか……エーデルガルトを……この戦争を止めるためにやれることはまだあるはずだ。

 

 

「フレン、感謝する。俺は自分を見失っていたようだ……二人で“闇の同胞”エーデルガルトを止めるぞ!」

 

「わたくしたちの戦いはこれからですわ!」

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「オーディン、黒鷲の学級(アドラークラッセ)の生徒および教会内の帝国人の避難の準備が整った。……しかし、これで良かったのか?」

 

 

 帝国軍が間近に迫る状況の中、帝国人避難者達の代表者となったフェルディナントと避難の最終確認を行なっていた。

 避難者は黒鷲の学級の生徒と関係者、教会内の帝国出身者、巡礼者や商人といった戦えない人や祖国の軍と戦うことを拒んだ人たちだ。

 

 

「教団としては、帝国と敵対したからって士官学校生や信徒を人質に取るわけにもいかないし、無理矢理戦力に組み込んでいざというときに裏切られても困るから、さっさと出ていってもらった方が好都合みたいだぞ」

 

「それは、わかるが私たちだけ逃げるというのは……」

 

「ガルグ=マクに残っても巻き込まれるだけだ。それは教団と帝国両方にとって良くないぞ」

 

 

 実際、生徒を含めたこの帝国出身者たちの扱いはセイロス教団の上層部でも扱いに困っていたみたいだ。

 先に言ったように戦力に組み込むとか人質にするとかの意見も出ていたらしいけど、俺はまとめて避難してもらうようにセテスさんを通してレア様に進言した。

 

 

「それに、私が代表者というのもな……」

 

 

 フェルディナントは自分が避難者の代表者になったことも気にしているらしい。

 フェルディナントの実家のエーギル公爵家は当主のエーギル公が宰相を罷免され実質的な領地の統治権も失うことになってしまったらしい。

 フェルディナント自身の立場も危ういとのことだが……

 

 

「今の黒鷲の学級で誰がまとめ役っていったら、フェルディナントしかいないだろ? 家柄とかで決めてもカスパル、リンハルト、ベルナデッタがまとめ役をこなせるわけない」

 

「彼らも、士官学校で指揮を学んだ身だ。こなせないなんてことはないはずだが……」

 

「それに、フェルディナントにとっても代表として避難者達を無事に帝国まで届けられたら実績になるだろう? 家の名誉挽回にもなるかもしれないし」

 

「……君はそこまで考えてくれていたのか」

 

 

 俺たちの敵“闇に蠢くもの”について詳しく知っているフェルディナントには帝国内での地位を保ってほしいのもある。

 カスパルの父の軍務卿、リンハルトの父の内務卿はエーデルガルト派になったから地位を保てているが……“闇に蠢くもの”のことを知ってどう動くかが想像できないからな。

 

 

「私がもし貴族として復権できたら、君たちと戦うことになるかもしれない。……それでも良いのか」

 

「……その時はエーデルガルトの側で支えて……守ってやってくれ。あいつには本当に頼れる味方は少ないだろうからな」

 

「わかった。ありがとう、オーディン……女神が世界を救うための人選でなぜ君を選んだのかわかった気がするよ。君こそ真の英雄の精神の持ち主だ」

 

「……やっと、気づいたのかフェルディナント? 俺は“漆黒のオーディン”、世界を救う選ばれし闇の呪術士だ!」

 

「はははっ……名残惜しいが、そろそろ出発の刻限だ。オーディン、武運を祈る」

 

「貴様もな……フェルディナント」

 

 

 別れを告げた後にフェルディナントは避難者達の集団の中に戻っていくと、号令をかけたあと避難者達の先頭を歩いていった。

 

 避難者達の中に管理のために混じっている黒鷲の生徒や顔見知りの教会関係者に挨拶していく。

 

 

「オーディンさん、お元気で……こんなこと、あたしが言うのもなんですけど……死なないでくださいね」

 

「さらばだ……暗き深淵なる部屋に身を潜めし者よ。ベルナデッタ、戦争が終わるまで危ないからちゃんと部屋に引き篭もっておくんだな」

 

「も、もちろんですよ! ベルはなるべく目立たないように領地の部屋に身を潜めます!」

 

 

 出会った頃や黒鷲の学級に追放された頃からは想像出来なかったが、ベルナデッタとも仲良くなれた。

 いまだに俺のことを怖がっている節があるが別れの挨拶に来てくれる程度には仲良くなれたはずだ。

 

 

「オーディン、あなたの武運、祈ります」

 

「安心しろ、俺には闇の精霊の加護がついている。戦争が終わったらまた剣の勝負でもしような、ペトラ」

 

「ふふ、剣の勝負も、楽しみ、する、していますが、あなたの言葉使いも、もっと、詳しく知る、したいです」

 

 

 ペトラとは黒鷲にいた時もあんまり話す機会がなかったが、訓練所で会った時は剣を打ち合うことが結構あった。

 まあ、普通に負け越してるんだが……そもそも、ペトラはラズワルドやルーナと互角に戦える剣の腕だからな。

 

 

「じゃあな! オーディン」

 

「ふわぁ、眠い……荷物と一緒に馬車の中で寝てちゃだめ?」

 

「カスパル、リンハルト……例の手紙ちゃんと親父さんに渡しといてくれよ」

 

「わかってるって! どうも親父は今回攻めてくる帝国軍の中にはいないみたいだぜ、良かったな」

 

「軍務卿は国内で睨みを効かせてるらしいよ。ただ、帝国の西側……王国側で軍を集めてるって噂もあるけど」

 

 

 この情報は教団でも掴んでいる。

 もし、ガルグ=マク大修道院を陥落させることができたら、次に攻めるのは王国という話である。

 

 帝国への避難者が全員ガルグ=マクを出て行くのを見送ると、俺と同じように見送りをしていた者たちだけが残った。

 

 

「黒鷲の学級のみんな、行っちゃったわね……」

 

「ドロテア、本当に残ってもよかったのか?」

 

「私はみんなみたいに帰る家があるってわけでもないし……歌劇団のことは気になるけど、私がいても出来ることなんて疎開を手伝うことくらいでしょうし」

 

 

 ドロテアは黒鷲の学級で唯一、大修道院に残った生徒だ。

 平民だし、戦争の影響でしばらくドロテアの所属していたミッテルフランク歌劇団も閉業するらしいので行き場がないらしい。

 

 

「ラズくんに誘われた時は断っちゃったけど、私も貴方達の聖騎士団に入れてくれないかしら?」

 

「フッ……その言葉を待っていた! ……正直〈メティオ〉と〈リブロー〉が使えるドロテアが入ってくれると、めちゃくちゃ助かるぞ」

 

「色気のない褒めかたねぇ……もうちょっとどうにかならないかしら」

 

「ミッテルフランク歌劇団が誇る神秘の歌姫よ……我が漆黒闇騎士団(シュヴァルツァドゥンケリッター)で共に運命と踊らないか?」

 

「ええ、聖騎士様……貴方と一緒にどこまでも踊りますわ」

 

「運命を共に!!」

 

「はあ〜、オーディンくんらしいと言えばそうだけど……大丈夫かしら?」

 

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