ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
第5.5話『ラズワルドとルーナの休日①』
(竪琴の節 四日)
僕の名前は“蒼穹のラズワルド”、選ばれし希望の戦士さ。
これ、凄い恥ずかしいね……オーディンって、いつもこんなこと考えてるのかな。
今日は授業の無い休日、生徒たちは思い思いのことをやろうとしている。
朝から訓練に励む者、友達と町に出る準備をしている者、1日中部屋で勉強や読書をして時間を潰す者、必殺技の開発に励む者……はオーディンだけか。
僕かい? もちろん女の子とお茶をしにいくのさ。
この士官学校に来てから充実した日々を送れていた。
傭兵時代は町や村でナンパしてもほとんど成功しなかったけど、この士官学校には可愛い同世代の女の子がたくさんいるし、同じ
特にお茶をする機会が多いのは、雑談好きのヒルダとジェラルト団長の話を聞きたがってるレオニーだ。
まあ、僕はあくまで女の子とのお喋りを楽しみたいだけで、付き合うとかはあんまりないんだけどね。
は、恥ずかしいしっ!
今日は別の学級の娘や修道院の女の子をお茶に誘ってみようか。
丁度、良さそうな娘がいるな。
紫色の特徴的な髪型で猫背気味の小柄な生徒……あまり見かけない、というより初めて見かける娘だ。
女の子のことなら全て覚えている僕の知らない女子生徒がいるなんて……よしっ! 声をかけてみよう。
「やあ、君なにしてるんだい?」
「……ぶっふううううう!! はいっ! どなたでしょうかあああ!!」
振り向いて、凄いビックリしている。
流石に驚き過ぎのような……僕はそんなに怖い顔はしてないんだけど。
「僕は
「ぴええええ!? ベルは名乗るほどの者じゃありません!! 助けてええ!」
ベルという娘が叫んだので、辺りの生徒の視線が一気にこちらへ向く。
恥ずかしい! それに、これじゃあ、いじめてるみたいじゃないか。
「ちょっ、落ち着いて……」
「もうダメええええええええ!!」
走り去ってしまった。
このパターンは初めてだ……変わった娘もいるものだね。
気を取り直して行こう。
生徒たちの歓談スペースがある中庭までやってきた。
ここはお茶をする場所もあるし食堂や大広間と近いから人通りもほどほどで丁度いい。
あっ、あれは
「やあ、君は
「知ってるわ……
「わあ、僕のことを知っていてくれてるんだ。光栄だね!」
ドロテアは学級の違う
帝国の有名な歌劇団で歌姫をやっていたらしい。
そんな彼女に名前を覚えてもらえるなんて嬉しいね。
「理由は全く光栄なものじゃあないんですけどねえ」
「えっ、どうして?」
「だって、貴方有名なんですもの。誰彼構わず女の子を口説くって」
誰彼構わずって……そんなこと無いと思うけどな。
「僕は可愛い女の子しかナンパしないよ」
「あら? じゃあ、貴方は可愛くない女の子はナンパしないのかしら」
「それはないよ僕は出会う女の子みんなを可愛いと思っちゃうから」
「やっぱり、誰彼構わずじゃない……」
この会話に付き合ってくれる流れなら……お茶に誘っても大丈夫かな。
「まあ、そんなことは置いといて。これから二人でお茶でもしないかい?」
「嫌よ、貴方とはお茶しないわ」
「あれっ? 誰かと先約でもあるの?」
「貴方とお茶しても、私の目標は達成できそうにないもの」
「……目標?」
「私、ここには将来の相手を捜しにきているの……貴方みたいに女の子に誰彼構わず声をかけてる人は対象外よ」
へえ、士官学校に将来の相手を捜しにきてる娘なんているんだね。
ウチの学級のローレンツもそんな目的で女の子に声をかけてる噂があるから、わりと普通のことかもしれない。
「……でも予定がないのなら、僕とお茶をするくらい、いいじゃないか? 話をしてみたら気が変わるかもしれないよ」
「あら、しつこい男は嫌われるわよ?」
やや棘がある言い方になってきたな……
ここは撤退時だな。
「今日のところは引き下がるよ。また今度暇な時にお茶でもしようね」
「はあ、本当に伝わったのかしら?」
君のことについては十分わかったよ。
今度は成功させてみせるよ!
そろそろ昼時になってきた。
生徒たちも食堂に向かい出してきたのでお茶の誘いから食事の誘いに切り替えるか……
一人でいる女子生徒に声をかけなくちゃ。
あっちにいるのは、
化粧を全くしてないけど、かなりの美少女と評判の娘だね。
よしっ!
「やあ、僕は
「貴方は……?」
「一度、君と話をしてみたくて……よかったらこれから食事でもどうかい?」
驚かせちゃったかな、口を開けてポカーンとしている。
「……あなたが知り合いと重なって見えて驚いてしまっただけです。容姿も口調も違いますが……」
「へえ、僕に似てる知り合いがいるの? 詳しく知りたいね……食事でもしながら話そうよ」
「ええ、そういう素行が悪くて……女の子を口説いて回るところとかがそっくりです……」
キッ、と眉を吊り上げて睨んでくる。
あれっ? ひょっとして怒ってるよね……その知り合いって、よっぽど彼女の恨みを買ってるのかな。
まあ、このくらいでめげないよ。
「そんな恐い顔しないで、可愛い顔がもったいないよ」
「……とにかく私は貴方と食事に行くつもりはありません!」
あちゃー、これで三連敗か……
イングリットが去っていこうとしたが、その前に別の人物が表れた。
「……はっははは! どうやら俺は、見てはいけない場面に出くわしたようだな!」
「……君は?」
「イングリット、まさかお前が口説かれてる場面に遭遇するとはな……しかも、たいした振りっぷりだったぜ!」
「……シルヴァン」
僕は本能でわかってしまった。
このシルヴァンと呼ばれた男……この男は僕の敵だ!
「イングリット! これから二人で食事でもしながらさっきの詳しい話を聞かせてくれよ!」
そう言って見せつけるようにイングリットの肩に手を回すシルヴァン。
……ぐぬぬ。
「……シルヴァン、今私とても機嫌が悪いの……誰かさんのせいで」
「おうおう、わかってるって、たっぷり話を聞いてやるからよ!」
あれ? イングリット、さっきより怒ってないかな?
もしかしてイングリットの言う知り合いって……
「……シルヴァン、いい加減に離さないと殴るわよ」
「えっ? ちょっ、なんで俺に怒ってるんだ……」
「そんなに食事がしたいのなら、彼と行きなさい! 似た者同士仲良くなれるでしょう!!」
イングリットはこちらを指さして肩をいからせて歩いていった。
シルヴァンと顔を見合わせてため息をつく……知らない男同士で食事なんかしてもつまらないよ。
□□□
あたしの名前はルーナ、“緋炎”とか“紅蓮”とか異名が付いてるわけじゃない、ただのルーナよ。
オーディンが、前にあたしにも異名をつけようとしていたけど、バカみたいだから止めさせた。
アイツってなんで勝手に異名とかつけるのが好きなんだろ。
今日は士官学校の休日、レオニーと町へ買い物に来ていた。
レオニーはこの前の学級模擬戦の後、勝ったほうが負けたほうに言うことを聞かせられる条件で勝負をして、あたしが勝ったので町の案内として連れてきた。
「さあ、久しぶりの買い物よ! 沢山買わなきゃ!」
「ルーナ、意気込んでるところ悪いんだけどさ、いったい何を買うの?」
「あたしが欲しくなったものに決まってるじゃない!」
「なんだいそりゃ?」
レオニーと会話をしながら町を散策する。
まずは雑貨屋に入って、物色だ。
フォドラ大陸の真ん中の三つの国に挟まれている大修道院のお膝元の町だけあって、雑貨も色々種類が豊富だ。
女神に関係するものや宗教関係のものが多いのは土地柄かな。
「見て、レオニー! この小物入れ可愛くない?」
「そうかなぁ? 派手すぎないか、それ……」
可愛い緑髪の女の子が描かれている、小物入れだ。
あたしたちをこの世界に連れてきた女神様によく似ている。
「このくらい主張が強いほうがいいのよ……よしっ! 買うわ!」
「早っ! ……あのさぁ、もうちょっと考えてだな……」
レオニーが何か言おうとしてるけど、もう買っちゃった。
この調子でどんどん買おう!
「あっ、こっちの小物入れも可愛いじゃない! これも買っちゃおうかな」
「ちょっと、まて! 小物入れならいまさっき買っただろ。二つもいるのか?」
「そんなの使ってみないと解らないし、いつか使うかもしれないじゃない」
「今、必要なものを買えよな……」
「あたしは今欲しいの!」
「あんたの買い物だから文句は言わないつもりだったけど、さすがに無駄遣いが過ぎるよ。この調子で買ってたらすぐお金が無くなるし、お金もあんまりなかったんじゃないの」
……ぐぬぬ。
確かに、途中でお金が無くなって買い物を終えた経験も一度や二度ではない。
レオニーの言うことも一理ある。
「でも、せっかくなんだから買い物を楽しまなきゃね!」
「買い物を楽しむってのは否定しないけどね、わたしは節約が趣味なんだ。何かあったら口出しさせてもらうよ」
……節約が趣味!? レオニーとは趣味が合わないわね。
連れてくる人選を間違えたかしら……
◇◇◇
士官学校に戻る頃には夕暮れ時になっていた。
レオニーとはあの後も買い物の度に言い争いになったりもしたが、すっかりなんでも言い合えるような仲になったような気がする。
「はあ、楽しかった~! 沢山買えたし、こんなに長い時間買い物したのも久しぶりだわ」
「結局、有り金全部使っちゃったんだろ、大丈夫なの?」
「お金なんてまた稼げばいいじゃない。お金は使うためにあるのよ!」
レオニーが無駄遣いを止めてくれたおかげで、休日を一日満喫できた。
なんだか節約家の仲間と買い出しに行ったときを思い出す……あの時の買い出し結果は仲間たちにも好評だった。
「これから食堂で夕食を食べたら、ヒルダの部屋に泊まりに行くんだけど……レオニーも来る?」
「わたしはいいよ。今日遊んでた分を今から鍛練して取り戻さないと」
「レオニーは真面目ね~たまには息抜きも必要よ、今日みたいに……そうだ、今度アンタの買い物にも付き合ってあげるわ」
「それはいいよ……でもルーナってあれだけ腕が立つ割にはあまり鍛練してないんだな」
「あたしは負けるのが嫌いなだけで鍛練が好きなわけじゃないのよ……もちろん人並み以上にはやってるつもりだけど、レオニーほどじゃないわね」
「ふふん、そうやって怠けてるなら、いつかアンタにも追いつく日がくるさ、その時は覚悟してろよな」
「言ったわね……あたしも簡単に負けたりしないわよ!」
レオニーなら、いつかあたしたちに追いつくこともできるだろうけど、だからって負けるのは嫌よ。
「じゃあわたしはこれで……」
「あっ、ちょっと待ちなさいよ!」
「ん? どうした、まだなにかあるのか?」
「えっと、その……」
「……あんたらしくないね、はっきり言えよ」
レオニーが帰ってしまう前に、荷物の中から物を取り出す。
「……その、これ……あげるわ」
取り出したのは道具袋だ。
革製で頑丈そうな造りをしている。
「これを……わたしに?」
「そうよ、今日付き合ってもらったお礼よ……アンタの道具袋だいぶ古くなってたし何度も修理してたでしょ……た、たまたま見つけたから買ったのよ」
「お礼ったってわたしはあんたに勝負で負けたから、付き合っただけで……こんな……貰えないよ」
「細かいことは気にしないの! そ、それに……アンタが卒業しても団長と一緒に傭兵をするんなら付き合いも長くなりそうだし、これからもよろしくって意味で……」
「そうか……ルーナありがとな、大切にするよ!」
レオニーは嬉しそうに道具袋を弄りながら帰って行った。
べ、別に喜ばそうとして贈ったわけじゃないし! ただのお礼の気持ちであげただけだから……
◇◇◇
「ルーナちゃん、今日のお買い物どうだった?」
「楽しかったわ、夕方まで遊ぶのも久しぶりだったしね」
「あたしも行けば良かったかなー、今日は一日ゴロゴロしてただけだったし」
「そういう休日の過ごし方も良いとは思うけどね」
ヒルダの部屋に泊まるのも今日で二回目だ。
前回は、ベレスや学校、ヒルダのお兄さんの話で盛り上がった。
「ヒルダ、今日は何の話する?」
「今日はルーナちゃんの仲間の話をしてよー。オーディンくんとかラズワルドくんとか……」
「アイツらねぇ……アイツらのバカみたいな話なら沢山あるんだけど、どれから話そうかしら」
アイツらの話題の豊富さには事欠かない。
バカみたいというより本当にバカとしか思えない行動を常日頃からしてきている。
ラズワルドはナンパした女の子に身ぐるみ剥がされて無一文になったことがあるし、オーディンは武器の名前とか必殺技とか子どもっぽいことばかり考えている。
それに最近のオーディンは魔法とか呪術にはまってさらに奇行が増えてきた。
「ルーナちゃんって、どっちのことが好きなの?」
「な、なな……いきなりなに言い出すのよ、ヒルダ!」
「あー! 顔真っ赤にしちゃって可愛いー」
「アイツらは別にそういうのじゃないわよ! ただの幼なじみとか腐れ縁とかそういう関係よ……」
「……ふーん」
ヒルダはニヤニヤしながらじっと見てくる。
「じゃあ、ルーナちゃんから見たら二人はダメダメな男の子なんだー?」
「そ、そこまで言ってはないわよ……アイツらだってたまにはカッコいいところがあるんだから……」
たまにだけどね。
ラズワルドは落ち込んだ時には絶対そばに来て慰めに来てくれるし、オーディンはどんな絶望的な時でも諦めず自分や味方を鼓舞してくれる。
アイツらのそういうとこに助けられたことは何度もある。
「ふーん、へー、そうなんだ」
「ヒルダ、ニヤニヤしすぎよ! からかわないで!」
「ごめんごめん、許してー、ルーナちゃん」
「……ヒルダは誰か好きな人とかいないの?」
「うーん、まだいないかな。あっ! でもルーナちゃんがあの二人のこと好きじゃないなら……狙ってみようかな……」
「あ、アイツらを!? やめたほうがいいんじゃない?」
ヒルダはまだあたしのことからかっているのかな。
大貴族のお嬢様が、どこの馬の骨ともしれない平民と……いやオーディンは一応王族だしラズワルドも騎士の家出身だけど……こ、恋人になるなんて……
「でも、ルーナちゃんも言ってたじゃん、二人ともカッコいいところあるって。あたしもラズワルドくんは優しくてカッコいいと思うし、オーディンくんはすごい面白いと思うよ」
「そ、そういうことじゃなくて……」
なんでだろ? ヒルダがアイツらのことを褒めると嬉しいようなモヤモヤするような気分になるのは……
「あたしたちはフォドラでやることが終わったら国に帰らなきゃいけないの……」
「そういえば三人はフォドラの外の国出身だったねー。やることってなんなの?」
「い、今はまだ言えないわ……ヒルダにならそのうち言ってもいいかもしれないけど」
この世界に来たとき、三人で誓った。
使命を果たして、必ず三人で元の世界へ戻ろうと……
「ルーナちゃんたちの国ってそんなに遠いの?」
「うん……国に帰ったら、もう会えないわ」
「そうなんだー。うーん、さすがにそんなに遠いところに行っちゃうとなると考え直さなきゃね。家族と簡単に会えなくなるのは寂しいし」
世界を越えて何度も行き来はできないようなので、使命を果たしたら本当のお別れだ。
ベレスや団長、ヒルダ、レオニー、
せっかく仲良くなれたのに……
その後、今日買ったものや町に売っていた珍しい物の話をしていたら、すっかり夜も更けてきた。
「それじゃあ、そろそろ寝ようかな……」
「ルーナちゃん……今日はこっちで二人で寝ようよ!」
「えっ!?」
ヒルダが自分のベッドを指して言っている。
前回も誘われたけど、結局持ってきた寝袋で寝た。
今回も寝袋は持ってきている。
「女同士とはいえ恥ずかしいじゃない!」
「えー、恥ずかしがることないよ……友達なら普通だよー」
「……そ、そうなの?」
「そうそう、あたし寝相良いし、二人とも大きくないから大丈夫だよ」
そこまで言うなら一緒に寝てみるかな……
誰かと一緒の布団で寝るなんて子どもの時以来だ。
ヒルダがこちらの方向を向いて寝る姿勢になったから、なんとなく背中を向けてみる。
「ええー、ルーナちゃんこっち向いてよー」
「嫌よ! 向かい合ってたら、なんとなく眠れなそうだし……」
「じゃあ、こうしちゃうよー」
ヒルダが後ろから抱きついてきた。
背中にあたる柔らかい感触と良い匂い……寝る前だからお化粧も香水もしてないのになんで良い匂いがするんだろ?
「ちょ、ちょっと……どこ触ってんのよ!」
「ふふっ……ルーナちゃん、もし会えなくなってもずっと友達だよー」
「ヒルダ……」
今日のところはヒルダの柔らかい感触と優しさに身を委ねてみるのも悪くないかも。
女の子視点難しいです
何度も書いたり消したり…
補足
ルーナと買い出しに行った節約家
FE覚醒の子世代ユニットのロラン
二人の買い出しは足りない物や無駄な物がない完璧な買い出しだったらしい