ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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第60話『夜明けの傭兵団』

 

 

 俺は“漆黒のオーディン”、とある神竜族の血を受け継ぎし王族であることを隠し、フォドラに降臨した、選ばれし闇の聖騎士だ。

 

 

 先生が崖下に落ちた後、レア様を助けに行くことも出来ず撤退した俺たちの部隊は、追撃の帝国軍と数度交戦はあったものの、一旦は安全地帯と言える場所まで撤退することができた。

 

 赤き谷ザナド…俺たちが最初の課題で盗賊を討伐しに行った場所だが、古い遺跡があるため数百人が雨風を凌ぐことができ、かつ地形が断崖絶壁で複雑だが土地勘が有れば守りやすく退きやすいため、この場所を拠点として選んだ。

 

 

「ルーナ、今日も先生は見つからなかったか?」

 

「…先生が落ちたところ辺りの崖下を飛びながら粗方探してみたんだけどね。…幸いあそこの下は底の深い川があったから、もしかしたら生きている…いえ、あたしはベレスが生きていることを信じてるわ」

 

 

 俺たちが同盟または王国に避難しなかった理由は三つある。

 

 一つ目は崖下に落ちた先生を探し出すこと。

 

 

「オーディン、そっちは何か進展はあった?」

 

「今日は撤退戦ではぐれた教団兵を何人か保護できたな。あとは、帝国の補給部隊を見つけたから襲撃して、ちょっと物資を拝借できた」

 

 

 二つ目は教団軍の撤退支援、三つ目は帝国軍の偵察監視と妨害工作だ。

 俺たちがガルグ=マク周辺に留まって、遊撃戦を繰り返したことで帝国軍は追撃に集中せずガルグ=マク周辺の防備を固めることを優先したようだ。

 

 

「物資!何があったの?食べ物は?」

 

「残念ながら食料関係は少なかった。武器とか矢とか木材が多かったな…ただ、衣服と毛布の類が結構あったからこれで寝床が多少は良くなるぜ」

 

「えー、食べ物が無かったのは残念ね。トマト好きのあたしでも流石に食べ飽きてくるわよ」

 

 

 部隊の食料は俺の呪術、ピュアジンク・キュイジーン・トメイトゥで大量のトマトを召喚することで食いつないでいる。

 本来は宴会用に作った呪術なのに、まさかこんなところで役に立つとは思わなかった。

 

 ただ、食料がトマトだけでは流石に力が出ないので周辺で食べられる木の実・野草・茸を探したり野生動物を狩ることで足しにしている。

 今回の補給部隊の襲撃でも少ないが食料は手に入ったしな。

 

 ルーナの報告と入れ替わりでクロードがやってきた。

 

 

「よお、オーディン。今、時間はあるか?まあ、時間がないと言われても作ってもらわなきゃ困るんだがな」

 

「俺を誰だと思っているクロード。“時の呪術士”漆黒のオーディン、時間を作り出すなど造作もないぞ…それで、なんだ?緊急の用事か」

 

「時間を作り出すなんて羨ましい能力だな、俺にもくれよ。まあ、冗談はさておき…俺のほうは残念だが時間切れだな、そろそろ同盟に戻らないとヤバいんだ」

 

 

 クロードも部隊に残っていろいろ手伝ってくれてはいたが、同盟も帝国と教団の戦争のせいでなにかと忙しいらしい。

 

 

「帝国が国境周辺に兵力を集めだしててな、このガルグ=マクに動員していた兵力も同盟側に向くらしい」

 

「王国の方もすでに軍務卿が帝国軍を動かして、すでに戦争が始まってるんだったよな」

 

「ああ、エーデルガルト皇帝陛下も手が早いようで…俺の爺さんのリーガン公も体調を崩しちまって、実家が早く戻って来いってうるさいんだよ」

 

 

 クロードが外部から情報を仕入れてくれるおかげで、ガルグ=マク周辺以外の情勢を知ることができていたのに…これはかなりの痛手だな。

 しかし、次期盟主であるクロードがここまで残ってくれている方がありえなかったのかもしれない。

 

 

「そうか…今まで世話になったなクロード…我が感謝の念を受け取るがいい…!」

 

「ああ、“感謝の念”は受け取っておくが…オーディン、お前らも一緒に同盟に来ないか?」

 

 

 同盟か…行くことは選択肢の一つにはあるんだが…

 

 

「まだ無理だな…先生を見つけてあげないと」

 

「俺だって先生が死んだなんて思ってないさ…ただ、生きているとするなら既にここを離れてしまってるか、帝国軍に捕まってるか…そんなところだろ?ここで無作為に先生を探し続けるのは時間の無駄だぜ」

 

「それはたしかに一理あるんだが…俺はここに留まってガルグ=マクの周辺を探し続けた方がいいんじゃないかと思ってる」

 

 

 なんとなく…ただの勘だが、先生はまだこの辺りにいる気がする。

 それに、ガルグ=マクはフォドラ大陸の中央部に位置している…情勢の変化で同盟に行くか王国に行くか判断する時に動きやすい。

 そもそも教団の聖騎士として動くなら、教団本隊が行った王国に行き合流するべきだしな。

 

 

「そう言うかもとは思っていたが…仕方ないか。じゃあ、先生が見つかったら同盟に来てくれよ」

 

「いや、先生が見つかったら、多分王国に行くんじゃないのか?」

 

「…なんでだ?」

 

 

 クロードはこれは予想してなかったのか呆けた顔をしている。

 

 

「先生は大司教レア様の後事を託されたわけだから、王国で教団と合流すると思うぞ…まあ、実際のところ先生の意志次第だが」

 

「…オーディン、レアさんが竜に変身するのは見てたよな…?」

 

「見てたぞ。竜に変身するレア様を見てお前が呆然としてるとこもな」

 

「呆然としてたのは、まあ、そうなんだが…レアさんの正体が“人ならざる者”、あんな化物だって分かったのに、まだ教団の一員として戦うつもりなのか?」

 

「セイロス教では“白きもの”は女神様や聖者セイロスを助けた良い竜なんだろ?レア様の正体が“白きもの”だったってことが何の問題なんだ?」

 

 

 レア様の正体が竜族ということが確定できて、俺の中ではレア様はかなり信頼できると思えた。

 女神様や聖人たち(レア様自身が聖人の一人だった可能性はある)がいなくなった後、長い間セイロス教の長としてフォドラをまとめてきたのだろう…良い竜族の人ならただの人族より、よっぽど信頼できる。

 

 

「いや、確かにそうなんだが…これが生まれた国が違う価値観の違いってやつか…」

 

「フッ、俺は神竜族ナーガの血を受け継ぐものの末裔だからな…というか、クロードも竜族の血が受け継がれてるんじゃないか?紋章を持ってるんだろ」

 

「俺が竜族の血を…冗談だろ?この紋章は十英傑に由来するものだから、竜は関係ないはずだ」

 

「いや、紋章を司る聖人は“人ならざる者”に姿を変えることができるって仮説をハンネマン先生に聞いたことがある。レア様の正体が竜族だったことを考えると、紋章を持つ十英傑も竜族かその血を受け継いだものの可能性はおおいにあるぜ」

 

 

 この仮説、かなり当たっているのではないかと俺は思っている。

 俺の持つ聖痕と邪痕は紋章に近い性質のものらしいが、どちらも竜族を由来としている。

 紋章は竜族(あるいはそれに近い人外種)の血を受け継ぐものの証というのは納得できる話だ。

 

 

「俺の紋章が竜族の血が由来ね…」

 

「そう考えるとレア様が竜族だったことに忌避感は湧いてこないだろ?遠い親戚かもしれないんだし」

 

「はははっ、レアさんが遠い親戚か、その発想はなかったぜ!」

 

 

 俺の冗談にクロードが笑いだした。

 これでセイロス教会に対する印象が少しでも良くなるといいんだが…クロードは教会に対して結構な不信感を持っている様子だったからな…いや、俺も最近まで疑ってたからあまり人のことは言えないんだがな…

 

 

「話がだいぶそれたな…そういうわけで、先生が見つかったら王国にいるセテスさんたちと合流する可能性が高い」

 

「…惜しいことをした。オーディンも王国に取られちまうなんて、こんなことなら教団軍の受け入れは同盟でやるべきだったかな」

 

 

 同盟が受け入れる意志を示しても関わりの薄さから教会側は王国を選んだと思うけどな。

 そもそも同盟は、重要事項は五人の貴族による円卓会議の承認が必要だから、どうしても対応が遅くなる。

 

 

「…無茶して死ぬなよ、オーディン。先生がいなくなった今、お前に死なれたら俺の野望は大きく遠のくからな」

 

「お前の野望に乗ったつもりは一度もないが、死ぬつもりも毛頭ない!…世話になったな、クロード。またな」

 

 

 そう言って、俺はクロードに別れを告げた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 赤き谷ザナドの遺跡内の一室に士官学校有志義勇軍…先生が適当に名付けた俺の部隊の主要メンバーが集まっていた。

 

 “漆黒のオーディン”、“蒼穹のラズワルド”、“紅蓮のルーナ”、“壊刃の継承者”レオニー=ピネッリ、“野獣”ラファエル=キルステン、“勝利を描く”イグナーツ=ヴィクター、“正義の一矢”アッシュ=ディラン、“慈愛の聖女”メルセデス=フォン=マルトリッツ、“戦場の歌姫”ドロテア=アールノルト。

 

 本来は俺たち三人が聖騎士となった時に騎士や神官として手伝ってくれる予定の士官学校生だったが、帝国との戦いでなし崩し的にここまで戦ってきたが全員が俺の部隊に残ってくれている。

 

 

「クロードくん、行っちまったかぁ…寂しくなるなぁ」

 

「ラファエルくん、しょうがないですよ…むしろ、今までここに残ってくれていたことに感謝しないと」

 

「なに、クロードなら同盟に戻っても上手くやるさ」

 

 

 クロードが同盟に帰ったことを伝えるとみんな寂しそうにしていた。

 

 

「それで、オーディンくん。私たちは今後はどういう方針で動くの?」

 

「方針は変わらない。ガルグ=マク周辺に留まって、先生を探す、教団の生き残りや周辺の村の人たちを助ける、帝国軍の妨害をして王国や同盟への軍事行動を遅らせる。この三つだ」

 

 

 ドロテアに方針を聞かれたから答える。

 これは、ガルグ=マクから離れた後すぐ決めた方針だ。

 

 

「帝国軍への妨害は少しやりすぎちゃったかもしれないよね…何度かこっちの何倍の数の討伐軍が来ちゃったから」

 

「全部追い払ってやったけどね。あたしが……軍団長だったかしら?それなりに偉いやつを討ち取ったらしばらく来なくなったわよね」

 

 

 ラズワルドとルーナの言う通り帝国軍との戦いでは、すでにそれなりの戦果をあげている。

 俺たちの存在はガルグ=マクに駐留する帝国軍にとっても無視できない存在だろう。

 

 

「ユーリスから聞いた情報だと、すでにエーデルガルトたちはガルグ=マクからいなくなってるみたいだね」

 

「アビスの人たちは教会からの少ない支援までなくなっちゃって、大変だってコンスタンツェも言ってたわ~」

 

 

 クロードからの情報がなくなる為、現在情報を集める手段はガルグ=マクの地下アビス灰狼の学級(ヴォルフクラッセ)からか、捕虜を尋問して聞くしか方法がない。

 ガルグ=マクの兵力が少なくなったら、地下から侵入してガルグ=マクを奪い返せるかもしれないが今はまだ無理だろう。

 

 

「そういうわけで、方針は変わらずやっていくとして…みんなの偉大なるリーダーである、この“漆黒のオーディン”から一つ提案がある」

 

「オーディンがリーダーなのは本当に癪だけどね」

 

「ははは、教団が決めたことだからしょうがないよルーナ。それで、提案って何?…どうせこの部隊の名前を決めるとか、くだらないことなんでしょ」

 

「ぎくっ」

 

 

 ラズワルド、くだらないこととはなんだ!

 いつまでも、士官学校有志義勇軍とかいう俺のセンスとあっていない名前の部隊なんて、率いることはできない!

 

 

「…フフフ、わかっているじゃないか…ついにこの部隊の名前が決まる時が来たんだ」

 

「今の士官学校有志義勇軍もわかりやすくて良いと思うけどね」

 

「アッシュ!俺はカッコイイ名前の部隊を率いたいんだよ!!」

 

「それで、なんて名前になるんだぁ?筋肉騎士団とかか?」

 

「ラファエル、あんたは頭から筋肉を離しなよ…でもわたしたちの扱いって結局なんになるんだ?教団から離れて活動してるし傭兵扱いか?…それなら騎士団は名乗れないよな」

 

 

 俺たちは誰に雇われているわけでもないが、一応傭兵団の扱いでいいだろう。

 レオニーが心配しているが、騎士団を名乗っている傭兵や盗賊なんてごまんといる。

 

 

「フフフ、心配するな…俺の考えている名前は傭兵団としても騎士団としても使えるものだ」

 

「はいはい、聞いてあげるから早く言いなよ」

 

「その名も漆黒闇遊撃軍(シュヴァルツァドゥンケヴェーア)だ!」

 

「…また、帝国風にしてるの?あんたも懲りないわね」

 

「反帝国活動をやってる僕たちが帝国風の部隊を名乗るのって、兵士のみなさんに納得してもらえるでしょうか?」

 

「イグナーツくんの言う通りよ。エーデルちゃんなら喜びそうな名前だけど、私たちがそれを名乗るのもね」

 

「…そもそも、聖騎士なのに闇をつけるなよ」

 

「ぐぬぬ…」

 

 

 徹夜で考えたカッコイイ名前を即座にみんなに否定されてしまった…

 もう俺はダメだ…人目のない、暗い天幕の隅でうずくまっていたい…

 

 

「あらあら~、オーディンが落ち込んじゃったじゃない。そうだ!みんなでかっこいい名前を考えてあげましょうよ。それならオーディンも満足よね?」

 

 

 メルセデス~!なんて優しいんだ…俺に優しくしてくれるのはお前しかいない…お前をこの部隊に誘って良かったぜ…

 

 メルセデスの一言がきっかけでみんなが名前を考えだしてくれた。

 

 

「部隊の名前かぁ…考えたこともなかったな…騎士道物語に出てくる名前はオーディン騎士団みたいに部隊長の名前がついてることが多かったよ」

 

「却下よ!オーディン騎士団なんて名前の部隊で戦いたくないわ!」

 

「壊刃傭兵団はどうだ?ジェラルト師匠の異名を受け継いだ良い名前だと思うぞ」

 

「レオニー、君も頭からジェラルトさんを離しなよ…でも僕たちはジェラルト傭兵団の出身者も多いから悪くないかもね」

 

「その名前だとジェラルト団長が率いてるみたいだし、あんまりあたしたちっぽくなくない?」

 

「なんだと…!じゃあ、文句ばっか言ってないであんたも考えなよ、ルーナ」

 

「うるさいわね!今、考えてるの!」

 

「はいはい、レオニーちゃんもルーナちゃんも喧嘩しないの…どうせならお洒落な名前が良いわよね」

 

「さっき言った筋肉騎士団はどうだぁ?」

 

「…私、お洒落なのが良いって言ったわよね、ラファくん」

 

「何言ってんだぁドロテアさん?筋肉はオシャレだろ」

 

「……」

 

 

 おお!みんな真剣に考えてくれてるのか意見が活発に出だした。

 俺も渾身の名前を考えなければ…

 

 そう思ってると、イグナーツが控え目に手をあげてアピールしていた。

 

 

「どうした、イグナーツ。お前も良い名前を思いついたのか?」

 

「あっ、はい…フォドラに影が差すこの戦乱を夜に例えて、僕たちが夜明けを灯す存在となる願いをこめて『フォドラの夜明け』という名前はどうでしょうか?」

 

「あら~素敵な名前じゃない?イグナーツ、私は良いとおもうわ」

 

「夜明けか…僕も良い名前だと思うよ。なんとなく先生を思い浮かべそうになるし」

 

「わかるわ。ベレスは夜明けのイメージよね」

 

 

 ふむ…『フォドラの夜明け』か悪くない…いや、良いセンスだ。

 みんなの感触も好評だ。

 

 俺も先生にはなんとなく夜明けのイメージを持っていたがみんなそう思っていたのか…

 

 でも、率いるのは俺なんですけど。

 

 

「じゃあ、俺たちは今日から『フォドラの夜明け』ということで決定で良いか?」

 

「僕なんかの意見で…何かすみません」

 

「すげえな、イグナーツ!やっぱりおめえはやる男だ!」

 

「異議なし。うまくまとまったな」

 

「お洒落だし、良いと思うわ」

 

「騎士道物語にも出てきそうな名前だね」

 

「騎士団とか傭兵団みたいに戦争をイメージさせないのは良いのよね~」

 

 

 満場一致で『フォドラの夜明け』に名前が決まった。

 これから俺が率いることになるのか…ふふふ。

 

 

 

「『フォドラの夜明け』の名前に恥じないように頑張ります」

 

 

 イグナーツ。

 

 

「オデの筋肉で夜明けに灯をともすぞぉ」

 

 

 ラファエル。

 

 

「ジェラルト師匠見ていてくれ…わたし、師匠を超える傭兵になるからさ…」

 

 

 レオニー。

 

 

「僕は僕の正義の為、できることを果たす」

 

 

 アッシュ。

 

 

「エミール…貴方のこともみんなとなら、きっとなんとかなるわ」

 

 

 メルセデス。

 

 

「舞台の幕は開けたわ、もう踊るしかないわね」

 

 

ドロテア。

 

 

「フォドラの未来はあたしたちにかかってるってかけか…血が騒ぐわね…」

 

 

ルーナ。

 

 

「『フォドラの夜明け』のみんな…運命を共に!」

 

 

ラズワルド。

 

 

…。

 

 

…いや、俺のセリフ盗るなよ!!

 

 

 




白雲の章 完
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