ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
今の章からオーディン以外の視点も増やす予定です。
第61話『皇帝エーデルガルトの憂鬱』
エーデルガルト視点
ガルグ=マク要塞攻略戦から一か月が経ち、私たちは帝都アンヴァルに帰還した。
私は帝都の執務室、そこで私の従者であり宮内卿である、ヒューベルトの報告を受けていた。
「…以上が新しい情報です。失った軍団長の後任の選出を急がなければなりませんな」
「また軍団長が戦死…しかも、念入りに準備をして送り出した、一個軍団五千人がなすすべなく惨敗したなんて…
「敵は三百人ほどの部隊だったという話ですからね。出撃した五千人のうち我が軍の戦死者と行方不明者は合わせて千五百人程度、軍団長は後世の歴史書に『無能』と書かれるでしょうな」
「第15軍団長のイリオスは私が選んだ将よ…決して無能ではなかったわ」
「これは、失礼しました」
従者の皮肉に少し苛立ちを覚えるが、いつものことだ。
ガルグ=マクに連れていった軍団長たちは全員が私の支持母体である皇女派出身者か軍務卿派軍人…無能な者など一人もいなかった…はずだ。
「第3軍団長ニカラフ、第27軍団長ザオムがガルグ=マク攻略戦及び追撃戦で戦死。第8軍団長バルダックと第20軍団長リストは戦中行方不明とありますが、強力な魔法で陣営ごと吹き飛ばされており、生きてはいないでしょう。…そして、先ほど報告した直近の残存兵掃討作戦で第15軍団長イリオスが戦死。軍団長だけでこれだけの戦死者…戦死した他の全ての上級士官を読み上げる気には、流石になりませんね」
「わざわざ、丁寧に以前の報告を読み上げなくていいわ…最終的には勝ったとはいえ、とんでもない被害ね…」
「そもそも、勝ったと言えるか疑問が出ますな…負け戦でもこの数の軍団長級をはじめとした上級士官が戦死するなど前代未聞ですよ」
失った将の数の割に全体の兵力の損耗は多くない。
最初に交戦した先遣隊の兵士を率いていた士官級がほぼ全滅していることを考えると、将官と士官だけを狙い撃ちしていたのだろう。
先遣隊の戦闘に参加した中で唯一、近衛隊長ラディスラヴァと第1軍団長ランドルフが負傷しただけで生き残れたのは幸運だったかもしれない。
「私が負傷して直接の指揮が取れなくなっていなければ、こんなことにはならなかったのに…」
「私はあれほど念を押しましたがね…皇帝自らが最前線に立つべきではないと…」
「あの場所は最前線ではなかったわ。彼らに無理やり最前線にされただけよ。そもそも、教団軍が野戦で迎え撃ってくるなら、先遣隊だけで勝てる戦力差だったはずだわ」
「まんまとひっくり返されましたがね……全く、あの男を生かしておいたことをここまで後悔することになるとは…」
ヒューベルトが忌々し気に呟く。
私も彼のことは警戒はしていた。
単純な戦闘力でも、怪物である大司教レア、士官学校の教師で天帝の剣を持つ“灰色の悪魔”ベレス、セイロス騎士団聖騎士“雷霆”のカトリーヌ…彼女たちに次ぐ実力があるとは分かっていたし、部隊指揮に関してはベレスと双璧をなす程の実力があるとも思っていた。
「“漆黒のオーディン”…まさかここまでとは思わなかったわ…」
現在、このアドラステア帝国を最も苦しめている者…級友だった男の名前を口にする。
オーディンが少数部隊でガルグ=マク周辺に潜んで帝国軍を妨害しているせいで、全ての軍事行動に遅れが出だしている。
「…クロードは同盟に戻ったと聞いたわ、あの男がオーディンを同盟に連れていってくれれば…対同盟戦略を見直す必要はあったけど、現状よりは良くなっていたかもしれないわね」
「フォドラの中心にあるとはいえガルグ=マク要塞は大軍を置くには使いにくい場所にありますからね…補給に大きな手間がかかりますから」
当初はガルグ=マク要塞には最低限の兵力のみ置いて、残りの兵力は王国と同盟への戦争で動員する予定だった。
しかし、今はまだガルグ=マク要塞にはそれなりの戦力を置いている。
仮に奪い返されようものなら、教団勢力が再び復権してしまうからだ。
「同盟はクロードの帰還で新たな動きをするでしょうね…そして、王国と教団は国境で帝国を迎え撃つ準備…先生はオーディンの部隊にも教団側にもいないのよね?」
「報告では先の戦争で崖下へと落ちたという話のみですからね…生きていても、我々の邪魔にしかなりませんから、このまま盤面から退場を願いたいところですがね」
天帝の剣を持つベレスに関しての情報はこれだけだ。
ヒューベルトの言う通りすでに敵対してしまっているので、生きていたとしても厄介なだけだが…なんとも心苦しい。
「…“フォドラ最強の呪術士”、“選ばれし闇の聖騎士”、“狂気の天才策士”、“ガルグ=マクの伝説の男”、…士官学校にいた頃は冗談と思って聞いていたのに、ガルグ=マクでの活躍から異名が帝国まで聞こえるようになっているわ。⋯オーディンはどこまで計算していたのかしら」
「あの男以外の名もすでに広まり始めています。“蒼穹のラズワルド”、“紅蓮のルーナ”、“壊刃の継承者”レオニー、“野獣”ラファエル、“戦場の歌姫”ドロテア…いまや戦場で名前を聞いただけで我が軍の将兵は怯えだすと聞いておりますよ」
「軍の士気に関わるから、早めになんとか排除したいけれど…現在の戦力ではどうにもできないのが厄介極まりないわね」
一個軍団の兵力で追い払うどころか、逆に敗北したのだから兵力差で押しつぶす戦略は使えない。
オーディンたちは過去に死神騎士を数度倒していることから、仮に帝国軍個人武勇最強と言われる軍務卿ベルグリーズ伯をぶつけても勝てるかどうかは難しい。
現状、手の打ちようがないから放置するしかない。
「…そういえば、ガルグ=マクの帝国軍の士気に関することで気になる報告がありましたな」
「まだ報告があったの?」
「些事と思いましたので報告する必要はないと判断しましたが…聞かれますか」
「今は少しでも情報が欲しいから。聞いておくわ」
ヒューベルトは私が知る必要がないと思った情報は報告しない
それが良い点でも悪い点でもあるが、今回は報告するかどうか迷う内容だったのだろう。
「実は兵士たちの中に最近妙な夢を見るという者が多くいると…」
「⋯夢?」
「ええ、夢の中で女神が語りかけてくるそうで『セイロス教に剣を向けた者は天罰を受ける』と。夢を見ている者は、セイロス教への信心が深い者だけではなく女神に興味がない者までも」
「⋯セイロス教に敵対していることが、兵士たちの不安になって夢として出てきているのかしら」
「⋯そう思います。一種の集団恐慌のようなものかと」
確かに、このような報告されても私には対応はできない。
兵士たちが眠っているときに見る夢の話など対策できないからだ…
⋯⋯。
――夢のことについてなら、この“漆黒のオーディン”に任せろ。良い呪術を知っている。
――俺が枕元で呪術を使えば夢を操作することができる。
「あっ!?」
「⋯どうなされましたか、エーデルガルト様?」
「オーディンの呪術よ!彼が前に言っていたわ…呪術で夢を操ることができると」
「⋯⋯呪術ですか」
ヒューベルトに、以前オーディンから夢を操作する呪術があると聞いた話を説明する。
もし本当にオーディンがやっているとしたら恐ろしいことだ⋯⋯戦慄で鳥肌が止まらない。
「信じられないわ…なんて手を使ってくるのよ、オーディン⋯」
「まさに“狂気の天才策士”ですな⋯夢を操作して敵軍の士気を下げてくるとは」
「こんなことなら呪術の詳細を詳しく聞いておくべきだったわ」
「呪術は枕元⋯対象の近くで発動させる必要があるという話ですが⋯改良したのでしょうね」
「とはいえ、ガルグ=マクに侵入されている可能性は高いわ。地下からの経路を含めて、もう一度警戒を徹底させて!」
オーディンが使ってくる呪術のことまで対策を打たなければならないなんて⋯考えることが多すぎて頭が痛くなってきた。
「ガルグ=マクには十分な戦力を置いているけど、まさか落とされるようなことはないわよね⋯」
「守将のパウルス将軍は軍務卿の信頼も篤く、守勢に長けた良将です。今の戦力なら、仮に王国と教団が奪還のために軍を動かしても持ちこたえてくれるでしょう。⋯しかし、あの男が相手となると⋯」
「とにかく、今ガルグ=マクが陥落したら帝国全軍の士気に関わるわ。死守を厳命して」
「⋯将軍なら命に替えても果たしてくれるでしょう」
ガルグ=マクが陥落することなど、万に一つもあってはならない。
本来は、三百人程度の部隊に落とされる可能性を考えることのほうがおかしいのだが。
「⋯今日は疲れたわね。報告を聞いていただけなのに」
「もう今日は休まれますか⋯?」
「そうね、今日も
「また
ヒューベルトが露骨に顔を歪める。
私も出来るものなら、話などしたくはない。
しかし、対峙しないわけにはいかない。
私が始めた戦争なのだから。
知る必要がある。
このフォドラを何が支配していたのか。