ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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第64話『序幕〜炎』

 

 

 ディミトリ視点

 

 

「ディミトリ殿下、報告します! ガルグ=マク周辺に残っていた教団勢力がガルグ=マク大修道院の奪還に成功したとのことです」

 

「……なに、それは本当か?」

 

「はい、既にカロン伯爵家に滞在していたセイロス騎士団の部隊はガルグ=マクへと帰還を開始 しているとのことです。また、その件で王都に駐留しているセイロス教団のセテス様より面談の申し入れがありました」

 

「すぐに会おう、セテス殿に取り次いでくれ」

 

 

 セイロス教団から緊急の連絡を受け使者に会うと、ガルグ=マク要塞奪還成功の連絡があった。

 ファーガス神聖王国王都フェルディアの執務室には、護衛のドゥドゥーと教団から派遣され仕事を手伝ってくれていたギルベルト……本当の名前はギュスタヴとその娘であり士官学校の級友アネットも来ていた。

 今の一報を聞いたギュスタヴとアネットも驚いた様子だ。

 

 

「大修道院に残っていた教団勢力……オーディンたちか?」

 

「……おそらく、そうですね。オーディンが小部隊で帝国軍の妨害しつつレア様とベレス殿を捜索しているとの話はありましたから」

 

「父さん、でもオーディンたちは少人数だったんでしょ? 大修道院の帝国軍は万を超える大軍だし、どうやって……」

 

「詳細を聞かぬことには何とも言えんな、ガルグ=マクから来た伝令兵は教団所属で情報に間違いはないとの事だ。セテス殿に詳細を教えて貰おう」

 

 

 ガルグ=マクの周辺で帝国軍以外で軍事行動をしていた存在はオーディンしかいなかったはずだ。

 手勢も総勢五百人に満たないと聞いたが、どのように帝国軍を追い払ったのだろうか? 

 

 現在、ファーガス神聖王国西部および南部ではアドラステア帝国の軍務卿ベルグリーズ伯が軍を率いて進行中、国境沿いの砦が数か所落とされた状態だ。

 王国側ではブレーダッド王領軍・フラルダリウス公爵軍・ゴーティエ辺境伯軍を中心に編成された援軍をフラルダリウス公ロドリグが率いて、アリアンロッド要塞でローベ伯率いる王国軍に合流している。

 これで戦力的には帝国軍と同等であり守りきれる状況だが……援軍にやってきたロドリグをローベ伯はよく思っていないらしい。

 本来ならば、俺が王として援軍に向かいたいところだが……摂政である伯父上に王都に留め置かれてしまった。

 

 現在王国と帝国の国境では、大軍同士の膠着状態が続いているらしいが、ガルグ=マク大修道院の陥落で帝国軍の動きが鈍った可能性もある。

 そんなことをギュスタヴとアネットと話ながら考えをめぐらせていると、王国にいるセイロス教団をまとめているセテス殿が執務室を訪れてきた。

 

 

「ディミトリ殿下、忙しいところ済まないな。教団勢力がガルグ=マクの奪還に成功したという話は聞いたな?」

 

「はい。セテス殿、大修道院奪還の指揮官はオーディンのようですが、いったいどのように攻略したのでしょうか?」

 

「私も詳しくは分からないが……どうやら強力な呪術を使って指揮官と帝国兵たちを操ったという話だ……呪術でそのようなことができるとは……」

 

 

 呪術で操って帝国軍を敗走させた? 

 オーディンの使う呪術はいくつか知っているが、『探し人の居場所を知る呪術』や『トマトを無限に生み出す呪術』のような便利な呪術はあるが、人に害を与えるような呪術はせいぜい『三日間鼻水が止まらなくなる呪術』程度の威力だったはずだ。

 派手好きで目立ちたがり屋の印象があるオーディンなら、そんなとんでもない呪術があったら自慢しそうな気もするが……いや、それなりに仲は良かったとは思うが、他学級で一年程度の付き合いだ……それに、彼らは『使命』のこともあるし強力な切り札を一つ二つ隠し持っていても不思議ではないか。

 

 

「呪術ですか……にわかに信じられませんな……戦争でこのようなことが起こるとは……」

 

「うん、そうだね父さん。呪術で要塞を陥落させるなんて……オーディンのことはよく知ってるつもりだったけど、なんだか怖くなっちゃうよ」

 

 

 呪術は本来、良い意味で使われることはほとんど無い。

 オーディンのことをよく知るアネットでもこの所業に恐怖を覚えている様子だ、知らない者が聞くとオーディンの自称していた異名の一つである“フォドラ最強の呪術士”は想像を絶する畏怖の対象となるだろう。

 

 

「ディミトリ殿下、帝国と事を構えてる状況で言うのも心苦しいが、ガルグ=マク奪還が叶った以上、我々セイロス教団は一刻も早く帰還したいところです。大司教が見つかれば、打ち止めとなっていた戴冠式の実現もできましょう」

 

「戴冠式の件は、ただの伯父上の言いがかりですよ、セテス殿……伯父上は私を王位に付けたくないのでしょう」

 

 

 俺は王国に帰還してすぐに、空位となっている王位を継承しようとしていたが、伯父であり摂政でもある、イーハ大公リュファス=ティエリ=ブレーダッドを長とする摂政派貴族たちにより制止させられていた。

 理由は、大司教レア様の不在により戴冠式が実行できないことと、王国北部フラルダリウス公ロドリグを筆頭とする貴族たちが俺を傀儡として、王国を乗っ取ろうと策を弄しているのではないかと疑っているためだ。

 アリアンロッドへの援軍の司令官を俺ではなくロドリグにしたのも、俺からロドリグを引き離す思惑があったためだろう。

 すでに帝国と開戦状態にある今、国内で権力争いをしている場合ではないのに、伯父上も困ったものだ。

 

 

「わかりましたセテス殿、王国としてはガルグ=マクに再び教団が戻れば南部の状況も好転するでしょう。帰還の許可をします」

 

「ありがとうございます、ディミトリ殿下。それと……ギルベルトさんは如何されます、我々と共にガルグ=マクに戻りますか?」

 

「私は……」

 

 

 話はギルベルト……ギュスダヴの件へと移り変わった。

 ギュスタヴは王国に戻ってからは、俺の補佐としてアネットとともに執務の手伝いや教団との連絡役をやってくれていたが、現在の所属はセイロス教団にある。

 一応、意思の確認のためにセテス殿は聞いてくれたのだろうが……

 

 

「ギュスタヴ、お前は国に残ってほしい。いま一度、力を貸してくれ」

 

「しかし、一度この国を捨てた私に、居場所など……」

 

「居場所なら俺が作る」

 

「有難きお言葉です、殿下」

 

「あたしも父さんと一緒に殿下を手伝いますよ!」

 

「わかりました、ギルベルトさんのセイロス騎士の任務を解きます。私はすぐにガルグ=マクへの帰還へと取り掛かります。ディミトリ殿下、短い間でしたが教団の保護に感謝します。これからも帝国の脅威に対し共に力を合わせましょう」

 

 

 そういうとセテス殿は足早に執務室を後にしていった。

 

 

「ギュスタヴ、セイロス教団がガルグ=マクへと帰還することを各方面に連絡してくれ」

 

「はっ、かしこまりました」

 

「……あっ、あたしも父さんを手伝いますね! 勝手にどこかに行っちゃわないように見張るのも兼ねて」

 

「アネット、何を言うんだ……私はそのようなことは……」

 

「そんなことしないって言われても信用できないよ! 黙っていなくなっちゃうから」

 

「ははは、頼んだぞアネット」

 

 

 そういうと、ギュスタヴとアネットは退出していった。

 アネットがついていれば、ギュスタヴが急に王国を去ることはないだろう。

 ギュスタヴも大修道院で再会を果たした当初は俺の顔を見るたびに陰鬱とした表情を見せていたが、大修道院でアネットと再び親子仲を深めることができたおかげか最近は穏やかな表情を見せるようになってきている。

 

 

「ドゥドゥー。教団とオーディンたちのおかげで、帝国との戦線には少し余裕ができそうかな」

 

「はい、フォドラの中央のガルグ=マクに再び教団が集結すれば、帝国軍も戦力を分けざるを得ないでしょう」

 

「ああそうだな。……士官学校でドゥドゥーが戦略の勉強をして、こうして相談にのってくれるまで、成長してくれたのは嬉しいよ」

 

「……それは、殿下のおかげです」

 

「王国の前線にあの女は来ると思うか?」

 

「そこまでは……俺にはわかりません」

 

 

 

「……来るがいい、エーデルガルト。必ず、その首を切り落として帝都の門に晒してやる」

 

 

 

 ◆◆◆

 

 クロード視点

 

 

「そうか、先生が見つかったか」

 

「はい、ベレス殿はガルグ=マクの近くにある湖にいるところを引き上げられたのですが……生存はしていますが、ずっと眠りについている様子です」

 

「何日も湖に沈んでたら普通は生きてはいないけどな……まあ、先生だしな、生きていてなによりだ」

 

 

 ガルグ=マク奪還の報告から数日後、教団の伝令兵から今度は行方不明だった先生の発見に成功したという連絡があった。

 オーディンの例の呪術で見つけ出したようだが、先生は湖の中で沈んでいたらしい。

 普通はそれで生きているなんてありえないが、謎の多い先生のことだから何らかの力で生きていたのであろう。

 

 

「教団としても、大司教の捜索と各地に避難した教団勢力の再結集を図り、ガルグ=マク復興を目指しているところです」

 

「ご苦労さん……オーディンたちには、『同盟は教団とできるだけ連携して、帝国の脅威に備える』と伝えといてくれ、後でリーガン公爵代理として文書も出すよ」

 

「はっ、了解です」

 

 

 この伝令兵は知らないようだが、ガルグ=マクにいるオーディンたち教団上層部は大司教レアが帝都に囚われていることまで把握している旨を機密性の高い文書で伝えられている。

 末端の兵士たちにレア様の所在がわかっていないようにしたいのは、教団の士気低下を防止する目的か、帝国に奪還作戦を気取られないようにするのが目的か……真意はわからないが悪い手ではないだろう。

 

 教団の伝令兵がいなくなった後、フォドラ大陸の地図を見ながら考える。

 

 

「ガルグ=マク大修道院は取り戻し、先生は見つかって、おまけにレアさんはいないと……同盟としてはいくらか動きやすくなったが……流石にやりすぎじゃないかオーディンよ」

 

 

 どんな魔法……いや、呪術を使えば数万人が守る大要塞を少人数で落とせるのだろうか、そんな呪術があるなら教えてくれれば良いのに……

 オーディンがやらかした、ガルグ=マク大修道院奪還は同盟にも少なからず影響を与えた。

 グロスタール伯爵をはじめとした親帝国派同盟貴族からは、セイロス騎士団でいきなり頭角を現した謎の“選ばれし闇の聖騎士”について、その素性を知りたがっている文書が届いている。

 もし、帝国に寝返ったのならば、強力な呪術を使う得体の知れない“選ばれし闇の聖騎士”とやらと戦わなければならなくなるからな。

 

 

「ローレンツも大変だろうな……オーディンのやつの人柄を説明するのは難しいからな」

 

 士官学校の旧友であり、同盟貴族の親帝国派筆頭であるグロスタール伯爵を父に持つローレンツは、今頃父親や親帝国派貴族からオーディンの素性について質問攻めを受けているところだろう。

 

 

 現在、レスター諸侯同盟はアドラステア帝国がセイロス教団とファーガス神聖王国に行った宣戦布告に対し、同盟としてどのように当たるかで二分しており、円卓会議にて決定権を持つ、五大諸侯の中でも思惑がバラバラで何も決まっていない状態だ。

 

 同盟の盟主リーガン公爵家は、帝国の侵略行為には断固反対の方針だ。ただ、同盟盟主である祖父は体調を崩しており、現在は俺がリーガン公爵代理を務めている。

 

 ゴネリル公爵家は士官学校の級友のヒルダの実家だ。

 ヒルダの父ゴネリル公爵はリーガン家と共に反帝国の姿勢を見せているが、ここ数か月でパルミラから三度の襲撃を受けておりゴネリル軍をパルミラとの国境にある要塞『フォドラの首飾り』から動かすのは難しい。

 

 グロスタール伯爵家はローレンツの実家だ。

 グロスタール伯爵領は帝国と国境を接しており、昔からグロスタール家は帝国との繋がりが深く、親帝国派の筆頭だ。帝国が同盟を侵略する際には帝国側に付くと公言しているという噂すらある。

 

 コーデリア伯爵家はリシテアの実家だ。

 円卓会議の五大貴族の中では最も所領が小さく発言力も弱い。親帝国という姿勢は今のところみせていないが、侵略されたら戦火を嫌い即降伏の可能性がある。

 

 エドマンド辺境伯家はマリアンヌの実家だ。

 エドマンド家は元々所有する軍事力は少なく、豊かな土地と船の貿易により栄えた家だ。一貫して、軍事行動には金は出すが水軍以外の兵力は出さない方針なので帝国と戦争になっても動くことは期待できない。

 

 そのほかの貴族も北部の貴族は反帝国派、南部は親帝国派で分かれており、帝国が侵略してきたら、同盟がそのまま南北に分裂する可能性すらある。

 

 だが、オーディンのガルグ=マク要塞奪還で帝国の軍事行動が大きく鈍った。

 

 

「盤面は見えてきた。状況は良くないが、勝機はある。俺は俺の野望のために動くぜ、オーディン」

 

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