ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
俺は“漆黒のオーディン”、フォドラ全土に名を轟かせているセイロス教団最強部隊『フォドラの夜明け』を率いる、選ばれし闇の聖騎士だ。
グロスタール伯爵との話し合いは無事に終わり、水面下で帝国軍に対する妨害や“闇に蠢く者”の情報共有等はセイロス教団に全面協力してくれるとの約束をすることができた。
その代わりに一つ仕事を頼まれたが、まあ、些細なことだ。
「オーディンくん、君は父上と何を話していたんだ? やけに父上の機嫌が良かったが⋯」
「グロスタール伯爵家とレスター諸侯同盟の未来についてさ⋯ローレンツ、貴様のお父上は愉快なお方だな、流石はグロスタール領を治める選ばれし希望の貴族だ」
「父上は君のような理解不能な人物に愉快などと言われるような人物ではない⋯慎重で保守的な普通の貴族なのだが」
「そうか? ローレンツによく似て面白い人だと思うけどな」
「なっ!? 君は僕のことを面白い人物と思っているのか?」
いや、自覚がなかったのかよ⋯お前はガルグ=マク大修道院で屈指の面白い奴だっただろ。
現在、ローレンツが率いるグロスタール領軍とともに『フォドラの夜明け』はグロスタール領南部へ移動中だ。
なんでも、ミルディン大橋の北部を治めている同盟貴族のアケロン=レーテ=フレゲトン子爵という人物がグロスタール伯爵領に向けて軍を進めているらしい。
「アケロンのいつもの嫌がらせさ⋯普段は父上が軍を率いて追い払っているのだが、今回は僕に武勲を立てさせたいらしくてね、君たち士官学校の友人たちが手伝ってくれる今が丁度良いと思ったのだろう」
「アケロンね、聞いた話だとたいした貴族じゃないらしいが⋯」
「小領主だが要地を押さえている強みで、グロスタール家とはよく諍いを起こしていてね。今回も散々話し合ったはずの領界問題を蒸し返して、兵まで出しているらしい。近隣の村に被害が出る前に、さっさと追い返してしまいたい」
「⋯フッ、この“漆黒のオーディン”がいるときに攻めてくるとは運が無いやつだ。コテンパンに叩きのめして二度と逆らえないようにしてやろう!」
「ははは、頼もしいが今回の指揮官は僕だ。戦場では僕の指揮に従ってもらうよ」
じゃあ、指揮官様に早速“狂気の天才”軍師役のオーディンから作戦を提案させてもらおうかな。
「俺の漆黒隊だけアケロンの近くに〈ワープ〉して斬って終わらせても良いか?」
「たしかに、アケロンさえ倒せば話がつくし、領内の被害も無くなるが⋯危険ではないのか?」
「敵将周りの兵士の
「わかったよ。⋯だが、僕も同行しよう。級友とはいえ、セイロス教団から借りた客分の君だけを危険に晒すのは、このローレンツ=ヘルマン=グロスタールの矜持が許さない」
ローレンツは真面目だなぁ。
まあ、俺の漆黒隊が小貴族の親衛隊程度に囲まれてやられるとは思わないから、そんなに危険な作戦ではないけどな。
グロスタール伯爵領南部につくと、すぐに〈ワープ〉を使って漆黒隊を敵将アケロンの元に転移させた。
グロスタール領軍はともかく、『フォドラの夜明け』とフレゲトン領軍だと
フレゲトン領軍は一応同盟軍でもあるから、対帝国戦を考えたら消耗させるのは戦力減だしな。
突然、現れた俺に驚いている髭の生えた貴族アケロンを封魔剣エクスブレードで容赦なく切り捨てる。
あっ、ちょっと容赦無さ過ぎた⋯一応、生きて会話する手筈だったのに⋯
「ん? ⋯ぐええ!? き、斬られた!? いっ、た⋯い、なにが⋯」
「あっ、やべぇ⋯強く斬りすぎた。これじゃ会話も出来んから、一旦回復するぞ〈リカバー〉⋯あっ、今度は回復させすぎた⋯ローレンツ、槍でこいつをぶっ刺してくれ」
「いや、君は鬼か?」
そう言いつつ、ローレンツは槍を構えてアケロンの腹を銀の槍で突き刺した。
今度はいい感じで全快しないようにアケロンを〈ライブ〉で回復させる。
その間に漆黒隊はアケロンの周りにいた兵士たちを闇魔法で倒して片づけていた。
「ヒエエエ! 待って! ぼくちゃんの負け! 降伏するから、もう斬らないでえ! 刺さないでええ!!」
アケロンは怯えながら、すぐに降伏宣言をした。
敵と接触して数分でのスピード解決である。
その後の交渉は全てローレンツがアケロンと行った。
今回突然死にそうになったことで、アケロンは二度とグロスタールとの領界を侵さないと誓ったらしい。
「君のおかげで助かったよ⋯これで、しばらくアケロンはおとなしくしてくれるだろう」
「しばらく⋯なのか? これで、二度と逆らわなくなるんじゃないのか?」
「アケロンだから、なんとも言えないな⋯まあ、次に逆らったら、家ごと潰すさ」
アケロンはあれだけ脅しても裏切る可能性があるらしい。
後で、俺からも呪術とかで脅しをかけておくべきかな?
◆◆◆
「素晴らしい手腕だな、オーディン殿。貴殿に頼んで正解だった」
「フッ、礼には及ばないエルヴィン殿。⋯この“漆黒のオーディン”にかかればあの程度の仕事は無いようなものだ」
「ほとんど戦いにならなかったからね、領民も領軍も被害がなかったのは良いことだけど⋯僕の武勲ではないな」
「そんなことはない、ローレンツ。優れた作戦を採用し、実行させ、最大限の戦果を得るのは指揮官の手柄だよ」
ローレンツと一緒にグロスタール伯エルヴィン殿に報告する。
アケロンとのいざこざをすぐに解決できたことにエルヴィン殿は大満悦のようだ。
「ローレンツ、次回から領軍の指揮はお前に任せる。それに伴って、この杖も正式にお前に譲ろう」
「父上、その杖はまさか⋯」
「“魔杖テュルソス”!!」
エルヴィン殿が取り出したのはグロスタール伯爵家に伝わる英雄の遺産“魔杖テュルソス”だ。
いつかは見てみたいと思っていたが、まさかこんなに早くお目にかかれるとは!
ふむふむ、効果は魔法攻撃射程+2と紋章一致時スキル「大盾」「聖盾」が確率で発動か⋯神聖武器のカドゥケウスの杖を更に上回る性能だな。
俺は〈戦術師〉になったおかげで、装備品の効果も確認することができるのだ。
「よくご存じだな、オーディン殿。前々からローレンツにこの遺産を譲ろうと思っていたから、いい機会だと思ってね」
「〈パラディン〉のエルヴィン殿とは装備効果が少し嚙み合ってませんからね。その点、ローレンツなら〈ダークナイト〉ですし、魔法射程を伸ばせて紋章一致で物理魔法受けれるようになる、その杖と相性抜群ですよね」
「はっはっは、その通りだオーディン殿」
「いや、なぜ君は僕の家の英雄の遺産にそこまで詳しいんだ⋯」
テュルソスの杖は見た目もカッコいい、以前見た破裂の槍ほどトゲトゲは多くはないが、よく見ると破裂の槍と同様にトゲ部分がピクピク動いていて、どこか禍々しさを感じる。
俺の選ばれし闇の心を揺さぶる、良いデザインだな。
紋章持ち以外が使うと魔獣になる危険性がなければ少し使わせてほしいが⋯残念でならない。
「オーディン殿、君たち『フォドラの夜明け』は我がグロスタール家の次はどこに向かう予定なんだ?」
「デアドラでクロードに挨拶をしたら、王国に行く予定ですね。同盟は帝国との国境以外は安定してるみたいですから、王国の方の様子も見ておきたいので」
「ならば、我々もデアドラまで同行させてもらえるか? 数日後には円卓会議が始まるから、早めに次期盟主のクロード殿に会って挨拶しておきたい」
「もちろん大丈夫です。エルヴィン殿のデアドラまでの道は『フォドラの夜明け』が全力で護衛します!」
◆◆◆
リーガン公爵領、領都デアドラは水の都と呼ばれている。
レスター諸侯同盟の盟主リーガン公の治める都なだけあって、同盟では最も人口が多くて最もにぎわっている。
以前、デアドラに行った時はパルミラ水軍との戦争で住民が避難していたから観光はできなかったが、今回は少しのんびり回れそうだ。
「みんな、久しぶりだな。元気にしてたか?」
「クロードくんも久しぶりです」
「クロードくん、少しデカくなったかあ?」
『フォドラの夜明け』のみんなと挨拶をしているのはグロスタール伯爵との会合が終わったクロードだ。
会うのは数か月ぶりだが、リーガン公爵代理として貴族っぽい服を着ているので、見慣れた士官学校の制服より威厳がある。
ローレンツもいるから、この場にはヒルダ、マリアンヌ、リシテアのような自領に戻っている生徒以外は金鹿の学級の生徒が終結している状態だな。
「あんたもなんか風格がでてきたなぁ。もうすぐ同盟の盟主も継ぐのか?」
「おいおいレオニー、俺の祖父さんはまだ死んじゃいねえぜ⋯それに、盟主は一応円卓会議で他の諸侯からの承認を得ないとなれない決まりなんだ」
「で、父上からの承認は取れそうなのか、クロード」
「もちろんだ、ローレンツ。グロスタール伯は俺の盟主就任を心待ちにしてくれてるそうだ。誰かさんが機嫌を取ってくれてたおかげで、だいぶ話しやすかったよ」
そう言ってクロードは俺の方を見てきた。
たぶん、前リーガン公ゴトフロア殿の件の話もしたんだろうな⋯エルヴィン殿はクロードに借りを作ったようだ。
「グロスタール伯とは帝国内の情勢もだいぶ照らし合わせることができたよ」
「何かおもしろい情報はあったか?」
「面白い情報は⋯そうだな、なんとあのベルナデッタが帝国の教務卿に就任したらしい」
「ベルナデッタ!? あの、暗き深淵なる部屋に身を潜めし者が?」
あの引きこもりが帝国の権力者になったのか⋯ガルグ=マクから離れる時は『ベルはなるべく目立たないように領地の部屋に身を潜めます!』なんて言ってたのに、どういう流れでそうなったのだろうか?
「なんでも、皇帝陛下直々の指名だそうだ。元はベルナデッタの母親が就任する予定だったが、有能な母親はヴァーリ領に戻して前教務卿だった父親の監視と領地運営に回して、級友のベルナデッタを傍に置く判断をしたみたいだな」
「ベルちゃん、金鹿の学級から戻ってきた後は黒鷲のみんなと積極的に交流するようになってたからねえ⋯引きこもりは治らなかったけど」
ドロテアが懐かしがるように話す。
そういえば、ベルナデッタは引きこもりの癖に妙に色んな人に絡みにいくからな⋯人嫌いではないのかもしれない。
「あとは、摂政のアランデル公が治めていた元エーギル公爵領も、新しくエーギル公爵になったフェルディナントの元に戻されたらしい」
「へえ、フェルディナントは家を取り戻せたのか⋯」
「こっちはアランデル公の権力を削るためみたいだな、軍務卿ベルグリーズ伯と内務卿ヘヴリング伯がフェルディナントの公爵就任を強く後押ししたらしい」
フェルディナントは父親が宰相を罷免されて、自分の立場も難しくなってたからな⋯貴族であることに誇りを持っていた奴だし、公爵就任はかなり嬉しいだろうな。
「アランデル公はエーデルガルトに排除されそうになってるのに焦ってるらしいぜ」
「そのアランデル公ってのは、たしかエーデルガルトの伯父さんだろう。エーデルガルトはなんで親族を排除しようとしてるんだ?」
伯父さんなら、俺にとってはクロムさんである⋯そのような関係の親族を排除するなんて考えられない。
「権力を握った後に親戚が邪魔になるなんて、政治じゃよくある話だろう? ⋯だが、それとは別に一つ噂があるんだ。アランデル公が“闇に蠢く者”の関係者じゃないかってな」
「⋯なん⋯だと⋯?」
「エーデルガルトの伯父さんが“闇に蠢く者”!?」
「帝国の権力者にも⋯なんて奴らなの」
俺と同様にラズワルドとルーナも驚きの声を上げた。
同盟有力貴族の家人に続いて帝国摂政本人か⋯
「アランデル公が何者かに成り代わられてるのは帝国の貴族社会じゃ有名だったらしいぜ、それで軍務卿と内務卿に宛てたお前の手紙が効いたんだろうよ」
そういうことなら、納得がいく。
エーデルガルトが“闇に蠢く者”と手を組んでいる理由も⋯ジェラルトさんが殺された次の日の朝、奴らが世界を滅ぼそうとしてる真の邪悪だと知った時に動揺していたことも⋯
たぶん、あの時エーデルガルトは“闇に蠢く者”がどれだけ邪悪な存在か把握していなかったんだろうな。
「帝国内部事情についてはこんなところだな。さすがはグロスタール伯、親帝国派だから色々と情報を持っている」
「また帝国についての情報がわかったら教えてくれ⋯特にアランデル公については特に詳しくな⋯」
「もちろんだ、オーディン。それで、お前らこれからどうするんだ? 王国に向かうと聞いたが、できれば円卓会議までいてほしいんだが」
⋯これから、どうする? そんなことは決まり切っている!
「遊ぶに決まっていますわ!!」
「さあ、フレン、レオニー、メルセデス、ドロテア、買い物よ!」
「よしきた、ルーナ! こんなデカい町初めてだなあ」
「ふふっ、どんなお洋服があるかしら~楽しみね~」
「一度は行ってみたい街一位の『水の都デアドラ』を観光できるなんて良かったわ」
「この街にもかわいい娘はいるかな?」
「王国に行くのならお土産を買っていきたいね⋯殿下とドゥドゥーに⋯何が喜んでくれるだろう⋯」
「アッシュくん、僕も手伝いますよ。実家もありますし、この辺りの名産品には詳しいんです」
「ローレンツくん! エルヴィンさんが肉を奢ってくれるって聞いたんだけど、本当かぁ!?」
「ああ、父上が君たちにはデアドラの有名店で晩餐をと⋯まだ、時間が早いから君たちはゆっくり観光を楽しんできたまえ」
「『フォドラの夜明け』のみんな、運命を共にっ⋯!!」
「⋯ははは、変わんねえなお前らは」